月刊国際税務 Worldwide Tax Summary 2月号

2023-03-08

2023年2月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. EU加盟国が第2の柱の指令案を最終承認(EU(1))
  2. 第2の柱 – 適用免除基準(セーフハーバー)と罰則等の免除に関するガイダンスを公表(OECD(1))
  3. 第2の柱 - GloBE情報申告に係るコンサルテーションを公表(OECD(2))
  4. 第2の柱 - 税の安定性の枠組みに係るコンサルテーションを公表(OECD(3))
  5. 第1の柱 - ユニラテラルな措置に関するコンサルテーションを公表(OECD(4))
  6. 第1の柱 - 利益Bの公開協議草案を公表(OECD(5))
  7. 新たな連邦法人税法を公表(UAE)
  8. 連邦議会、ドイツに登録された権利に係る支払いに関する課税法改正を可決(ドイツ)
  9. 2023年度連邦歳出法案(米国(1))
  10. クロアチアとの新条約を締結 - 米国の租税条約に係る条項の大幅な変更を反映(米国(2))
  11. 外国の助成金に係る規則を正式採択(EU(2))

EU加盟国が第2の柱の指令案を最終承認(EU(1))

2022年12月15日、EU理事会は、EUミニマム課税指令を一定の手続き(written procedure)で正式採択した。ハンガリーが最終投票を棄権し、スウェーデンが特定の条項について書面による所見を提出(注1)したものの、全会一致で採択された。本指令は、欧州連合官報への掲載の翌日に発効する。加盟国は、2023年12月31日までに、本指令を自国の国内法に取り込まなければならない。これにより、EUは、正式に第2の柱のミニマム課税規定を採択した最初のブロックとなった。今後、他国・地域も追随する可能性が極めて高いとみられる(注2)

(注1)第1の柱の実施に係る部分(最新妥協案(2022年11月25日付)第57条関連。欧州委員会に対して、OECD/G20レベルで第1の柱の実施をモニターし、2023年6月30日までにEU理事会(議長国: スウェーデン)への報告書提出を求めている(第1の柱がグローバルレベルで実施されない場合、第1の柱に係る税制上の課題に対処するための立法案提出を想定)。

(注2)日本では、2022年12月16日、グローバル・ミニマム課税への対応(各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税(仮称)の創設等)(2024年4月1日以後開始課税対象会計年度からIIR(所得合算ルール)を適用)を盛り込んだ、令和5年度与党税制改正大綱(2022年12月23日に閣議決定)が公表された。韓国では、2022年12月23日、国会で第2の柱の法案(本誌2022年9月号参照)が可決された。IIRとUTPR(軽課税所得ルール)を2024年1月1日以降開始事業年度から適用する(QDMTT(適格国内ミニマム課税)は含まれていない)。2023年2月に公表予定の大統領令および施行規則で制度の詳細が明らかになる見込みである。

本指令の採択で米国との緊張が高まる可能性

2022年12月14日、米国議会共和党の上下院議員32名が、財務長官に対し、他国による米国法人に係るUTPR課税を阻止する必要がある旨の書簡を提出し、超党派で解決策を見出すよう求めている。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

第2の柱 – 適用免除基準(セーフハーバー)と罰則等の免除に関するガイダンスを公表(OECD(1))

2022年12月20日、OECDは、第2の柱モデルルールの公表(本誌2022年2月号参照)から1年となる2022年12月20日に、第1および第2の柱に関連する以下の4文書を公表した。

  1. 第2の柱 - 適用免除基準(セーフハーバー)と罰則等の免除に関するガイダンス
  2. 第2の柱 - GloBEルールに係る税の安定性に関する公開協議文書(コメント期限:2023年2月3日)
  3. 第2の柱 - GloBE情報申告に係る公開協議文書(コメント期限: 2023年2月3日)
  4. 第1の柱 - デジタルサービス税(DSTs)およびその他の関連する類似の措置に関する多国間条約(MLC)条項案に関する公開協議文書(コメント期限:2023年1月20日)

上述2、3および4の文書は、OECD事務局作業のみによる協議文書(包摂的枠組み(IF)で未合意)である。上述1のガイダンスは、2022年12月15日、IFで承認された(注1)

