月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 2月号

2022-03-07

2022年2月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 第2の柱の15%ミニマム実効税率のモデルルールを公表(OECD)
  2. 第2の柱の15%ミニマム実効税率の実施に係る欧州委員会の指令案(EU(1))
  3. 上院の民主党員が最初のBuild Back Better調整法案を公表(米国)
  4. 欧州委員会、税務上のペーパー事業体の濫用防止措置を提案する指令案を公表(EU(2))

第2の柱の15%ミニマム実効税率のモデルルールを公表(OECD)

2021年12月20日、OECDは、第2の柱の15%ミニマム実効税率のモデルルールを公表した。OECD/G20の包摂的枠組み(IF)による2021年10月8日の声明通り、本モデルルールは、予定される3つの関連ガイダンスのうち、最初のものとなる(2022年1月に解説コメンタリー、早ければ2022年年央により詳細な実施フレームワークを公表予定)。本モデルルールは、所得合算ルール(IIR)、および軽課税支払いルール(UTPR)(総称して、「GloBE」)を扱っている。第2の柱のもう一つのルールである租税条約特典否認ルール(STTR)の詳細は、2022年に公表の見込みである。第2の柱は2022年の法制化、2023年の発効、またUTPRは2024年の発効を目指す旨、改めて表明している。なお、現在、137のIFメンバーが、本声明に署名している(モーリタニアもIFに参加し、2021年11月4日に署名)。

第2の柱のモデルルール

本モデルルールは、政治的合意を具体化し、より詳細なものを示している。なお、当初同時公表が見込まれていたコメンタリーでは、いくつかの背景と設例が示される予定である。本ルールの実際の仕組みについては、2022年年央に予定される詳細な実施ルールを待つ必要がある。2021年12月20日付けOECDのプレスリリースによると、2022年2月には実施フレームワーク、同年3月にはSTTRのパブリックコンサルテーションが、それぞれ開催される予定である。本モデルルールでは、以下のステップを説明している。このほか、合併・買収、税の中立性と分配制度(distribution regimes)、執行、および移行規定と定義、に関する詳細規定がある。

ステップ1 – 国・地域毎にGloBE所得(GloBE Income)を計算

ステップ2 - 国・地域毎に対象税額(Covered Taxes)を計算

ステップ3 – 国・地域毎の実効税率(Jurisdictional ETR)=対象税額/GloBE所得

ステップ4 – トップアップ税率(Top-up Tax %)=ミニマム実効税率(Minimum ETR)-国・地域毎の実効税率

ステップ5 – 超過利得(Excess Profit)=GloBE所得-実体カーブアウト(Substance Carve Out)

ステップ6 - 国・地域毎のトップアップ税(Jurisdictional Top-up Tax)=(トップアップ税率×超過利得)-国内ミニマムトップアップ税(Domestic Minimum Top up Tax)

すべての事業体が対象となるわけではなく(以下の除外される事業体を参照)、また一部の企業や国・地域は、本モデルルールで言及しているセーフハーバーにより、事実上GloBEの対象とならない場合がある。なお、これらの全体像や詳細は、2022年の実施フレームワークでより明らかになる予定である。2021年10月8日の声明(本誌2021年11月号参照)後に明らかになった部分として、以下がある。

対象範囲 – 対象会計年度の直前4年度のうち2年度以上、グローバルの年間連結収入が7億5千万ユーロ以上の多国籍企業(単一の複数事業体が多国籍企業(MNE)グループとなるのに伴ういくつかの移行規定あり)。

除外される事業体 - 政府機関、国際機関、および非営利組織への言及を維持しつつ、ファンドの除外対象が拡大された。GloBEは、年金基金にも、投資ファンド/不動産投資ヴィークルを率いるグループにも適用されない。主に投資/従属ヴィークルであり、除外される事業体により直接/間接に95%保有される構成事業体も除外される。他の投資事業体は、各国・地域の他の事業体とは別にそれらを扱う特別規定の対象となり、透明として扱われるか、課税対象となる分配方式を適用するかを選択する。

IIRを適用する親事業体 - 最終親事業体(UPE)は、トップアップ税(TPT)の徴収メカニズムとしてIIRを適用する第一次的な責務がある。ただし、UPEの国・地域が、IIR等の適格所得合算規定を適用しない場合、またはUPEが除外される事業体である場合、その責務は、支配所有持分を有する直ぐ下層レベルの中間親事業体(IPE)に順次移行する。MNEグループに一定部分を保有されている親事業体(POPE:グループ外持分が20%超)が含まれる場合、IIRを適用する義務は、全体/部分的にPOPE、またはさらに下層のPOPEに移行する。なお、二重計上回避のための相殺メカニズムがある。

