寄稿記事 WWTS(World Wide Tax Summary)9月号

2023-10-17

2023年9月号Worldwide Tax Summaryトピックス

  1.  OECD、G20財務大臣・中央銀行総裁会議に報告書を提出、第1の柱と第2の柱の主要文書を公表(OECD)
  2.  第2の柱の実施法案を公表(ドイツ)
  3.  デジタルサービス税(DST)の動向(カナダ)
  4.  租税委員会の有力議員達が米台租税協定の討議草案を公表(米国(1))
  5.  IRS、外国税額控除の暫定的な救済措置を公表(米国(2))
  6.  税制改正(トルコ)

OECD、G20財務大臣・中央銀行総裁会議に報告書を提出、第1の柱と第2の柱の主要文書を公表(OECD)

2023年7月17日、OECD/G20のBEPS包摂的枠組み(IF)は、7月17、18日開催のG20財務大臣・中央銀行総裁会議に向けて、第1の柱と第2の柱に関連する4つの重要文書と進捗報告書を公表した。これらの文書は、前週のIF全体会合とその結果公表された「成果声明」(第1の柱の利益A・利益B、および第2の柱の租税条約上の最低課税ルール(STTR)の状況とスケジュールに関する最新情報を提示)(7月11日)(注)に続くものである。本文書には、以下が含まれる。

  • G20 財務大臣・中央銀行総裁に対する OECD 事務総長の税務関係報告書
  • 第1の柱 - 利益Bに関する公開協議文書
  • 第2の柱 - STTR
  • 第2の柱 - GloBE情報申告書
  • 第2の柱 - 執行ガイダンス(適格国内ミニマムトップアップ税(QDMTT)を導入する国・地域に係る恒久的なセーフハーバー、および、2025年末以前に開始する会計年度について軽課税所得ルール(UTPR)の適用を免除する新たな経過的セーフハーバーを含む)

第1の柱 - 利益B - OECDは、特定の基本的な卸売マーケティング・販売活動に係る移転価格の簡素化を目的とした第1の柱・利益Bに関する追加の公開協議文書を公表した(2023年9月1日までコメント募集。なお、前回の公開協議文書については、本誌2023年2月号参照)。OECDはまた、関係者が利益Bを理解するのに役立つよう、「利益Bのあらまし」と題する簡潔な概要文書も公表した。本協議文書では、利益Bの設計要素を概説し、以下の更なる作業が必要な側面を特定している。

  • ベースラインとなる(基本的な)販売活動の特定の際、定量的アプローチと定性的アプローチの適切なバランスを確保すること
  • 価格設定の枠組みとその適用の妥当性の判断
  • 特定の国・地域におけるローカルデータベースを利用した利益Bの適用基準の特定

本文書では、定性的・定量的閾値に基づく2つの代替的なスコーピング基準(AおよびB)が示されている。代替案Aでは、ベースライン以外の寄与分を特定・除外するための個別の定性的基準は必要ないが、代替案Bでは必要となる。各国は、代替案について意見が分かれているとみられる。

2023年7月11日の成果声明にあるように、IFは2024年1月までに、利益Bに関する最終報告書を承認し、主要な内容をOECD移転価格ガイドライン(TPG)に組み込む予定である。なお、本協議文書に概説されている提案はOECD事務局の作業である(IF未合意)。したがって、その基本設計は、本協議プロセスと無関係に変更される可能性があることに留意が必要である。

第2の柱 - 執行ガイダンス - IFは、2023年2月2日に公表された執行ガイダンスの第一弾(本誌2023年4月号参照)に続き、第2の柱・GloBEモデルルールに関する合意された執行ガイダンスの第二弾を公表した。この第二弾の執行ガイダンスには、GloBEの計算を行う際の為替換算ルール、税額控除、および実質ベースの所得除外(SBIE)の適用に関するガイダンスが含まれている。特に税額控除に関しては、OECDが移転可能な税額控除(インフレ抑制法における税額控除により顕著になったとOECDは認識)の適格性(credibility)を巡る課題の解決を目指している。本規定は(市場性の判断を含め)複雑であり、先のタックス・エクイティ・パートナーシップに関する解決策と同様であるが、少なくとも税額控除に係る支払額は(売却時のディスカウントと異なり)完全に適格になる。本執行ガイダンスには、QDMTTの設計に関する更なるガイダンスと、2つの新たなセーフハーバーも含まれている。

