生成AIの活用(3)

財務・経理・税務 意思決定には資料の精査を

生成AI(人工知能)について財務・経理・税務領域では、稟議(りんぎ)書などの社内文書の作成、議事録の要約、適時開示書類やプレスリリースの文章作成、外国語の財務や税務の資料の翻訳、移転価格文書などの税務上の文書の作成に活用できる。また業界情報のリサーチなど情報収集や取引の会計・税務上の取り扱いの分析、契約書などの文書のレビューで活用したり、社内の事業部から財務・税務部門への質問に一次回答させたりすることもできるだろう。

活用には大きな便益が期待できる半面、生成AIへのデータ入力時と、その生成物の利用時のリスクコントロールが重要となる。

まずデータ入力時には機密情報、個人情報、著作権に注意が必要だ。財務・経理では、公表前の財務数値や株価に影響を与える重要事実など社内でも機密度の高い情報を扱うことが多い。税務でも公表されていない情報も含めて税務判断や税額計算を行う。社外に機密情報が漏洩する可能性がないか、情報セキュリティには十分注意したい。

特に、M&A(合併・買収)のような極秘の取引の会計・税務上の取り扱いをリサーチしたい場合や個人情報については細心の注意が必要だ。社内のセキュリティが担保された環境で利用する場合でも、あらかじめ情報の内容や秘密保持の重要性に応じて入力できる範囲を定義しておくのが望ましい。

また会計や税務の判断に必要となる参考資料には、著作権の制約があるものも多い。生成AIに読み込ませてよい資料なのかどうか注意して取り扱う必要がある。

次に生成AIによる生成物の利用時に留意すべき点は生成AIの学習データの古さとAIが誤った答えを作りあげる「ハルシネーション」だ。

前者は例えば生成AIを使って競合他社の財務情報を調べたとしても、直近の会計年度の財務情報を回答してくれるとは限らない。後者は大規模言語モデルによる生成AIは、事実関係ではなく文脈から次の文字の出現確率による予測で文章を作って回答するため、事実と異なる情報を回答する場合がある。

意思決定や利害関係者への情報提供の根幹となるデータを扱う場面では誤った情報は許されない。生成AIの回答に依拠せず人が根拠となる資料に照らして確認する必要がある。今後の人材育成の戦略も見直す必要があるだろう。

生成AIはこうした業務を変革し、企業の人材戦略や税務リスクへの取り組みにディスラプション(創造的破壊)を起こす可能性がある。実際に導入する際には、上記の注意点を社内でルール化するなど、リスクを適切にコントロールして進めることが重要になるだろう。

生成AIの活用法とユースケース例
文章作成 稟議(りんぎ)書などの社内文書作成、
適時開示書類やプレスリリースの原案作成、移転価格文書等の税務の文書作成
要約 議事録の要約
翻訳・添削 外国語の財産資料や海外の税務に関する資料の翻訳、英文メールの文法ミスの修正
情報収集・
分析
業界情報のリサーチ、企業が公表する業績データを読み込ませてデータ解析、税務上の取り扱いのリサーチ、契約書のレビュー
自動生成 自動生成機能に対応した表計算ソフトやプレゼンテーションソフトを用いて財務データから図表やスライドを自動生成
質疑応答 社内の事業部から財務・経理部門や税務部門への質問に一次回答するチャットボット

執筆者

近藤 仁

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

川崎 陽子

パートナー, PwC税理士法人

Email

※本稿は、日経産業新聞2024年2月7日付掲載のコラムを転載したものです。記事本文、図表は同紙掲載のものを一部修正/加工しています。
※本稿は、日本経済新聞社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。


{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}