日本の企業会計基準委員会(ASBJ)は、現行のリース会計基準(企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」等)の財務報告上の問題点の改善を図るため、2023年5月に、リースの新基準の開発へ向けた公開草案たる企業会計基準公開草案第73号「リースに関する会計基準(案)」等(以下、本公開草案)を公表しています※1。本誌第46号(2023年9月号)からは、本公開草案の実務的な観点に焦点を当てた連載を開始しています。
これまでの連載でも述べてきたように、本公開草案では、借手が、原則として、全てのリースを貸借対照表上、オンバランスすることを提案しています。そのため、現行のリース会計基準においてオフバランスのオペレーティング・リースに重要性がある企業においては、本公開草案が基準化される際に各種の負担が生じることが見込まれます。また、新リース会計基準を継続的に適用するにあたっては、各決算日におけるリース資産(使用権資産)とリース負債を適切に財務報告の対象とするために必要な情報を適時に収集するための負担が発生すると見込まれています。ただし、本公開草案では、借手における新リース会計基準の適用時に、いくつかの簡便的な取扱いが可能になっています。実務においては、このような措置を適用することによって、負担を軽減できるかどうか見極めていく必要があります。
本稿では、このような借手における取扱いとその実務上のポイントについて解説していきます(新リース会計基準適用時の過度の負担を軽減する措置のうち、主に不動産のリースに関連する取扱いおよび経過措置に関連する取扱いについては、次回以降の連載において解説します)。なお、本文中の意見に関する部分は、著者の個人的見解であり、PwCあらた有限責任監査法人の見解ではないことを申し添えます。
本公開草案では、新リース会計基準を、いくつかの例外はあるものの、リースの定義※2を満たす全ての契約に適用することを提案しています。借手の会計処理は、原資産を使用する権利である使用権資産を資産計上し、リース料の支払義務を負債計上する、という「使用権モデル」の考え方に基づいた国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」および米国財務会計基準審議会(FASB)のTopic 842「リース」を参考としつつ、日本における新リース会計基準の開発にあたって以下に示すような基本的な方針を定めています。
(1)借手の費用配分の方法については、IFRS第16号との整合性を図る。
(2)その上で、国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で代替的な取扱いを定める、または、経過的な措置を定めるなど、実務に配慮した方策を検討する。
(3)借手の会計処理と貸手の会計処理で齟齬が生じないよう、借手のための新しい会計基準を開発するのではなく、企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」を改正する※3。
本公開草案は、借手の会計処理について、現行のリース会計基準におけるファイナンス・リースとオペレーティング・リースの分類をなくして、単一の会計処理モデルを導入することを提案しています。借手は、後述する短期リースおよび少額リースを除く全てのリースについて、使用権資産およびリース負債を認識することとなる点に特徴があります。この結果、現行のリース会計基準ではオフバランスされているオペレーティング・リースがオンバランスとなることによる影響が生じます(図表1)。
本公開草案には、日本の他の会計基準と同様、「重要性」の定義に関する明示的なガイダンスは含まれていませんが、企業会計原則注解の注1で示されている重要性※4の考え方自体は、他の会計基準と同様に、新リース会計基準にも適用されるものと考えられます。したがって、企業は、財務諸表にとって重要性がないと考えられるリースについては、本公開草案が提案している原則的な会計処理、表示および開示を厳密には行わないことも考えられます。
上記(1)の財務諸表にとっての重要性の考え方とは別に、本公開草案では、借手は、リースのうち、以下に記載するリースについて、貸借対照表上で認識することを免除する規定が用意されています。当該規定は、特に、多数の小口のリースを有する場合における事務処理の負担に対する懸念に対応することを意図したものです。
なお、これらのリースについて免除規定を使用した場合、これらのリースに係る費用は、損益計算書においてリース期間にわたり定額で認識されます。
少額リースとは、次のa.またはb.のようなリースを指します。
