【講演レポート】「競争有意」の時代を生き抜く、事業領域とビジネスモデルの探り方

2024-07-30

変化の大きい時代だからこそ、マクロの視点で流れを読み、自社の戦略に落とし込んでいくことが、かつてなく重要になっている。だが、不確実な未来を見通して、変革のプランを描くのは容易なことではない。そこでPwCでは、メガトレンドから見た改革の9つのポイント、ビジネスモデル変革の6つのタイプなどを定義し、企業に指針として提供している。PwCコンサルティングの3人のリーダーがその内容を解説し、持続的な成長への勝ち筋を読み解く。

(本稿は、ダイヤモンド社が主催したオンラインセミナー「持続的な成長を実現する企業戦略」から、PwCコンサルティングによるセッション「変化する世界と成長のために取り組むべき変革」の内容を抜粋したものです)

メガトレンドから見えてくる企業変革のポイント

PwCでは毎年、「世界CEO意識調査」を実施している。最新の調査結果からは、世界のCEOが経済回復に期待を高める一方、インフレやマクロ経済の変動などを経営上の脅威と認識していることがわかった。セッションの冒頭では、PwCコンサルティング 専務執行役 パートナーの桂憲司氏が、日本企業のCEOの回答と変革意識を紹介。PwCコンサルティングのシンクタンク部門であるPwC Intelligence チーフエコノミストの片岡剛士氏が、メガトレンドから見る「これからの世界」と企業に求められる改革について、そのポイントをまとめた。

桂:PwCの第27回世界CEO意識調査(2023年10〜11月実施)から日本企業のCEOの回答を見てみると、「今後3年間における自社の売上成長見通しについて、どの程度自信を持っているか」という質問に対して、「極めて強い自信がある」「非常に自信がある」「ある程度自信がある」という回答の割合が合わせて71%となっており、多くのCEOが足元の自社業績をポジティブにとらえています。

一方で、「現在のビジネスのやり方を変えなかった場合、経済的にどの程度の期間存続できると考えるか」という質問では、10年未満という回答の割合が64%で、世界全体の45%に比べてかなり高くなっています。日本のCEOは将来に対する危機感が強く、長期的な存続のために何らかの変革が求められると認識していることがうかがえます。

片岡:私たちPwC Intelligenceでは世界のメガトレンドとして、「気候変動」「テクノロジーによるディスラプション(創造的破壊)」「人口動態の変化」「世界の分断」「社会の不安定化」の5つを挙げています。

こうしたメガトレンドによって「これからの世界」はどうなっていくのかを予測すると、低インフレから高インフレへ、低金利から高金利へ、新興国の台頭から成長の収束へといった流れが見えてきます。

では、このような変化の中で「これからの企業」に求められる改革は何かを考えると、「国内回帰」「供給源多極化」「インフラ優位」など9つのポイントが浮かび上がりますが、なかでも私が強調したいのは「競争有意」です。

日本ではデフレが長く続きましたが、デフレは貨幣の価値を高め、相対的にモノの価値、モノをつくり出す人の価値を低下させます。このため、コスト削減が優先され、リスクを取った前向きな投資を控えさせ、安定重視の横並び経営が強まる傾向にありました。

しかし、インフレ下では逆に貨幣の価値が相対的に低下し、モノや人の価値が高まります。人が創造力を発揮し、最高水準の財・サービスを生み出せば、新たな顧客や市場を獲得できるチャンスが大きく広がります。つまり、個性を発揮して競争することがあらためて大きな意味を持つわけです。その観点から、競争有意という言葉を使っています。

差別化による競争があらためて大きな意味を持つ中で、企業は変革の戦略をどう描くべきなのか。「これからの世界」「これからの企業」の流れを戦略に落とし込むうえでカギとなる2つのコンセプトを、PwCコンサルティングの戦略コンサルティングサービスを担うStrategy&のリーダーであり、パートナーの服部真氏が紹介する。

