ビジネス目的達成等のためのファンド活用

  • 2023-11-01

はじめに

ファンドは資産運用の手段としてよく用いられますが、最近では、コーポレートベンチャーキャピタル(以下、CVC)などの事業会社などが自社の戦略目的のために利用するケースが増えています。また、ファンドを利用するにあたっては、外部の運用会社に投資を委託するだけでなく、自ら運用会社を設立してファンドを運営するケースも増えてきています。さらに、事業会社だけではなく、国や地方公共団体もファンドを活用することがあります。

ファンドとは、投資家から資金を調達し、投資や事業を行い、そこから生じた収益を投資家に分配することを目的として、専門家が管理・運営する仕組みです。その最大の目的は、投資利益の最大化にあります。一方、CVCのように、ベンチャー企業への出資を通じた新規事業の育成やベンチャー企業との協業によりコア事業の強化を図ったり、公的機関が特定の目的等のために補助金・助成金に代えてファンドを活用したりすることもあります。

本稿では、ビジネス目的、政策目的の達成のために利用されるファンドを中心に、その活用方法を考察するとともに、その際の留意事項について説明します。なお、文中の意見に係る記載は筆者の私見であり、PwCあらた有限責任監査法人および所属部門の正式見解ではないことをお断りします。

1 事業会社等におけるファンドの活用

(1)事業投資の際の検討事項

近年、ビジネス環境が変化するスピードは速く、大企業であっても既存のビジネスモデルだけでは追随するのが難しくなってきています。しかし、自社内で新規ビジネスを立ち上げて軌道に乗せるには、コストやリソース面からも非効率となる場合が多いのが現状です。

そこで、他社(その多くはベンチャー企業)への出資を通じて新規事業を育成したり、ベンチャー企業等との協業を通じてコア事業を強化したりするなど、事業シナジーの創出を目的として出資するケースが増加しています。企業が事業投資を行う場合、以下の項目を検討するのが一般的です。

  • 投資目的:何のために投資するのか
  • 投資対象:どこに投資するのか
  • 投資規模:いくら投資するのか
  • 投資実行:どのように投資するか
  • 出口戦略:とのように投資を回収するのか

前述のとおり、投資目的は新規事業の育成やコア事業の強化であることが多く、単なる規模の拡大を目指す多角化を目的とするケースは稀であると考えられます。

投資対象についても、何のために投資するかと併せて、会社の目的達成のために最適と考えられる投資先を検討することになります。

投資規模は、投資目的と投資対象にもよりますが、ベンチャー企業の場合、企業の成長ステージによって投資金額が異なってきます。スタートアップやアーリーステージの場合は少額で、ミドルステージ以降の会社は多額の資金が必要となるのが一般的です。

投資実行については、株式を取得するのか、融資をするのかなど、投資実行の方法を検討する必要があります。株式を取得する場合においても普通株式か優先株式か、融資の場合でも貸付を実行するのか既存の融資を引き受けるのかなどの選択肢があり、投資目的、投資対象から最適と考えられる方法を選択します。

(2)業種別の投資目的、投資対象

業種によって事業目的は異なるため、投資目的や投資対象を一般的に定義するのは困難ですが、当該事業のサプライチェーン、バリューチェーンをどのように向上させるかという観点から検討します。

1. 製造業

製造業は、部品の製造を下請け企業が担うケースが多く、多重下請構造が構築されています。現状においても、自動車産業では部品の多くを多数の下請けが製造し、それを組み立てるという形態のサプライチェーンが構築されています。

コア事業の強化の観点からは、革新的な部品製造技術を開発する企業に、資本協力や事業資金の融資を行い、その技術の実現や独占使用権の獲得を目指します。

新規事業の育成の観点からは、例えば電気自動車の普及によって既存のエンジン部品メーカーが淘汰されてしまう場合、従来の技術を活用して新たなイノベーションを創出するビジネスモデルを構築することなどが考えられます。

一方、食品産業などでは、安定的で質の高い原材料を確保する観点から、1次産業(農業法人など)への出資も行われています。原材料のみならず、加工から販売までのサイクル全体のバリューアップを図ることにより、食品産業全体の競争力を向上させる取り組みも行われています。

2. 情報テクノロジー産業

情報テクノロジー産業の製品サイクルは非常に短く、新たな技術、新たな製品が次々と開発されています。また、近年のスタートアップ企業の多くは情報テクノロジー産業であり、すでにCVC等を活用した投資活動が多く行われています。