(注1)2022年12月16日公表の令和5年度与党税制改正大綱(2022年12月23日に閣議決定)にも、これを踏まえた適用免除基準が盛り込まれている。

上述1の適用免除基準と罰則等の免除に関するガイダンスでは、以下をカバーしている。

経過的な国別報告(CbCR)適用免除基準(注2) – 2026年12月31日以前に開始する事業年度(2028年6月30日後終了事業年度を含まない)までの適用となる(注3)。初年度等における多国籍企業の低リスク国・地域での事業をGloBEの範囲から事実上除外し、それによって多国籍企業がGloBEルールを導入する際のコンプライアンス義務を軽減する(多国籍企業の適格CbCRから得られるデータ、および適格財務諸表に含まれる国・地域の収入・所得情報を利用可)。以下のいずれかを満たす場合、当該国・地域の最低課税額は零となる(共同支配会社(JV)等に係る適用免除基準も基本的に同様。各種投資会社等の特別ルールなどもある。)。なお、本適用除外を受ける場合でも、GloBE情報申告の作成などは必要である。

  1. デミニマステスト - 国・地域のCbCR上の収入金額1,000万ユーロ未満、かつ税引前利益100万ユーロ未満(損失を含む)であること。
  2. 簡易ETR(実効税率)テスト – 当該国・地域でのETRが経過措置税率(transition rate)以上であること。簡易ETRは、法人税等の簡易対象税額(多国籍企業の財務諸表で報告される法人税等から、対象税額とならないものや、不確実な税務ポジションに関連する税額を控除)を、多国籍企業グループのCbCRで報告される税引前利益(損失)で除して計算する。経過措置税率は、2023年および2024年開始事業年度は15%、2025年開始事業年度は16%、2026年開始事業年度は17%である。なお、グループ内配当の除外がない点や、財務諸表未計上の対象税額が考慮されない点など留意が必要である。
  3. ルーティン利得テスト - 国・地域の税引前利益(損失)が、CbCR上での当該国・地域の諸居住構成事業体に係る、GloBEルールによって計算された実質ベースの所得除外額(SBIE)以下であること。なお、この場合、モデルルール第4.1.5条の追加当期トップアップ税額も生じない。

    (注2)令和5年度税制改正大綱(2022年12月23日に閣議決定)上、「一定の国別報告事項における記載事項等を用いた経過的な適用免除基準を措置するほか、所要の措置を講ずる」としている。

    (注3)モデルルール第9.1.3条の経過措置(GloBEルール適用前のグループ内資産移転による簿価ステップアップの防止措置)に関して、移行年度(ある国・地域において、多国籍企業グループがその国・地域のGloBEルールの適用対象となった最初の事業年度)が、本適用除外基準の適用を受けなくなる最初の年度となる可能性がある点、留意が必要である。

恒久的な簡易計算による適用免除基準の策定のための枠組み - 多国籍企業に対し、GloBEルールの下で必要とされる計算や調整の回数を減らすか、代替的な簡易な所得・収入・税額計算の実施を容認する。以下のいずれかを満たす場合、関連事業年度の最低課税額は零となる。

  1. ルーティン利得テスト – 国・地域の超過利得(即ち、SBIEを超える簡易措置所得)が零の場合。更に、(簡易所得計算を適用して)GloBE欠損の場合もこのテストを満たす。
  2. デミニマステスト - 上述の経過的な適用免除基準と同様であるが、平均値(注3)を使うこと、また簡易的ではあるものの、GloBEルールに従ったより複雑な計算が必要になる。

    (注3)令和5年度税制改正大綱(2022年12月23日に閣議決定)上、「対象会計年度及びその対象会計年度の直前の2対象会計年度に係るその特定多国籍企業グループ等の収入金額の平均額」及び「・・・利益又は損失の額の平均額」により計算するとされている。
  3. ETRテスト - GloBEルール同様ETRを計算(簡易な所得、収入、税額計算を使用して計算される可能性)。本テストでは、ETR15%以上の場合に満たされる。
    なお、重要性の低い構成事業体(NMCE)(規模または重要性のみを理由に多国籍企業グループの連結財務諸表上連結されていない多国籍企業グループのメンバー)(恒久的施設を含む)についても、簡易な所得および税額計算がある。NMCEの収入、所得および調整後対象税額は、関連するCbC規則、または国内のCbC規則がない場合はOECDのCbCRガイドラインを参照して算定される。
    これらの簡易計算に関して、今後合意された執行ガイダンスの公表が見込まれる。当該セーフハーバーの利用にあたり、多国籍企業グループは、一定の申告要件が求められる可能性がある。

