~キャリア自律、従業員エンゲージメント向上の実現に向けて~

【開催報告】真の人的資本経営を実現するためのHR Transformation

  • 2024-07-03

デジタル技術の進化、価値観や働き方の多様化、少子高齢化による労働力不足といった課題を解決していくために、人的資本経営の注目度が高まっています。

人的資本を最大化するために、従業員一人ひとりが自分のキャリアパスを持ち、スキルを自律的に伸ばして発揮していく組織へと変革していくことが求められます。企業側はそのための環境を整備し、事業戦略に基づく組織と従業員の成長を実現していくことが必要とされています。

このような背景から、2024年4月25日、PwCコンサルティング合同会社は人的資本経営をテーマとするオンラインセミナー(ビジネス・フォーラム事務局主催)に登壇しました。

セミナーでは、人材の育成や活用に関する知見をもつゲストと、人事分野の支援を専門とするPwCコンサルティングのメンバーによる講演と対談を通じて、人事の変革(HR Transformation)をもたらすためのポイントを提示しました。

第1部

第1部は「従業員との共創(コ・クリエーション)による企業価値向上」と題し、スターバックス コーヒー ジャパン(以下、SBJ)人事本部から久保田美紀本部長に登壇いただき、同社の人的資本経営の実現に向けた取り組みを紹介していただきました。

スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
人事本部 本部長
久保田 美紀 氏

「人」を通じてイノベーションを生み出す組織と文化づくり

SBJの人的資本経営には2つのポイントがあります。

1つ目は、SBJでは一緒に働く仲間のことをパートナーと呼び、パートナーと会社が一体となり会社をより良くしていくコ・クリエーション(共創)活動を大事にしています。
経営は上位職者のみが生み出すのではなく、店舗で働くパートナーも一員となって生み出すものである、というのがSBJの基本的な考え方です。そのため、パートナーには店舗業務のみならず組織運営への参画を促し、問題意識を持った時には対立を恐れることなく経営に伝えるマインドセットを醸成することによってコ・クリエーション(共創)を実現しようと取り組んでいます。

2つ目は、ミッションに基づく価値観の共有と共鳴です。ミッションにある「人と人とのつながりが生みだす無限の可能性を信じ、育みます」という一文に強いこだわりが込められています。また、「つながりを通じて、多様性あふれる心を豊かな地域・社会を日本中に創造する、唯一無二のブランドとなる」という10year Vision(図表1)を掲げ、自分たちのありたい未来の姿を明確にしています。

図表1:スターバックス コーヒー ジャパンのビジョン

図表1 スターバックス コーヒー ジャパンのビジョン

出典:「従業員(パートナー)との共創(コ・クリエーション)による企業価値向上」講演資料より

これらに共通しているのは、人や社会とのつながりです。その価値を重視し、組織としては「Why We Are Here」、パートナー個人の視点では「Why I Am Here」を問いながら、会社と個人が大事にしているものをすり合わせる施策を人材マネジメントに組み込んでいます。また、ミッションやバリューを通じて強いエンゲージメントとオーナーシップを生み出しながら事業を展開していくことがSBJの人的資本経営の本質です。

企業文化を形成する人材マネジメントの仕組み

SBJは、正社員とアルバイトを合わせて6万人を超える大規模な組織であり、創業から27年の歴史の中では、SBJで働いた経験を持つ人の数は20万人以上に及びます。このネットワークを活性化していくことがSBJの人的資本経営の特徴であり、競争優位性の源泉になっています。

そのための人材マネジメントには4つのアプローチがあります(図表2)。

1つ目は、パートナーと利用者にとってより良い環境を作るためのコミュニケーションスキル(SBJではスタースキルと呼びます)を高めていくことです。そのためのポイントとして、相手の話を真剣に聞き理解する努力を怠らない、困った時には助けを求める、自信を保ちさらに高めることに重点を置いています。

2つ目は、個人単位ではなく、チームで優秀な成果を出すためのパフォーマンスマネジメントです。そのための取り組みとして、日常業務の目標設定をするだけにとどまらず、タイムリーな行動観察、フィードバック、コーチングの繰り返しを重視しています。

3つ目は、Growth Mindsetを育む日常の対話です。個人には先天的な資質と未来に開発可能な能力があると考え、後者に目を向けて自律的な成長を促すGrowth Mindsetを提唱しています。

4つ目は、ミッションとバリューに基づく行動への称賛です。これはパートナーが他のパートナーの行動について自分の目でみて感じたことを言葉で称えるもので、一般的にはサンキューカードに代表される取り組みです。例えば、店長からアルバイトへ、またはアルバイト同士などでメッセージカードを送り合うことで、働く環境をより良くしていくとともに、ミッションやバリューに即した行動を高めあうことを狙いとしています。

