【開催報告】CHROラウンドテーブル2024

人的資本経営先進企業CHROパネルディスカッション みずほFG×富士通×中外製薬×PwC

  • 2024-11-11

PwCコンサルティング合同会社は、「価値創造経営を実現するための人的資本経営の未来―組織カルチャーをキーにした変革―」と題したCHROラウンドテーブルを2024年7月に開催しました。当日は日本国内で人的資本経営に取り組む先進企業のCHRO・人事責任者27名が参加し、活発な意見交換がされました。

本リポートでは、イベント内で日本の人的資本経営をリードする3社のCHROを招聘(しょうへい)して行われたパネルディスカッションの内容を紹介します。

登壇者

株式会社みずほフィナンシャルグループ
執行役グループCHRO兼
グループCDO
上ノ山 信宏氏

富士通株式会社
取締役執行役員
SEVP CHRO
平松 浩樹氏

中外製薬株式会社
上席執行役員
人事、ESG推進統括
人事部、ESG推進部担当
矢野 嘉行氏

モデレーター

PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー 組織人事コンサルティングリーダー
北崎 茂

改革は社員を巻き込んで実行する

北崎:
今回のパネルテーマは「日本企業における人的資本経営の課題とこれから」です。本日集まっていただきました各社は国内でも先進的な取り組みを行っており、そのなかで生まれている課題や今後の方向性について、詳しくお話を伺いたいと思います。まず、みずほフィナンシャルグループでは価値創造の源泉である人材を持続的に強化することを目指し、人事の新たな枠組みとして人事運営改革に「かなで」と名称をつけて取り組んでいますね。

上ノ山:
はい。「かなで」は、人事運営改革によって実現するCo-Creation(共創)、Authenticity(信頼がおけること)、Nurturing(育成)、Agility(機敏性)、Diversity(多様性)、Equity(公平性)& Inclusion(包括性)、Engagement(働きがい)の頭文字をとったものです。

これらをテーマとして議論を進め、「働きやすさ」と「働きがい」を感じながらいきいきと働くための改革を進めています。銀行業は半世紀前の人事制度を維持しているところが多いのですが、これで良いのかと課題意識を持ったことが改革のきっかけです。「かなで」を通じて、みずほで働く一人ひとりが「自分らしく」あることを実現できる人事を目指す姿に掲げています。

北崎:
変革を進めていくためのポイントはどこにあると思いますか。

上ノ山:
社員には「かなで」のコンセプト、制度、個々の運用について伝え、制度の使い勝手、分かりやすさ、コンセプトと実態のずれ等に対するフィードバックをもらいながら一緒に改革を進めていくことにしました。人事部門として大きな柱を立てるとともに、社員も巻き込みながら取り組めるようにすることが重要だと思います。

人材ポートフォリオが変革のカギ

北崎:
富士通では、DX企業への転換を目指し、その柱として人的資本経営を推進されています。まさに、近年の日本企業において課題とされている事業戦略と人的資本の連動がポイントになると推察しますが、その内容について伺えますか。

平松:
富士通の人事改革は、2019年に「IT企業からDX企業への転換」を経営方針に掲げたことが1つのきっかけとなりました。DX企業となるためにはカルチャーやケイパビリティー(能力)を全て見直し、改革していかなければなりません。会社の戦略やビジョンと各人事施策が体系的につながっていることに、経営層・社員・投資家のそれぞれが納得していることが重要です。その考えのもと、人的資本価値向上のストーリーを整理し、その内容に沿って各種施策を実行しています。

北崎:
改革を進めていくために特にどのような取り組みを重視しているのですか。

平松:
DX企業となるための人材ポートフォリオを明確にし、現状とのギャップを埋めていくことを重視しています。事業を大胆に変える人材ポートフォリオを描き、最適な人材ポートフォリオを実現するためにはどのようなギャップを埋める必要があるかを継続して議論しています。そのために、また、目指す姿を社員と共有し、キャリアオーナーシップを持ってもらえるよう、社員の自薦によるポスティング制度を整備しています。

3つの「個」で人財マネジメントを変革する

北崎:
中外製薬でも、2030年に向けた成長戦略との連動を主眼として新しい「人財マネジメント方針」を掲げられていますが、どのように取り組んでこられたのでしょうか。

矢野:
私たちはヘルスケア業界のトップイノベーターを目指し、2030年までに世界最高水準の創薬と先進的な事業モデルの構築を実現しようとしています。これはチャレンジングな目標であり、強みの深化と、既存の事業モデルや自前オンリー主義を変えていくための探索を両立していくことが求められます。人事部門のテーマとしては、従来の延長線ではなく10年、20年先の未来を見据えながら事業に求められる人材像を描き、組織パフォーマンスの向上につなげなければなりません。

北崎:
特に「個」に焦点を充てた取り組みは興味深いものがあります。その狙いについて教えていただけますか。

矢野:
人事部門では、「3つの個」という「人財マネジメント方針」を打ち出しています。社員個々人が企業の成長戦略とシンクロしたキャリアを描く(個を描く)、社員の自主性と挑戦によって専門性を強化する(個を磨く)、そして、社員が能力を十分に発揮できる環境を整える(個が輝く)ことが重要と考えています。

