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多くの企業幹部は、人工知能(AI)にはビジネスの仕組みを抜本的に変える力があると感じています。また、AIは2030年には世界で最大15兆7,000億ドルの経済効果をもたらす可能性があるとも言われています。しかしその一方で、多くの企業幹部は、AIをさまざまな業務領域で試験的に導入するだけでなく、全社的にどう導入すればいいのか、また、どこに導入すれば最大限の価値を生み出せるのかを理解していません。
また、日本では、AI活用のための実証実験は数多く行われているものの、実用化に向けてはまだ時間を要する状況です。日本企業にありがちな保守的な行動原理が、AIの実用化を遅らせていると言えます(参考:PwC, 2018. 「日本企業におけるAI活用の可能性」)。
新たな技術を導入する際は必ず「どう」進めるかが問題になりますが、AIも例外ではありません。AI戦略をどう策定すればいいのでしょうか。AIリテラシーのある従業員を見つける、あるいは、AIリテラシーを従業員に身につけさせるには、どうすればいいのでしょうか。社内に存在するデータをAIで活用できるようにするために、何ができるのでしょうか。導入したAIの信頼性をどのように担保していくのでしょうか。
これらの質問に対する答えは企業によって異なります。そして、状況は常に変化しています。しかし、企業は状況が落ち着くまで待っているわけにはいきません。これまで進展と停滞を繰り返し、なかなか導入が進まなかったAIですが、2019年は一気に動きが加速することになるでしょう。
※本レポートは、PwCメンバーファームが、2019年1月に発表した「2019 AI predictions - Six AI priorities you can’t afford to ignore[英語]」を翻訳したものです。
各企業の現状を調べるために、AIについて調査中、もしくは、すでに導入済みの米国企業の幹部1,000人超を対象に調査を実施したところ、全体の20%から2019年にAIを全社的に導入する計画があるとの回答が寄せられました。こうした意欲的な計画がうまく進めば、米国の多くの主要企業において、特定の部署に限らず、あらゆる事業活動がAIで強化されることになります。
「2018年AI予測」では、AIが2018年中にどのように発展し、企業、政府、社会にどのような影響を及ぼすかについて、8つの予測を示しました。AIが労働力に与える影響、AIの責任ある運用を全ての企業に求める動き、サイバーセキュリティや国の競争力をめぐる新たな脅威など、2018年版で指摘したAIに関する動向は、今日、その重要性がさらに高まっています。
しかし、2019年に向かって、実験段階にあったAIの活用の場がオフィスや工場、病院、建設現場、日常生活へと拡大する中、異なるアプローチが必要とされています。本レポートでは、単に何が起こりそうかを明らかにするだけでなく、企業幹部がAIを活用して何を実現させなければならないかを解説します。
2019年はどのような年になるのでしょうか。今回は、6つの重要分野に力を入れる企業が、他社を大きく引き離すことになるだろうと思われます。AI戦略は、以下の課題に対処するものでなければなりません。PwCでは、他社と差別化を図るためには、以下の6つの領域を検討することが重要だと考えています。そして、AIに関する戦略立案は、それぞれの領域の課題に対処する必要があります。
AIの活用を本格化するなら、今がそのタイミングです。主要企業は、すでにAIを実証実験段階から実用段階に移行させ始めています。今後、意思決定の高度化が図られ、業務のあらゆる場面で将来予測的なインテリジェンスを人々に提供するようになるでしょう。AI導入を真剣に考えているのであれば、アプローチを明確に形式化し、全社的な能力(ケイパビリティ)の開発に取り組むべきです。そうすることで、成功した(比較的小規模な)プロジェクトを複製し、組織全体に組み込んでいけるようになります。