  • QDMTTを導入する国・地域に対する恒久的なセーフハーバー - OECDは、多国籍企業や税務当局にとってコンプライアンスや執行が容易になると主張するが、国・地域によっては、このセーフハーバーの運用に困難な点があることも明らかになっている。
  • 2025年末以前に開始する事業年度について、UTPRの適用を免除する経過的セーフハーバー(最終親事業体(UPE)所在地国の法人所得税率が20%以上の場合) - これは明らかに、米国がUPE所在地国である場合を想定している。

本執行ガイダンスは、より詳細な事例を含め、今年後半に公表されるコメンタリーの改訂版に組み込まれる予定である(2022年3月11日公表のコメンタリー当初版に代わるものである)。

GloBE 情報申告書 - GloBE情報申告書(GIR)の改訂版も公表された。GIRは、多国籍企業グループが税務当局に詳細を提出することで、多国籍企業グループとその構成事業体の適切なリスク評価を可能にし、当該グループのトップアップ税額がある場合にはその正確性を評価するための手段である。本GIRは、当初のGIR公開協議文書(本誌2023年2月号参照)に対するいくつかの変更を反映しており、2028年12月31日以前に開始するすべての会計年度(ただし、2030年6月30日後に終了する会計年度は含まない)に係る国・地域単位報告の簡素化を可能にする移行期枠組みが含まれる。この移行期間中は、構成事業体ごとではなく国・地域別により多くの報告を行うことができるが、ある程度の詳細レベルは残ることになる。

租税条約上の最低課税ルール(STTR) - IFは、第2の柱に関して、STTRを発効させるためのモデル租税条約テキストを含む報告書を、STTRの目的と運用について解説する付随コメンタリーとともに公表した。OECD事務局は、STTRモデル規定の理解を助けるため、「租税条約上の最低課税ルールのあらまし」と題する概要文書も公表した。STTRは、受領者の名目法人税率が9%未満(税免除などの課税ベースの減額や税額控除を調整後)の場合に、源泉地国が、特定のグループ内支払いに対して追加の納税義務を課すことを認める、条約ベースのルールである。利子、ロイヤルティー、サービスフィーなど、関連者間の幅広い支払いが本ルールの対象となるが、配当は除外されている。その他の例外的措置として、重要性の閾値(年間対象所得総額100万ユーロ以下/25万ユーロ以下(GDP400億ユーロ未満の国・地域の場合))、マークアップの閾値(コストプラス8.5%以下の対象所得(BEPSリスクが限定的とされる)。なお、利子・使用料は除く)、および受領者の特定の特性が関係する。二重課税の排除に関して、採用されたアプローチでは、STTR適用前の状況を維持することになる(つまり、受領国・地域は、STTR税額に係る所得免除の必要はなく、STTR税額の控除も求められない)。さらに、STTRはGloBEルールに優先し、対象税額を構成する。各国による実施は、多国間条約を通じて2023年10月に開始される見込みである。IFメンバーは、発展途上国である他のIFメンバーから要請があった場合、STTRを採用することにコミットしている。

OECD事務総長のG20への報告書 - OECD事務総長によるG20財務大臣・中央銀行総裁への報告書は、国際税制改革に関する「力強い進展」を指摘している。本報告書は、第1の柱と第2の柱、間接税、税の透明性、租税政策、気候変動対策などの多くの作業分野について、実証的なアップデートを提示している。第1の柱と第2の柱に関するポイントとして、以下が含まれる。

  • 第1の柱 - 利益A:2023年7月11日の成果声明で報告されているように、多国間条約(MLC)の2025年発効を目標とし、その署名に向けて迅速に準備する観点から、残された課題を解決する取り組みが進行中である。本報告書によると、MLCの批准日は、対象となる多国籍企業のUPEの60%以上を占める30以上のIFメンバーが批准した後、締約国・地域によって決定されるとしており、米国を含めることが必須となる(これは、2021年10月8日のIF声明で合意された一定数(“critical mass”)の閾値を示しているとみられる)。
  • 第2の柱 - GloBEルール:OECDは、2025年までに適用対象となる多国籍企業のほぼ90%が、事業を展開するすべての国・地域で15%の最低実効税率の対象になると推定している。
  • 経済的影響度評価:2020年の入手可能な最新データに基づいて、第2の柱による推定歳入増は、2,200億米ドル(2023年1月のOECDによる報告)から、年間2,000億米ドルに下方修正された。第1の柱の歳入増は、先進国よりも発展途上国の方が大きいと見込まれている。