トップアップ税 – 国・地域のTPT額は、超過利得(実体ベースの所得控除後のGloBE所得)に、トップアップ税率(15%とETRの差)を乗じた額である。デミニマス除外として、当年および過去2年間の平均で、GloBE収入が1千万ユーロ未満、かつGloBE所得が1百万ユーロ未満(または損失)の場合、このTPT額はゼロと扱われる。実施フレームワークの一部として、他の特定ケースでTPT額がゼロとする選択を規定するため、セーフハーバールールが策定される。

TPTの配分 – 国・地域のTPTは、総GloBE所得への貢献度に応じて当該国・地域内の構成事業体に配分され、その後、所有持分に応じた、関連する親事業体への配分可能分にIIRが適用される。

UTPR税の性質 - IIR適用後にTPTが残っている場合、UTPRバックストップ機能が作動し、各国・地域が決定する方法(たとえば、控除否認、追加税金、資本引当の減額、またはみなし所得(関連者費用の無効化))で、調整/追加の現金税費用が実現可能となる。UTPRの合計額は、各国・地域の従業員と有形資産の相対的な比率に基づく定式に基づいて、実施国・地域間で配分される。なお、本定式では、UTPR国・地域の事業体が、実際に軽課税の関連会社に控除可能な支払いを行うことは求められていない。

実効税率 - 各国・地域について、ETRは、連結財務諸表で使用される事業体レベルの財務情報に基づき、調整対象税額を調整純GloBE所得で割って計算する。

調整対象税額および繰延税金 - 事業体の所得/利得に対する税(分配利得に対する税を含む)、および一般的に適用される所得税の代わりに課される税(留保利益や法人資本に対する税を含む)は、対象税額と扱われる。財務会計上の当期税費用に、税引前利益(PBT)に含まれる未払い税、および繰延税金費用/所得(上限税率15%)を加え、また、GloBE所得の計算から除外される所得税や、不確実な税務ポジションに係る税などについて、追加調整を行う必要がある。納税者は、5年以内に取り崩されると見込まれない繰延税金負債を考慮外とすることができる。ただし、納税者がこれを考慮外とせず、5年以内に繰延税金負債が取り崩されない場合、再計算が必要となる(前の課税年度に追加のトップアップ税が課される可能性がある)。本モデルルールでは、繰延を5年までとする制限に加え、有形資産コストに係る引当額など、本制限の対象とならない項目のリストを提示している。

調整純GloBE所得 – GloBE所得は、国・地域の構成事業体毎に計算する必要がある。GloBE所得はPBTとして計算されるが、多くの必須又は選択的な調整がある。たとえば、特定の認められない費用は取り消す必要があり、グループ内取引は独立企業間原則に準拠するように調整する必要がある。株式ベース報酬を、(財務会計概念ではなく)関連所得税規定に基づいて計上可能とする選択が規定される。さらに、納税者が公正価値/減損会計の対象となる資産・負債に実現原則を適用することを可能とするための選択が規定される。

実体ベースのカーブアウト - 多国籍企業は、有形資産の簿価と給与の5%の所得のカーブアウトが認められる(移行期間が10年あり、2023年は有形資産の8%と給与の10%を除外し、2033年に5%になるまで、徐々に減少する(モデルルールのパラ9.2)。対象となる給与費用には、従業員報酬支出(給与、賃金、および健康保険や年金拠出金など、従業員に直接・個別の利益を提供するその他の支出を含む)、給与税・雇用税、および雇用主の社会保障拠出金が含まれる。適格有形資産には、有形固定資産、有形資産を使用する借主の権利、および天然資源の利用を含む特定の政府ライセンスなど、国・地域に所在するものが含まれる。カーブアウトは、販売、リース、投資のために保有されている資産や、船舶やその他の海運機器など、企業の国際海運所得の稼得のために使用される有形資産には適用されない。

GILTIの第2の柱への準拠 - 米国に本社を置くグループまたは米国の中間持株会社について、米国のミニマム税(GILTI)が、第2の柱に準拠する制度であるかどうかの言及はない。もしGILTIが第2の柱に準拠する制度とならない場合、米国所有企業の子会社は、UTPRの対象となる可能性がある。10月8日の声明では、制度が第2の柱に準拠しているかどうかの判定に当たり、いくつかの要因に依拠することとなろうとしている。その中で最も重要なのは、当該制度の下で、ETR計算が国・地域毎に行われることであり、現在のGILTIでは、この要件を満たせない。現在米国で提案されている法改正の結果が待たれる。