クロスインダストリーの視点で、ビジネスモデルを“再発明”する

服部:日本企業の歴史をひも解くと、特定の事業領域において改善を積み重ねて、小さな差別化を図ることは得意なのですが、それだけを続けているとやがて過当競争に陥ります。ですから、真の差別化によって新しい市場を創造していく必要があるのですが、食品、電力、物流、小売りといった事業領域をマップに落とし込んでいくと、まったく白紙の領域を見つけ出すのは難しいのが現実です。

そこで私たちが提唱しているのが、事業領域が重なる部分に新たな機会を見出す「X-Industry」(クロスインダストリー)の視点を持つことです。

たとえば、今後EV(電気自動車)が増加していく中で、再生可能エネルギーの発電量が落ちた時に供給を補う調整電力として、EV用バッテリーを電力系統に統合するVGI(Vehicle Grid Integration)などの新領域が生まれます。そこでは、分散電源をまとめて管理し、需給調整を図るアグリゲーションが新たな価値を生み出しますし、バッテリーの充電・交換サービス、中古バッテリーのメンテナンス・流通といったバッテリーライフサイクルビジネスも広がっていくでしょう。モビリティとエネルギーが重なる領域で、事業機会がどんどん生まれると考えられます。

このような事業領域の質的変化を的確にとらえて、自社の競争優位性を高めるビジネスモデル変革を、私たちは「Business Model Reinvention」(ビジネスモデル・リインベンション)と呼んでいます。

ビジネスモデル・リインベンションには、従来の製品や資産をオンデマンド型サービスへと変容させる「XaaS」(Anything-as-a-Service)、アナログまたはデジタル製品をコネクテッド製品へ移行し、パーソナライズされた製品・サービスを実現する「フィジカル/コネクテッド製品」、新たなチャネルを構築して顧客と直接つながる「チャネル・ディスインターミディエーション」など、大きく6つのタイプが挙げられます。

これら6つのタイプに共通しているのは、テクノロジーが欠かせない要素となっていることです。

桂:まさにそうですね。かつてはビジネスとして実現したいことが先にあって、実現する手段としてどういうテクノロジーを使うかを検討するという順番でしたが、いまは進化したテクノロジーを起点にして新しいビジネスモデルを構築する時代になりました。

そうしたテクノロジー起点のビジネス変革に必要な2つの視点があります。一つは、戦略立案を担う人がテクノロジーの知見を養い、テクノロジーの専門家がテクノロジーを使いこなすことで、どのようなビジネスモデルを実現しうるかを考察するといったように、みずからの専門性と新たな技術を結びつける多角的な視野とビジネスへの応用力を持つことです。

もう一つは、メガトレンドに象徴される社会やビジネス環境の大きな変化を予見、俯瞰して、ビジネスチャンスやリスクを深く洞察することです。

企業としては、そうした専門家たちの知を統合し、戦略の構築、施策の実行に活かしていくケイパビリティが求められる。PwCでは、それを「統合知」と呼び、統合知による変革を支援している。

PwCの統合知と企業の知をかけ合わせる

片岡:不確実性が高まっている時代だからこそ、マクロからの視点で大きな流れを読み、個社の戦略に落とし込んでいくことがいっそう重要になっています。

そうした中で、PwCでは特定分野の専門性だけに頼るのではなく、さまざまな専門性をかけ合わせた統合知による総合的な意思決定の支援を企業経営層に対して行っています。

PwC Intelligenceは「マクロ経済」「地政学」「サステナビリティ」「サイバーセキュリティ」「テクノロジー」という5分野の専門性を統合することによってマクロ環境の変化と企業への影響を見定め、そこにストラテジーコンサルティングのStrategy&の知をさらに統合して、企業目線に立った情報提供や支援を推進しています。