3. 金融機関

金融機関(特に銀行)では、低金利の長期化により、本業の融資業務のみではビジネスの拡大が難しい状況にあります。また、銀行法の改正などから、一定の制限はあるものの、事業投資の枠組みが拡大されたこともあり、投資専門子会社を設立して積極的に投資を進めています。

(3)投資実行

投資実行では、どのように出資を実施するかを検討することが重要になります。以下で、投融資スキームを検討する際の全体像における主なポイントを見ていきます(図表1)

図表1: 投融資スキーム検討の全体像

分岐❶ 投融資の主体をどうするか

投融資は、会社本体から出資する場合と、子会社(既存子会社、新設子会社)から出資する場合が考えられます。その際の主な考慮事項は以下のとおりです。

  • 意思決定の速さ:スピーディな投融資判断/意思決定を行う必要があるが、どちらのほうが迅速に意思決定が可能か
  • 人材の採用:新規人材採用を行う場合、どちらのほうが投融資実務に適した人材を採用することが可能か
  • アナウンスメント効果:投資先候補や社内外の関係者に認知・理解してもらうには、どちらのほうがアナウンスメント効果が高いか

分岐❷ ベンチャーキャピタル等と二人組合を組成するか

投融資の実務には高い専門性が求められます。分岐❶で述べたように、投融資実務に適した人材の採用も検討するものの、最善のタイミングで最適な人材が採用できるかは、大きな不確実性が伴います。そこで、すでに投融資実務に対して豊富な実績を有している外部のベンチャーキャピタル等と二人組合を組成し、投融資に係る専門的業務の委託も検討します。

分岐❸ 資金拠出元をどうするか

運用主体を本社にするか子会社にするか、運用を外部委託にするかに加え、資金拠出元をどうするかを検討する必要があります。具体的には、本社または子会社から直接投資を行うか、組合(ファンド)を組成し、組合から投融資を行うか決定します。組合の場合、どの組合形態を選択するべきかなどを検討することになります。その際は以下の点に注意します。

  • コスト:資金拠出元、拠出方法によって、設立時と運用時にかかるコストがどの程度変わるか
  • 意思決定の速さ:より迅速な意思決定を実現可能なものにできるか
  • ガバナンス:資金提供者である本社にとって、最も効果的なガバナンスを実施できるのはどれか
  • 組織設計:機関設計等の組織設計にかかる負担が大きいのはどれか

分岐❹ 子会社を設立する場合、その会社形態はどうするか

運用を担当する子会社を設立する場合、その会社形態をどうするかの検討が必要になります。ガバナンスの観点からは、株式会社の形態が一般的です。運用子会社は事業目的が明確であり、ファンドとともに全体としてのガバナンスを構築することになるため、会社単体としての制度的なガバナンスをそこまで重視しないのであれば、設立コストを考慮し、合同会社が選択されることもあります。

また、運用主体を本社以外とする場合、その資金をどのように拠出するかも問題となります。子会社を設立する場合、資本金として一定の資金を子会社にプールするのか、貸付金として資金提供するのかが考えられます。ただし、子会社の資本金が一定額を超えると外形標準課税の対象となり、課税所得の有無にかかわらず税が課されます。貸付金の場合は、毎期安定的な収益が得られない事業投資に対し、約定利息の支払いの負担が重くなる可能性があります。

ファンドを利用する場合、一般的には組合契約締結時に投資約束額(コミットメント)を決定し、実際に投資を実行する際や、ファンドとしての費用が発生した場合に投資家に対してコミットメントの範囲内で出資の履行を依頼することになります(キャピタルコール)。これにより、一定程度のコストを削減し資金効率を上げることが可能となります。

(4)出口戦略

事業会社が事業シナジー等を目的として投資を実行する場合、投資持分を継続的に保有することも考えられます。一方、経済的利益も追求する場合は、一定のキャピタルゲインの実現も必要になります。ファンド形式で投資実行をした場合は、選択した投資ビークルの多くは有期限であるため、一定期間内で持分を売却する必要があります。さらに、投資先の業績悪化等で、投資目的を達成できないことが明らかになった場合は、早期に投資を引き上げることも検討する必要があります。

一般的に、出口戦略としては以下が想定されます。

  • IPO(株式公開)
  • 第三者への売却
  • 事業者による買い戻し
  • 自社への取り込み(合併、子会社化等)

