【開催報告】CHROラウンドテーブル2024

人的資本経営時代におけるカルチャー変革のキーアジェンダ

  • 2024-11-25

2024年7月、PwCコンサルティング合同会社はCHROを対象としたイベントを開催しました。「価値創造経営を実現するための人的資本経営の未来―組織カルチャーをキーにした変革―」と題したこのイベントには、日本国内で人的資本経営に取り組む先進企業のCHROや人事責任者27名が一同に介し、実際に人事戦略を指揮するCHROのパネルディスカッションや、人事戦略のプロフェッショナルの講演、参加者によるディスカッションなどが行われました。

講演では、PwCコンサルティングのパートナー 喜島忠典が、人的資本経営と組織カルチャーの関係性をテーマとして、カルチャー変革に取り組む際のポイントを解説しました。

登壇

PwCコンサルティング合同会社
パートナー
喜島忠典

組織カルチャーの変革が企業価値向上につながる

PwCコンサルティング合同会社 パートナー 喜島忠典

企業価値を持続的に向上させていくためには、経営戦略と人事戦略を連動させるとともに、社員の能力や意識を変えていくことが求められます。その変革の土壌となるのが、組織カルチャー(以下、カルチャー)です。これは人材戦略を実行していく中で構築されるものであるため、人材戦略を策定する段階で、企業としてどのようなカルチャーを構築したいかを明確にし、そのための施策を経営層や人事部門が中心となって考える必要があります。

「カルチャーとは何か?」という問いに対する答えはさまざまですが、PwCでは「行動、感情、思考、信念のパターン」と定義しています。つまり、こういう環境ではこういう行動をする、こう考えるなど、組織に属する人がどのように物事を行うかを決める判断・行動のパターンがカルチャーということです。

カルチャーは、組織のリーダーが「チャレンジする(または、しない)」「リスクテイクする(または、しない)」といった判断や行動を積み重ねることにより、それがメンバーに浸透し、確立されていきます。企業を成長させていきたいと思う反面、部門内で新しい挑戦が生まれない、社員の意識が変わらないといった課題がある場合、その原因はすでに深く根付いているカルチャーにあるといえます。

カルチャー変革において陥りやすい危機

カルチャー変革を実現するために、1on1やワークショップといったさまざまな施策を一気呵成に行うケースが見られます。もちろん施策を開始した当初は一定の効果が見られるのですが、続けているとすぐに社員の”飽き”が生まれ始め、変革の推進力自体が尻すぼみになってしまうのはよく見かける光景です(図表1)。

図表1 カルチャー変革のチェンジカーブ

大事なのは、新施策やイベントを行うこと自体を目的にしないことです。カルチャー変革で意識したいのは、施策やイベントを通じて組織の「当たり前」の水準を徐々に高めていくことです。その意味では、最初の山を乗り越えただけでホッとしたり、満足したりすることなく、持続的に新しいチャレンジや取り組みを提示することで、カルチャー改革の成果を生み出すことができるのです。

目指すカルチャーが実現されている度合いを図るためにエンゲージメントスコアを活用するケースが多くあります。しかし、スコアを高めるために「不満を引き起こしそうな要素」を徹底的に潰した結果、かえって“ぬるま湯”のような挑戦に乏しい環境が形成されてしまうお悩みも最近よく見ます。これではスコアは高くても、「いきいきと働ける」というポジティブさではなく、「特に不満はないだけ」という停滞感をもたらしかねません。組織が大きく動いたり、成長しようとしたりするときには、チェンジマネジメントの観点でいうと、むしろ不満や衝突が「健全な成長痛」として発生することもあります。エンゲージメントスコアが高いからといって自社にとってベストなカルチャーが実現されていると判断するのは尚早でしょう。