経過的な罰則等の免除制度 – 経過的な期間中、GloBEルールの適用に関して合理的な措置を講じている多国籍企業については、GloBE情報申告に関連する罰則等を適用すべきでない旨が認識されている。なお、本免除措置は、各国政府の裁量で行われるものであり、多国間の手続きや審査の対象にはならない。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

第2の柱 - GloBE情報申告に係るコンサルテーションを公表(OECD(2))

2022年12月20日、第2の柱のGloBE情報申告(GIR)に関する公開協議文書(コメント期限:2023年2月3日)が公表された(本文書は、OECD事務局作業のみによる協議文書(包摂的枠組み(IF)で未合意)である)。GloBEルールを導入している各国・地域における標準化されたGIRでの報告内容は、データポイントに係るものが中心で、これらはGIRのAnnex Aに以下の通り記載されている(最終版ではない点に留意)。なお、GIRは、法人税等の申告とは別個のものである。

  1. 構成会社等とその所在地国・地域の特定
  2. 多国籍企業グループの全体的な法人組織図
  3. 国・地域別実効税率(ETR)の計算上必要な情報(国・地域レベル、および法人レベルのデータ)
  4. 各構成会社等および共同支配会社(JV)グループ会社等に対する最低課税額(トップアップ税額)
  5. 最低課税額のIIR(所得合算ルール)とUTPR(軽課税所得ルール)への配分
  6. いずれもの選択に係る記録

これによると、例えば、各国・地域に係るETR計算では、構成会社等ベースでの極めて詳細な情報が必要となる。GIRで数万件の追加データポイントの収集が必要になるとの企業サイドの声もある(財務会計純損益(FANIL)(Annex A 1の3.4.1(a))で求められる各構成会社等レベルの報告だけでも最大24項目の加減算)。また、再計算が必要な場合(モデルルール第4.6.1条および第5.4.1条関連)、修正申告も必要となろう。本公開協議文書と同日にOECDが公表した「適用免除基準と罰則等の免除に関するガイダンス」に「経過的な罰則等の免除制度」が含まれているが、これは一時的な措置である(注)。なお、GIRは、報告対象年度の末日から15か月以内(初年度は経過措置で18か月以内)に提出する必要がある(モデルルール第8.1.6条(第9.4.1条))。

(注)令和5年度税制改正大綱(2022年12月23日に閣議決定)でも、「情報申告制度の創設」が盛り込まれている。報告内容は、構成会社等の名称、所在地国ごとの国別実効税率、グループ国際最低課税額その他必要な事項及び適用除外基準の適用を受けようとする旨等とされている。なお、特定多国籍企業グループ等報告事項等の不提供及び虚偽報告に対する罰則を設ける、としている。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

第2の柱 - 税の安定性の枠組みに係るコンサルテーションを公表(OECD(3))

2022年12月20日、第2の柱のGloBEルールに係る税の安定性に関する公開協議文書(コメント期限:2023年2月3日)が公表された。OECDは、第2の柱のルールの複雑さ、および各国・地域間で生じる可能性のあるルールの解釈や適用の差異を考慮し、GloBEルールに係る税の安定性をさらに高めるためのメカニズムに係る検討作業を開始した。本協議文書では、GloBEルールの解釈や適用に関して、2以上の国・地域間で差異が生じる可能性があるケースにつき、コメントを募集した。なお、本文書はOECD事務局作業のみによるものであり、包摂的枠組み(IF)で未合意である。本文書では、課税事象の前(予防メカニズム)と後(紛争解決メカニズム)において、税の安定性を実現するための様々なメカニズムが説明されている。

