月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 8月号

2020-08-05

2020年8月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 政府、COVID-19パンデミックによる経済的損失を食い止めるための1,300億ユーロの包括的な緊急経済対策を公表(ドイツ)
  2. 欧州委員会、COVID-19後の経済回復策を提案、新税を検討(EU)
  3. EU加盟国、DAC6の期限の選択的延期に合意(EU)
  4. タックスヘイブンへの配当支払いに係る2024年度の条件付き源泉税を公表(オランダ)
  5. 西部地域の開発のための優遇法人所得税政策の拡大(中国)
  6. 新規機械への投資に係る150%の追加的な控除(タイ)

政府、COVID-19パンデミックによる経済的損失を食い止めるための1,300億ユーロの包括的な緊急経済対策を公表(ドイツ)

2020年6月3日、連立政権は、コロナウィルスパンデミックにより生じた経済的損失を緩和するための1,300億ユーロの財政刺激策に合意した。公表された60近い分野横断的な措置とともに、これらの最新の措置は、ドイツ連邦共和国の歴史の中で、最も大きな経済刺激策となる。

本措置は、法制化プロセス次第であるが、これらは即時に施行されると見込まれる。

ドイツ経済回復のための広範な経済刺激策

連立政権の委員会は、コロナウィルスパンデミックにより生じたドイツの経済的損失を緩和するための経済回復・危機管理策を公表している。本政策の一部として導入される措置には、以下が含まれる。

  • 消費者需要を刺激し強化するために、2020年7月1日から12月31日まで、VAT(付加価値税)の標準税率は19%から16%に、軽減税率は7%から5%に引き下げられる。
  • 2020年および2021年について、欠損金の繰戻しができるのが、最大5百万ユーロ(またはjoint assessmentの場合10百万ユーロ)まで拡大される。これは、たとえばコロナウィルスの準備金(tax reserve)の創設を通じて、2019年の申告で即時の財政効果として使える仕組みが導入される。
  • 投資税恩典を提供するため、2020および2021年度に増加償却率が利用できる。これにより、動産について、既存償却率が2.5倍に増加し、最高率が年25%となる。
  • パートナーシップが法人所得税を選択する制度や、営業税(trade tax)の救済措置拡大等、法人所得税制の近代化が意図されている。
  • 営業税について、既存の加算(add-backs)に係る無税引当(tax-free allowance)が、20万ユーロに拡大する。
  • コロナウィルスパンデミックの結果、増加する社会保険支出による賃金外の労働コストの増加を防ぐため、社会保険拠出は、「Social Guarantee 2021」の一部として最大40%に制限され、追加資金需要は、少なくとも2021年まで、連邦予算の一部で賄われる。
  • 短時間勤務手当(Kurzarbeitergeld)の付与を規定する新規則が2020年9月に導入され、2021年1月1日から適用される。
  • 再生可能エネルギー法(EEG)課税(levy)(2021年は6.5セント/kwh、2022年は6.0セント/kwh)の一部としての支払い額の減額により、エネルギーコストは軽減される。
  • ドイツ法人に追加流動性を提供するため、輸入VATの納付期限が、翌月26日に延期される。
  • 中小企業の存続を確保するため、コロナウィルスパンデミックの結果収入減を被っている事業者に、2020年6月から8月まで、合計融資額250億ユーロのつなぎ融資が提供される。このつなぎ融資は分野横断的に利用可能であるが、接客業(hospitality)など、コロナウィルスパンデミックで特に影響を受けたセクターは、特別な配慮がなされる。

 

出典: PwC, Real Estate Tax Services News
「月刊 国際税務」 2020年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

欧州委員会、COVID-19後の経済回復策を提案、新税を検討(EU)

2020年4月23日、欧州理事会は、COVID-19の社会経済的影響に対処するための経済回復基金(recovery fund)の創設に向けて作業を行うことを決定した。本理事会は、欧州委員会(EC)に、正確なニーズを分析し、「本課題に相応する(commensurate with the challenge)」提案を早急に示すよう求めている。

