寄稿記事 WWTS(World Wide Tax Summary)11月号

2023-12-13

2023年11月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1. 欧州委員会、BEFIT、移転価格、および本店税制に関する提案を公表(EU)
  2. CAMTの主要論点に関する暫定ガイダンス(Notice 2023-64)の公表(米国(1))
  3. Section 174の資産計上に関するガイダンス(Notice 2023-63)の公表(米国(2))
  4. パテントボックス税制に関する協議を開始(香港)

欧州委員会、BEFIT、移転価格、および本店税制に関する提案を公表(EU)

2023年9月12日、欧州委員会は、以下の新たな提案パッケージを公表した。

(i)EU域内での事業に係る単一の税規定(欧州における事業に関する理事会指令(所得課税の枠組み(BEFIT))
(ii)EU域内の移転価格税制の調和(移転価格に関する理事会指令)
(iii)零細・中小・中堅企業(SMEs)向けの本店税制(指令2011/16/EUを改正する理事会指令(HOT提案))

(i)のBEFITは、事業者にとって簡素化となる可能性がある一方、非常に多くの新しい概念を導入しており、GloBEルールとの整合性について慎重に取り扱う必要がある。(ii)は移転価格に関する公平な競争条件が期待される一方、移転価格原則の法制化は、欧州委員会の意図と加盟国の主権との間でバランスを取る必要がある(対応的調整制度の義務化により本提案を改善できる可能性がある)。(iii)はSMEs向けの本店税制の提案による簡素化が期待される一方、その適用範囲は非常に狭く、実際の利用は限定的であろう。これら3つの提案はいずれも、来春のEU委員会の任期終了までに、EU加盟国による全会一致の合意が必要である。

BEFITの提案

BEFIT(Business in Europe: Framework for Income Taxation)は、欧州委員会の提案であり、EU域内でクロスボーダーの事業を行う大企業の税務コンプライアンスコスト削減を目的としている。欧州委員会によると、この提案は、企業グループの課税ベース算定に係る新たな単一ルールを導入し、企業と税務当局の双方にとって利便性を向上させるものである。この提案は、欧州委員会のCCTB(共通法人課税ベース)およびCCCTB(共通連結法人課税ベース)提案に代わるものである。採択された場合、加盟国は2028年1月1日までにBEFIT規定を導入し、2028年7月1日から適用する必要がある。

BEFITルールは、年間収入が7億5千万ユーロ以上(第2の柱と同じ閾値)のグループおよびその75%出資子会社(BEFITグループ)に強制的に適用されよう。EU域外に本拠を置くグループの場合、EU域内の事業体は、直近4事業年度のうち少なくとも2事業年度において、EU域内における合計年間収入が5千万ユーロ以上の場合、またはそれらの事業体の合計収入がグループの総収入の5%以上の場合のみ、BEFITグループに含まれる。これらよりも小規模なグループについても、連結財務諸表を作成する限り、この規定を選択できる。この提案にはセクター別の適用除外は含まれていないが、EUの収入計算にはセクター固有の特性が反映される。

BEFITルールの適用
  1. 事業体レベルでの課税ベースの計算 - 同じBEFITグループに属する全てのメンバーは、財務会計上の損益に対する限定的な税務調整を行って課税ベースを計算する。この調整は、第2の柱・GloBEルールの調整と完全に一致しているわけではなく、例えば、BEFITでは、配当および株式処分益に係る控除は、その95%に制限されている(GloBEルールではそのような制限はない)。
  2. EUグループレベルでの課税ベースの合算 - BEFITグループメンバーの課税ベースは、単一の課税ベースに合算される(BEFITグループのメンバーでない(例えば、EU域内に所在しない)関連者の損益は、グループ課税ベースに合算されない)。
  3. 合算課税ベースの配分 - BEFIT課税ベースは、経過的な(7年間の)配分規定を用いて、BEFITグループのメンバーに配分される。2028年7月1日から遅くとも2035年6月30日までの間の各事業年度において、前3事業年度の平均課税実績に基づいて、BEFITグループのメンバーに対して、合算課税ベースの一定割合が配分される。EU加盟国は、共通の枠組みでカバーされない分野について、追加的な配分後の調整を行う(すなわち、自国の法人税課税ベース規定を適用する)ことができよう。第2の柱の法制との関連では、この段階で、実効税率が15%以上であることを確認する必要がある。なお、この経過的な配分ルールは、実質的な要素を用いた恒久的な配分方式(定式配分となる可能性)への道筋を示すことを意図している。
  4. 移転価格コンプライアンスの向上 - BEFITグループ外の関連企業との取引について、本提案では、共通のリスク評価ツールを導入することにより、移転価格のコンプライアンスを簡素化することを目的としている。本制度(‘traffic light system’)では、ベンチマーク(取引単位営業利益法アプローチに基づく)の四分位数レンジに基づき、リスク限定型の販売業者や製造委託業者の取引は、低リスク、中リスク、高リスクのいずれかに分類されよう。この共通のリスク評価は、ある取引が独立企業間価格で行われたかどうかを判断する際の実質的なルールを妨げるものではない。
執行と手続き

