商事法務 近時の会計監査制度の課題と解決策 ─ 監査人から上場会社に向けて ─

2022-11-09

旬刊 商事法務 No.2305(9月15日号)にて、座談会の記事を掲載いただきました。

座談会

近時の会計監査制度の課題と解決策
―監査人から上場会社に向けて―

公認会計士・PwCあらた有限責任監査法人 代表執行役 井野貴章

公認会計士・日本公認会計士協会 副会長 小倉加奈子

弁護士・公認会計士 中村慎二

 

*全体の目次はこちら(外部サイト)をご確認ください。

以下は、座談会での井野の主な発言ポイントです。

監基報701 KAM について

  • 監査役等とのKAMの対話は毎年進化している。KAMの対話を通じ、監査役等の関心事やリスク認識、重要性の感覚についての監査人側の理解が今まで以上に進んだと感じる。
  • 非財務情報が財務諸表の外にあるうちは、その非財務情報を参照するKAMはルール上作成できないが、財務諸表の注記に非財務情報を取り込む努力をつうじて、財務情報と非財務情報のコネクティビティを高めることを意識していく。
  • KAMのボイラープレート化については、なぜそれが起きているかを考える必要がある。監査法人内では、同程度の類似したリスクについて、読み手が過度に異なる印象を受けないよう、使う言葉や説明の量に横串で一定の配慮を行っている。しかし、環境変化のある会社のKAMや注記を含めた経営陣の説明がボイラープレート化している場合は信頼を失う要因となり得る。また、KAM以外の会社自身によるリスク管理の開示が充実すると、KAMの説明とあいまって資本市場にさらに信頼をもたらすことができるだろう。
  • 投資家は、企業の大体のビジネスリスクを理解している。最近は株主がいろいろな情報発信をするようになり、企業との対話が活性化していく中で、今後のKAMや注記のありようを変えていくだろう。
  • PwCあらたでは、変化を説明するKAMにするべく、品質管理部門と現場の監査チームが対話を行っている。環境の変化と監査の網の目の大きさ(監査上の重要性)の組み合わせの中で、説明の量も影響を受けている。
  • 株主総会前に開示される会社法監査のKAM開示は、尊敬されるべき誠実な実務である。ただし会社と監査人の双方における時間的制約があるため、その実施が拙速な開示とKAMになるリスクがあるならば、会社法監査のKAMを行わない判断を批判すべきではない。
  • 監査役等によるKAMの検討内容の開示は、投資家から監査役等に対する自然な期待と思われる。だからこそ、会計や監査の論点が複雑化する中では、監査人による監査役等へのコミュニケーションが十分か監査人は自問しなければならない。また、会社側でも監査役等へ技術的な支援体制を作ることも有益だ。なお、我が国は国際的な資本市場を形成したいということなので、海外における類似の監査役等による報告制度との違いの社会的な啓発も有益だ。

監基報720 その他の記載内容 について

  • 監基報720で、監査報告書において、財務諸表・計算書類だけでなく「その他の記載内容」についても一定の事項を記載することが求められるようになったことについて、実施した手続きを限定しながら消極的な結果を伝達するものだが、監査報告書の読み手に過大な期待を持たせていないかは、監査人が常に心配すべきことだ。
  • 「その他の記載内容」にかかわる会社とのコミュニケーションは今後さらに大事になる。「その他の記載内容」に記載される非財務情報の開示は今後さらに増えていく。また、既存の項目であっても情報の作成方法が変化していく可能性が高く、情報の継続性が失われた場合に変化をどう説明していくか課題がある。そして、時間の経過とともに財務情報と非財務情報のコネクティビティがいろいろな形で検証されやすくなることに、どう向き合っていくかが大事になる。
  • 質的・量的に開示が増えることにより監査人の検討内容も複雑化するため、監査人は作業と結果の説明を丁寧に行い、作成者とガバナンスを担う方々と監査法人の間で期待ギャップを無くす努力が必要だ。

会計不正防止について

  • 監査人は不正を発見する立場であり、予防は経営陣やガバナンスの役割であるが、一方で監査人は予防に資する内部統制のあり方や企業文化のあり方について会社と議論できる立場にもある。
  • 監査人は重要な不正を見逃してはならないから、監査はわかるまで行うべきであるということからすると、調査可能な範囲を超えた循環取引のせいで適正意見が出せないかもしれない。この意味で循環取引は会社を破壊する行為であり、その危険性を経営陣も監査役等もしっかり認識して予防することが大事だ。
  • 実務家としての経験からは、人間は弱く、無理をさせれば不正をしてしまう。人間をみる視点を持って会社をみていく必要がある。不正のトライアングルモデルで「過度なプレッシャーやインセンティブ」がかかる領域がないか、あるいは、「不正の機会を制御できる内部牽制」の領域は、比較的客観的にみることができるが、これらはいたちごっこになりやすい。
  • 「正当化」の領域は、人の心の問題であり、外部の人が捕まえることは非常に難しいため、企業文化による抑止力が広範に発揮されることを期待する領域だ。ここで、新しい抑止力になる可能性があるのが、次第に社会の中心を占めるようになる世代、特に対外的に情報発信することに慣れ、会社への依存より社会とのかかわりを重視し、声を上げる世代だ。人的資本の開示が進むと、そのような従業員と経営陣の対話が促され、実態との重要な乖離があれば声があがるはずだ。エンゲージメントを高めようとすると経営の透明性は絶対に捨てることができず、それが企業姿勢にも影響を及ぼすだろう。
  • 伝統的に声の少なかった日本の株主から株主提案が増えていることは、良い方向であると受け止めている。しかし株主も多様化しており、最近の不正事案をみると、主要株主と経営者との対話の中で、過度の圧力が生じていないかについて、監査人は関心を寄せていく必要があるのではないか。

四半期開示の決算短信一本化による影響について

  • 実務家としては、年度を通じて維持されている被監査会社と監査人の緊密なコミュニケーションに一定の牽制効果があったと考えているので、レビューの強制がなくなった場合には、マイナスの影響がでないように任意のレビューを提案していく。任意のレビューを行わない場合は、期中監査の在り方を見直していく。
  • 四半期報告書のレビューが追加されたことで、年度の財務報告に対する保証水準は向上した。四半期報告書のレビュー義務がなくなり、大昔の保証水準に戻すということは、全体としての保証水準の後退でしかなく、保証水準の後退は資本コストを高める原因になる。それが国際的な投資家を集めようとする市場が目指す実務だとはとても思えない。

おわりに

  • 私たち実務家は、我が国の資本市場が国際的に信頼され、長期投資を志向する投資家の参加を促し、発展することに貢献していきたい。
  • 国際的な長期投資家が何を期待しているのか、進んだ経営ではそれにどう答えていくのか、監査人の仕事を評価する監査役等は何にさらされていくのか、監査人として常に目線をあらたにし、弛まぬ努力を継続していく。

主要メンバー

井野 貴章

会長, PwC Japan有限責任監査法人

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