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農業分野では衛星画像やGPS情報を活用した栽培管理など、衛星データの活用が注目されています。農業現場での活用例や農業DXに向けた課題、海外の先進的な取り組みから学べる内容などについて議論しました。
(左から)片桐 紀子、山﨑 能央氏
登壇者
山﨑 能央氏
株式会社ヤマザキライス
代表取締役
片桐 紀子
PwCコンサルティング合同会社
ディレクター
片桐:農業現場における衛星データ活用概況についてお話しします。農地では衛星データを活用した栽培管理や、衛星データに基づいた営農指導などが行われています。また、位置情報を用いた農機の自動走行への活用も進んでいるところです。
行政分野では、役所の農業担当部署の方々が農地耕作状況や作物の判定などに衛星データを活用し、現地確認業務の自動化・省力化に取り組み始めています。職員の高齢化や人手不足が課題となっており、衛星データの活用で業務を省力化することが急務といえます。
そしてビジネス現場では、カーボンクレジットへの活用が注目されています。水田のメタン発生量に関係する中干しの水位・期間の把握や炭素貯留量の把握にも衛星データが活用され、J-クレジットの創出にも役立っています。
実際に衛星データを活用し、どのように農業を行っているのか。山﨑さん、お話しいただけますか。
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 片桐 紀子
山﨑氏:当社は埼玉県北葛飾郡杉戸町で24年前に3ヘクタールの生産面積で新規就農しました。現在は約100ヘクタールに広がり、徹底的なコスト削減を進めることで利益率の高い米の生産を目指しています。近年は衛星データを活用した農業に取り組んでおり、そうした経験に基づいてお話しします。
まず、24年間農業を営んできた私が考える「これからの農業が目指すカタチ」についてです。それは「人為が3割、スマート化が7割」の農業の実現です。AIやセンシング、ロボティクスなどの技術を使った農業のスマート化が注目されていますが、全てをスマート化するのは難しいと感じています。
労力や熟練の経験などを活かして、人がやったほうが速いことは人がやる。それが人為3割の意味です。ただ、かつて農業は長年の経験がなければできませんでしたが、今は農業DXにより、経験のない方でも農業に参加できる。そんな農業を目指しています。
山﨑氏:衛星データの活用では、衛星画像とAIを活用した栽培管理支援システムを導入しています。当該システムはグローバルで展開され、衛星の契約数は350基、年間のアップデート数は約300回に上ります。マップを用いて状況が見える化され、地力マップでは過去15年間、その圃場でどんな作物が作られたのかなどの、地力に関するデータが示されます。
また、生育マップは3日に1度くらいの割合で更新され、ほぼリアルタイムに作物の生育状況を把握できます。その他にも、生育マップや地力マップで示された作物の生育状況に対して、自動的に施肥を行う可変施肥マップの作成機能や、AIによる生育管理などの機能があります。当社では100ヘクタールの全ての農地をAIで管理し、AIが判断したものに対してスタッフと協議しながら作業を進めています。
こうした作業を進める上で、稲作で押さえるべき大切なポイントが4つあると考えています。
このうち、②③④については当該システムの生育予測や可変施肥で対応することができます。そのため、稲は適正気温、灌水量を数値化し、健康的に栽培を行うことができております。また、先ほど中干しの話がありましたが、当社ではメタンをなるべく出さない取り組みを行っており、田んぼに水を張っても出さない、もしくは水を張らない作り方を進めているところです。
片桐:栽培管理支援システムによる衛星画像データの使い方にはどのようなものがありますか。
山﨑氏:例えば、地力マップでは過去15年間の衛星画像を解析して圃場の地力を見える化することができます。画像を色分けして薄い緑色の場所は地力が低く、濃い緑の場所は地力が高い。同じ圃場でも地力が低い場所は収量が少なく、品質も悪い。逆に地力が高い場所は収量が多く、品質も高い可能性があるということが分かってきました。
栽培管理支援システムは自動的に地力の低い場所には肥料を多くしたり、地力の高い場所は肥料を少なくしたりする可変施肥を行います。実はこの施肥量の最適化が重要で、私たちにとってずっとブラックボックスだったのです。経験のある圃場のオーナーしか分からなかった地力の育成ムラが、こうした衛星画像データを活用することで経験の浅い若手スタッフにも分かるようになってきました。
圃場では当該システムに対応する田植え機を使い、GPSの情報を受けて地力に応じて施肥量を多くしたり、あるいは少なくしたりといった可変施肥を、田植えをしながら実施しています。また、ドローンを使った可変追肥も行っています。追肥により収量・品質ムラがなくなり、収量アップを実現しています。ドローンもGPSを使っていますし、衛星データがあるからこそ、こうした農業が可能になると実感しています。そして、農機の自動走行も実現しており、スタッフは気持ちにも時間的にも余裕ができたと好評です。
埼玉県は超高温な地域で米の等級も2等、3等が少なくありませんが、AIによる生育予測と可変施肥により米の品質向上を可能にしています。真夏の収穫において、100ヘクタールのうち、47ヘクタールは全量1等でした。人為3割、スマート化7割とお話ししましたが、これまでの経験とAI分析の相乗効果が生まれていると思います。
片桐:サステナブルな生産活動にも取り組んでいますが、その状況を教えてください。
山﨑氏:先述の栽培管理支援システムを中心にしたフードバリューチェーンを構築しています。特徴は、サーチャージ制とCFP(カーボンフットプリント)の考え方を取り入れていることです。商社や栽培契約をしている事業者は当該システムの共通アカウントを使って圃場の状況や生育状況、AIによる病害予報などのデータを共有できます。
