消費者市場におけるIFRS会計論点およびソリューション:不動産と減損(2)

2022-11-25

減損は業績を予測・分析するうえで注目度の高い領域です。特に、消費財・小売・流通業においては、店舗や倉庫などの不動産は重要な事業資産の1つとなっています。

今回は消費財・小売・流通業における不動産の減損を中心に「減損 - 本社の費用と資産の配分」「減損 - リース資産の入れ替えに関するキャッシュ・フロー」「遊休資産の減価償却」「店舗の転貸 - 投資不動産の分類」について解説します。

2. 減損―リース資産の入れ替えに関するキャッシュ・フロー

前提

A社は、資金生成単位(CGU)内に使用権(RoU)資産を有しています。IAS第36号第50項では財務活動によるキャッシュ・フローを除外しているため、このリースに関するリース・キャッシュ・フローは、使用価値(ViU)モデルにおけるCGUのキャッシュ・フローから除外する必要があります。当該CGUは営業活動を継続するためにリース終了後に同等の資産を必要とすることから、A社は、リース資産の入れ替えをViUモデルにおけるキャッシュ・アウトフローとして含める必要があります。代替資産の使用が予想可能な将来にわたって継続すると予想される場合には、キャッシュ・アウトフローを継続価値に反映する必要がある可能性があります。

論点

リース資産の入れ替えに伴うキャッシュ・アウトフローをViUモデルに含めるには、実務上どのような方法がありますか?

ソリューション

A社は、資本支出によって代替資産を購入するか、同様の資産に対して別のリースを締結するという選択肢を有しています。

代替資産の取得(つまり、購入またはリース更新)のために経営者が選択した方法にかかわらず、ViUモデルには、既存のリースが終了する年度以降の当該資産の入れ替えに関するキャッシュ・アウトフローを含める必要があります。大規模な使用権資産ポートフォリオを有するCGUの場合、モデル化が複雑になる可能性があります。

実務上の解決策の一つは、CGUの使用権資産の年間減価償却費をリース期間後の代替資産のキャッシュ・アウトフローの代用数値として使用する方法です。この単純化は、「定常的」なリース・ポートフォリオ(入れ替えの流れが相対的に安定しているもの)の場合にのみ可能です。また、減価償却は過去の指標であるため、インフレを考慮する必要があります。インフレが無視できない場合、将来キャッシュ・フローの過小計上を避けるため、減価償却費のインフレ調整を行う必要があります。

この方法は、次のような単純化した例で説明することができます。20X0年12月31日現在、A社は、年間リース料がCU100のリースと、耐用年数(残存リース期間)が2年、年間減価償却費がCU95の使用権資産CU190を所有しています。既存の使用権資産は、第1年度と第2年度で減価償却し、ゼロとなります。

ViUモデル 第1年度 第2年度 第3年度 第4年度 第5年度 第6年度以降
CGUの資産 CGUにおける既存の使用権資産 テスト対象のCGU資産に含まれない代替リース資産
  キャッシュ・フローから除外されるリース料 既存リースの満了に伴う資産の入れ替えのため、キャッシュ・アウトフローが含まれる。使用権資産の年間減価償却費を代用数値として使用する場合がある
ViUキャッシュ・フロー キャッシュ・アウトフローCU100を除外する キャッシュ・アウトフローCU100を除外する インフレ調整後のキャッシュ・アウトフローCU95を含める インフレ調整後のキャッシュ・アウトフローCU95を含める インフレ調整後のキャッシュ・アウトフローCU95を含める ターミナル・バリューの算定にインフレ調整後のキャッシュ・アウトフローCU95を含める

この方法はあくまで使用可能なアプローチの一つであり、他の方法が適切な場合もあります。例えば、この方法は、多種多様なリースのポートフォリオには適さない場合があり、そのような場合はより詳細な予測が必要となります。

3. 遊休資産の減価償却

前提

政府の規制により、小売業者Yはリースした店舗を一定期間オープンすることができません。また、店舗への出入りも制限され、小売業者Yは、店舗内の改装工事やオンライン販売のための倉庫として店舗を使用することも認められていませんが、商品は敷地内に保管されています。小売業者Yは、IAS第16号に従って使用権(RoU)資産を減価償却しているため、定額法、または企業が使用権資産の予想消費パターンをより正確に表す他の規則的な基準で減価償却しています。この使用権資産の場合、主な制限要因は、借手がリース期間にわたって原資産を使用する契約上の権利を有する期間であるため、定額で減価償却されます。

論点

小売業者Yは、遊休状態にある資産の減価償却を停止することができますか?

ソリューション

閉鎖期間中に、使用権資産の減価償却を停止したり、償却方法を変更したりすることは適切ではありません。定額法では、資産が遊休状態となった場合でも減価償却が終了しないためです。

小売業者Yは、使用権資産の減価償却においてIAS第16号のガイダンスを適用しています。IAS第16号第55項は、資産の減価償却を、資産が利用可能となった時点で開始し、当該資産がIFRS第5号に基づき売却目的保有に分類される(または売却目的保有に分類される処分グループに含まれる)日と当該資産の認識が中止される日のいずれか早い方の日に終了することを要求しています。したがって、資産が完全に減価償却されていない限り、資産が遊休状態になった時点で減価償却が終了することはありません。

4. 店舗の転貸―投資不動産の分類

前提

小売業者Cは、一部をスーパーマーケットとして自社で使用している不動産を所有していますが、一部の分離された店舗は他の企業に転貸されています。

論点

小売業者Cは転貸しているエリアを投資不動産として扱うべきでしょうか?

ソリューション

投資不動産とは、小売業者Cが賃料収入または資本増価、あるいはその両方の目的で所有またはリースしている建物を指します。商品の共有や管理目的で保有している建物は、投資不動産ではなく、IAS第16号の適用範囲となります。

不動産は、一部が自己使用、一部が賃料収入または資本増価の目的で保有される場合があります。IAS第40号第10項は、不動産は、賃料収入または資本増価目的で保有される部分と、財またはサービスの生産または供給、あるいは管理のために保有される部分を含むことができると認めています。これらの部分がファイナンス・リースに基づき別個にリースされる、または売却される可能性がある場合、企業はこれらの部分を別々に会計処理します。

小売業者Cは、現在転貸されている分離された店舗からなる部分について、売却またはファイナンス・リースに基づくリースが可能であるか、判断する必要があります。その場合、小売業者Cは、賃料を得るためにこの部分を保有し、当該部分は投資不動産として別個に会計処理されることになります。

一部分を個別に売却またはファイナンス・リースとしてリースできない場合は、わずかな部分のみが自己使用である場合を除き、スーパーマーケット全体が自己使用不動産として処理されることになります。わずかな部分のみが自己使用である場合は、建物全体が投資不動産として分類される可能性があります。この評価には判断を要する場合があります。

執筆者

長谷川 友美

ディレクター, PwC Japan有限責任監査法人

Email

坂井 嘉兵衛

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

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岡村 嘉雄

シニアマネージャー, PwC Japan有限責任監査法人

Email

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