「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(実務対応報告第36号)の公表(ASBJ)

2018-01-22

日本基準のトピックス 第342号

主旨

  • 2018年1月12日、企業会計基準委員会(以下、「ASBJ」)は、実務対応報告第36号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い」(以下、「本実務対応報告」)を公表しました。
  • 本実務対応報告は、企業がその従業員等に対して権利確定条件が付されている新株予約権を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴い当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む取引(以下、当該取引において付与される新株予約権を「権利確定条件付き有償新株予約権」という)について、必要と考えられる会計処理および開示を明らかにすることを目的としています。
  • 本実務対応報告は、2018年4月1日以後適用されます。ただし、本実務対応報告の公表日以後適用することもできます。
  • なお、上記に関連して、企業会計基準適用指針第17号「払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に関する会計処理」(以下、「複合金融商品適用指針」)が改正されています。

原文については、ASBJのウェブサイトをご覧ください。
https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/practical_solution/y2018/2018-0112.html

経緯

(1)検討の背景

近年、企業がその従業員等に対して新株予約権を付与する場合に、当該新株予約権の付与に伴い当該従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込む取引が見られています。当該取引に関する会計処理の取扱いは必ずしも明確ではなく、以下のいずれかによる会計処理が行われており、実務上のばらつきが生じていました。

  • 企業会計基準第8号「ストック・オプション等に関する会計基準」(以下、「ストック・オプション会計基準」)に定めるストック・オプション
  • 複合金融商品適用指針の適用範囲に含まれる新株予約権

2014年12月に開催された第301回企業会計基準委員会において、基準諮問会議よりASBJに対して、当該権利確定条件付き有償新株予約権を発行する企業の会計処理について審議を行うことが提言されました。これを受けて、ASBJは、審議を重ね、2017年5月に公開草案を公表し、広く意見を求めた後、寄せられた意見を検討し、公開草案の内容を一部修正した上で、2018年1月12日に、本実務対応報告を公表しました。

主な内容

(1)目的

本実務対応報告は、企業がその従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引について、必要と考えられる会計処理および開示を明らかにすることを目的としています。

(2)範囲

本実務対応報告は、概ね以下の内容で発行される権利確定条件付き有償新株予約権を対象としています(本実務対応報告第2項)。

  • 企業は、従業員等を引受先として、新株予約権の募集要項(行使価格、権利確定条件、数、払込金額、割当日、払込期日等)を決議する。
  • 新株予約権には市場価格がない。
  • 新株予約権には、次のいずれかの権利確定条件が付されている。
    • 勤務条件および業績条件
    • 業績条件のみ(勤務条件は付されていない)
  • 募集新株予約権を引き受ける従業員等は、申込期日までに申し込む。
  • 企業は、申込者から募集新株予約権を割り当てる者及びその数を決定する。
  • 割当てを受けた従業員等は、割当日に新株予約権者となり、払込期日までに企業に一定の額の金銭を払い込む。
  • 権利確定条件が満たされた場合、新株予約権は行使可能となる。
  • 権利確定条件が満たされなかった場合、新株予約権は失効する。
  • 新株予約権が行使される場合、
    • 新株予約権者となった従業員等は、行使価格に基づく額を企業に払い込む。
    • 企業は、当該従業員等に対して新株を発行するか、自己株式を処分する。
  • 行使されずに権利行使期間が満了した場合、新株予約権は失効する。

(3)適用する会計基準

本実務対応報告は、企業が従業員等に対して本実務対応報告の対象となる権利確定条件付き有償新株予約権を付与する場合、当該権利確定条件付き有償新株予約権は、当該企業がその従業員等に報酬(※)として付与するものであり、ストック・オプション会計基準に定めるストック・オプションに該当するものとしています(本実務対応報告第4項)。

(※)「報酬」とは、企業がその従業員等から受けた労働や業務執行等のサービスの対価として、従業員等に給付されるものをいう(ストック・オプション会計基準第2項(4))

ただし、権利確定条件付き有償新株予約権が従業員等から受けた労働や業務執行等のサービスの対価として用いられていないことを立証できる場合、当該権利確定条件付き有償新株予約権はストック・オプションには該当せず、これを付与する取引の会計処理については複合金融商品適用指針に従うものとしています(本実務対応報告第4項ただし書き)。

(4)会計処理および開示の概要

権利確定条件付き有償新株予約権は、その付与に伴って従業員等が一定の額の金銭を企業に払い込むという特徴を除けば、ストック・オプション会計基準の対象であるストック・オプション取引(従業員等が金銭を企業に払い込まない取引)と類似しています。これを踏まえ、本実務対応報告では、従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引については、ストック・オプション会計基準およびストック・オプション適用指針に準拠した会計処理および開示を行うものとしています。詳細は以下の表のとおりです。

項目

ストック・オプション会計基準

本実務対応報告

会計処理(付与日から権利確定日まで)

付与に伴う従業員等からの払込金額

(該当なし)

純資産の部に新株予約権として計上する(第5項(1))。[追加]

従業員等から取得するサービス

その取得に応じて費用として計上し、対応する金額を貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上する(第4項)。

(左記に準拠した取扱い)(第5項(2))

各会計期間における費用計上額の算定

ストック・オプションの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法等に基づき、当期に発生したと認められる額(第5項)。

権利確定条件付き有償新株予約権の公正な評価額から付与に伴う払込金額を差し引いた金額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法等に基づき、当期に発生したと認められる額(第5項(3))。