2020年5月27日、ECは、EU全体にわたるCOVID-19後の経済回復基金(次世代EU(Next Generation EU))、および現在の2014-2020年の複数年次EU予算(Multiannual Financial Framework; 「MFF」)の改訂に関する提案を公表した。

ECは、一時的に現在のEU「自身の資金(own resources)」上限をEUの国民総所得の2%に引き上げることを含め、新たな経済回復手段の創設を提案している。これにより、ECは、次世代EUのための金融市場での7千5百億ユーロの借入に自らの信用格付けを使うことが認められよう。

ECによれば、その追加調達資金は、最重要の欧州グリーンディール(European Green Deal)およびEUのデジタル検討課題(agenda)といったEUプログラム(EU programmes)を通じたものとなろう。本資金は、将来のEU予算を通じて返済される必要があろう(2028年より前ではなく、2058年より後でもない)。これを「公平かつ共通の(fair and shared)」方法で行うことを促すために、ECは、以下のような、可能性のある新たな独自の資金源を提案している。

  • 「EU単一市場から莫大な便益を得る」大法人の事業(operation)に基づく独自資金(単一市場税(single market tax); EC見積額(yield): 年間約百億ユーロ)
  • 7億5千万ユーロ超の収入がある法人へのデジタル税(OECDでグローバルの合意に達しない場合)(EC見積額(yield): 年間13億ユーロまで)
  • 独自資金に基づく排出権取引制度(Emission Trading Scheme)(EC見積額(yield): 年間百億ユーロ)
  • 炭素税国境調整の仕組み(Carbon Border Adjustment Mechanism)(EC見積額(yield): 年間50億-140億ユーロ)

これらは、簡素化されたVATおよび再利用されないプラスチックに係る独自資金のためのEC提案に加わることになる。

連帯(solidarity)と公平性(fairness)が経済回復の核心であることを確かなものにするため、ECは、加盟国が現在の危機の重要課題に対処するために必要な税収をあげることを支援するべく、脱税(tax fraud)およびその他の不公正な実務への対抗を強化する。ECによると、共通連結法人税課税標準(CCCTB)は、事業者に、EUでの法人税の課税標準を計算するための単一の規則書(rulebook)を提示し、また、税の簡素化により、事業環境を改善し、経済成長に貢献することができるとしている。

ECはまた、現在の2014-2020年MFFを改訂し、2020年に以下のための115億ユーロの追加資金を利用可能とすることにより、最も差し迫った必要性に対処するため、資金をすぐに利用可能とすることを提案している。

  • 加盟国への投資と改革(reforms)の支援
  • 民間投資の奨励によるEU経済の促進(kick-starting)
  • 危機の教訓(lessons)への対処

ECは、欧州の回復(力)を進めるため、2020年改訂EC作業計画(Work Programme)も公表している。直接税に関するものとして、以下がある。

  • ECの(法定外(non-legislative))21世紀の事業者課税に係る連絡文書(Communication on Business Taxation for the 21th century): 2020年第2四半期から、第4四半期に延期
  • 「EUおよびEU外での税のグッドガバナンス」(法定外)、および「自動的情報交換に関する指令の改訂」(法定(legislative))を含む、脱税に対抗し、税を簡素(simple and easy)にするという、ECの行動計画(法定および法定外、影響評価を含む): 2020年第3四半期
  • 大法人による非財務報告の指令の見直し(法的、影響評価を含む): 2020年第4四半期から2021年第1四半期に延期

ECの経済回復案(package)は、最近の独仏共同提案に綿密に従っている。しかしながら、オーストリア、デンマーク、オランダ、スウェーデンは、補助金(grants)ではなく、貸付けによる回復資金を望んでおり、EU予算を増やすことに反対している。さらに、ECにEUレベルの課税権を付与することには、加盟国間で議論がある。EU27か国の首脳は、2020年6月18日-19日の欧州理事会会議で、本計画を討議している。ECの計画は、理事会での満場一致、および欧州議会での同意が求められる。