ワンストップショップにより、申告事業体(原則として最終親事業体)は、一のEU加盟国の税務当局にグループのBEFIT情報申告書を提出できる。この税務当局は、グループが活動する他の加盟国と情報を共有する。税務調査および紛争解決は、各加盟国のレベルで行われる。

移転価格の提案

欧州委員会はまた、EU域内の移転価格(TP)規定を調和させ、TP問題に対する共通のアプローチを確保することを目的とした指令も提案している。解説文書によると、ほとんどのEU加盟国がOECD加盟国でもある一方、OECDのTPガイドラインの役割や位置づけは加盟国ごとに異なっている。さらに、国内法の違い(例えば、支配の概念)により、複雑さおよび二重(非)課税のリスクを生み出している。このような背景から、本指令案では、独立企業原則と主要なTPルールをEU法に組み込み、OECD TPガイドラインの役割と地位を明確にし、特定の側面に関する共通の拘束力のある規定をEU域内に確立する可能性を生み出すものとなろう。この指令は、EU加盟国において登録されているか課税対象である納税者(EU加盟国にある恒久的施設(PE)を含む)に適用されよう。一般的な規定として、EU加盟国は、企業が関連企業とクロスボーダー取引を行う場合、当該企業が独立企業原則(本指令で定義)に沿った方法で課税利得を算定する必要があろう。さらに、本指令では、特定の移転価格の中核的要素に関する共通ルールを規定する。なお、EU加盟国は、TP規定が、OECD TPガイドラインと整合する方法で適用されることを確実にするための規定を国内法に盛り込む義務があろう。加えて、EU理事会は、独立企業原則およびその他の規定の特定取引への適用に関して、OECDのTPガイドラインに整合する形で、さらなる規定を定めることができる。提案されている指令では、EU法をOECD TPガイドラインの第1章から第3章に整合させることを目的としている。無形資産(評価困難な無形資産を含む)、サービス、費用分担契約(CCA)、金融取引、事業再編、および本支店間取引に関しては、さらなる作業が必要であろう。提案されている指令によれば、EU加盟国は、2026年1月1日までにこのTP規定を施行しなければならない。

SMEs向けHOT制度の提案

本店課税(HOT: Head Office Tax)制度は、独立型のSMEsが域内市場でPEによって事業拡大する際に直面するコンプライアンス上の課題を軽減することを目的としている。このオプション制度により、本店所在国の規定に従ってPEの課税利得を算定できるようになろう(なお、税率や、本支店間の利得帰属に関する規定は、HOTの影響を受けない)。さらに、税務申告、賦課、徴税を本店所在国においてワンストップで行うことができるようになろう(本店およびPE所在加盟国の権限ある当局間の協力を規定(PE利得に係る税収は本店所在国の当局が徴収し、PE所在国に移転)しているほか、PE所在国の当局の要請による共同税務調査の可能性も含まれている)。なお、SMEsとは、指令2013/34/EUの定義(貸借対照表合計2千万ユーロ、純収入4千万ユーロ、事業年度の平均従業員数250人の3つのうち、少なくとも2つはこの閾値を超えない)によることになる。他のEU加盟国で専らPEによって事業を行う適格SMEsとしてのその他の重要な要件として、直近2事業年度において、A. PE(複数)の合算収入が本店収入の2倍以下、B. 本店所在国の税務上の居住者、C. 適格SMEs、という要件を満たす必要がある。承認されれば、HOTは2026年1月1日から適用される予定である。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