執行 - 各構成事業体(または当該国・地域の指定された事業体)は、最初の移行年は18か月、その後は15か月以内に、その国・地域で、標準化されたGloBE情報申告書を提出することになる(当該国・地域と情報共有協定を締結している国・地域で、UPE(または指定されたグループの申告書提出事業体)がこのような申告書を提出していることを通知した場合を除く)。

EUの動き

OECDが、今後数か月以内に、コメンタリーおよびより詳細な実施規定により、本モデルルールの解釈をより明確にする予定であるとしているなか、欧州委員会は、2021年12月22日に、ミニマム税に関する指令案を公表した。欧州委員会は、EUの規定を、EU条約(設立の自由)の規定に整合したものとする必要があるとしており、IIRについて、本国ではなく、各国の関連子会社の所在地国で、トップアップ税が課されることになろう。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」 2022年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

第2の柱の15%ミニマム実効税率の実施に係る欧州委員会の指令案(EU(1))

2021年12月22日、欧州委員会(EC)は、EU加盟国における、OECD第2の柱の15%ミニマム実効税率に係るモデルルールの実施を目的として、EU域内多国籍グループに対するグローバルでのミニマムレベル課税の確保に係る理事会指令案、を公表した。本指令案は、いわゆる所得合算ルール(IIR)、および軽課税支払いルール(UTPR)を定めたOECDモデルルールに忠実に従っている。ただし、EU法への準拠を保証するためにいくつかの必要な調整を加えることで、モデルルールから乖離している。主な違いは、以下のとおりである。

  • IIRは、過去4年間のうち2年以上、連結収入が7億5千万ユーロ以上の大規模な純粋国内グループに拡大されている(ただし、本規定の適用後5年間、トップアップ税をゼロレート適用とする移行規定がある)
  • 最終親事業体(UPE)、中間親事業体(IPE)、または部分保有されている親事業体(POPE)によるIIRの適用は、同じ加盟国に所在する軽課税の構成事業体(当該UPE、IPEまたはPOPEを含む)にも拡大されている

関連するOECD第2の柱の租税条約特典否認ルール(STTR)に関して、現段階ではEUの措置は示されていない。なお、OECDは、2022年3月に、STTRのモデル規定案とそのコメンタリーを公表予定である。

本指令案の採択には、全27加盟国の全会一致が求められる。採択された場合、加盟国は、2022年12月31日までに国内制度で本規定を取り込み、2023年1月1日(IIRの場合)および2024年1月1日(UTPRの場合)から、関連実施規定を適用することになる。

本指令案の全体構造

本指令案では、OECDモデルルールに沿って、以下の2つのルール(「EU GloBEルール」と総称)の相互作用により、大規模な多国籍企業に15%のミニマムレベルの課税を確保することを目的とした、一連のルールのEU内での適用を規定している。

  • IIRで、構成事業体の軽課税所得に関して、UPEでトップアップ税を賦課
  • UTPRは、構成事業体の軽課税所得がIIRの課税対象とならない範囲で、バックストップとして適用され、国・地域の有形資産の価値、および従業員数の2配賦要素に比例して、当該国・地域でトップアップ税を課すことになる。なお、UTPRトップアップ税の課税方法(たとえば、控除否認その他の手法により)について、本指令案では、明示的な言及はない。

特に、OECDモデルルールに沿って、本指令案は、加盟国に所在する多国籍企業グループの構成事業体が、トップアップ税の情報申告書を提出する義務を規定している。なお、加盟国が情報交換協定を締結している他の国・地域の多国籍企業グループが当該申告書を提出する場合には、本義務の例外規定がある。当該申告書は、関連会計年度終了後、15か月(初年度は18か月)以内に提出する必要がある。本指令案ではまた、加盟国が、国内実施規定に違反した場合にペナルティーを適用する義務を定めており、特に申告書提出義務に関連して、当該ペナルティーには、関連する会計年度における構成事業体の売上高の5%以上の行政ペナルティーが含まれる。要請を受けてから6か月以内にトップアップ税の情報申告書が提出された場合、ペナルティーは適用されない。なお、本指令案では現在、コンプライアンス負担軽減のための執行簡素化措置を定めていない。

指令案のいくつかの主要な特徴

本指令案の実施規定は、OECDモデルルールに忠実に従っている。しかしながら、欧州委員会によると、EU法への準拠を保証するためにいくつかの必要な調整を加えており、新たな法的枠組みが、設立の自由を含め、EUの基本的自由と両立するという法的確実性を納税者に提供するために、特定の側面で、OECDの文書とは異なる。OECDモデルルールと異なる部分を含め、指令案の主要な特徴は以下の通りである。