北崎:
ありがとうございます。各社のビジネスのありように応じた様々な狙いや戦略を伺いましたが、ここからは、戦略実行にあたって各社が直面した課題や、今後の展望について掘り下げていきたいと思います。

左からPwCコンサルティング 北崎、みずほフィナンシャルグループ 上ノ山氏、富士通 平松氏、中外製薬 矢野氏

危機意識の醸成こそが人的資本経営実現のカギ

北崎:
各社で行われている取り組みは、従来の人事部門のあり方から大きな転換を必要とするものと思います。一方で日本企業では、従来の役割の延長線上で人的資本経営に取り組む傾向が少なからず見られますが、皆様がこうした転換に乗り出したきっかけはどういうものだったのでしょうか。

PwCコンサルティング合同会社 執行役員 パートナー 組織人事コンサルティングリーダー 北崎 茂

上ノ山:
みずほの場合、大規模システム障害が大きなきっかけの1つにあげられます。社内に大きな危機感が生まれ、同時にエンゲージメント(働きがい)にも揺らぎが起きました。それが、社員との向き合い方を考える大きなきっかけになったのです。金融業では人材は重要かつ希少な経営資源です。そのことを改めて会社が再認識し、そこから改革が進んでいったのです。

株式会社みずほフィナンシャルグループ 執行役グループCHRO兼グループCDO 上ノ山 信宏氏

平松:
富士通では業界全体として人材獲得の競争が激化する中、外資系企業に人が流れていく傾向が強くなり、経営としても改めて人的資本の価値に重点を置くようになりました。その際、会社としてDX企業への転換を打ち出し、人事改革は一気に進んでいきました。また、新型コロナウイルス禍を経て、働く環境や意識の変革も同時に行うようになりました。実際に改革を進めてみると意外に変われると気づいたことも、人事戦略を推進していくきっかけになったと感じます。

富士通株式会社 取締役執行役員SEVP CHRO 平松 浩樹氏

矢野:
人の成長は研修だけでは実現できず、業務を通じて苦労や修羅場なども含めた経験を積まなければなりません。そのような認識を持ったことが人事改革のスタートにつながっています。例えば、親会社であるロシュとの人材交流でグローバルでの経験を積むことができ、それがマネジャーを大きく成長させています。こうした実践的な学び・成長の場を計画的にもたせることで強い組織を作り出していく取り組みを進めています。今は、先々の成長を実現していくためにどのような人材が必要か、どう育てるかを(目標から必要なものを逆算する)バックキャストで考え、それを実行に移していくことが重要だと考えています。

中外製薬株式会社 上席執行役員 人事、ESG推進統括 人事部、ESG推進部担当 矢野 嘉行氏

変化を続ける人的資本経営と人事部門の役割

北崎:
お話を伺っていると、既存ビジネスでの課題や労働市場の変化など、企業が競争力を維持するために、組織カルチャーも含めた人的資本の変革を進めなければならないという危機感を、人事のみならず、経営陣も含めて醸成できることがポイントになるのだなと感じました。最後に、各社での今後の展望や、これからの人 事部門のあり方についてお話しいただけますでしょうか。

上ノ山:
人事は経営の一翼を担う部門で、その本質は企業として持続的に稼ぐ力を高め、企業理念の実現に貢献することだと考えています。そのための取り組みは主に事業戦略で語られますが、収益を生み出すためのリソースの追加、入れ替え、育成などの議論は抜け落ちがちです。社員側も「人事は会社任せ」という受け身の姿勢になりやすいので、人事部がしっかりと社員一人ひとりが主役となるよう支援していく必要があります。

平松:
既存の人事戦略は新卒で一括採用した人材が長く定着することを大前提とし、今いる人材ありきで成長を考える傾向が強いと感じます。日本では雇用規制の観点から人材の流動性が急激に高まることは考えにくいですが、マーケットを見ながら事業の方向性を見定め、理想的な人材ポートフォリオを構築するための投資を続けることが重要だと考えます。

矢野:
私たちが追求したいのは、社員の主体性を高め、自律的に行動する人の集団へと変貌していくことです。そのためには、私たちが目指す2030年の姿を共有した上で、上司からの指示で動くだけではなく、自分で考えて行動を起こす、課題を見つけられる人材に育てていくことが求められます。また、経営と人事と事業部門 が三位一体となって取り組むことも重要です。経営はメッセージを発信して、企業として人的資本経営に注力していることや、どのような人材を必要としているかを語らなければなりません。事業部門はその方向性を受けて人材ポートフォリオを考え、人事が制度運用やカルチャーの変革をサポートします。私たちもまだスタートしたばかりですが、この体制での取り組みを追求していきたいと考えています。

北崎:
実際のところ、人的資本経営は、単純に外部要請に対する対応程度と考えるに留まっている企業も少なくないと感じます。今回のお話が、日本企業の人的資本経営に対する意識・位置づけを変えるきっかけとなればうれしく思います。本日はどうもありがとうございました。

当日はパネルディスカッションのほか、組織カルチャーに関する講演や参加者間でのディスカッション等が行われました。

PwCは今後も日本企業の人的資本経営の進化を後押しするべく、様々な情報発信を行っていきます。

主要メンバー

北崎 茂

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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