AIはビジネスや市場の在り方、その全てを変えることになります。だからこそ、行動を起こさなければなりません。しかし、拙速にやり過ぎるのは禁物です。適切な方法で導入すれば、ある特定の作業のために開発したAIモデルが既存のプロセスの改善につながったり、具体的なビジネス上の問題の解決につながったりする可能性があります。同時に、組織内の別の部署への横展開が可能になるかもしれません。
AIアルゴリズムの事実:
AIアルゴリズムは、それほど数多く存在するわけではありません。AIに適したビジネス上の問題の多くは、同じアルゴリズムで解決できます。つまり、ある領域でうまく適用できたアルゴリズムは、他の領域でも活用できる場合が多いということです。
例えば、どのような企業でも請求書を処理しなければなりません。請求書が必ずしも標準化されていない場合でも、AIツールは、情報を自動的に抽出することによってプロセスを自動化し、コストと処理時間を削減させます。
次に、大量の構造化されていないデータや半構造化されたデータを有する顧客サービス、マーケティング、税務、サプライ・チェーン・マネジメントにおいても、当該AI要素に修正を加えて利用することで社内の他の業務のスピードアップができます。
目標は、再利用可能な基礎的要素のポートフォリオを構築し、短期間で利益を確保するとともに規模拡大に向けて弾みをつけることです。私たちの調査にご協力いただいた企業幹部は、この戦略を採用しているようです。彼らは、2019年に力を入れて備えるべき企業力として、組織全体で利用できるAIモデルとデータセットの開発を最も重視しているのです。
AI活用に向けた取り組みは、AIスペシャリストが主導して始めると、社内で幅広い支持を得にくい傾向が見られます。一方、ビジネスサイドの担当者が主導すると、プロジェクトの対象範囲が限られたり、技術を十分に生かしきれなかったりする場合があります。そしていずれの場合も、別々のチームが重複した取り組みや、互いに相いれない取り組みに労力を費やしてしまう可能性があります。
この問題に対する解決策は、多様なメンバーからなるチームによる運用管理体制の構築です。このチームは、経営、IT、アナリティクス、AIの専門的スキルを持ち、かつ、組織の全ての部署を代表するメンバーがそろうように構成します。しっかりと統制をとりながら、機能横断的で明確なAI戦略を打ち出すことができる組織体制の構築が必要になります。組織を横断する部署や役割となるセンター・オブ・エクセレンス(CoE)は、このようなAI活用基盤を構築する最良の方法であることが多く、最も普及が期待されるモデルです(PwCでもCoEを設置しています)。企業によっては、AI関連業務を既存のアナリティクスやオートメーション担当グループ、あるいは、すでに設置している別のCoEに担当させてもいいかもしれません。
こうした組織はどこに属するにせよ、AI活用のユースケースをどのように特定するのか、説明責任やガバナンスをどのように構築するのかといったビジネス上の問題に対応する責務を負わなければなりません。また、データに関する全社的な方針を定め、その方針が守られるよう運用を管理すべきです。さらに、アーキテクチャ、ツール、技術、ベンダー、知的財産権の管理、そして、どの程度のインテリジェンスを持ったAIシステムが必要なのかといったテクノロジーの基準も定めなければなりません。
最後に、AIチームは協働、支援、リソースマネジメントのためのデジタルプラットフォームを構築し、管理すべきです。これは、AIに関する取り組みのワンストップショップのようなものです。プラグイン接続可能なさまざまなツールを備えた仮想環境で、ビジネスサイドの担当者とテクノロジーサイドの担当者がリソース(データセット、手法、再利用可能なAI要素など)を共有し、さまざまな取り組みで協働します。
2018年版で予測したように、AIを専門外とする従業員のスキルアップを図り、AIを使いこなせるようにすることが従業員戦略に欠かせない要素となっています。AIモデル構築プロセスの簡素化と部分的自動化を実現したAutoML(自動化された機械学習:Auto machine learning)を含む一連の新たなツールの出現により、AIの民主化が進んでいます。企業幹部の38%が従業員向けAIツールに力を入れると答えています。これは、今後注力すべき能力構築分野として、再利用可能なデータセットやAIモデルの開発に次いで2番目に多く選ばれた選択肢です。