a. 重要性が乏しい減価償却資産について、購入時に費用処理する方法が採用されている場合で、借手のリース料が当該基準額以下のリース
ただし、その基準額は当該企業が減価償却資産の処理について採用している基準額より利息相当額だけ高めに設定することができる。また、この基準額は、通常取引される単位ごとに適用し、リース契約に複数の単位の原資産が含まれる場合、当該契約に含まれる原資産の単位ごとに適用することができる。
b. 次の①または②を満たすリース
①企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリースで、リース契約1件当たりの借手のリース料が300万円以下のリース
この場合、1つのリース契約に科目の異なる有形固定資産または無形固定資産が含まれている場合、異なる科目ごとに、その合計金額により判定することができる。
②原資産の価値が新品時におよそ5,000米ドル以下のリース
この場合、リース1件ごとにこの方法を適用するか否かを選択できる。
上記a.の重要性に関する基準額は、本公開草案には規定されていません。a.のただし書きにあるように、その基準額は企業が減価償却資産の処理について採用している基準額より利息相当額だけ高めに設定することができるとされていることから、企業内で独自に設定されている基準額と整合的に決定する必要があることになります。
上記b.については、①または②のいずれかを選択でき、選択した方法を首尾一貫して適用することが求められます。
上記b.②の「原資産の価値が新品時におよそ5,000米ドル以下のリース」とあるのは、IFRS第16号「リース」の結論の根拠(BC100項)にあるように、国際会計基準審議会(IASB)が議論していた当時、新品時に5,000米ドル(当時の為替レートで換算すると約60万円)以下の規模の資産を少額とすることを念頭に置いていたのと整合を図ったものとみられます。 b.②の規定ぶりからは、原資産が少額であるのかどうかの評価は、絶対値ベースで行われると読めるため、その評価は、借手の規模、性質または状況の影響を受けないと考えられます。したがって、異なる借手でも、特定の原資産が少額であるかどうかに関して同じ結論に至る可能性が高いと見込まれます。
また、本公開草案が提案する取扱いは、IFRS第16号B7項のように、借手が資産を転貸(サブリース)しているか、または、転貸することを見込んでいる場合にヘッドリースを少額リースへ区分することを禁止する規定を置いておらず、IFRSにおける取扱いと異なる点に留意が必要です。
(参考)IFRS第16号「リース」
B7 借手が資産を転貸しているか又は資産を転貸することを見込んでいる場合には、ヘッドリースは少額資産のリースに該当しない。
【実務対応上のポイント】:少額リース
リースの原資産の価格
(i)現行のリース会計基準の下では、「企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース取引で、リース契約1件当たりのリース料総額が300万円以下のリース取引」については、オペレーティング・リース取引の会計処理に準じて、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行うことができる、という規定が設けられています。なお、上記b.①では、基本的にこの考え方を踏襲しているため、現行のリース会計基準の下で通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理をしているリース取引については、新リース会計基準の下で少額リースとして会計処理することができる可能性が高いと考えられます(ただし、現行のリース会計基準の下でのリース期間より新リース会計基準の下でのリース期間が長くなることによりリース料総額が増加し、それにより少額リースに該当しないという可能性があることに留意が必要です)。
(ii)現行のリース会計基準の考え方を踏襲した上記b.①では、少額リースとして取り扱うためには「企業の事業内容に照らして重要性の乏しいリース」である、つまり、事業における中核資産ではないという制限があると考えられます。これに対し、上記b.②における少額リースでは中核資産かどうかという点での制限はない点に留意が必要です。
短期リースに係る費用を区分して表示していない場合、その発生額が含まれる科目および当該発生額を注記することが求められます。ただし、この費用には借手のリース期間が1カ月以下のリースに係る費用を含めることを要しないと提案されています。また、本公開草案によると、当該短期リースに係る費用の金額に少額リースに係る費用の金額を合算した金額で注記することができ、この場合、その旨を注記することが提案されています。