CAMTの主要論点に関する暫定ガイダンス(Notice 2023-64)の公表

2023年9月12日、財務省とIRS(内国歳入庁)は、法人代替ミニマム税(CAMT)の適用に関する追加ガイダンス(Notice 2023-64)を公表した。2022年に制定されたインフレ抑制法(IRA)により、適用対象法人は、調整後財務諸表所得(AFSI)に基づき、15%の最低税が課される(2022年12月31日後に開始する事業年度から適用)。本Noticeでは、重要な論点(CAMTの適用対象、外国税額控除、連結納税グループ、外国法人、償却資産、無線周波数帯、特定項目の重複・漏れ、財務諸表の純損失など)を暫定ガイダンスとして明確にし、これらが今後発出予定の暫定規則に含まれる見込みの一方で、更なるガイダンスが必要な特定の項目ならびにAFSIの調整が必要な状況に係る論点(外国法人からの受取配当金や外国法人株式の処分による損益の取扱いを含む)について、コメントを募集した(原則、2023年10月12日まで)。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

Section 174の資産計上に関するガイダンス(Notice 2023-63)の公表(米国(2))

2017年税制改革法により、Section 174が改正され、2021年12月31日後に開始する課税年度において支払または発生した特定研究・開発(SRE)支出の資産計上が義務付けられた(5年間(米国外での研究は15年)で損金算入)。Notice 2023-63は、2023年9月8日後に終了する課税年度に適用見込みの規則案に係るガイダンスを示している(2023年11月24日までコメント募集)。本Noticeによるガイダンス項目として、償却期間、資産計上の範囲(Section 41(研究税額控除)にも影響。なお、税額控除分はSection 174の対象外)、ソフトウェア開発活動、委託研究取決め、費用分担契約(CCA)、財産の処分や除却、長期契約(Section 460関係)などが含まれている。本Noticeを全面適用する場合、2021年12月31日後に開始する課税年度について、本Noticeのガイダンスに依拠できる。また、IRS(内国歳入庁)と財務省は、納税者がSection 174準拠のために会計処理方法を変更したが、本Noticeにおける取り扱いと完全に一致していない状況に対処するための手続きガイダンスを公表見込みである。なお、現在議会では、旧法に基づく研究開発支出の即時控除の遡及適用について議論されている。仮に本改正案が2022年の申告に遡及適用される場合、納税者は、修正申告、または累積的調整(Section 481(a))のいずれかを選択することになろう。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

パテントボックス税制に関する協議を開始(香港

2023年2月に公表された2023-24年度予算で示された通り、パテントボックス税制が導入され、香港源泉で、研究開発(R&D)活動を通じて発生した適格な知的財産(IP)資産に関連する利得に係る税制優遇措置が規定されることになろう。2023年9月1日、商務経済発展局は、パテントボックス制度案に関するコンサルテーションペーパーを公表した(2023年9月30日までコメント募集)。提案されているパテントボックス制度は、OECDのネクサスアプローチ(BEPS行動5)に忠実に従っている。概要は以下のとおりである。

対象となるIP資産 - 特許およびその他の機能的に同等の知的財産(特許同様に法的に保護され、類似の承認・登録プロセス(これらの手続きが関連する場合)を経るもの)が対象で、以下が含まれる。

(a)特許
(b)著作権で保護されたソフトウェア
(c)植物品種権(plant variety rights)

本コンサルテーションペーパーによると、対象となるIP資産には、香港内外で取得した特許および植物品種権、ならびに特許および品種権の出願が含まれる。ただし、当該出願が最終的に取得に至らなかった場合、該当するIP所得部分には標準税率が適用される。なお、OECDのガイドラインでは、商標などのマーケティング関連のIP資産は、IP制度による税制上の優遇措置を受けることはできないとしている点、留意が必要である。