組織カルチャーの変革をもたらす4つのキーアジェンダ

カルチャー変革の取り組みにおけるキーアジェンダは、大きく4つに分けられます。

1つ目は、組織として目指すカルチャーの解像度を高めることです。

カルチャー変革を推進する際に「チャレンジ」「自立」「チームワーク」などをキーワードに掲げることがあります。

ただ、考え方は正しくても、それらのキーワードが意味することは曖昧で抽象的なことが多く、組織で共通のイメージを共有できていることは多くありません。これではカルチャー変革の最初の一歩からつまずいてしまっていると言っても過言ではありません。社員がその考えに共感しなければ変化は起きません。目指すカルチャーの解像度を高めることによって社員が共感できる状態にすることが重要なのです。

2つ目は、論理系ドライブと感情系ドライブを従業員の目線で統合することです。

PwCの研究では、カルチャーの構成要素を「論理系」と「感情系」に分けて整理しています(図表2)。論理系は、ガバナンス、意思決定の権限やプロセス、人事制度、KPIといった企業経営におけるフォーマルな要素を指します。組織力を高めていくためには、これらのフォーマルな要素を理解し、遵守する行動を推進していく必要があります。

一方の感情系は、パーパス、ビジョン、仕事に対する誇り、人間関係といったインフォーマルな要素を指します。その多くはルールとして明文化されていません。しかし、これも組織力を高めていくために重要で、社員には感情面でのコミットメントを促していくことが求められます。

図表2 カルチャーの構成要素

カルチャーの変革や再構築では、そのための打ち手がどちらかに偏らないようにすることが重要です。また、今の自分たちのカルチャー構築が論理系と感情系のどちらに寄っているか、どの要素がカルチャーに影響しているかを見極めて、そこを出発点として変革していくポイントを絞り込んでいく必要があります。自社のカルチャーに影響している要素と、さらに影響力を高めたい要素を明確にすることで、漠然とした内容に終始しがちな議論を具体的にすることができます。

一般的に、大手企業などのカルチャー変革はトップダウンによる論理系の要素を中心に行われます。仕組み、制度、管理などを固めて、ルール重視で社員の行動を変え、カルチャーを変えようと考えるのです。しかし、感情系を無視した施策はうまくいきません。カルチャーを醸成するのは現場のメンバーであるため、従業員の目線に立って、個人として感じる誇り、キャリアパス、チームと協業する姿勢といった、感情を伴う要素に向き合うことが不可欠なのです。

3つ目は、個人の人材価値だけではなく組織力を高めるための投資を行うことです。

個人の人材価値を高める施策は大事です。しかし、それが必ずしも組織力の向上につながるとは限りません。個人の能力向上がそのまま組織力の向上につながるという単純な話ではないということは理解しておく必要があるでしょう。個人の能力を高める原動力を組織アセット、能力を制限するものを組織負債とすると、企業はその両方を持っているはずです。その観点で、まずは何が個人の能力を向上させているか、何が足を引っ張っているのかを整理する必要があります。

その上で、組織負債を軽減し、なくしていくことで組織力が高まりやすくなり、それがカルチャー変革につながります。

4つ目は、カルチャー変革のラストワンマイルを埋めることです。カルチャー変革では、「誰もが重要性を理解しているはず」「現場に任せれば大丈夫」などと考え、変革に取り組む個人のフォローが手薄になることがあります。このような詰めの甘さ、つまりラストワンマイルが放置されることによって変革を完遂できなくなってしまうのです。

ラストワンマイルを埋めるためには、全体に向けたワークショップや研修を行うだけでなく、社員一人ひとりが変革の重要性を理解し、日々の業務を変えていけるようにしなければなりません。そのための施策として、PwCコンサルティングは目に見えにくい現場力を着実に向上させるためのプログラムを提供しています。また、カルチャー変革の取り組みが業務のスピード、生産性、エンゲージメントなどにどれくらいの効果をもたらしているかを測定し、より大きな効果を生み出すための計画の見直しも行っています。

カルチャー変革は組織と人の両面でさまざまな要素を変えていかなければならず、その領域も広いことから、一朝一夕で実現できるものではありません。これらは人事部門にとってチャレンジングな取り組みです。しかし、人的資本経営が重視される時代においては、着手しなければならず、やり遂げなければならない課題なのです。

主要メンバー

喜島 忠典

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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