  • 本指令案では、クロスボーダーと国内状況との差別のリスクを回避するため、IIRの適用を、すべての構成事業体が同一加盟国に所在する大規模な国内グループに拡大している。なお、本規定の適用後5年間、トップアップ税をゼロレート適用とする移行規定がある。
  • 本指令案では、UPE、IPE、またはPOPEによるIIRの適用を、同一加盟国にある軽課税の構成事業体(UPE、IPEまたはPOPEを含むが、一定のIPEおよびPOPEについては除外規定がある)に拡大している。
  • 本指令案では、国際活動の初期段階にある多国籍企業(構成事業体の所在地国・地域が6以下、かつ、(総有形資産が最大の関係国・地域を除く)すべての国・地域に所在する全構成事業体の有形資産純簿価合計が5千万ユーロ以下)のためのUTPRの一時的除外を、IIRにも拡大している。
  • 本指令案では、第三国の法的枠組みを、EU GloBEのIIRと同等とみなす規定を定めている(親事業体が当該多国籍企業グループの軽課税の構成事業体のトップアップ税の配分可能分を計算・徴収する一連のルールを規定、15%以上のミニマム実効税率を規定、同一国・地域に所在する事業体の所得のブレンディングのみ許容、および、本指令案のIIRを適用して加盟国で支払われたトップアップ税の救済を規定、が条件となっている)。
  • 本指令案では、加盟国が、適格国内トップアップ税(構成事業体が、その加盟国でトップアップ税を納付)を採用するオプションを規定している(採用後4か月以内に欧州委員会に通知要)。

第2の柱の指令案の法的根拠は、EUの機能に関する条約(TFEU)の第115条であり、27の加盟国すべてによる全会一致の承認が必要となる。非常に厳しい実施スケジュールを考慮して、委員会はパブリックコンサルテーションを行わないことを決定している。採択された場合、加盟国は、2022年12月31日までに本指令の規定を実施するために必要な法律、規則、および行政規定を施行し、2023年1月1日からIIR、2024年1月1日からUTPRの関連実施規定を適用する必要がある。

出典: PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」 2022年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

上院の民主党員が最初のBuild Back Better調整法案を公表(米国)

2021年12月11日、上院財政委員会のロン・ワイデン委員長は、Build Back Better調整法案(H.R. 5376)を上院で検討するため、1,180ページにわたる財政修正法案のテキストを公表した。本テキストでは、11月19日に下院で可決されたH.R.5376を修正している。ワイデン委員長は、本法案のテキストは、さらに修正される可能性があると述べている。ワイデン委員長は、本修正案には、下院可決法案の税規定の実質的な変更と技術的修正の両方が含まれているが、個人の州税・地方税の項目別控除上限を引き上げるとする下院規定など、いくつかの問題に対応していないとしている。本修正案には、いくつかの新規定も含まれている。下院可決法案に対する重要な修正案には、以下が含まれる。

法人代替ミニマム税 – 本修正案では、下院可決の調整財務諸表所得(AFSI)の定義が、(1)確定給付年金制度に関する帳簿所得、コスト、または費用を無視し、(2)確定給付年金制度に関する課税所得の計算に含まれる所得/控除項目を含めるよう調整されよう。免税事業体のAFSIは、関連のない事業課税所得または関連のない債務融資所得のみを考慮に入れるよう調整されよう。外国法人のAMT(代替ミニマム税)外国税額控除も修正される。

Section 163(n)支払利子制限 - 本修正案では、下院可決の支払利子制限規定は、選択により、EBITDAではなく、資産の調整後のベーシスに基づいて限度額を算定するよう修正されよう(5年間取り消し不可の可能性)。

税源浸食濫用防止税(BEAT) - 本修正案では、売上原価(COGS)に関連する間接費のBEAT上の取扱い変更が含まれる。下院可決法案では、2022年と2023年の税源浸食率3%の計算上本変更は含まれていなかったが、本修正案では、これらの年にも本変更が考慮されよう。

受取配当控除(DRD)の改正 - 本修正案では、Section 245Aの現在の構造を維持し、特定の10%保有の外国企業からの受取配当に適用されよう。本修正案では、米国株主が、10/50 Corporation(米国法人が10%以上50%以下保有する外国法人)から直接受け取る配当は、65%(現在は100%)のDRDが規定されよう。さらに、米国株主でSection 951a(1)(a)に基づく合算がある場合、特定の10%保有の外国企業から被支配外国法人が受け取った配当は、Section 245Aに基づくDRDの対象となろう。