 

出典:PwC, EU Direct Tax Newsalert
「月刊 国際税務」 2020年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

EU加盟国、DAC6の期限の選択的延期に合意(EU)

ベルギー、ハンガリー、ルクセンブルグ、スウェーデンを含む、多くのEU加盟国は、報告対象となるクロスボーダーの取決めに関する税の分野での義務的自動的情報交換に関する2011/16/EU指令(「DAC6」)を改正する、2018年5月25日の理事会指令(EU)2018/822に定められている当初申告期限に関する国内法での延長を規定し、ハンガリーの場合は、これの規定の検討をしている、と公表した。

加盟国によるこれらの最近の公表・表明は、欧州委員会の2020年5月8日のDAC6の改正提案に関して、EU理事会のCOREPERⅡ(理事会会議の準備を行う組織)で27か国のEU大使が2020年6月3日に非公開で合意したと思われる政治的合意に従っており、また、これに言及している。COREPERでの合意は、委員会の提案からは逸れている。

上述のいくつかの加盟国が行った入手可能な公表によれば、COREPERⅡでの合意により、加盟国は、以下の通り、選択により(on an optional basis)、申告期限を延長することが認められよう。

  • 第1ステップが、2018年6月25日から2020年6月30日までに実施された、報告対象のクロスボーダー取決めについて、申告期限は、2021年2月28日となろう。
  • 報告のトリガーとなる事象が、2020年7月1日から2020年12月31日までに起こった場合には、情報提出のための30日間は、2021年1月1日に開始となろう。
  • 市場性のある取決め(marketable arrangements): 最初の定期報告は、仲介者(intermediary)により、2021年4月30日までに行われなければならないであろう。
  • 最後に、本改正提案は、最初の自動的情報交換を延期し、2021年4月30日までに行わなければならないこととなろう。

本合意では、加盟国がロックダウン措置を実施しなければならない場合には、もう3か月、期限を延長する可能性が含まれると思われる。

COREPERⅡで達した合意は、ECOFIN理事会でのEU27か国財務相(Finance Ministers)の正式採択がいまだ必要であり、本件の緊急性を考えると、文書化された手順で行われ、欧州議会および欧州経済社会委員会(EESC)の見解の受領、および法的・言語的改訂(legal-linguistic revision)の対象になる。

欧州議会とEESCは、本合意の文書はもはや改正することはできない。

本件の緊急性を考えて、加盟国は、処理を加速させ、2020年6月末までに改正DAC6指令が採択され、EU官報(Official Journal)に公告することが認められるよう、正式な法的採択手続きについて、新たなEU指令の提案のための通常8週間の各国議会でのコンサルテーション期間が適用されないことに合意した。本改正指令は、公表日の翌日に発効する。

 

出典:PwC, EU Direct Tax Newsalert
「月刊 国際税務」 2020年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

タックスヘイブンへの配当支払いに係る2024年度の条件付き源泉税を公表(オランダ)

2020年5月29日、政府は、2024年1月1日発効となる、法人税率9%未満の法域、またはEUの非協力的法域のブラックリストに含まれる法域、への配当支払いに係る新たな条件付き源泉税を公表した。支払い配当に係る本条件付き源泉税は、最近可決された、2021年1月1日発効の利子およびロイヤルティーに係る条件付き源泉税に加わるものである。

2024年発効のタックスヘイブンへの配当支払いに係る新たな条件付き源泉税

オランダ居住事業体からの分配(distribution)は、(一定の要件を満たす免税(tax-exempt)となる認定資本(recognized capital)の減額、と構成されない限り)国内配当源泉税免除または租税条約の減免が行使できない場合、15%のオランダ配当源泉税の対象になる。

