生成AIの活用(1)

全体の動向 日本のビジネス慣習に親和性

「生成AIに関する実態調査2023 秋」によると、売上高500億円・課長職以上に絞った層においては「生成AIを全く知らない」と回答した人はわずか4%だった。87%が生成AIを活用中または推進・検討中と回答しており、今後の企業変革における不可欠な要素として認識されているといえるだろう。また、そのうち43%は24年3月までの本格導入を予定と回答していることから、生成AIはこれまでの検証フェーズから、業務実装フェーズへ目まぐるしい速さで移行していることがうかがえる。

具体的な活用事例を挙げると、IT業界ではエンジニアのコーディング業務やユーザーインターフェース(UI)/ユーザーエクスペリエンス(UX)設計に生成AIを組み込み、大きな効率化を果たしている。また、自動車業界の車両デザイン設計や不動産業界での景観・街並み検討素案の提示、小売業界での商品パッケージの生成など、従来人間でなければ対応ができなかった創造的な業務に対してのアシストが可能となり、人間の能力を拡張させている。

このように生成AIはビジネスの生産性を劇的に向上することが期待されているが、一方でサイバー攻撃やプライバシー侵害、著作権侵害、偽情報・誤情報の拡散などの懸念もある。

そのため活用方法を模索する動きと並行して、各国が生成AIに対する法規制を強化しつつある。生成AIを活用するためには発展と規制の両輪を見据えた、柔軟かつ能動的なハンドリングが求められるだろう。

筆者は、生成AIは日本のビジネス慣習に親和性が高いと考える。日本企業には情報を記録・保存しておく慣習があり、データとして活用しきれていない現場の情報(知見)が豊富に存在しているからだ。機械学習に代表される従来のAIは、データを統合しなければ学習することができなかった。しかし、生成AIはサイロ化されたデータから学習することに秀でている。

さらに生成AIは、ユーザーフレンドリーな点でも日本企業の味方だ。データサイエンティストでないと使いこなせない従来のAIとは違い、生成AIは初心者でも新しい業務活用方法を発見できる。欧米と比較してボトムアップ文化が根付く日本企業では、現場からさまざまな活用アイデアが生まれやすい。サイロ化されたデータに強く、現場主導で活用が進む生成AIは、米国と比較して停滞している日本のAI活用の起爆剤となる可能性を秘めているといえるだろう。

ただし、現場主導での生成AI活用だけでは効果に限界がある。投資から大きな効果を引き出すための戦略が必要不可欠だ。現場主導のムーブメントを味方にして、経営者主導で抜本的改革に踏み出してほしい。生成AIを前提に全社の業務、顧客接点、事業の在り方を抜本的に見直すことで、生産性や経営スピードの向上など、現場の努力だけでは成し得ない大きな効果が期待できる。

長らくデジタル化で出遅れてきた日本において、生成AIは遅れを挽回しうる絶好の機会と考える。この機会を逃さぬよう、日本企業はためらわず活用に踏み出してほしい。

図表 1

執筆者

藤川 琢哉

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

※本稿は、日経産業新聞2024年2月5日付掲載のコラムを転載したものです。記事本文、図表は同紙掲載のものを一部修正/加工しています。
※本稿は、日本経済新聞社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。


{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}