公正な評価額は、公正な評価単価にストック・オプション数を乗じて算定する(第5項)。

(左記に準拠した取扱い)(第5項(3))

公正な評価単価の算定

付与日において算定し、条件変更の場合を除き、その後は見直さない(第6項(1))。

(左記に準拠した取扱い)(第5項(4)【1】)

株式オプションの合理的な価額の見積りに広く受け入れられている算定技法を利用する。失効の見込みはストック・オプション数に反映させるため、公正な評価単価の算定上は考慮しない(第6項(2))。

(左記に準拠した取扱い)(第5項(4)【2】)

ストック・オプション数の算定

付与されたストック・オプション数から、権利不確定による失効の見積数を控除する(第7項(1))。

(左記に準拠した取扱い)(第5項(5)【1】)

ストック・オプション数の見直し(条件変更を除く)

権利不確定による失効の見積数に重要な変動が生じた場合、これに応じてストック・オプション数を見直す(第7項(2))。

(左記に準拠した取扱い)(第5項(5)【2】)

ストック・オプション数を見直した場合、見直し後のストック・オプション数に基づく公正な評価額のうち、その期までに発生したと認められる費用の金額と、これまでに費用計上した金額との差額を、見直した期の損益として計上する(第7項(2))。

権利確定条件付き有償新株予約権数を見直した場合、見直し後の権利確定条件付き有償新株予約権数に基づく公正な評価額から付与に伴う払込金額を差し引いた金額のうち、その期までに発生したと認められる金額と、これまでに費用計上した金額との差額を、見直した期の損益として計上する(第5項(5)【2】)。

権利確定日におけるストック・オプション数の修正

権利確定日には、ストック・オプション数を実際に権利の確定した数に修正する(第7項(3))。

(左記に準拠した取扱い)(第5項(5)【3】)

 

ストック・オプション数を修正した場合、修正後のストック・オプション数に基づく公正な評価額に基づき、権利確定日までに費用として計上すべき金額と、これまでに費用計上した金額との差額を、権利確定日の属する期の損益として計上する(第7項(3))。

権利確定条件付き有償新株予約権数を修正した場合、見直し後の権利確定条件付き有償新株予約権数に基づく公正な評価額から付与に伴う払込金額を差し引いた金額と、これまでに費用計上した金額との差額を、権利確定日の属する期の損益として計上する(第5項(5)【3】)。

付与に伴う払込金額のうち、権利不確定による失効に対応する部分

(該当なし)

利益として計上する(第5項(6))。[追加]

会計処理(権利確定日後)

権利行使に対する新株の発行

新株予約権として計上した金額のうち、当該権利行使に対応する部分を払込資本に振り替える(第8項)。

(左記に準拠した取扱い)(第6項(1))

権利不行使による失効

新株予約権として計上した金額のうち、当該失効に対応する部分を当該失効が確定した期の利益として計上する(第9項)。

(左記に準拠した取扱い)(第6項(2))

会計処理(その他)

権利確定日の判定

勤務条件および業績条件が付されている場合

  • これらの条件のうちいずれかを満たせば権利が確定するときは、当該いずれかの条件を満たした日を権利確定日とする。
  • これらの条件のすべてを満たさないと権利が確定しないときは、これらすべての条件を満たした日を権利確定日とする。

(ストック・オプション適用指針第19項)

(左記に準拠した取扱い)(第7項(1)(2))

(明文の規定なし)

業績条件のみ付されている場合

業績を達成するか達成しないかが確定する日を権利確定日とする(第7項(3))。

※ 権利確定条件付き有償新株予約権に関して、上記以外の会計処理については、ストック・オプション会計基準およびストック・オプション適用指針の定めに従うことになります(本実務対応報告第8項)。

また、開示については、通常のストック・オプションの場合と同様に、ストック・オプション会計基準第16項およびストック・オプション適用指針第24項から第35項に従うことになります(本実務対応報告第9項)。

適用時期等

本実務対応報告は、2018年4月1日以後適用されます。ただし、本実務対応報告の公表日以後適用することもできます。なお、適用日より前に従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与した取引については、本実務対応報告の会計処理によらず、従来採用していた会計処理を継続することができます(本実務対応報告第10項)。

関連する会計基準

本実務対応報告の公表に伴い、同日付けで、複合金融商品適用指針が改正されています。

この改正の趣旨としては、本実務対応報告の適用対象となる権利確定条件付き有償新株予約権は、現金のほかに従業員等からの労働や業務執行等のサービスを対価として付与されるものと整理されているため、複合金融商品適用指針の適用範囲には含まれないことを明確化するものです。具体的には、複合金融商品適用指針の範囲(同第2項)を以下のとおりに改正されています。

改正

現行(複合金融商品適用指針)

本適用指針は、金融商品会計基準が適用される場合において、払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に適用する。また、本適用指針は、これに関連する新株予約権及び自己新株予約権の会計処理についても取り扱っている。ただし、新株予約権については、現金のみを対価として受け取り、付与されるものに限る。

本適用指針は、金融商品会計基準が適用される場合において、払込資本を増加させる可能性のある部分を含む複合金融商品に適用する。また、本適用指針は、これに関連する新株予約権及び自己新株予約権の会計処理についても取り扱っている。ただし、新株予約権については、現金を対価として受け取り、付与されるものに限る。

注:表中の【】内の数字は、原文では丸付数字です。