予防メカニズム - GloBEモデルルール、コメンタリーおよび執行ガイダンスへの依拠(IIR(所得合算ルール)、UTPR(軽課税所得ルール)およびDMTT(国内ミニマム課税)適格性のレビュー(モデルルールの全章が対象)、および国・地域間の解釈や適用の差異に関するIFへの付託(その後、執行ガイダンスに取り込まれる可能性。なお、特定案件の課税論点や納税者情報は共有できない))、類似のリスク状況にある事案に係る共通リスク評価とコンプライアンスでの連携(国際的コンプライアンス確認プログラム(ICAP)類似のもの)、および拘束力のある安定性メカニズム(APA類似のもの)、が挙げられている。

紛争解決メカニズム - 既存MAPの枠組みを参照しつつ、それとは別個の紛争解決メカニズムを策定すること(安易な申請を避けるため、対象を限定することを想定)を挙げており、利用可能な手段として、4つの選択肢(1.多国間条約の策定(米国上院での可決可能性など、実現までのタイミングに課題。なお、UTPRのOECDモデル条約第7条(事業所得)への適合性や、UTPRに係る各国・地域の取扱いとOECDモデル条約第24条(無差別取扱い)との関連性などの論点に係る安定性についても議論の可能性がある)、2.税務行政執行共助条約(MAAC)に基づく当局間合意への依拠(新たに国内法で納税者に申請権を付与する可能性。なお、米国はMAACを批准しているものの、議定書は未だ批准していない)、3.既存の租税条約への依拠(新たにGloBE紛争解決を既存のMAP規定に含める可能性。ただ、OECDモデル条約第25条(相互協議)1項・3項に係る制限や、租税条約がないケースもある)、および4.国内法での紛争解決規定(互恵ベースでの適用。国内法の時効制限なし。反対している複数国あり)の創設、を提示している。このほか、EUレベルでは仲裁指令の適用範囲拡大も考えられるが、グローバルレベルでの解決はなお求められよう。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

第1の柱 - ユニラテラルな措置に関するコンサルテーションを公表(OECD(4))

2022年12月20日、第1の柱のデジタルサービス税(DSTs)およびその他の関連する類似の措置に関する多国間条約(MLC)条項案に関する公開協議文書(コメント期限:2023年1月20日)が公表された。なお、本文書はOECD事務局作業のみによるものであり、包摂的枠組み(IF)で未合意である。本MLC草案は、DSTsおよびその他の関連する類似の措置に焦点を当て、これらの既存の措置の廃止と将来の措置の停止に関するコミットメントを反映したものである。本文書には、第1の柱の下でDSTが廃止される旨を詳述した章と、廃止されるべきDST類似の税の3つの特徴(1.仕向け地要素(主として顧客/ユーザーの所在地、あるいはその他の類似のマーケットベースの基準を参照して決定)、2.(法律上または事実上)主として外資系企業に適用、3.所得税ではないこと(当該措置が締約国の国内法において所得税として扱われていない、またはMLC以外の条約で適用範囲外の税として扱われている)、のいずれも満たす)を記述した章の2つが含まれている。OECD事務局は、DSTに関する暫定的な文言を公表してコメントを求めているが、まだ合意されていない幾つかの重要な技術的課題(注)がある。なお、類似の措置の詳細は現時点で不明だが、付加価値税(VAT)、取引税(transaction taxes)、源泉税、および既存の税務基準の濫用に対処する規定は除外措置として特定している。利益Aの作業は、利益Bの作業と合わせ、2023年半ばまでに完了見込みである。本MLCの規定で扱う主要な問題は、(1)既存措置(Annexで特定される見込みだが、未合意であり、本文書には含まれていない)の廃止義務、(2)MLC締約国が今後制定しないことにコミットする措置の定義、(3)本コミットメントに違反した場合に利益Aの配分を排除する仕組み、の3つとしている。

(注) 未合意の重要な技術的課題として、以下が含まれる。

  • DSTsおよびその他の関連する類似の措置を今後制定しない旨のコミットメントの形式(政治的コミットメントか法的義務かなど)
  • MLC非締約国に最終親会社を有する多国籍企業はいかなる既存措置も引き続き適用されうるか
  • 各国の地方税当局により課されるDSTsおよび他の関連する類似の措置に(どう)対処すべきか
  • DSTsまたは関連する類似の措置を継続して課す締約国について利益Aの配分を完全に拒否することがすべての状況において適切か、または違反措置の規模に何らかの形で比例すべきか(歳入規模の観点など)

出典:PwC, Tax Policy Alert
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PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

