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2020-04-06
ASBJは、2018年3月30日に、我が国における収益認識に関する包括的な会計基準として、企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等(以下「2018年会計基準等」とする)を公表しました。2018年会計基準等では、2018年会計基準等を早期適用する場合の必要最低限の注記事項(企業の主要な事業における主な履行義務の内容および企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点))を除き、基本的に注記事項は定めないこととし、2018年会計基準等が適用される時(2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首)までに、注記事項を検討することとしていました。また、収益の表示科目等の表示に関する事項についても、2018年会計基準等が適用される時までに検討することとしていました。これらの取扱いを踏まえ、ASBJは、2019年3月より審議を開始し、2019年10月に企業会計基準公開草案第66号(企業会計基準第29号の改正案)「収益認識に関する会計基準(案)」等を公表して広く意見を求めました。改正会計基準等は、公開草案に寄せられた意見を踏まえて検討を行い、2020年3月31日に公開草案の内容を一部修正したうえで公表されたものです。公表された改正会計基準等は以下のとおりです。
改正会計基準等による主な改正内容は、以下のとおりです。
1.顧客との契約から生じる収益の表示科目および区分表示または注記(改正会計基準第78‐2項、改正適用指針第104‐2項)
顧客との契約から生じる収益は、適切な科目をもって損益計算書に表示することとしています。例えば、売上高、売上収益、営業収益等として表示します。また、顧客との契約から生じる収益は、それ以外の収益と区分して損益計算書に表示するか、または、注記することとしています。
2.契約資産、契約負債または顧客との契約から生じた債権の表示科目および区分表示または注記(改正会計基準第79項、改正適用指針第104‐3項)
契約資産、契約負債または顧客との契約から生じた債権は、適切な科目をもって貸借対照表に表示することとしています。例えば、契約資産については契約資産、工事未収入金等、契約負債については契約負債、前受金等、顧客との契約から生じた債権については売掛金、営業債権等として表示します。また、契約資産と顧客との契約から生じた債権のそれぞれについて、貸借対照表において他の資産と区分して表示しない場合には、それぞれの残高を注記する。また、契約負債を他の負債と区分して表示しない場合には、契約負債の残高を注記することとしています。
3.重要な金融要素の影響の区分表示(改正会計基準第78‐3項)
顧客との契約に重要な金融要素が含まれる場合、顧客との契約から生じる収益と金融要素の影響(受取利息または支払利息)は、損益計算書において区分して表示することとしています。
なお、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、上記の1から3の表示および注記の定めを適用しないことができるとしています(改正会計基準第80‐25項)。
1.注記事項の開発にあたっての基本的な方針(改正会計基準第101‐2項から第101‐6項)
注記事項の開発にあたっての基本的な方針として、以下の対応を行ったとしています。
(1)包括的な定めとして、IFRS第15号と同様の開示目的および重要性の定めを含める。また、原則としてIFRS第15号の注記事項のすべての項目を含める。
(2)企業の実態に応じて個々の注記事項の開示の要否を判断することを明確にし、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる項目については注記しないことができることを明確にする。
2.重要な会計方針の注記(改正会計基準第80‐2項および第80‐3項)
以下の項目を顧客との契約から生じる収益に関する重要な会計方針として注記することとしています。
(1)企業の主要な事業における主な履行義務の内容
(2)企業が当該履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)
ただし、上記の項目以外にも、重要な会計方針に含まれると判断した内容については、重要な会計方針として注記する。
3.収益認識に関する注記(改正会計基準第80‐4項から第80‐24項、改正適用指針第106‐3項から第106‐8項)
収益認識に関する注記の開示目的として、「顧客との契約から生じる収益およびキャッシュ・フローの性質、金額、時期および不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示することである」を示しています。そのうえで、この開示目的を達成するために、以下の項目を注記することとしています。
(1)収益の分解情報