(5)事業会社等におけるファンド活用の留意点

新規事業の育成や、ベンチャー企業との協業によってコア事業の強化を目的とする場合、何をもって成功とするのか、そのKPIの設定が困難であったり、モニタリングが効果的に実施できなかったりする場合があります。収益の拡大やコスト削減といった定量的な経済的指標と異なり、定性的な目標とならざる得ない場合の客観的な評価方法を十分に検討する必要があります。

2 公的機関(地方公共団体等)におけるファンドの活用

(1)公的機関による資金供給の現状と課題

公的機関のファンドの活用として、現状官民ファンドが多数設立されています。官民ファンドはほとんどが株式会社であり、政策目的の達成のため資金を供給する仕組みとして機能しています。

一方、地方でもさまざまな取り組みが行われており、各種補助金・助成金の交付、地方公共団体も参加する地域ファンド等も多数設立されています。しかし、地域産業の活性化の観点から、以下のような課題があると考えられます。

【課題】補助金・助成金

  1. 資金の使途が限定的
    • 政策目的等から、補助金・助成金の使途が限定され、事業者側のニーズと合致しない場合がある
    • 補助金・助成金を受けることを目的とし、本来必要と考えられる事業者の経営課題とは別の取り組みが行われてしまう可能性がある
  2. 資金供給量の不十分性
    • 限られた予算を幅広く事業者に供給する必要から、事業者あたりの補助・助成金額が少額となることが多い
    • 上記とも関連し、補助・助成事業の全額ではなく、一部の支給にとどまることも多い
  3. 効果の測定が困難
    • 申請の手続きが煩雑な場合が多いが、支給後の効果を測定する仕組みがない場合が多い
    • 事業者に成果報告を求めても、適切に効果を測定するに足る報告書が提出されない場合が多い

【課題】地域ファンド

  1. 投資先が少ない
    • 資金を投入しても十分なリターンが見込める投資先が少ない
    • 投資効率を上げるために、リターンを無視した投資が実行されてしまうケースもある
  2. リソース不足
    • 地域に投資先の効果的なハンズオン、バリューアップを実施できるだけのリソースが不足している
    • 広域でファンドを運用する運用会社の場合、各地域に割り当てるリソースが限定されてしまう
  3. モニタリングの難しさ
    • 投資先企業の管理体制が脆弱で、ファンドに対して必要な情報を提供できない
    • リソース不足とも関連して、投資先企業が作成する決算書のみで評価せざるを得ない場合が多い

(2)ブレンデッドファイナンス

近年、ブレンデッドファイナンスの有用性について、さまざまな意見が公表されています。ブレンデッドファイナンスの考え方にはいくつかの定義がありますが、異なる投資リターンを要求する投資家から資金を集めて投資をすることによって、リスク許容度の低い投資家を取り込む方法として有効です。また、官民両セクターのシナジー効果を最大化し、両セクターの投資家が行うインパクト投資の貢献度を最大限レバレッジすることを可能にする投資スキームと考えられています。

原則として、民間の投資家を巻き込んだファンドは一定程度以上のリターンが要求されるので、政策的に補助金・助成金の対象となるような企業や事業は投資対象とならないことが多いのが一般的です。一方、ファンドの投資対象とならない企業や事業を成長させるためには、補助金・助成金を交付することも意義があると考えられます。実際、近年の政策では、さまざまな目的達成のための公的資金と民間資金によるブレンデッドファイナンスの活用が広く提唱されています。

(3)地域企業の成長を促す資金循環システムの構築

地域経済を活性化するためには、域内の企業がさまざまなリソースを活用して成長することが重要です。個々の企業の成長を促すエコシステムを構築するには、企業経営に必要な要素であるヒト・モノ・カネ・ナレッジを蓄積するだけではなく、効果的に資金を循環させる必要があります。

このようなエコシステムに必要な要素として、以下のものが考えられます。

  1. 資金ポートフォリオと運用スキーム整備
    • 資金プールの大枠を設定し、ポートフォリオと利用用途を分けることで元本回収のスキームを構築する
    • 上記ポートフォリオは、社会的インパクトのある成長企業へと強化するための資金ポートフォリオと、成長企業から収益を狙うポートフォリオを準備する
  2. 成長支援サービス体制構築
    • 企業強化用資金を財源とし、域内企業の経営力強化、成長を支援するためのサービス基盤を構築する(専門家プラットフォームの構築)
  3. 域内企業の成長支援
    • 各種専門家による経営力強化支援サービスを提供し、域内企業の企業成長を支援する
    • 専門家のスキル向上や域内企業間の連携強化を図る
  4. 成長企業への投資
    • 収益獲得用資金を財源とし、他投資家の出資を組み合わせ(ファンドの活用)、域内企業へ投資し、成長を加速させる
    • 得られた収益から、投下資金の回収を図る