第1の柱 - 利益Bの公開協議草案を公表(OECD(5))

2022年12月8日、OECDは、第1の柱・利益Bに関する公開協議文書を公表した(同日ウェビナー開催)。本文書では、利益B(基本的マーケティング・販売活動を行う関連者である販売業者に係る報酬の標準化が目的)の主な設計要素を示している。本文書では、国内での基本的マーケティング・販売取決めの意義、それらの実務上の特定方法、および適用対象となる取決めに係る独立企業原則(ALP)に沿った価格設定、に関する進展状況を概説している。また、追加作業分野を特定し、利害関係者の意見を募集した(2023年1月25日期限)。利益Bに関する作業は、第1の柱・利益Aに合わせ、2023年半ばまでに完了見込みである。なお、本文書で概説されている提案はOECD事務局作業のみによるものである(包摂的枠組み(IF)で未合意)。本文書によれば、利益Bは、OECD移転価格ガイドライン(TPG)に基づくALP適用簡素化・合理化措置、および適切な現地コンパラブル(比較対象)が入手困難な一定の国・地域(low capacity jurisdictions’(LCJs))の懸念への対処を意図している。本文書では、利益Bの4つの重要な設計要素、すなわち、1)適用範囲、2)取引価格設定方法、3)文書化要件、4)税の安定性、について意見を募集した(実施フレームワークは、利益Bの設計完了後に検討見込み)。本文書の第3章では、利益Bの適用範囲(定性的・定量的基準に基づき利益Bの適用対象となるグループ内取引)について概説している。売買取引のほか、代理店・コミッショネア契約も検討中である。なお、二国間・多国間APAの対象の場合は利益Bの適用除外となる(IFでは、コモディティー商品および無形商品(ソフトウェアやデジタル商品など)の除外も検討中)。第4章では、利益Bの取引価格設定方法(取引単位営業利益法(TNMM))を提示。なお、IFでは、適用除外(現地コンパラブルがあるケースやTNMMが最適法でない特定ケース(内部CUP(比準独立価格)があるケースなど))を検討中である。また、本文書では、一般的ベンチマーク検索基準に依拠すること、TNMM適用にあたって純利益指標(営業利益または売上利益)がしばしば使用されるが一部IFメンバーでは代替的純利益指標(すなわち、ベリーレシオや総資産利益率など)も検討されていること、計量経済分析の利用によって補完される可能性、について説明している。第5章は文書化要件(TPG第5章に準拠)、第6章は税の安定性(APAやMAPの有用性を認識。既存のMAP合意は利益Bに優先するが、継続中のMAP事案では利益Bのガイダンスを考慮すべき)、となっている。本文書によると、IFでは現在、利益B実施に係る様々な手段の適切性を評価しており、利益BのガイダンスはTPGに含まれる可能性がある。また、利益Bの強制性/選択制も検討中であるほか、利益Bの影響・効果を評価するため、国・地域での実際の適用情報を収集する仕組みの適切性も検討している。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

新たな連邦法人税法を公表(UAE)

2022年12月9日、UAE(アラブ首長国連邦)は、法人および事業者への課税に関する2022年連邦法令(47)号を公布した(UAE財務省(MoF)による非公式の英訳、FAQも同省のウェブサイトに掲載されている)。2023年6月1日以後開始会計年度から適用される(官報掲載から15日後に発効)。2022年1月31日、財務省が、広範な連邦レベルの法人税の導入を公表したが、その後2022年4月に公開協議文書が公表され、多くの重要規定の明確化等がなされた。今後、政省令や税務当局のガイダンスによるさらなる明確化が待たれる。

フリーゾーン事業体

本法律では、基本的にUAEで登録されて事業を行うすべての(一定の除外がある)事業体およびUAEで事業を行う自然人に係る税率9%以下の法人税が導入される。適格フリーゾーン事業体は、適格所得(0%課税)と非適格課税所得(9%課税)の両方を有することができる。適格フリーゾーン事業体とされる条件として、適切な実体の維持、移転価格規定の遵守、などが挙げられる。すべてのフリーゾーン事業体は、登録および申告が必要である。適格所得とは何か(政省令による)、フリーゾーン事業体とUAE本土にあるグループ事業体との取引の取扱い、適格フリーゾーン事業体による通常法人税の対象となる選択が取消不能か等、多くの未解決事項が残っている。