これら4つの人材マネジメントのアプローチを通じて行動強化を促し、一人ひとりの自己効力感(自分には目標を達成する能力があると認知すること)を高めていくことがSBJの人的資本経営の特徴です。

図表2:スターバックス コーヒー ジャパンにおける人材マネジメントの仕組み

図表2 スターバックス コーヒー ジャパンにおける人材マネジメントの仕組み

出典:「従業員(パートナー)との共創(コ・クリエーション)による企業価値向上」講演資料より

第2部

第2部は、PwCコンサルティングの角田直が「Skills Centric HR~キャリア自律を支える人事への変革~」をテーマとする基調講演を行いました。

PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー
角田 直

自律的な成長を促す

講演のテーマに掲げたキーワードは「Skills Centric」、つまりスキルを中心とした人的資本経営を実現するための施策を設計し、実行していくことです(図表3)。

スキル管理に関しては、多くの企業が人材開発やキャリア開発をキーワードとする研修や育成コンテンツを提供するといった施策を考えます。しかし、重要なのは従業員自身の自律です。従業員一人ひとりが自分のキャリア形成に責任を持ち、主体的に歩んでいくこと、そして、企業では人事部門が中心となりそのサポートをしていくことが重要です。

7:2:1の法則(仕事上の成長は7割が業務経験、2割が周囲からのフィードバック、1割が研修などのトレーニングによるものであるという法則)にもあるように、企業側が提供した研修が従業員の成長に与える影響は1割程度と限定的です。この法則を踏まえると、スキルアップのための研修も重要ですが、その1割に注力するのではなく、上司が部下のスキルやキャリア希望の現状を正しく把握し、日々のタスクのアサインやコーチングに重点を置く必要があります。加えて、従業員自身がキャリア形成を自律的に、自分の意思でコントロールしていくように促していくことが肝要です。

図表3 Skills Centricによる人材マネジメント

スキルの過不足を把握する仕組み

Skills Centricで人材育成を進めていくためには、スキル管理のフレームワークが必要です。

人材育成に課題を持つ企業では、部門単位のスキル管理にとどまっているケースが多く、企業として求めている人材のタイプやスキルの定義ができていないことがあります。また、スキルの定義がないことで外部市場と比較するための指標が不明瞭になるため、採用時のミスマッチが起きることがあります。

この課題を解決するために、スキル管理のフレームワークによって企業が求めるスキルと一般的に重視されているスキルを照らし合わせ、自分たちに足りないもの、すでに持っているもの、継続して活かしていけるものなどを評価する必要があります。

フレームワークは、企業や公的機関などがさまざまな定義をしています。PwCコンサルティングは、それらのフレームワークをまとめ、独自のフレームワークを提供することによって顧客の人材育成を支えています。

成長に向けたギャップを埋める

次に重要なのは、テクノロジーを活用したスキルの可視化と共有です。
テクノロジーを活用してスキル管理を実施している企業でも、従業員のスキルは自己申告となっているケースが多いのが実情です。その結果、申告されたスキルが本当に身についているのか、そのスキルが実際の業務で活用できるレベルなのかなど、スキルの確からしさの判断に悩み活用しきれないといった問題が発生します。

つまり、現状の従業員のスキルを表面的に可視化することが目的ではなく、

  • 業務で必要となるスキル要件を可視化したうえで、従業員自身が不足しているスキルを把握し、自身のキャリア形成に必要なスキルを理解する
  • そのギャップを埋めるためにストレッチとなる業務への好奇心や適切な研修受講を促すことで、自身のスキルレベルを上げる
  • その結果をスキル管理の仕組みに反映し、スキルが最新化される

という、従業員の自律的な成長を促すためのテクノロジー活用(図表4)が必要です。

図表4 スキルのフレームワークを実現するテクノロジー活用

変化に適応しながらサイクルを回す

スキルの価値と重要性は時代によって変わるため、常にアップデートし続けることが必要です。スキルを管理することが目的ではなく、どうスキルを活用するかに重点を置いて、環境の変化に適応しながらスキル管理のサイクルを回すことが肝要です。

また、今後は人材育成のデータ活用が当たり前になります。自分のスキルレベルだけでなく、例えば、キャリアパスの実現に向けた思いやモチベーションといった定性的な情報もシステムで管理し、会社とコミュニケーションできるような仕組みを作ることで、AIが研修をレコメンドしてくれたり、キャリア形成に役立つジョブアサインなどを提案してくれたりすることが可能になります。

PwCコンサルティングのチャレンジ

PwCコンサルティングでは、自律的なキャリア開発を促すために従業員一人ひとりが内発的動機を認識できるようにするキャリアデザインワークショップを展開しています(図表5)。