登録特許および植物品種権の要件 - 香港内外で取得した特許および植物品種権は適格IP資産として認められるが、本コンサルテーションペーパーでは、関連する特許または植物品種権が、指定された現地の登録制度に基づいて提出された出願に含まれていなければならないという要件を提案している。ただし、適格IP資産の出願日が、パテントボックス制度の開始日から24か月以内の経過措置期間内であれば、この要件は適用されない。

適格IP所得 - 適格なIP所得には、以下が含まれる:

(a)香港の内外を問わず、適格IP資産の展示/使用、展示/使用する権利、またはその使用に直接的または間接的に関連する知識の伝授/伝授を請け負うことから得られる所得(基本的にはロイヤルティまたはライセンス料)
(b)適格IP資産の売却から生じる所得
(c)適格IP資産が組み込まれた製品またはサービスの販売による所得のうち、当該適格IP資産に帰属する部分(当該適格IP資産に無関係な所得の部分(例えば、マーケティングおよび製造の対価)は、正当かつ合理的な根拠(例えば、移転価格原則に基づく)に基づいて分離しなければならない。

OECDのガイドラインでは、IP所得に配分可能で、その年に発生したIP支出は、優遇税率適用前に、同年の稼得IP総所得から控除する必要があるとしている。なお、他国・地域のパテントボックス制度では、一般に権利侵害に対する損害賠償金などをカバーしているが、この点は現時点では明確でない。

対象となる支出 - 納税者が適格IP資産を開発するために生じたR&D支出のみが、ネクサス(関連性)比率の計算において考慮される。そのため、IP資産の取得費用は、適格支出とはされない。本コンサルテーションペーパーでは、対象となる支出の範囲(ネクサス比率の分子)を決定するために、(事業体別ではなく)国・地域別アプローチが採用されるとしている。このアプローチでは、適格支出は、以下の研究開発活動に対する支出を対象とする。

(a)納税者が香港内外で実施したもの
(b)第三者に委託し、香港内外で行われるもの
(c)居住者である関連者に委託し、香港内で行われるもの
なお、対象となる支出に費用分担契約(CCA)に基づく支払いが含まれるかどうかは明確でない。

優遇税率 - 優遇税率は未定である。政府は、この制度を競争力のあるものにする必要性を認識しており、香港の既存の優遇税率(主に8.25%)や、国外のパテントボックス制度を参考にする予定である。政府は、この点に関する利害関係者の意見を募集した。

損失控除の取り扱い - 異なる税率が適用される損失の相互控除に関する現行の規定と同様の仕組みが採用される。これにより、パテントボックス制度の恩典を受ける所得に関連して発生した損失は、この制度に規定されている税率以外の税率(例えば、標準税率16.5%)が適用される利得からの控除が認められる(ただし、控除可能な損失額は、税率差を考慮して調整される)。

記録保存の要件 - ネクサスアプローチにおける重要な要件の一つは、研究開発支出と適格IP資産から生ずる所得の記録保存である。これには、例えば、当該所得が適格IP所得であることを立証するのに十分な情報や、当該所得に係る適格IP資産の詳細を含む、詳細な記録保管メカニズムが必要である。なお、経過措置として、OECDのガイドラインに沿って、納税者は、3年移動平均の適格支出と総支出の比率を適用できる(経過措置期間終了後は、3年平均から累積比率への変更が必要)。

実施スケジュール - 本コンサルテーションペーパーには、パテントボックス制度の施行日は明記されていないが、政府は、2024年前半に関連改正法案を法制審議会に提出する予定である。

なお、この新しい提案は、2018年に導入された適格R&D支出に係る追加控除(200%/300%)制度を補完する重要なものである。

出典:PwC Hong Kong Tax, News Flash
「月刊 国際税務」2023年11月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

その他、海外税務ニュースを含む当法人発行ニュースにつきましては、https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/tax/tax-news.htmlをご参照ください。

本ニュースは、各国の税制改正の動向をお知らせする目的で、各国のPwCが作成する速報ニュースや各国省庁等のホームページ掲載の情報等を翻訳してお伝えしています。税制改正案の段階の情報が多いため、最終的な法制度につきましては、専門家にご確認くださるようお願いいたします。

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

本ページに関するお問い合わせ