本公開草案は、上記(2)以外にも、リース新会計基準案の適用上の過度の負担を軽減する取扱いとして、簡素化および実務上の便法を提供することを提案しています。以下に、これらの提案のうち、主なものをいくつか紹介します。
リースとサービスが混在している契約については、本誌第46号(2023年9月号)で詳述したとおり、借手は、原則として、リース構成部分とサービス構成部分を区分することが求められています。この区分処理については、実務上困難を伴う場合もあるため、本公開草案では、借手は、実務上の便法として、リース構成部分とサービス構成部分を区分せず、全体を単一のリース構成部分として会計処理することを認めることを提案しています。この実務上の便法を使用するかどうかは、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごとに選択されます。
【実務対応上のポイント】
借手が、この実務上の便法により、リース構成部分とサービス構成部分を区分せずに全体を単一のリース構成部分として会計処理する場合、借手がオンバランスする使用権資産やリース負債が増加することになります。そのため、この実務上の便法を選択するかどうかの判断に際しては、全体を単一のリース構成部分として会計処理することにより、実務対応上、負荷が抑えられるという点と、オンバランスされる金額が増加するという点をともに勘案の上、会計方針として選択することになると考えられます。
本公開草案は、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合は、借手が原則的な取扱いをせずに次のいずれかの方法を適用できるとすることを提案しています。
(i)借手のリース料から利息相当額の合理的な見積額を控除しない方法※6。この場合、使用権資産およびリース負債は、借手のリース料をもって計上し、支払利息は計上せず、減価償却費のみ計上する。
(ii)利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に定額法により配分する方法※7。
ここで、使用権資産総額に重要性が乏しいと認められる場合とは、本公開草案によると、未経過の借手のリース料の期末残高(短期リースや少額リースのように借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することとしたものや、原則的な取扱いに従って利息相当額を利息法により各期に配分している使用権資産に係るものを除きます)が当該期末残高、有形固定資産および無形固定資産の期末残高の合計額に占める割合が10パーセント未満である場合とされています。
【実務対応上のポイント】
本公開草案上、企業全体の使用権資産総額に重要性が乏しいかどうかの判断基準において、「未経過」の借手のリース料を使用することが提案されているため、将来のリース料についての割引計算は不要であり、財務諸表作成者が煩雑さを避けられるよう配慮がされています。
指数またはレートに応じて決まる借手の変動リース料には、市場における賃貸料の変動を反映するように当事者間の協議をもって見直されることが契約条件で定められているリース料が含まれます。
借手がこのような指数またはレートに応じて決まる借手の変動リース料について、参照する指数またはレートの将来の変動を見積るためには、企業によっては容易に利用可能ではない可能性があるマクロ経済情報が必要となる場合があり、見積りに必要な情報を入手するためのコストが正当化されない可能性があります。
そこで本公開草案は、IFRS第16号の考え方と整合するよう、リース開始日において借手のリース期間にわたり、リース開始日現在の指数またはレートに基づいてリース料を算定することを提案しています。一方で本公開草案は、IFRS第16号と異なり、指数またはレートに応じて決まる借手の変動リース料について、合理的な根拠をもって当該指数またはレートの将来の変動を見積ることができる場合、リース料が参照する当該指数またはレートの将来の変動を見積り、当該見積られた指数またはレートに基づきリース料およびリース負債を算定することを、リースごとにリース開始日に選択できる、とする例外的な取扱いも提案しています。
【実務対応上のポイント】
上述の例外的な取扱いを選択する場合、決算日ごとに、参照する指数またはレートの将来の変動を見積り、当該見積られた指数またはレートに基づいてリース料およびリース負債を見直すことを要し、さらに、当該取扱いを選択した旨およびその内容を「会計方針に関する情報」として注記し、また、当該選択をしたリースに係るリース負債の金額の開示を求められるため、一定の負荷がかかると想定される点に留意が必要です。
