生成AIの活用(2)

著作権侵害リスク 社内ルールの作成・周知を

生成AI(人工知能)を導入するに当たって直面する法律問題のひとつに著作権侵害のリスクがある。著作権侵害は損害賠償請求や刑事罰などの対象となりうるほか、企業のレピュテーション(評判)にも影響を及ぼすなど、重大な結果をもたらす恐れがある。

そのため生成AIの導入を検討する企業にとっては、著作権侵害のリスクをどのように整理するかが重要な関心事のひとつになっている。一方で生成AIと著作権に関する論点について必ずしも実務上の取り扱いが確立されているとまではいえないため、どのように整理すべきか悩む企業も多いと思われる。

生成AIと著作権に関する論点を検討する際は(1)開発・学習段階(2)生成・利用段階――の2つに分けて考えるのが一般的である。

(1)開発・学習段階について、著作権法第30条の4第2号で「著作物に表現された思想または感情の享受を目的としない利用」は著作権侵害とならないとされている。このため第三者の著作物をAIに機械学習させる行為は、同号により基本的に著作権侵害にならない。もっとも著作権者の利益を不当に害することとなる場合は例外であり、どのような場合に例外に当たるか議論が進められている状況だ。

次に(2)生成・利用段階において、生成AIに第三者の著作物をプロンプト(指示文)として入力する場合も、前述の著作権法第30条の4第2号を満たす限りは適法とされると考えられる。

また生成AIによる生成物を利用する場合、学習に使われた著作物の特定が困難であること、生成物において出典が明示されないことといった一般的な生成AIの特性を前提とすると、生成物が第三者の著作権を侵害していないこと(著作物に類似・依拠していないこと)を確認することは現段階では必ずしも容易ではない。

そのため、著作権問題がクリアになっているサービスに限定して利用することを徹底するか、クリアになっている確証を持てない場合は、生成物が何らかの著作物にかかる著作権を侵害している可能性を想定して利用することが望ましい。

たとえば、生成AIによる生成物をそのまま外部に公表することや、顧客に提供することなどは避ける。社内検討におけるアイデア出しや壁打ちにとどめ、生成物を「たたき台」として利用する場合であっても、既存の著作物に類似していないか慎重に確認する、といった対応だ。

生成AIの導入に際しては、その利用を過度に萎縮させないように、どのような場面で法的リスクが生じうるのかにつき体系立てて整理し、利用者が適切にリスク判断をすることができる社内ルールの作成・周知が肝要である。その際、生成AIに関する議論が流動的であることを踏まえ、常に最新の法律や政府ガイドラインなどを確認しておく必要がある。2月上旬時点で、文化庁が著作権法の解釈指針を示す「AIと著作権に関する考え方について(素案)」に対するパブリックコメントが実施されている。

著作権の論点は2段階にわけて整理するとよい
  AI生成物の生成過程 著作権法上の主な論点
①開発・
学習段階
学習用プログラムに学習用データを機械学習させ、学習済みモデルを作成する 第三者の著作物を学習させることが、当該第三者の著作権を侵害しないか

②生成・
利用段階

学習済みモデルにプロンプトを入力し、AI生成物を出力する 第三者の著作物をプロンプト(指示文)として入力することが、当該第三者の著作権を侵害しないか
出力されたAI生成物を第三者に提供したりインターネット上に公開するなどして利用する どのような場合にAI生成物の利用が第三者の著作権を侵害するか

執筆者

矢野 貴之

シニアアソシエイト, PwC弁護士法人

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※本稿は、日経産業新聞2024年2月6日付掲載のコラムを転載したものです。記事本文、図表は同紙掲載のものを一部修正/加工しています。
※本稿は、日本経済新聞社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。


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