概要
2020年4月10日、ASBJは、第429回企業会計基準委員会(2020年4月9日開催)の議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」を公表し、新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて、固定資産の減損、繰延税金資産の回収可能性など、様々な会計上の見積りを行う際の留意点を示しました(日本基準トピックスNo.397参照)。
また、上述の議事概要が公表されたものの、2020年4月末より始まった3月期決算の決算発表において、新型コロナウイルス感染症の影響が大きいと思われる業種においても、議事概要の趣旨に合った開示となっていない可能性があり、法定開示書類において追加情報の開示が十分に行われないのではないかとの懸念から、ASBJは、2020年5月11日に第432回企業会計基準委員会(2020年5月11日開催)の議事概要として、「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(追補)」を公表しました(日本基準トピックスNo.399参照)。
第429回企業会計基準委員会議事概要および第432回企業会計基準委員会議事概要で示された会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方は以下のとおりです。
(1)「財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出する」上では、新型コロナウイルス感染症の影響のように不確実性が高い事象についても、一定の仮定を置き最善の見積りを行う必要があるものと考えられる。
(2)一定の仮定を置くにあたっては、外部の情報源に基づく客観性のある情報を用いることができる場合には、これを可能な限り用いることが望ましい。ただし、新型コロナウイルス感染症の影響については、会計上の見積りの参考となる前例がなく、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がないため、外部の情報源に基づく客観性のある情報が入手できないことが多いと考えられる。この場合、新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等も含め、企業自ら一定の仮定を置くことになる。
(3)企業が置いた一定の仮定が明らかに不合理である場合を除き、最善の見積りを行った結果として見積もられた金額については、事後的な結果との間に乖離が生じたとしても、「誤謬」にはあたらないものと考えられる。
(4)最善の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響に関する一定の仮定は、企業間で異なることになることも想定され、同一条件下の見積りについて、見積もられる金額が異なることもあると考えられる。このような状況における会計上の見積りについては、どのような仮定を置いて会計上の見積りを行ったかについて、財務諸表の利用者が理解できるような情報を具体的に開示する必要があると考えられ、重要性がある場合は、追加情報としての開示が求められるものと考えられる。
上記(4)の「重要性がある場合」とは、当年度に会計上の見積りを行った結果、当年度の財務諸表の金額に対する影響の重要性が乏しい場合であっても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがある場合があるため、これに該当する場合は、新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示を行うことが、財務諸表の利用者に有用な情報を与えることになると思われ、開示を行うことが強く望まれる。
上述の考え方について、四半期決算における考え方を明らかにして欲しいとの意見が聞かれたことから、ASBJは、本議事概要において以下の考え方を公表しました。
- 前年度の財務諸表において上記(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行ったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該変更の内容を記載する必要があるものと考えられる。
- 前年度の財務諸表において仮定を開示していないが、四半期決算において重要性が増し新たに仮定を開示すべき状況になったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該仮定を記載する必要があるものと考えられる。
- 前年度の財務諸表において上記(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行っていないときも、重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合は、四半期財務諸表に係る追加情報として、重要な変更を行っていない旨を記載することが望ましい。