以上のほか、Section 7874(インバージョン防止規定)の改正案や、下院可決法案に対する追加の修正案として、さまざまな気候エネルギー税の優遇規定の変更、低所得者向けの住宅税額控除規定の変更、および電子申告に係るIRSの調査のための1,500万ドルを含むIRSコンプライアンス資金引き上げの変更等がある。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」 2022年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

欧州委員会、税務上のペーパー事業体の濫用防止措置を提案する指令案を公表(EU(2))

欧州委員会(EC)は、税務上のペーパー事業体(shell entities)の濫用を防止し、執行協力に関する指令2011/16/EU(DAC)を改訂するための規定を定める指令案のテキストを公表した。2021年12月22日に公表された本指令案は、加盟国における事業の最低限の実体の指標と、それらの指標を満たさない事業の税務上の取扱いに係るルールを規定している。本指令案は、ECが、2021年5月18日に公表した「21世紀の事業者課税に関する連絡文書」で提示した一連の新措置の一つである「ペーパーカンパニー(shell companies)の利用に関連するアグレッシブなタックスプランニングに対処するための規則案(「ATAD 3」)」を受けたものである(本誌2021年7月号参照)。ECは、2021年夏にパブリックコンサルテーションを実施している。

本指令案は、中小企業、パートナーシップ、信託、その他の法的取決めを含め、居住者とされ、加盟国で居住者証明書の受領資格があるすべての事業者(いくつかの特定の除外がある)に適用されよう。追加の報告要件が生じる可能性があり、場合によっては、追加の納税義務が生じる可能性がある。なお、一定の上場法人、規制金融業である事業体、事業者の株主/最終親事業体と同一加盟国に所在する事業者の株式を保有する事業者、または、5人以上のフルタイム従業員が専ら事業収入を生み出す活動を行っている事業者、のいずれかの基準を満たす事業者は、以下のミニマム実体テスト(Minimum Substance Test)要件の対象にならない。ペーパー(shell)とみなされる事業体を判定する、本テストには、以下の7ステップが含まれる。

  1. 報告対象となる事業体 - 関連するゲートウェー指標として、地理的に移動可能な事業体(過去2年間の収入の75%が関連所得(一定の受動的所得)(租税回避防止規定あり))、クロスボーダー活動に従事する事業体(過去2年間に特定資産(簿価)の60%超が加盟国域外に所在/事業者の関連所得の60%超をクロスボーダー取引によって稼得/支払い)、および日常管理・意思決定に係る重要機能の管理を外部委託する事業体、がある。以上3つのゲートウェー指標を満たすハイリスク事業体は、申告書上で実体に係る指標について報告しなければならない
  2. 報告 - 事業体が最低限の実体を有することを示す特定情報(例えば、当該事業のみで利用可能な施設、EU域内の銀行口座(活動勘定)、事業者と同一加盟国の税務居住者である(または、事業に十分近接してその活動に専従する)適格取締役1名以上(または、当該事業の主要な所得創出活動に従事するフルタイム従業員の大多数))、およびその証憑を、年次申告書の中で開示しなければならない
  3. 最低限の実体の欠如と税の濫用の推定 - 最終的には、国内法等に基づく加盟国税務当局の判断となる
  4. 反論 – 当該事業者に挙証責任がある。当該事業者が税務居住者である加盟国の当局による証明は、当年、および法律・事実状況が変わらなければその後5年間有効である
  5. 税務上の動機の欠如に対する免除 - 上述1、2を満たせない場合でも税務上の便益などを生じることなく真正事業活動が開始されることがある。この場合における本テスト上の義務に係る当局の免除証明は、当年、および法律・事実状況が変わらなければその後5年間有効である
  6. 結果 – 上述したステップの結果、ペーパー事業体とみなされると、居住者証明書の不発行(あるいは、一定の使用防止のための警告付き証明書の発行)、親子会社指令・利子配当指令の源泉税救済措置のアクセス否認、および関連所得へのCFC型合算課税権を規定、等がなされる
  7. 情報交換 - 情報交換の既存制度を活用する(2011/16/EU指令(DAC)を改訂)。加盟国の権限のある当局は、申告書受領後、反論や免除に係る証明書発行後、あるいは本指令上のリスクに係る調査終了後、30日以内に情報交換のための報告が必要である

また、ペナルティー(加盟国によるが、最低でも売上の5%以上の行政罰)も規定される。採択された場合、本指令案は、2023年6月30日までに加盟国によって国内法に置き換えられ、2024年1月1日から発効となる。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」 2022年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

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