政府は、その公表の中で、軽課税法域への配当支払いは、必ずしもオランダの配当源泉税の対象になるわけではないとしている。公表された条件付き源泉税は、法人税率が9%未満である法域、またはEUの非協力的な法域のブラックリストに含まれる法域、への配当支払いをターゲットにしている。本税は、オランダが関連する法域と租税条約を締結している場合にも適用が見込まれる。同時に、現在のオランダの配当源泉税制度は、依然として有効であると見込まれる。

なお、上述はあくまで政府が意図している法案の公表である。現時点では詳細は入手できず、予定される法案も起草されていない。政府は、現在の政府の期間満了前の法案作成を目指している。公表された改正規定は、2024年1月1日の発効が見込まれる。

2021年に発効が予定されるタックスヘイブンへの利子およびロイヤルティー支払いに係る条件付き源泉税

2019年末近くに、利子およびロイヤルティー支払いに係る21.7%の税率の条件付き源泉税(租税条約の法域には経過規定が適用される)を含む法案が可決された。本新税は、2021年1月1日発効である。

本条件付き源泉税は、軽課税法域の関連事業体(affiliated entities)(これらに単独、または一体グループの一部として(as part of a group working together)、決定的な支配(decisive control)が行われるもの)への利子およびロイヤルティーの未払額/支払額に適用される。軽課税法域とは、標準(headline)法人税率が9%未満の法域、またはEUの非協力的な法域のブラックリストに含まれる法域、と定義される。これらの受領者が、オランダが租税条約を締結している法域の居住者である場合には、3年間の経過規定が適用される。

2020年5月29日、財務省は、租税条約ポリシーに関する2020年覚書(Memorandum)を公表し、その中で、オランダは、本条件付き源泉税を発効させるために、軽課税法域と租税条約の再交渉を行うことを目指すとしている。しかしながら、本覚書では、もし事業上の妥当な理由(sound business reasons)がある場合には、源泉税の減免合意ができる可能性があり、それに従って、活動の規模や性質(nature)、また受領者の実際の課税(effective taxation)が関連要素として参照される、としている。

利子およびロイヤルティーに係る本条件付き源泉税には、たとえば、支店ストラクチャー、ハイブリッド事業体、仲介事業体(interposed entities)、等を含む一定のストラクチャーに適用される的を絞った「濫用防止(anti-abuse)」規定が含まれる。事実と状況により、反証(counter-evidence)規定が適用される可能性がある。

本規定は、支払いが損金不算入(たとえば、ハイブリッド防止規定により)になる場合の例外規定はなく、経済的二重課税になる可能性がある。

 

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2020年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

西部地域の開発のための優遇法人所得税政策の拡大(中国)

現行の中国西部地域(Western Region)の財政的インセンティブは、2020年末で満了する。2020年4月23日、関連する中国の政府機関は、中国の西部大開発戦略(go-west strategy)をさらに支援するための優遇法人所得税(CIT)政策を延長する、公告2020年第23号を共同で公表した。特に、西部地域における奨励産業の適格企業は、2021年1月1日から2030年12月31日まで、15%の軽減CIT税率の対象となる(中国の法定CIT税率は、25%)。

 

出典:PwC, International Tax News
「月刊 国際税務」 2020年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

新規機械への投資に係る150%の追加的な控除(タイ)

タイ経済を立て直し、投資を促進するため、法人事業体(corporate entities)に新規機械(machinery)への投資に係る150%の追加控除を付与する法令(Royal Decree No. 695)が公表された。しかしながら、リース事業およびリース機械への投資は、本税恩典の適格とはならない。

本追加控除は、歳入庁長官(Director-General of the Revenue Department)が規定する基準・条件に従って、2020年1月1日から12月31日までの実際支払額に基づく。

 

出典:PwC Thailand, PwC Tax Insight
「月刊 国際税務」 2020年8月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

※発行元の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。

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