(1)の課題を解決し、上記のコンセプトを実現するには、ブレンデッドファイナンスの考え方とファンドの活用を組み合わせたエコシステムの構築が有用と考えられます。(図表2)にイメージを記載していますが、当該スキームはあくまでも筆者の想定における一例であることにご留意ください。また、(図表2)に挙げているいくつかの用語の説明を(図表3)に挙げておきます。

このエコシステムは、公的支援が必要な企業と成長が見込める企業への投資を同じ枠組みに取り込むことになり、ブレンデッドファイナンスの一例であると考えられます。また、原則として、コストセンターとして機能するファンドAでの支出を、ファンドXからのリターンで補うことができれば、長期的にはエコシステム全体としては、追加の資金投入なしで資金を循環させることが可能になると考えられます。

図表2: ファンドを活用したエコシステムの形成(案)

図表3:ファンドに関わる用語

用語 意味
官民連携ファンド エコシステム全体への資金供給を支える仕組みとして、地方公共団体、金融機関、事業会社等の出資により設立
官民連合組織 エコシステム全体をマネジメントするための組織。政策目的と企業の成長のための施策等の両面を担当する必要があるため、官と民で設立
ファンドA(コストセンター) 補助金・助成金の目的を担う機能。地域経済活性化の観点から、今後の成長が見込める企業等を見極める機能(Project Management Office:PMO)と、それをサポートする機能(専門家プラットフォーム)を有し、地域ファンドの投資先となり得る企業の育成を担う
ファンドX 地域ファンドの目的を担う機能。既存の有力企業、ファンドAで成長した企業に対し、さらなる成長を促す。地域経済においては、企業単体での成長に限界がある場合が多いため(商圏が狭い等)、サプライチェーン、バリューチェーンを意識してビジネスモデルを想定し、当該ビジネスモデルの中で成長・活躍できる企業に投資するのも有用

出典:PwC作成

(4) 公的機関(地方公共団体等)のファンド活用における留意点

公的機関がファンドの活用を検討する場合にはあまり問題にならないかもしれませんが、(3)で紹介したさまざまな関係者を巻き込んだ形でエコシステムの形成を目指す場合、誰がリーダーシップを取るのか、構想期間などに要するコストは誰か負担するのかが課題となります。地方公共団体等が地元事業者を巻き込む形で進めるのが一般的だと考えられますが、立場や考え方の異なる関係者のコンセンサス形成が重要となります。また、ファンド形式を利用することとなるので、金融商品取引法上の規制への対応が必要になる点にはご留意ください。

3 ファンドの基礎知識

(1)ファンドの仕組み

資産運用会社等、業務としてファンドビジネスを行っている場合には、新しいファンドの設立は容易ですが、事業会社や公的機関がファンドを活用するには、まずファンド自体を理解する必要があります。

ファンドは投資家から投資対象への資金の流れをつなぐ媒体となります。そしてファンドを運営するにあたり、ファンドを中心としてその運営に各種プレイヤーが関与します(図表4)

販売会社はファンド持分の投資家への販売、すなわちファンドへの投資の勧誘を行います。運用会社は、投資家がファンドに出資した資金を運用します。そして、事務管理・資産保管会社は、ファンドの入出金、資産の管理等を行います。

ファンド持分は金融商品取引法上の有価証券として取り扱われるため、運用会社・販売会社は原則として金融商品取引業者への登録が必要であり、事務管理・資産保管会社は信託銀行が担います。なお、以上は一般的な形式であり、ファンドの形態によっては異なる場合があります。

図表4: ファンド全体像

(2)ストラクチャーの選択

ファンドの組成には、投資対象、事業関係者の目的、および資金調達方法に適合した最適なストラクチャーの検討と、当該ストラクチャーに合致したファンドビークルの選択が必要になります。

ストラクチャーの選択にあたっては、誰が投資家になるのか、どのようなプレイヤーにより運営されるのか(事業関係者)、どのように資金を調達するか(資金調達)、投資対象は何か(投資対象)等の検討が重要な要素となります。