免除対象者

本法律では、UAEの法人税が免除される者を定めており、この定義は、公開協議文書からやや拡大され、採掘事業に加えて、特定の非採掘天然資源事業が含まれるようになった。また、一定の活動を行う場合を除いて免税対象となる政府機関および政府管理下にある事業体に関する明確化を行っている。採掘産業の事業については、採掘事業と非採掘事業の両方から所得を得ている場合、採掘事業所得は関連する首長国法令に基づき課税され、その他の事業所得は本法律に基づき課税されると規定している。

課税所得の計算

課税所得は、許容される会計基準に従って財務報告のために作成された財務諸表における純利益(または損失)を基に算定される。

タックス・グルーピング

親事業体がグループ事業体の資本・議決権などの95%以上を直接または間接に保有する場合にタックス・グループを構成することが可能である。これにより、グループ内での欠損金の通算が可能となる。子会社がタックス・グループに加入する際、およびタックス・グループが消滅する場合の欠損金の利用に関する規定について、さらなる明確化が行われた。

移転価格

本法律には、以下を含む、移転価格に関する複数の条項がある。

  • 関連者等(related parties and connected persons)との取引は、独立企業原則に従わなければならない。
  • OECDのTPガイドラインに概ね沿った移転価格算定方法が導入されている。
  • 支配(Control)や関連者等を定義している。
  • 移転価格調整の概念(対応的調整等を含む)を規定している。
  • 納税者は、移転価格文書(開示様式、マスターファイル、ローカルファイル)を作成する必要がある(要件や様式は、別途政省令や税務当局のガイダンスで規定される)。
  • (i)国内取引は対象、(ii)タックス・グループ内取引は対象外、(iii)フリーゾーン事業体は対象となるなど、追加的な移転価格に関する検討事項をFAQで解説している。
  • さらなる詳細は、個別の政省令や税務当局のガイダンスで公表見込みである。

経過措置

本法律では、税務上の開始貸借対照表は、前期末の会計貸借対照表になるという原則を再確認しているが、大臣が定める要件や調整の対象となる可能性があるため留意が必要である。

資本参加免税

特定の所得(配当、キャピタルゲイン)は、UAEの法人税から免除される。本法律では、これまで示された基準(5%の所有権、投資先法人が税率9%以上で課税)に加え、12か月の継続保有要件の追加や関連規定などが明確化されている。

グローバル・ミニマム税

本法律において、第2の柱に関するさらなるガイダンスは示されていない。FAQによると、UAEで第2の柱のルールが採用されるまでは、多国籍企業はUAEの通常の法人税制度に基づき、法人税の対象となる。UAEにおける第2の柱ルールの導入については、追って詳細な情報が公表される予定である。

課税対象者(非居住者)

UAEにネクサス(事業活動)を有する非居住者は、課税対象者とされる(詳細は、内閣公表予定)。

外国の恒久的施設(PE)の免除

外国のPEについては、当該外国・地域において9%以上で外国法人税などが課されている場合には、外国PEの所得をUAE本店レベル課税から除くことが可能であるが、この選択が取消不能かどうかは定かではない。

グループ内移転と事業再編

グループ内取引や事業再編が税務上中立となるための一定の要件が追加され、クローバック期間も2年に設定された。

濫用防止規定

本法律では、正当な商業上の理由がなく、税務上の恩典が取引の主目的、または主目的の一つである場合に、税務上の恩典を生じさせる取引に適用される一般的租税回避防止ルールを創設した。
以上のほか、本法律では、申告書に記載すべき情報、申告時期、納税時期、記録の保存期間なども規定されている。

出典:PwC Middle East
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

連邦議会、ドイツに登録された権利に係る支払いに関する課税法改正を可決(ドイツ)