(2)収益を理解するための基礎となる情報
(3)当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報
IFRS第15号で要求されている注記事項を改正会計基準等に取り入れるにあたっては、それぞれの注記事項を注記する目的を整理したうえで、大きく、上記の(1)から(3)の3つの項目に再分類しています。さらに、(2)に含まれる注記事項についても、収益認識の5ステップに関連付けて整理しています。これらの注記事項は最低限の注記のチェックリストとして用いられることを意図したものではありません。下記に、「【参考】IFRS第15号『顧客との契約から生じる収益』の開示規定との関係」を図表で示しています。
なお、開示目的に照らして重要性に乏しいと認められる注記事項については、記載を省略することができるとしています。この場合の重要性の判断は、定量的な要因と定性的な要因の両方を考慮する必要があります。その際、定量的な要因のみで判断した場合に重要性がないとは言えない場合であっても、開示目的に照らして重要性に乏しいと判断される場合もあると考えられるとしています。
(1)収益の分解情報
1)収益の分解に用いる区分
当期に認識した顧客との契約から生じる収益を、収益およびキャッシュ・フローの性質、金額、時期および不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解して注記することとしています。
収益の分解に用いる区分を検討する際には、財務諸表外で開示している情報、例えば、決算発表資料、年次報告書、投資家向けの説明資料や、最高経営意思決定機関が事業セグメントに関する業績評価を行うために定期的に検討している情報を考慮することとしています。また、収益を分解するための区分の例として、財又はサービスの種類や地理的区分などが示されています。
なお、収益を分解する程度については、事業の実態に即した事実および状況に応じて決定することになるため、結果として、複数の区分に分解する必要がある場合と単一の区分のみで足りる場合があります。
2)セグメント情報の開示との関係
企業会計基準第17号「セグメント情報等の開示に関する会計基準」を適用している場合は、収益の分解情報とセグメント情報の各報告セグメントについて開示する売上高との間の関係を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を注記することとしています。
また、セグメント情報における売上高の情報が、改正会計基準等における収益の会計処理の定めに基づいており、かつ、収益およびキャッシュ・フローの性質、金額、時期および不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解した情報として十分であると判断される場合には、セグメント情報に追加して収益の分解情報を注記する必要はないものと考えられるとしています。
(2)収益を理解するための基礎となる情報
顧客との契約が、財務諸表に表示している項目または収益認識に関する注記における他の注記事項とどのように関連しているのかを示す基礎となる情報として、以下の事項を注記することとしています。
概要 |
注記事項 |
1)契約および履行義務に関する情報(ステップ1およびステップ2) |
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収益として認識する項目がどのような契約から生じているのかを理解するための基礎となる情報 |
(a)履行義務に関する情報 履行義務の内容(企業が顧客に移転することを約束した財又はサービスの内容)を記載する。また、例えば、次の内容が契約に含まれる場合には、その内容を注記する。
(b)重要な支払条件に関する情報 例えば、次の内容を記載する。
|
2)取引価格の算定に関する情報(ステップ3) |
|
取引価格の算定方法について理解できるようするための、取引価格を算定する際に用いた見積方法、インプットおよび仮定に関する情報 |
例えば、次の内容を記載する。 (a)変動対価の算定 (b)変動対価の見積りが見積りの制限に関する定め(改正会計基準第54項)に従って制限される場合のその評価 (c)契約に重要な金融要素が含まれる場合の対価の額に含まれる金利相当分の調整 (d)現金以外の対価の算定 (e)返品、返金およびその他の類似の義務の算定 |
3)履行義務への配分額の算定に関する情報(ステップ4) |
|
取引価格の履行義務への配分額の算定方法について理解できるようにするための、取引価格を履行義務に配分する際に用いた見積方法、インプットおよび仮定に関する情報 |
例えば、次の内容を記載する。 (a)約束した財又はサービスの独立販売価格の見積り (b)契約の特定の部分に値引きや変動対価の配分を行っている場合の取引価格の配分 |
4)履行義務の充足時点に関する情報(ステップ5) |
|
履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点)の判断および当該時点における会計処理の方法を理解できるようにするための情報 |