(3)ファンドビークル

ファンドビークルとは、資産と投資家を結ぶ機能を担う組織体を指します。ファンドビークルには、法人型と組合型があります。

  1. 法人型ビークル

    法人型ビークルとは、法人を通じて出資を行う形態であり、株式会社や合同会社の会社法上の会社を利用するのが一般的です。
    • 株式会社/合同会社:株式会社・合同会社は会社法上の会社ですが、ファンドのビークルとして利用されることもあります。株式会社・合同会社を利用することの最大のメリットは、法制度が整備されており、会社の機関設計において一定の自由度は認められるものの、強固なガバナンス構築が可能なことにあります。
  2. 組合型ビークル

    組合型ビークルとは、組合を通じて出資を行う形態であり、任意組合(NK)、匿名組合(TK)、投資事業有限責任組合(LPS)、有限責任事業組合(LLP)が一般的です。
    • 任意組合(NK):民法上の組合であり、当事者が組合契約を締結することで成立します。任意組合には投資制限がないので、さまざまな投資対象に対して幅広く利用することができます。原則として、各組合員が業務執行権を持ち(業務執行組合員を定めることも可能)、組合の意思決定は組合員の過半数の決議によってなされることから、組合員の意思が直接組合運営に反映されます。
    • 匿名組合(TK):商法上の規定による組合であって、営業者とファンド運用者(通常は株式会社や合同会社)と匿名組合員が1対1の契約を締結することで成立します。匿名組合は、組合契約を締結すれば登記は不要なので、設立コストが比較的低く抑えられます。
    • 投資事業有限責任組合(LPS):投資事業有限責任組合(LPS)は、「投資事業有限責任組合契約に関する法律」(LPS法)に基づいて設立され、主に未公開企業や不動産等への投資で用いられます。運用の専門家である無限責任組合員(GP)が有限責任組合員(LP)の出資を運用することにより、高い投資効果が見込めると同時に、無限責任組合員は投資先の状況についてバリューアップ活動とモニタリングを実施し、運用の状況について、定期的に有限責任組合員に報告します。
    • 有限責任事業組合(LLP):有限責任事業組合は、「有限責任事業組合契約に関する法律」に基づいて設立され、構成員全員が有限責任であり、損益や権限の分配を自由に決めることができるなど内部自治の徹底等の特徴から、主にジョイントベンチャーやCVCで用いられます。原則として、組合員全員が意思決定に関与できるため、組合員が業務執行にも関与し、かつ有限責任性を確保することが可能になります。

(4)ファンドにおけるその他の留意事項

金融商品取引法の規制
会社法上の会社の持分のみならず、組合契約に基づく権利、匿名組合に基づく権利、投資事業有限責任組合契約に基づく権利、有限責任事業組合契約に基づく権利等は、金融商品取引法上、有価証券として取り扱われるため、当該持分、権利の募集、運用等には規制が課されています。当該規制に反して取引等を実施した場合、行政処分等が課されることになるため、新規にファンドの運営を行おうとする場合には、専門家によるアドバイスを受けるなどの対応が必要になります。

ファンド持分の評価
前述のようにファンド持分は有価証券であるため、その評価方法を検討する必要があります。これは、ファンド持分の保有者が採用する会計基準によって、取得原価で評価するか、公正価値で評価するかが異なります。公正価値で評価する場合、事業投資の多くの投資先は非上場企業であることが多いため、その評価手法については留意が必要となります。

ファンド、投資先の連結
ファンド持分の保有者が連結財務諸表作成会社である場合、投資先のファンドを連結すべきかどうか検討が必要になります。また、投資対象の議決権の保有の状況によっては、投資先についても連結の対象になるかの検討が必要になります。連結の範囲についてもファンド持分の保有者が採用する会計基準によって異なるため、投資実行前に十分な検討が必要となります。

4 おわりに

ファンドを資産運用の手段として捉えた場合は、投資先の発掘、投資利益の拡大のためのバリューアップが重要となりますが、既存事業とのシナジーの創出や地域活性化の手段と捉えると、その機能を活かしたさまざまな活用方法が考えられます。

ファンドが今後の経済発展のためにさらに活用されることを期待するとともに、本稿がその参考になれば幸いです。


執筆者

PwCあらた有限責任監査法人
資産運用アシュアランス部
パートナー 佐藤 孝

PwCあらた有限責任監査法人
資産運用アシュアランス部
シニアマネージャー 近藤 慎一郎