(注)本成果声明は、143のIFメンバーのうち138か国・地域によって承認された(ベラルーシ、カナダ、パキスタン、ロシア、スリランカは署名しなかった)。

出典:PwC, Tax Policy Alert
「月刊 国際税務」2023年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

第2の柱の実施法案を公表(ドイツ)

2023年7月11日、連邦財務省は、グローバルミニマム税をドイツ国内法に導入するためのEU理事会指令の実施に関する法案(2023年7月7日付け)を公表した(注1)。本法案は、さまざまな業界団体からのフィードバックと、2023年2月2日に公表されたOECD執行ガイダンスの第一弾(本誌2023年4月号参照)の最新情報を反映している。本法案は、2023年3月20日の討議草案(本誌2023年5月号参照)に準拠している。本法案は95セクション(討議草案では89セクション)で構成される。本法案では、OECDの執行ガイダンス第一弾の特定部分(注2)の取り込みに焦点を当てている。なお、討議草案では、ドイツ居住者である構成事業体で構成される「ミニマム税グループ」の概念を導入している。ここでは、グループのリーダーのみがミニマム税(IIR(所得合算ルール)、UTPR(軽課税所得ルール)、QDMTT(適格国内ミニマムトップアップ税))の対象になる(他のグループ事業体はミニマム税を支払う必要はない)。本法案では、グループのリーダーが他のグループ事業体から支払税額の払い戻しを受ける補償メカニズムが予定されている。

本法案については、今後の立法過程(政府案公表と議会への付託)を注視する必要がある。

(注1)このほかの改正案として、所得税法と外国税法について、ロイヤルティー損金算入制限ルール(royalty barrier rule)の廃止、被支配外国法人(CFC)に係る軽課税閾値の25%から15%への引き下げ、営業税の対象となるCFC所得の廃止などの大幅な改正が提案されている。(注3)

(注2)OECDの執行ガイダンス(第一弾)の特定部分として、除外資本損益および海外事業投資に係るヘッジ(第2.2章)、債務免除の取扱い(第2.4章)、損失に伴うトップアップ税額の繰越控除に係るガイダンス(第2.7章)、資本損益を除外しない選択(第2.9章)、特定のCFC税制(Blended CFC Tax Regime)に係る発生税額の配分(第2.10章)、移行規定(第4章)が含まれる。なお、2023年7月17日公表の執行ガイダンス(第二弾)は、まだ反映されていない。

(注3)他国の動きとして、英国では、2023年7月18日、2024年度財政法に関連して、第2の柱に係る多くの修正が提案されている。UTPRの適用開始日は未定(財政法で発効)だが、HMRC(歳入関税庁)によると、早くても2024年12月31日以後開始会計年度からとなる。IIRについて、OECDモデルルール、コメンタリー、執行ガイダンスに沿ったものとなるよう、特定の修正がある。ベトナムでは、2023年7月25日、グローバルミニマム税の原案がパブリックコメントのため公表された(QDMTTとIIRについて、2024年1月1日の発効を提案している)。(Source: PwC Suite/PwC Vietnam NewsBrief)

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

デジタルサービス税(DST)の動向(カナダ)

2023年7月12日、OECDは、138か国・地域が、新たに制定されるデジタルサービス税(DST)または関連する類似の措置の課税停止を1年間延長することに合意した旨を公表した(第1の柱実施に係る多国間条約(MLC)の取り組みは継続)。具体的には、MLCの署名が2023年末までに十分に進む(つまり、対象多国籍企業の最終親事業体(UPE)の60%以上を占める30以上のIFメンバーが、2023年末前までにMLCに署名)という条件で、2024年12月31日(当初の2023年12月31日から1年延長)まで、新たに制定するDSTを課さないことで大筋合意している。同日公表されたプレスリリースの中で、カナダのクリスティア・フリーランド副首相兼財務大臣は、カナダはMLCを全面的に支持しているものの、1年間の延長は支持しないとしている(MLCが発効しない場合、2024年1月1日からDSTを導入する意向)。なお、2023年3月28日の予算案公表時に、DST導入に係る修正法案のパブリックコメントを行うとしていたが、まだ公表されていない。

出典:PwC Canada, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

租税委員会の有力議員達が米台租税協定の討議草案を公表(米国(1))

