米国バイデン大統領が法人増税案を含む大規模インフラ投資計画を発表

2021-04-02

2021年3月31日、バイデン大統領は、2兆2500億米ドル規模のインフラストラクチャー投資計画(「米国雇用プラン("American Jobs Plan")」)を発表しました。同計画は将来8年間にわたり公共交通機関等の輸送インフラへの投資、高速ブロードバンド環境等の家庭における生活の質向上のための投資、米国製造業強化のための投資、高齢者・障がい者向け介護のための財政支出を行うものであり、同時にその財源として各種の法人税増税措置を「メイドインアメリカ税制計画("Made In America Tax Plan")」として提案しています。

米国雇用計画にはクリーンエネルギーや国内製造業向け税制優遇措置が含まれる一方で、メイドインアメリカ税制計画には連邦法人税率の21%から28%への引き上げや、各種の国際税制改正を含む法人増税案が含まれています。ホワイトハウス発表では、これにより将来15年で2兆米ドルの増収を達成し、上記インフラ投資への支出への充当および財政赤字の削減を見込むことができるとしています。

両計画は、バイデン大統領が選挙時に公約としていた経済計画(”Build Back Better Plan”)の主要な要素が反映されたものです。ホワイトハウス発表によると、数週間以内に第2弾の大規模経済計画が公表される方針であり、そこでは医療・子育て・教育等の家庭向け財政支出案と高所得者層向けの個人所得税増税案が含まれる見込みです。

バイデン政権の発足時には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対応が喫緊の課題とされていたところですが、ワクチン接種(就任100日以内に1億回接種の目標を60日余りで達成)や大型経済対策の成立(2021年3月11日に1.9兆米ドル規模の対策法案に署名)といった目標を達成したことを踏まえて、バイデン氏の選挙公約につき議会での議論を推進することが今回の発表の狙いと考えられます。他方、インフラ投資については従前から民主党・共和党両党が支持していましたが、増税案については共和党の支持が得られる可能性は小さく、この場合税制改正法案成立には民主党上院議員(50名)全員の支持と民主党下院議員ほぼ全員の支持が必要となります。このため、今後具体的な税制改正法案を議論する過程においては、両院の民主党中道派議員の支持を取り付けるために増税規模の縮小や個別の提案の撤廃が行われる可能性があります。

ホワイトハウス発表の概要

バイデン大統領の発表と同日にホワイトハウスが発表した両計画のサマリーによると、「大規模かつ良質な雇用を創設し、米国のインフラを再構築し、中国との競争優位に立つ」ことが財政支出案の意図とされています。また、各種の税制改正案については、「より公平な税制に向けた重要なステップであり、米国への投資を促進し、海外への雇用流出を阻止し、法人が公平な税負担を負う税制である」としています。また、「バイデン大統領の改革案により、米国は世界のリーダーに復帰し、また、他国がタックスヘイブンとなることで競争上の恩恵を受ける法人税率引下げ競争(race-to-the bottom)を終わらせることに寄与するものである」としています。

また、同発表では今後数週間以内に家庭向け財政支出案およびその財源とするための高所得層向け個人所得税増税案を発表する方針が示されており、「大統領は議会との議論を前向きに行い、資産(wealth)ではなく勤労(work)を報いる税制、また最高所得層の個人が公平な税負担を負う税制を実現するための改革に向けた様々なアイデアを推進する」としています。

今回の発表に先立ち、3月25日には上院租税委員会(Senate Finance Comittee)では国際税制に関する専門家ヒアリングが行われており、同委員会の会長であるワイデン議員(民主党)は、近いうちに国際税制改正の選択肢についての報告書を発表するとしています。

法人増税案の概要

メイドインアメリカ税制計画は、バイデン大統領が選挙時に公約としていた増税案と類似の項目が含まれています。ホワイトハウス発表は、大統領は米国が「法人税引下げ競争に終止符を打ち」、かつ、「米国多国籍企業に対する全世界ミニマム税を強化することで海外への流出を防止する」取り組みのリーダーになることを目指しているとしています。
 
ホワイトハウス発表に基づく法人増税案の概要は以下の通りとなります。

  • 連邦法人税率を21%から28%へ引上げ
  • GILTI合算課税(グローバル無形資産低課税所得、global intangible low-taxed income)の実効税率を10.5%から21%へ引上げ。同合算課税につき全世界ベース計算から国別計算へ移行し、GILTI合算所得計算上の適格事業資産投資(QBAI)10%控除を廃止。
  • 効果的な全世界ミニマム税を採用しない国の法人に対し米国法人から支払が行われた場合の損金不算入
    • 当該損金不算入措置は2017年税制改正の「効果的でない規定」への対応であるとしており、  BEAT(税源浸食濫用防止税)を改正し全世界ミニマム税を採用しない国への支払いに限定して損金不算入とする措置へ置き換えるものと見受けられます。BEATの改正は選挙公約には含まれていませんでしたが、3月にイエレン財務長官は全世界ミニマム税に関する合意に向けてOECD諸国との協働を進める旨の発言を行っており、OECDデジタル課税プロジェクト(Pillar 2)と軌を一にしたものと考えられます。
  • 米国法人のタックスヘイブン国へのインバージョンや二重居住を防止するための措置
  • 雇用を海外流出させるための支出に係る損金不算入と、雇用を国内回帰に係る税額控除
  • 国外由来無形資産所得(FDII)の特別控除を廃止し、当該廃止から生じる歳入増を「より効果的な」R&D投資インセンティブへ充当
  • 大企業の会計上利益に対する15%ミニマム税
  • 化石燃料に対する租税優遇措置を廃止
  • IRSの法人税執行強化のための予算措置

ホワイトハウス発表は選挙公約と同様、税制改正の具体的な詳細までは含まれておらず、今後財務省から発表される予算教書(Green Book)において一定の解説が行われる見込みです。

財政支出案に含まれる税制優遇措置の概要

米国雇用計画に含まれる財政支出案の概要は以下の通りです。
  • 高速道路、橋梁、公共輸送機関、港湾、空港の現代化(6210億米ドル)
  • 清潔な飲料水、電力網、高速ブロードバンドへのアクセス向上(1110億米ドル)
  • 住居、学校、退役軍人向け病院および連邦政府施設の建築および改善(2130億米ドル)
  • 国内製造業促進のための支出(520億米ドル)
  • 小規模事業による融資、ベンチャーキャピタル、R&D投資へのアクセス向上(310億米ドル)
  • また、同計画には、以下の税額控除の拡充・創設が含まれています。
  • 投資税額控除
  • クリーンエネルギー生産および貯蔵に係る税額控除
  • カーボン関連税額控除(Section 45Q)
  • 高度製造施設に係る税額控除(Section 48C)と類似の国内製造業向け税制優遇措置
  • オフィス内チャイルドケア施設を保有する企業向け税額控除

今後の見通し

今後は議会での議論が足元の新型コロナ対策から大規模な税制改正を含む中長期的な経済計画への議論へと移行していくことが予想される一方で、具体的な税制改正案に至るまでには各種提案の縮小や変更が行われる可能性があります。各種の提案の潜在的な影響につき分析を行いつつ、今後発表される予算教書や上院租税委員会での議論の動向につき注視を行うことが重要と考えられます。

【参考】

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