
エネルギー・ユーティリティ・資源分野における世界のM&A動向:2025年の見通し
2025年のエネルギー・ユーティリティ・資源分野におけるM&Aは、地政学、エネルギー安全保障の優先順位、市場のダイナミクスによるトランスフォーメーションが進むことで活発化するでしょう。
2025-01-31
※2024年12月に配信したニュースレターのバックナンバーです。エネルギートランスフォーメーション ニュースレターの配信をご希望の方は、ニュース配信の登録からご登録ください。
2024年は、世界各国で政治的変動の続いた年でした。多くの国で国内政治が動き、地政学的対立やパワーバランスの多極化、新自由主義の落日といったマクロ環境の変化が見て取れるようになっています。
こうした不確実な変化の時代を捉えて事業戦略を描く一助として頂くため、PwC Japanグループでは、2022年より毎年、地政学リスク・経済安全保障のトレンドと翌年の10大リスクを発表しています。今回は、2025年のリスクを見渡す最新レポートから一部をご紹介する形で、エネルギー分野において企業が念頭に置くべきリスクやその根底にある潮流について解説します。
図表1 : 2025年の3大トレンドと10大リスク
2025年最も注目したいリスクは、1月に発足するトランプ新政権です。法人税率の引き下げ、各種の規制緩和や化石燃料産業の振興は企業活動の追い風となりえますが、米国ファーストの政策が世界的な地政学リスク増大につながる可能性があります。
例えば、トランプ次期大統領は、1期目と同様にパリ協定の義務を拒否して協定から脱退するほか、バイデン前政権の気候変動対策の取り組みを停止すると見られています。世界第2位のCO2排出国である米 国が化石燃料重視に舵を切れば、気候資金への先進国の拠出金確保が困難になり、発展途上国の排出削減が減速するでしょう。
また、同盟国軽視の外交により、世界各地で安全保障環境が不安定化する恐れがあります。特に中東では、トランプ氏が親イスラエル・反イランの中東外交を展開して対立が激化し、エネルギー供給の寸 断や原油価格の上昇につながることが懸念されます。さらに、米国の国際的指導力が低下するなか、中国やロシアは産油国や資源国を含むグローバルサウスの国々に対して影響力をさらに拡大するでしょう。こうした国際環境の変化は、グローバルに事業展開する企業のリスク計算に影響を与えることになります。
経済分野に目を転じれば、安全保障を念頭に置いた経済政策への変化が各国で見て取れます。企業においても経済合理性のみならず、例えば有事の際のエネルギー安定供給など、安全保障の視点をより考慮した意思決定が必要となります。また、そのためにも、関係国政府との一層密接なコミュニケーションが求められます。
トランプ新政権は関税引き上げにより他国産品を排除して製造業の米国回帰を推進するとともに、重要インフラや安全保障に関連すると米国が主張する分野などで中国排除を強めることが見込まれます。EVや蓄電池、太陽光パネルなどエネルギー関連品目についてはこうしたリスクが高いと考えられます。
図表2 : トランプ新政権下で想定される主な通商政策
中国においては、経済よりも国内の政治的安定性を重視した政策運営が継続するとともに、米国の対中関税引き上げなどで景気低迷が加速し、外資企業にとって事業環境が悪化する恐れがあります。対外的には、中国はグローバルサウス、中でも産油国や資源国に影響力を拡大しており、特に鉱物資源分野では、国有企業による重要資源の囲い込みが続くと考えられます。
経済を武器とした国際政治上の競争が続く中、サイバー攻撃の脅威は継続します。経済的動機のみならず、政治的な目的を持つ国家アクターも脅威となっており、送電網など大規模なシステムを持つインフラ企業に攻撃が行われた場合、その影響は大きなものとなります。エネルギーは重要インフラの一つとして、各国でサイバー安全保障政策及びその国際連携の対象となっており、引き続き法令を確実に遵守しつつ、対応能力を高めていくことが必要になっています。
先進国を中心に、ポピュリスト政治家が移民や知識層への反感を煽り、社会が分断されています。米 国では、環境や人権に対する姿勢が政治的対立の対象となり、ESG投資などグリーンを推進する企業行 動も批判にさらされています。加えて、トランプ新政権はバイデン政権が行った火力発電や石油・ガス事業向けの各種環境規制を廃止し、グリーン分野への多額の補助金を含むインフレ抑制法を修正する見 込みです。経済成長のドライバーとしてグリーン化を支援してきたEUでも、エネルギー価格の高騰を発端とする景気低迷によって、脱炭素化に重きを置く政策への支持が低調になり、ハイレベルな環境基準を設定した規制的手法に反発が強まっています。ポピュリスト政治家がこれを代弁することで、環境規制強化の流れは減速しています。
図表3 : グリーン化に対する近年の相反する動き
EVの需要減や化石燃料回帰の機運から、今後、グリーン産業への投資が縮小し、同時に、「非グリーン」産業を忌避するような投資行動のリスクは上昇すると見込まれます。
政治・社会における反ESG・脱ESGの動きは、エネルギー産業にとっては、急速なグリーン転換のリスクが下がるなどのメリットはあるものの、予見可能性が低下し、既存の取り組みの変更を余儀なくされたり、ESGをめぐる社会対立に巻き込まれたりといった新たなリスクも生み出します。自社の事業や方針の中でESGへの取り組みの意義や位置づけを再検討し、それに基づいて方向性を決めることが肝要と考えられます。
レポートでは、半導体産業と自動車産業を取り上げて、特に考慮すべき地政学リスクと特有の影響について具体的に考察しています。しかし、地政学リスクの影響は、中東への依存度が高く、ロシアや米 国など資源大国の思惑によって価格が大きく揺れ動くといった特徴を持つエネルギー産業にとっても無視できないものです。自社の経営目標から導き出される重要アジェンダについて、変化の要因を特定してモニタリングし、情報を経営判断に生かしていくような新たな取り組み(「インテリジェンス経営」)が推奨されます。
図表4 : 「インテリジェンス経営」における検討ステップ
PwC Japanグループでは、地政学リスクのさまざまなテーマについて調査分析と情報発信を行っています。特に、毎年夏には日本企業の地政学リスク対応状況に関するサーベイを行い、12月には上記のように翌年の地政学リスクを見通す基幹レポートを公表しています。
さらにご関心のある方は、下記のサイトをぜひご覧ください。
『地政学リスクマネジメント対応支援:高まる地政学リスクによる日本企業への影響』
https://www.pwc.com/jp/ja/services/geopoliticalrisk.html
『「企業の地政学リスク対応実態調査 2024」から見る企業動向とは』
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/column/geopolitical-risk-column/vol24.html
『2025年地政学リスク展望』
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/geopolitical-risk2025.html
PwCは電力広域的運営推進機関(OCCTO)や一般送配電事業者各社が公表しているデータ等をもとにユニット別発電情報やJEPX、需給調整市場(EPRX)データの可視化ポータルを開発し、公開しました。無料でご覧頂けますので、是非以下のウェブサイトからご登録の上、ご利用ください。
https://www.pwc.com/jp/ja/industries/eu/electricity-system-reform/pma/portal.html
出所:PwCアドバイザリー作成
2025年のエネルギー・ユーティリティ・資源分野におけるM&Aは、地政学、エネルギー安全保障の優先順位、市場のダイナミクスによるトランスフォーメーションが進むことで活発化するでしょう。
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