「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(企業会計基準第31号)の公表(ASBJ)

2020-04-02

日本基準のトピックス 第392号

主旨

  • 2020年3月31日、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」とする)は、企業会計基準第31号「会計上の見積りの開示に関する会計基準」(以下「本会計基準」とする)を公表しました。
  • 本会計基準では、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスク(有利となる場合および不利となる場合の双方が含まれる)がある項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的としています。
  • 本会計基準は、会計基準において示された原則(開示目的)に照らして、開示する項目やその記載内容を企業が判断するという新たな考え方を取り入れています。
  • 原文については、ASBJのウェブサイトをご覧ください。

経緯

2016年3月および2017年11月、基準諮問会議に対して、国際会計基準(IAS)第1号「財務諸表の表示」(以下「IAS第1号」とする)第125項において開示が求められている「見積りの不確実性の発生要因」について、日本基準においても開示を求めることを検討するよう要望が寄せられました。その後、2018年11月に、基準諮問会議より、「見積りの不確実性の発生要因」に係る注記情報の充実について検討することがASBJに提言されました。この提言を受けて、ASBJは、2018年12月より審議を開始し、2019年10月に企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」を公表し広く意見を求めました。本会計基準は公開草案に寄せられた意見を踏まえ、公開草案の内容を一部修正したうえで公表されたものです。

概要

開発にあたっての基本的な方針

ASBJは、本会計基準の開発にあたっての基本的な方針として、個々の注記を拡充するのではなく、原則(開示目的)を示したうえで、具体的な開示内容は企業が開示目的に照らして判断するとしています。また、本会計基準の開発にあたっては、IAS第1号第125項の定めを参考としています。

開示目的

会計上の見積りは、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものですが、財務諸表に計上する金額に係る見積りの方法や、見積りの基礎となる情報が財務諸表作成時にどの程度入手可能であるかは様々であり、その結果、財務諸表に計上する金額の不確実性の程度も様々となります。したがって、本会計基準では、財務諸表に計上した金額のみでは、当該金額が含まれる項目が翌年度の財務諸表に影響を及ぼす可能性があるかどうかを、財務諸表利用者が理解することは困難としています。

本会計基準では、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的としています。また、リスクには有利となる場合および不利となる場合の双方が含まれることを明記しています。

開示する項目の識別

本会計基準では、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある項目を識別するとともに、翌年度の財務諸表に与える影響を検討するにあたっては、影響の金額的大きさおよびその発生可能性を総合的に勘案して判断するとしています。また、識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産および負債であるとしています。

注記事項

本会計基準では、会計上の見積りの開示を独立の注記項目とし、本会計基準に基づき識別した項目について、本会計基準に基づいて識別した会計上の見積りの内容を表す項目名を注記する(識別した項目が複数ある場合には、それらの項目名を単一の注記として記載する)ことを求めています。

また、本会計基準では、開示目的に基づき識別した項目のそれぞれについて、上記に基づき注記した項目名に加えて次の事項を注記するとしています。

(1)当年度の財務諸表に計上した金額

(2)会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報1

(1)および(2)の事項の具体的な内容や記載方法(定量的情報もしくは定性的情報、またはこれらの組み合わせ)については、開示目的に照らして判断するとしています。なお、(2)として注記する事項は、次の例が示されています。

  • 当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法
  • 当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定
  • 翌年度の財務諸表に与える影響

適用時期等

本会計基準は、2021年3月31日以後終了する連結会計年度および事業年度の年度末に係る連結財務諸表および個別財務諸表から適用されます。ただし、公表日以後終了する連結会計年度および事業年度の年度末に係る連結財務諸表および個別財務諸表から本会計基準を適用することができます。

本会計基準の適用初年度において、本会計基準の適用は表示方法の変更として取り扱います。ただし、改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」2(以下「改正企業会計基準第24号」という。)第14項の定めにかかわらず、本会計基準に定める注記事項について、適用初年度の連結財務諸表および個別財務諸表に併せて表示される前連結会計年度および前事業年度に関する注記(比較情報)に記載しないことができます。

未適用の会計基準等に関する注記

改正企業会計基準第24号の公表に伴い、専ら表示および注記事項を定めた会計基準等に対しても未適用の会計基準等に関する注記に関する定めが適用されます。改正企業会計基準第24号の原則的な適用時期は、2021年3月31日以後終了する連結会計年度および事業年度の年度末に係る連結財務諸表および個別財務諸表からですが、本改正の趣旨を鑑み、本会計基準の公表後、適用までの間は、改正企業会計基準第24号第22‐2項(未適用の会計基準等に関する注記)を類推適用し、次の事項を注記することが適切と考えられるとしています。

(1)本会計基準の名称および概要

(2)適用予定日に関する記述


1 本会計基準では、連結財務諸表を作成している場合に、個別財務諸表において本会計基準に基づく開示を行うときは、一部の注記事項(上記の(2)会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報)について連結財務諸表における記載を参照することができます。

なお、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって一部の注記事項(上記の(2)会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報)に代えることができます。この場合であっても、連結財務諸表における記載を参照することができます。

2 ASBJは、2020年3月31日、改正企業会計基準第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」を公表しています。

このニュースレターは、概略的な内容を説明する目的で作成しています。この情報が個々のケースにそのまま適用できるとは限りません。したがいまして、具体的な決定を下される前に、PwCあらた有限責任監査法人の担当者にご確認されることをお勧めします。

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