私たちから一方的に洞察を提供したり、変革に向けた施策を提案したりするのではなく、企業経営層の皆さんと一緒に議論しながら互いの知をかけ合わせ、産業の未来や企業の勝ち筋を探究するのがPwCのアプローチです。ですから、経営層の方々との協働の機会をこれまで以上に増やしていく必要があると考えています。

服部:マクロレベルのトレンドを自社の経営戦略にそのまま落とし込むのは難しいですから、段階を分けて議論していく必要があります。私たちは、マクロトレンドと個社戦略の間に産業レベル、あるいは消費者の生活レベルといったセミマクロの視点を挟むことを推奨しています。そうすることによって、PwC IntelligenceとStrategy&、そして企業経営層の方々がより効果的に協働することができます。

片岡:マクロからセミマクロへの分岐点、セミマクロからミクロへの分岐点で複数の戦略シナリオと実行オプションが浮かび上がりますから、PwCと企業経営層との統合知によって可能性を探り、意思決定の精度を高めることが、大きな意義を持ちます。

桂:マクロからミクロへの一方向だけではなく、ミクロからマクロへという視点も持ちながら、変化をとらえることが大切です。そして、自社の置かれている状況と照らし合わせて、社会の未来に対してどういう価値を提供しうるかを見極める。それが変革の成否を左右します。

服部:そうですね。それに加えて、みずから変革を起こす姿勢を持ち続けることが重要です。ビジネスモデル・リインベンションに挑むことで、自社の既存事業がディスラプションされる可能性もありますが、長期的には成長につながります。

既存の事業領域の中で、これまで通りビジネスを続けるのは、ある意味で心地いいことかもしれませんが、未来の成長機会を見逃すことになると思います。

桂:自己否定を恐れず、新しい世界に飛び込む勇気を持つ。それは、社会、企業、個人のいずれにおいても、成長のための必須条件といえそうです。

プロフィール

桂 憲司

PwCコンサルティング 専務執行役 パートナー/PwC Japanグループ オファリング&プラットフォームリーダー

PwC Japanグループおよびコンサルティング部門におけるストラテジー、トランスフォーメーション、テクノロジー、リスク、デジタルなど全体のサービスおよびプラットフォームの責任者。各業界部門の日本における統括責任者、新興国進出支援室室長などを歴任後、東南アジアにおける日本企業のコンサルティング業務を統括。2018年に帰国後、デジタル領域のビジネスを統括するテクノロジーコンサルティング事業部長を務め、2022年7月より現職。

片岡剛士

PwCコンサルティング PwC Intelligence チーフエコノミスト

1996年に三和総合研究所に入社し、2001年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程(計量経済学専攻)修了。2017年7月から2022年7月まで日本銀行政策委員会審議委員を務める。2022年8月にPwCコンサルティングのチーフエコノミストに就任。著書に『日本経済はなぜ浮上しないのか』(幻冬舎、2014年)、『円のゆくえを問いなおす』(ちくま新書、2012年)、『日本の「失われた20年」』(藤原書店、2010年)など。

服部 真

PwCコンサルティング Strategy& リーダー/パートナー

Strategy&の日本におけるリーダー。海外参入戦略やアライアンス/M&A(合併・買収)などのテーマを中心にコンサルティング経験を有する。近年は日本企業の海外進出案件を多く手がけ、アジア、南米、アフリカ市場などを対象としたプロジェクトをリードしている。対象業界は総合商社、消費財、産業財、サービス、エネルギーなど多岐にわたる。ソニー(現ソニーグループ)、ブーズ・アンド・カンパニーを経て現職。

※当記事は、2024年5月30日にDIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュータイアップ広告として公開した記事を同社の許諾を得て転載しています。

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主要メンバー

桂 憲司

副代表執行役, PwCコンサルティング合同会社

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片岡 剛士

チーフエコノミスト, PwCコンサルティング合同会社

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服部 真

Strategy Consulting Leader, PwCコンサルティング合同会社

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