2023年7月12日、下院歳入委員会および上院財政委員会の両議長および有力議員達は、米国・台湾間でクロスボーダー活動に従事する事業者に対する二重課税軽減を目的として、条約類似の恩典を付与する法案の討議草案を公表した。本法案では、新たにSection 894Aを創設し、米国連邦所得税および源泉税の軽減(利子・使用料10%、配当10%/15%)、従来の租税条約基準による恒久的施設(PE)規定の適用、給与所得の取扱いなど、台湾居住者に対する特典を設けるものとなろう。また、本法案では台湾の「適格居住者」を定義し、二重居住者に適用される規定が含まれる。本規定は、本法案の制定日に発効するが、台湾が米国の者に対し互恵的便益(reciprocal benefits)を付与したと米国財務長官が判断した場合にのみ適用されよう。本法案は、本提案規定の概要および技術的解説とともに公表された(2023年7月24日までコメント募集)(注)。これとは別途、上院外交委員会は7月13日、二重課税軽減を規定する米台租税協定の交渉を認める法案(S. 1457、2023年台湾租税協定法)を承認した。

(注)2016年の米国モデル租税条約に準拠しているとしているが、本提案規定と米国モデル条約とでは差異がある。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

IRS、外国税額控除の暫定的な救済措置を公表(米国(2))

2023年7月21日、財務省とIRS(内国歳入庁)は、Notice 2023-55を発出した。本Noticeは、2021年12月28日以後開始、2023年12月31日以前終了課税年度におけるSection 901またはSection 903に基づく外国税額控除適用可否の判断にあたり、納税者に暫定的な救済措置を与えるものである。本救済期間中、一定の一貫性(consistency)要件を満たす納税者は、Section 901に基づく旧規則(純所得税関係)(注1)およびSection 903に基づく改正規則(「代替」(‘in lieu of’)税関係)(注2)に規定された基準に基づき、外国税の控除可能性を判断できる。財務省とIRSは、2022年1月4日に公表されたSection 901およびSection 903に係る最終規則(T.D. 9959)(本誌2022年3月号(および2023年1月号)参照)に関する課題の分析を続けており、これらの規則の改正提案を検討している。財務省とIRSはまた、本救済期間を超えて追加の暫定的な救済を行うかどうか、またどのような条件のもとでこれを行うかを検討中である。

これらの変更により、納税者は、本最終規則で公布された帰属要件や、より厳しいコスト回収要件を満たすことなく、外国所得税・代替税の控除可能性を判断できる。本救済措置により、ブラジルの法人税、サービスやロイヤルティーに係る源泉税、非居住者キャピタルゲイン税などに係る外国税額控除について、納税者有利になるとみられる。本救済措置は、暦年の場合、2022年および2023年(暦年以外は2023年終了年度)に適用される。

(注1)グロスベース税(給与所得や投資所得に係る税を除く)やデジタルサービス税(DST)が外国の純所得税適格とならないように若干修正されている。

(注2)本Noticeによると、代替要件により、課税国・地域の純所得税の課税標準に含まれるいかなる金額とも重複しないことが求められるため、外国の純所得税が課される可能性がある所得に適用される一定のDSTsは税額控除不可となるが、これらのDSTsについて、税額控除要件に係る更なる分析が必要である。

出典:PwC, Tax Insights
「月刊 国際税務」2023年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

税制改正(トルコ)

2023年7月15日付けの官報で公布された法律第7456号により、法人(金融セクター以外)の標準法人税率は25%(従前は20%)(金融セクター法人は30%(従前は25%))に引き上げられる(2023年(2023年10月1日後の予定申告)から適用)(注1)。本法律に基づくその他の税制措置には、法人納税者による不動産(2年以上保有)の売却に係る50%非課税措置廃止(注2)、非課税スピンオフの対象から不動産(2年以上保有)を除外(2024年1月1日から)、法人納税者の投資ファンド所得(ベンチャーキャピタル投資に係るものを除く)に係る非課税措置廃止、2023年における一時的な追加自動車税が含まれる。

(注1)一方、輸出活動に従事する法人に係る法人税率の引き下げ率は、従来の1%から5%ポイントになる。

(注2)2023年7月15日前取得分について、25%非課税の経過措置がある。また、付加価値税(VAT)についても同様の非課税措置廃止(および経過措置)がある。なお、株式(2年以上保有)については引き続き、従前の一部非課税措置が残る。

出典:PwC Turkey, Tax bulletins
「月刊 国際税務」2023年9月号収録 Worldwide Tax Summary
PwC税理士法人編
PwC税理士法人顧問 岡田 至康 監修

その他、海外税務ニュースを含む当法人発行ニュースにつきましては、https://www.pwc.com/jp/ja/about-us/member/tax/tax-news.htmlをご参照ください。

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