目の前のタスクを単にこなすだけではなく、自分自身が何にやりがいを感じ、何のために成果を出したいかを理解したうえで、社会の変化に柔軟に対応し未来を切り開くための土台作りを推進しています。

図表5 PwCコンサルティングで実施しているキャリアデザインワークショップ

第3部

第3部は、スターバックス コーヒー ジャパンの久保田氏、PwCコンサルティングの角田に加え、ゲストにSAPジャパン株式会社の佐々見直文氏を迎え、PwCコンサルティングの出崎弘史をモデレーターとして「変革を実現するためのHR Technology Model~キャリア自律、従業員エンゲージメント向上の実現に向けて~」と題したパネルディスカッションを行いました。

スターバックス コーヒー ジャパン 株式会社
人事本部 本部長
久保田 美紀 氏

SAPジャパン株式会社
人事・人財ソリューション
アドバイザリー本部 本部長
佐々見 直文 氏

PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー
角田 直

PwCコンサルティング合同会社
執行役員 パートナー
出崎 弘史

スキル管理におけるテクノロジー活用

パネルディスカッションでは、スキル管理を適切に行っていく重要性や目的設定の話から始まり、その基盤となるHRテックの導入や活用に向けた推進方法について議論が行われました。

スキルの価値を客観的に評価するためには、労働市場を含む外部からの情報収集も重要です。各企業が独自で管理するコアな情報はありつつも、外部とのつながりを持たないスキル管理はガラパゴス化するため、そのような情報をクラウドで管理し共有できるシステム構築が今後のテクノロジー活用の方向性といえます。

システム構築のアプローチでは、近年の傾向として特徴ある複数のツールを連携しながらシステムを整えていくケースが多く見られます。しかし、スキルの管理や向上を全社で推進していく場合、育成、評価、人材データベースなどがバラバラに存在するよりも、1つにまとまっている方が効率的です。とくにこれからはAI活用が本格化していくため、AIにインプットする情報はできるだけ多い方が望ましく、その点でもツールをまとめる方がよいという考えにシフトしつつあります。

ストレスなくシステムを使えるようになる

従来のスキル管理は、人手と時間がかかるのが難点でした。しかし、SAPジャパンの佐々見氏によれば、テクノロジー活用を先行する企業はすでにプラットフォームを整備し、スキル向上のためのAI活用を始めています。

また、SBJのように若い世代の従業員が多い企業では、Z世代を中心として高度なテクノロジーを活用した育成環境への期待も高まっています。一方で、中堅以上のマネジメント層ではテクノロジー活用を前提とする育成に慣れていないこともあり、リテラシーの差によってツールを使いこなせなかったり、一部の人のストレス要因になっていたりする実態があります。

この課題について、ディスカッションでは、ツールなどのさらなる進化によってストレスなく使える環境が整っていくだろうという見解がまとまりました。具体的には、データの入力や管理の自動化や、会話型のAIを使うことによるツールへのリクエストやデータ入力の簡素化を実現することで、ツールを使う負担感が軽減され、リテラシーによらないシステム利用が可能になります。

100点へのこだわりを捨て、スピード感を上げる

テクノロジー活用を推進する意識の面では、100点を目指さないことがポイントです。人材育成を担当する人事部門は、給与計算をはじめとするミスができない業務に携わっていることもあり、HRテックの活用についても100点が取れる状態を作ってからスタートしようとする傾向が見られます。そのために導入までの時間がかかり、運用開始のタイミングが遅れるケースもあります。

人的資本経営のような攻めの人事においては、この考えを変える必要があります。なぜなら、SaaSなどは半年や1年といった比較的短い期間で機能が進化していくため、時間をかけて検証したシステムを導入する時には次のバージョンがリリースされていたり、その遅れが積み重なったりすることによって、導入を先行した企業との差が一方的に開くからです。

このような背景を踏まえて、PwCコンサルティングでは、まず一歩目を踏み出す重要性をクライアントに伝えています。つまり100点を求める意識を変えて、70点でいいのでまずは利用を開始し、使いながらアップデートしていくことが重要だということです。

人的資本経営は企業のサステナブルな成長を実現するために避けては通れません。そのためにスキルの観点から従業員の自律的なキャリア形成を促し、システムの活用を推進していくなど、多様な取り組みが求められます。

こうした取り組みの中心的存在となる人事部門は、今後もさらに注目度と期待度が高まっていくはずです。組織内の立ち位置としても、経営と現場の従業員の両方の視点に立って、次の成長に向けて貢献する重要な部署として認知されていくでしょう。
PwCコンサルティングは、人的資本経営の実現を目指す企業のHR Transformationを支援し、前向きなチャレンジを通じた企業の成長を後押ししていきます。

主要メンバー

角田 直

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

出崎 弘史

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

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