したがって、このような負荷がかかるという観点と財務諸表利用者に有用な情報を提供する観点のバランスを考慮する必要があると考えられます。
本公開草案は、新リース会計基準を個々のリースに対して適用することを提案していると考えられます。
一方、IFRS第16号においては、ポートフォリオベースでの適用により、原資産の種類およびモデル、リース開始日および終了日などが類似する複数のリースをあたかも1つのリースであるかのように扱い、IFRS第16号の規定を適用することができるとしています※8。なお、この取扱いが許容されるのは、IFRS第16号を個々のリースに適用した場合とポートフォリオを基礎としたリースの取扱いとの間で財務諸表に与える影響が大きく異ならないと合理的に見込まれる場合です。
本公開草案は、実務上の便法として、類似した特徴を有する複数のリースのポートフォリオに対して新リース会計基準の規定を適用することを提案していませんが、ポートフォリオベースの適用が可能か否かは、2(1)に記載の財務諸表にとっての重要性の観点から検討することが考えられます。
※1 https://www.asb.or.jp/jp/accounting_standards/exposure_draft/y2023/2023-0502.html
※2 本公開草案では、リースを「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義することを提案しています(本公開草案第5項)。なお、リースの定義に関する実務対応上のポイントについては、本誌第46号(2023年9月号)で解説しています。
※3 上述の基本的方針(3)に関して、開発の過程では、企業会計基準第13号を改正する形で文案が検討されていたものの、削除する項番号や枝番となる項番号が多くなるため、利便性の観点から項番号を振り直し、新たな会計基準として開発することとなりました。
※4 企業会計原則注解の〔注1〕重要性の原則の適用について(一般原則二、四及び貸借対照表原則一)によると、以下のように示されています。
企業会計は、定められた会計処理の方法に従って正確な計算を行うべきものであるが、企業会計が目的とするところは、企業の財務内容を明らかにし、企業の状況に関する利害関係者の判断を誤らせないようにすることにあるから、重要性の乏しいものについては、本来の厳密な会計処理によらないで他の簡便な方法によることも正規の簿記の原則に従った処理として認められる。
重要性の原則は、財務諸表の表示に関しても適用される。
重要性の原則の適用例としては、次のようなものがある。
(1)消耗品、消耗工具器具備品その他の貯蔵品等のうち、重要性の乏しいものについては、その買入時又は払出時に費用として処理する方法を採用することができる。
(2)前払費用、未収収益、未払費用及び前受収益のうち、重要性の乏しいものについては、経過勘定項目として処理しないことができる。
(3)引当金のうち、重要性の乏しいものについては、これを計上しないことができる。
(4)たな卸資産の取得原価に含められる引取費用、関税、買入事務費、移管費、保管費等の付随費用のうち、重要性の乏しいものについては、取得原価に算入しないことができる。
(5)分割返済の定めのある長期の債権又は債務のうち、期限が一年以内に到来するもので重要性の乏しいものについては、固定資産又は固定負債として表示することができる。
※5 本公開草案は、短期リースに類似する項目として、「新リース会計基準の適用初年度の期首から12カ月以内に借手のリース期間が終了するリース」についても、オンバランスの免除を可能とすることを提案しています。この経過措置時の取扱いについては、本稿の「はじめに」で上述したとおり、次回以降の連載において、新リース会計基準への移行時の会計処理と実務上のポイントを取り挙げる際に解説する予定です。
※6 本公開草案の提案によると、借手のリース料は、原則として、利息相当額部分とリース負債の元本返済額部分とに区分計算し、前者は支払利息として会計処理を行い、後者はリース負債の元本返済として会計処理を行います。借手のリース期間にわたる利息相当額の総額は、リース開始日における借手のリース料とリース負債の計上額との差額になります。
※7 本公開草案の提案によると、上の脚注における利息相当額の総額を借手のリース期間中の各期に配分する方法は、原則として、利息法によります。利息法においては、各期の利息相当額をリース負債の未返済元本残高に一定の利率を乗じて算定することとなります。
※8 詳細については、本誌第7号(2017年3月号)の「新リース基準の実務対応(3)新リース基準適用時の過度の負担を軽減する取扱い」をご参照ください。
PwCあらた有限責任監査法人
財務報告アドバイザリー部
シニアマネージャー 田野 雄一