(a)履行義務を充足する通常の時点(収益を認識する通常の時点) (b)一定の期間にわたり充足される履行義務について、収益を認識するために使用した方法および当該方法が財又はサービスの移転の忠実な描写となる根拠 (c)一時点で充足される履行義務について、約束した財又はサービスに対する支配を顧客が獲得した時点を評価する際に行った重要な判断 |
5)本会計基準の適用における重要な判断 |
|
本会計基準を適用する際に行った判断および判断の変更のうち、顧客との契約から生じる収益の金額および時期の決定に重要な影響を与えるものを注記する。 |
(3)当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報
説明 |
注記事項 |
1)契約資産および契約負債の残高等 |
|
履行義務の充足とキャッシュ・フローの関係を理解できるようにするための情報
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(a)顧客との契約から生じた債権、契約資産および契約負債の期首残高および期末残高(区分して表示していない場合) (b)当期に認識した収益の額のうち期首現在の契約負債残高に含まれていた額 (c)当期中の契約資産および契約負債の残高の重要な変動の内容 (d)履行義務の充足の時期が通常の支払時期にどのように関連するのかならびにそれらの要因が契約資産および契約負債の残高に与える影響の説明 (e)過去の期間に充足(または部分的に充足)した履行義務から、当期に認識した収益(例えば、取引価格の変動)の金額 |
2)残存履行義務に配分した取引価格 |
|
既存の契約から翌期以降に認識することが見込まれる収益の金額および時期について理解できるようにするための情報 |
(a)当期末時点で未充足(または部分的に未充足)の履行義務に配分した取引価格の総額 (b)上記(a)の金額を、企業がいつ収益として認識すると見込んでいるのか。次のいずれかの方法による。
(c)履行義務が当初に予想される契約期間が1年以内の契約の一部である場合など、一定の条件に該当することにより、(a)および(b)の注記に含めていない場合、その条件と履行義務の内容 (d)取引価格に含まれない変動対価の額等、取引価格に含まれず、結果として(a)および(b)の注記に含まれないものがある場合、その旨 |
4.工事契約等から損失が見込まれる場合(改正適用指針第106‐9項)
工事損失に関しては、以下の事項を注記することとしています。
(1)当期の工事損失引当金繰入額
(2)同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合には、次の1)または2)のいずれかの額(該当する工事契約が複数存在する場合には、その合計額)
1)棚卸資産と工事損失引当金を相殺せずに両建てで表示した場合、その旨および当該棚卸資産の額のうち工事損失引当金に対応する額
2)棚卸資産と工事損失引当金を相殺して表示した場合、その旨および相殺表示した棚卸資産の額
5.個別財務諸表における注記(改正会計基準第80‐26項および第80‐27項)。
連結財務諸表を作成している場合、上記の3の(1)「収益の分解情報」および(3)「当期および翌期以降の収益の金額を理解するための情報」について注記しないことができるとされています。また、上記の3の(2)「収益を理解するための基礎となる情報」については、連結財務諸表における記載を参照することができるとされています。
6.四半期財務諸表における注記(改正四半期会計基準第19項)
四半期連結財務諸表および四半期個別財務諸表においては、上記の3の(1)「収益の分解情報」の注記が要求されています。
表示および注記事項に直接関連しないが、公開草案に対するコメントを踏まえ、以下の改正も行われています。
改正会計基準等は、2018年会計基準の適用日を踏襲して、2021年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用されます。
また、早期適用として、2020年4月1日以後開始する連結会計年度および事業年度の期首から適用することができます。なお、早期適用については、追加的に、2020年4月1日から2021年3月30日の間に終了する連結会計年度および事業年度の年度末に係る連結財務諸表および個別財務諸表から適用することができます。この場合は、早期適用した連結会計年度および事業年度の翌年度に係る四半期(または中間)連結財務諸表および四半期(または中間)個別財務諸表において、早期適用した連結会計年度および事業年度の四半期(または中間)連結財務諸表および四半期(または中間)個別財務諸表について、改正会計基準等を当該年度の期首に遡って適用することとしています。
このニュースレターは、概略的な内容を説明する目的で作成しています。この情報が個々のケースにそのまま適用できるとは限りません。したがいまして、具体的な決定を下される前に、PwC Japan有限責任監査法人の担当者にご確認されることをお勧めします。