
カスタマーエクスペリエンスと従業員エクスペリエンスの出会い
マーケットでの競争が激化するなか、成功しているビジネスリーダーは、価値の創出には体験から得られるリターンが不可欠であると認識しています。本レポートでは、顧客と従業員の体験に焦点を当てて企業がとるべき対応策を解説するとともに、日本企業に向けた示唆を紹介します。
金融業界がテクノロジーの進歩により大きな変革を迎えている。仮想通貨(暗号資産)やロボアドバイザーなどのフィンテックは新たなビジネスモデルを創出し、人工知能(AI)は銀行の審査業務を高速にした。これらに続いて登場した生成AIは金融機関の業務をさらに変える可能性を秘めている。
テクノロジーの活用が進んだ一方、金融業務にはいまだに多くの書面手続きが残り、業務判断の根拠を大量の文書に埋もれさせ属人化させる暗黙知の温床になっている。意思決定の効率と精度向上の手段が求められるなか、生成AIは大量の文書などが生む非構造化データの活用手段として期待できる。
実際、金融業界は対話型生成AIに他業種に先んじて取り組んでおり、既に基盤構築の初期段階を済ませた金融機関が多い。生成AIの活用が進んだ金融機関はユースケース(活用事例)の検証や仕組み化にも着手している。
対話型生成AIは文書が多い金融業務と親和性が高い。社内問い合わせや文書・契約書のチェックなど、全社活用できる領域で先行して生成AIの検討が進んでいる。また運用報告書や市場リポートの自動生成などの部門固有の業務効率化も検討されている。
さらに業務高度化の試みも出てきている。AIに過去の金融リポートを読み込ませ、金融市場の変動要因候補の抽出に挑戦する例がある。また資産運用部門のファンドマネジャーが大量に保管する文書に眠った、ベテランしか全容を知らないノウハウを対話型生成AIに読み込ませて共有化する試みもある。
一方、課題も浮き彫りになっている。金融業界は法制度やファイナンス、会計などの専門性を要するため、生成AIの回答の正確性が問われているのだ。とりわけ、お金に関わる分野だけに正確性が担保されない限り、顧客接点に対話型生成AIを使うには二の足を踏まざるを得ない。
こうした分野では生成AIの出力はドラフトと位置付け、人間の評価を経ての利用が必須となる。
リスク管理も重要だ。従来のAIに比べて生成AIは関与する社員の間口が広く、IT(情報技術)リテラシーにも差があるため、管理者の想定外の利用がなされる恐れがあり、情報の漏洩、著作権侵害などのリスクもある。利用ガイドラインやセキュリティ教育が必要だ。日本でも各事業者が順守すべきAIガバナンスの指針がガイドラインとして公表されたばかりだ。
以上を踏まえると、金融業界における生成AI活用は、社内活用でリスクを抑えて検証を重ね、AIの理解を高めた後に徐々に活用領域を広げるのが望ましい。加えて、ユーザーのアイデアを実務で機動的に検証・実装・改善できるアジャイルな体制を整備することで生成AIの活用が浸透する。これにより、ブームに終わらない金融業務改革が進むのではないだろうか。
金融業界における生成AI活用のポイントなど |
金融機関内の暗黙知を形式知化する糸口になり得る |
ユースケースを検討し、アイデアを吸い上げられる場を持つことが大事 |
リスク管理の観点も重要に |
※本稿は、日経産業新聞2024年2月9日付掲載のコラムを転載したものです。記事本文、図表は同紙掲載のものを一部修正/加工しています。
※本稿は、日本経済新聞社の許諾を得て掲載しています。無断複製・転載はお控えください。
※法人名、役職などは掲載当時のものです。
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