例えば、いもち病の発生予報が出た場合、私が言うよりもAIが客観的なデータに基づいて予測するので、提携している商社や事業者の方は客観的な情報を基に状況を理解することができます。そして、薬剤散布についても、従来は私の判断で行っていたのですが、提携先と事前に相談できます。薬剤散布のような契約外の作業については、サーチャージ制によって商社や事業者の方に代金の一部を負担していただく仕組みを構築することができています。
また、圃場のメタンガス発生量を計算し、カーボンフットプリントとして事業者や消費者に伝えていけるような取り組みも始まっています。その1つとして、再生二期作の技術確立に取り組んでいるところです。具体的には水を使わずに雨水のみでメタンガスの発生を抑えたメタンフリー米を作っています。こうした米が温室効果ガスのクレジット削減対象となり、外食を中心に将来は超低GHG(温室効果ガス)米が選ばれる時代になると確信しています。
株式会社ヤマザキライス 代表取締役 山﨑 能央氏
片桐:農業DXが注目されていますが、デジタル技術を活用して先進的な取り組みをされてきた山﨑さんから見た課題は何でしょうか。
片桐:日本の農業DXの問題点を挙げると、デバイスやデジタルソリューションが乱立していることと、プラットフォームがバラバラであることだと感じています。たくさんのデバイスやデジタルソリューションが登場し、進化のスピードが速くて政策が追い付いていないのです。
そして、デバイスやデジタルソリューションを連携するAPIも少なく、私たちの長年の経験を活かした「人間API」でデータ連携しているのが実情です。例えば、収量データが他のデータとつながっておらず、私が表計算ソフトで作成したデータと突き合わせて判断することもあります。将来的にはあらゆるデータが連携するようになると思いますが、現在の日本の農業のスマート化、農業DXがなかなか進まない要因にもなっていると思います。
片桐:そうしたスマート化を含め、日本の農業を変えていくには、個々人の力だけでなく、国による環境整備も必要だと考えています。日本の仕組みとして、どんな変化が必要になるとお考えですか。
山﨑氏:以前は新しい農業政策ができ、私たち現場の農業が変化していくものでしたが、今は世の中の動きが速く、新しい政策が出る前に新しい技術が登場するといった変化が生じています。SNSや動画サイトでの情報量も増えていますが、生産者自身が新しいトレンドやムーブメントをつくって発信し、農業自体を変革していくことも1つの方法になると考えています。
片桐:山﨑さんは海外視察に行かれ、海外の先進的な取り組みを柔軟に取り入れています。衛星データの活用を含め、日本が海外から学ぶべきことや改善点について、どのようにお考えでしょうか。
山﨑氏:最近、ドイツ、イタリア、フランスの農業視察に行ってまいりました。現地で感じたのは、日本のスマート農業や農業DXとの考え方の違いです。例えば、日本でも農機の自動操舵やドローンの活用が進んでいますが、実は自動操舵は農業技術ではなく、運転技術です。運転技術は農業の発展に必要なものですが、農業技術としての観点では技術向上は図られていないのです。
それに対し、欧州の考え方は大きなプラットフォームをつくり、その上にデバイスやデジタルソリューションがあり、全てがデータ連携されているのです。私が驚いたのは、75歳で700ヘクタールほどの耕作地で小麦を作っている農業者がいらっしゃったことです。AIや衛星データを活用することで農薬散布の回数を3回から2回に減らしているというのです。2回にしても病気が出なくなったと。そして、「農業DXを進めるときに年齢は関係ない」と。私にはその言葉が衝撃的でした。
日本のスマート農業はハードを重要視していますが、欧州のようにプラットフォームがあり、その中でフードサプライチェーンができるというような流れが今後、必要になると想定しています。
片桐:当社では日頃、官公庁の方々とお仕事をさせていただいていますが、プラットフォームをつくり上げていくのは非常に難しいと感じています。1つの大きなプラットフォームを作るという考え方もありますが、むしろ、皆さんがつくっているプラットフォームを活用し、データでつないでいくことにより、大きなプラットフォームになっていく。これが日本の農業政策のあり方になるのではないかと考えています。
データの蓄積が進む一方で、農業の担い手となる人材不足が喫緊の課題ですが、山﨑さんはどのように見ていますか。
山﨑氏:農業の担い手不足は深刻です。近隣の農業者の集会に行くと、高齢の方が多く、体調を崩しがちで近々引退を考えているという話をよく聞きます。そうした方々から「離農後の農地をお願いします」と言われることもあります。以前でしたら、耕作面積が増えると大変という考えでしたが、近年は農業DXが追い風となり、面積が大きくなっても対応できると考えるようになりました。
そうしたモデルを他の農業者に示すことで横展開が可能です。農業DXが進むことで自分たちも農業ができると認識してもらえれば、担い手不足の問題も解決できると期待しています。
片桐:農地の集積を進め、利益が上げられる農業の姿を示していただき、後に続く農業者が増えていくよう、これからのご活躍を期待しております。コンサルタントに何か期待することがあれば、聞かせていただけますか。
山﨑氏:日本の農業政策に外資系企業が関わることは、以前はあまりなかったように思います。グローバルな視点、知見を持つ外資系企業の皆さんに、ガラパゴス化しない農業のあり方などを提言していただけることを期待しています。
また、コンサルタントの皆さんが考えているのは最先端の世界です。私たちが今見ているのは、皆さんが10年、15年前に考えた世界で、ようやく実現している。これからも、どんどん先を進んでいただき、私たちが「そんなの無理だよ」と思うことでも、将来は当たり前になる。そのような世界観をコンサルタントの皆さんに示していただきたいと思います。
片桐:これからも現場に根付いた農業DX、農業政策の推進を支援してまいります。本日はありがとうございました。
片桐 紀子
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社