2022年12月2日、ドイツ連邦議会は、税法(Annual Tax Act 2022)を可決した(その後、ドイツ連邦参議院で審議)。本法律には、外国の納税者間でドイツの登録簿に登録された知的財産権に係る支払いに対する課税についての(経過的な)法改正の導入が含まれる。政府の草案(内容は、連邦財務省の草案(本誌2022年10月号参照)と同様)からの変更点として、当面の間、関連者間のすべての条約なしのケースでは、2022年後も引き続きドイツの非居住者課税の対象となる。なお、条約上の免税を求めるにはトリーティーショッピング防止規定(条約上および国内法上)の検討が必要である。ドイツ連邦議会財政委員会の報告書によると、ドイツタックスヘイブン対策法上のタックスヘイブンはEUの税務上の非協力的な国・領域のリストに基づいているが、範囲が狭すぎるので、これを見直してドイツ独自のリストを作るよう、連邦財務省で検討すべきとしている。本変更は、それまでの経過的な措置となる(期限の特定はなし)。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

2023年度連邦歳出法案(米国(1))

2022年12月22日に上院で、翌23日には下院で、1.7兆ドルの2023年度(2022年10月~2023年9月)連邦歳出関連法案が可決された。2017年税制改革法(TCJA)の規定により2022年に償却の対象となったSection 174研究費の支出・発生初年度控除の復活は含まれていない。また、2022年初めに施行されたSection 163(j)の利子控除制限の強化や、2023年から予定されているSection 168(k)の特別減価償却控除の段階的廃止を延期する提案なども含まれていない。2023年の第118回議会では、民主党が行政府と上院を、共和党が下院を支配するねじれ状態に戻るため、研究費の即時控除など、ビジネスに有利な規定を復活させる税法に関する合意形成は容易ではないとみられる。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

クロアチアとの新条約を締結 - 米国の租税条約に係る条項の大幅な変更を反映(米国(2))

2022年12月7日、米国とクロアチアは新所得税条約に署名したことを公表した。本条約が締結されると、米国とクロアチアとの間で初の二国間所得税条約となる(クロアチアは、現在EU加盟国の中で唯一、米国と所得税条約を締結していない)。米国とクロアチアの間の貿易や投資規模を考えると影響は限られるかもしれないが、本新条約が意味するところは、当初考えられていたよりも広範囲に及ぶ可能性がある。米国とクロアチアとの間の新二国間所得税条約は、米国が10年以上ぶりに署名した新条約となる。条約締結国による署名は、条約発効に向けて必要なステップの一つであり、他に必要なステップとしては、上院外交委員会による審議や、上院による3分の2以上の賛成による可決などがある。最も注目すべき条項として、本条約には、2016年米国モデル条約に沿った、新たなより制限的な特典制限(LOB)およびLOB以外の条項が含まれている。2016年米国モデル条約では、二重課税の発生を減らしてクロスボーダー投資を促進するという目標から、所得税条約を利用した「無国籍所得」の促進を防止するという広範な取組みへと、米国の条約政策の転換を示唆している。本条約において、具体的には、中間所有者(第三国)を経由した広範な特別(優遇)税制(外国源泉所得を免除するテリトリアル税制を含む)や関連者間のみなし利子控除制度の利用、あるいは国籍離脱事業体による関連者への支払いや一定の恒久的施設所得(居住地国およびPE所在地国総合で税率15%未満または居住地国の標準税率の60%未満のいずれか低い税率で課税)、に係る条約恩典の制限を規定している。さらに、2017年税制改革法(TCJA)による外国税額控除規則の改正を反映した二重課税救済に関する新条文が含まれているほか、米国のBEAT課税に係る明確な文言も含まれている。また、条約署名後に法人税制全般を変更し、居住企業のかなりのクロスボーダー所得が課税されなくなる状況に対応するため、新28条(条約終了の規定)を追加している。本新条約では、配当に対する特定の年金基金に係る源泉地国課税の免除、利子に対する源泉地国課税の免除(2016年米国モデル条約と整合)、ロイヤルティーに対する源泉地国課税率5%、義務的で拘束力のある仲裁なども規定されている。本条約は、TCJA後に2016年の米国モデル条約を基礎として本格的に交渉された最初の条約であり、現在交渉中の条約を含む将来の条約の先例となる可能性がある。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

外国の助成金に係る規則を正式採択(EU(2))

2022年11月28日、欧州理事会は、特定のケースで域内市場を歪めている外国の助成金に関する規則(FSR)(2022年11月10日に欧州議会で可決)を正式採択した(当初提案等について、本誌2021年7月号および2022年10月号参照)。FSRは、2022年12月に発効し、2023年半ばからの適用が見込まれる。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年2月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

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