AIとDEI研究会

【開催報告】第6回「データの民主化」

  • 2023-05-25

2023年4月日開催の第6回研究会をご視聴いただきまして、厚く御礼申し上げます。今回は、国内外のデータ基盤やデータ連携のプラットフォームに関する考え方の現状と今後をテーマに登壇者より課題提供をいただき、参加者の方々とディスカッションを行いました。

第1部の配信では、お1人の方にご登壇いただきました。

東京大学大学院情報学環 越塚登教授より、次世代のデータ経済圏の確立に向けた現状のほか、国外におけるデータ基盤構築の取り組み、日本におけるデータ連携基盤の構築や国際連携についてお話しいただきました。また、2023年4月29、30日に群馬県高崎市で行われたG7デジタル・技術大臣会合のアジェンダにも含まれているDFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)の実現に向けた理想や考え方、取り組み状況などについても解説していただきました。

データに関する規制がほとんどなかった2000年代、私たちはインターネットの時代を経験しました。そしてIoTとAIが活用される2020年代を迎え、次世代のデータ経済圏の確立に向けた試みが世界規模で進められています。サイバーインフラの構築が各国で進められていますが、インターネットとサービスレイヤーの間に位置するグローバルデータ空間を例にとっても、強調領域と認識する日欧と、競争領域と認識する米国とでは考え方も異なります。このような認識の違いは、ガバナンスにも反映されるでしょう。

EUで検討・実装されてきた「自律分散型」の企業間データ連携の仕組みである「GAIA-X」や、米国政府が公共データを交換する場所として構築した「NIEM」、インド政府が推進しているAPI基盤群である「India Stack」など、海外でもさまざまな取り組みが実施されています。また、製造業や農業、気象といった、分野別のデータ基盤も存在します。

日本国内では、国レベルの分野間データ連携プラットフォームの構築が進められています。一般社団法人データ社会推進協議会(DSA)が推進する「DATA-EX」は、分野を超えてデータの発見と利用を可能とする、技術的および社会的なプラットフォームです。前述のGAIA-Xなどの海外のプラットフォームと連携し、定期的な情報共有も行っています。

欧州や米国が他国に先駆けてデータ基盤の構築に巨額の投資をしてきた背景もあり、データ基盤の構築は欧米を中心に進められていますが、日本もDATA-EXの構築をもって対等な国際連携を図ることが強く望まれています。デジタル社会の理想的な将来は、各国が地球および社会のデータを共有し、自ら分析・解析・判断し、自己決定をして活動できる「自律分散型」の社会と思われます。緊急時のプロトコルが考慮されていないなど大きな課題はまだありますが、「イノベーションの民主化」を実現するためにも、「自律分散型」の社会に不可欠なデータ共有を実現し、誰もが低コストでアクセスできる基盤の実現が急がれます。

第2部は東京大学未来ビジョン研究センターの江間有沙准教授のリードのもと、第1部の配信内容を基にディスカッションを実施しました。今回の研究会も、企業や政府機関でAIの利活用に関わる方々にご参加いただきました。

利用者数が急増している対話型生成AIに関して、今後どのようなことが起き得るのでしょうか。「ヒトがこれまで自然界を観測してさまざまな事象を学んできたのと同様に、AIが自然界を観測してデータを生成するかもしれない」というような意見もありました。例えば、放物線の運動をAIが観測し、それを抽象化した方程式というデータを生成するなど、ヒトが成し遂げるのに多大な時間を費やしてきた作業を、短時間で行うことが考えられます。

また、生成AIの活用により今後のビジネスも変化しそうです。これまでは各企業が個別のソフトウェアやシステムにより大きな価値を生んでいましたが、対話型生成AIの登場により、そのような個別なシステムやソフトウェアの価値が希薄になるかもしれません。汎用的な対話型生成AIをそれぞれの分野で学習をさせれば、個別のシステムやソフトウェアは不要になることも考えられます。その場合、IT・ソフトウェア業界が大きく変わる可能性があります。

現在、世界中で活用されているAIに関するプラットフォームの多くが欧米の企業から提供されており、日本国内では著作権などに関する法整備が整っていません。そのような中、日本はどのように国益を守っていけばよいのでしょうか。AIのメインプレイヤーであるメガテック企業も、実は世界中の一部のデータしか保有しておらず、大部分のデータは各企業や各組織が保持しています。例えば、そのようなメガテック企業が日本で交通サービスを提供しようとしても、日本国内の交通データを十分に保持していないため、すぐに実現することは難しいでしょう。このような日本固有のデータや業界・分野におけるビジネスのユニークな価値を認識し、プラットフォームを活用できるような方向を目指すべきとの意見が出ました。

今回は、データの民主化の進捗状況や進めるうえでの課題について、DFFTの実現に向けた理想や考え方、取り組み状況などをテーマに、参加者の方々と議論を行いました。「データはあらたなタイプの資源である」と言われて久しいですが、「データを制するものは経済を制する」ことから、データの扱い方について私たちは慎重に考える必要があります。各国との対等なやり取りが確保できないままデータが国外に流出してしまったり、日本企業が欧米の法案により経済的な損失を受けてしまったり、各企業や組織がデータの価値を認識せず不意に廃棄してしまったりするなどの不利益が生じないよう、情報のアップデートや共有を行うことが重要です。

生成AIの台頭により、「AI活用の民主化」も進みつつあります。今後、AIモデルの品質評価や第三者によるチェックがより重要になりますが、次回は「AIモデルの管理および品質保証」というテーマで議論します。

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.dataService.numberHits}} {{contentList.dataService.numberHits == 1 ? 'result' : 'results'}}
{{contentList.loadingText}}

詳細をご希望の方は下記よりご連絡ください