しかし、ユーザーフレンドリーなAIでもなお複雑です。基本的な訓練を受けた後でも、従業員はさまざまなAIアルゴリズムのパラメーターやパフォーマンスレベルを十分に理解できていない可能性があります。うっかり誤ったアルゴリズムを適用し、思わぬ結果を招くことにもなりかねません。この問題に対する解決策は、従業員をAI精通度に応じて3つのグループに分け、その上で、全てのグループがうまく協働できる方法を提供できるような従業員戦略を策定することです。
AIの普及に伴い、ほとんどの従業員はAIを利活用するビジネスパーソン(シチズンユーザー)となるために訓練を受ける必要があります。どのように自社のAI搭載アプリケーションを使い、優れたデータガバナンスを支え、必要に応じて専門家の助けを求めればいいのかを学ぶのです。
AIに関する知識レベルが比較的高いグループに分類された従業員(おそらく全従業員の5~10%程度)は、さらなる訓練を受けてシチズンデベロッパーとなります。彼らは、ビジネスサイドの各部門内における専門家的存在と位置付けられ、上級ユーザーであるとともに、ユースケースやデータセットを特定し、AIスペシャリストと緊密に協力して新たなAIアプリケーションを開発できる従業員です。
最後に、少人数ですが、非常に重要な役割を果たすのがデータエンジニアとデータサイエンティストで構成されるグループで、AIアプリケーションの作成、導入、管理という最も難しく手間のかかる部分を担当します。
これら3つのグループを立ち上げ、機能させるためには、仕事で求められる新たなスキルと役割を体系的に特定する必要があります。スキルと役割を特定するためには、次のような問いを検討する必要があります。シチズンユーザーやシチズンデベロッパーにどのような仕事を担当させる必要がありますか?経験豊富なデータサイエンティストの力を借りなければならないのは、どのようなアプリケーションですか?
次に、同じように体系的なアプローチで、それらの役割を担う担当者(自社内に限らず外部からも登用する)を決め、異なるグループ間の協働を促す必要があります。全社的なスキルアップでは、技術的スキルとデジタルで仕事をするスキルの両方に対処すべきです。人事評価や報酬の枠組みも適応させる必要があります。
多くの従業員はスキルアップに成功し、新たな役割を担えるようになりますが、中にはうまく転換を図れない従業員も出てくるでしょう。そのため、ある程度の人員補充を覚悟しておく必要があります。
AIが雇用に与える影響がどれほどのものになるのか、多くの企業幹部がその大きさを測ろうとしましたが、徒労に終わりました。影響が出ることは分かっていますが、具体的な数字がどれくらい大きいのか、あるいは小さいのか(そしてその影響はいつ起きるのか)については、議論の余地があります。PwCが実施した調査「How will automation impact jobs?[英語]」で明らかになったものも含め、推定値には大きな開きがあります。PwCの調査では、短期的な影響として2020年までに失われる雇用は3%未満にとどまるものの、2030年代半ばまでに最大30%の雇用が失われると予測されています。
今回の調査にご協力いただいた企業幹部は、今のところ自社でAIによる雇用喪失は起きていないという見解で一致しています。実際、AI導入が雇用に及ぼす影響について、自社では人員増強につながるとの回答(38%)が、人員削減につながるとの回答(19%)の2倍に上りました。
現時点における課題は必要な人材の確保であり、31%の企業幹部が今後5年間のAIスキル需要を満たせないのではないかと心配しています。スキルアップによってシチズンユーザーとシチズンデベロッパーを養成することはできますが、高度な訓練を受けたプログラマーやデータサイエンティストについては、おそらく新たに雇い入れる必要があるでしょう。大学との連携やインターン制度から始めてみるといいでしょう。
職場文化も重要です。多くのAIスペシャリストは、AIをずっと使い続ける企業に勤めたいと思っています。また、優れた才能を持った人々とともに素晴らしい仕事をしたいと思わせるような組織体制、リソース、役割分担、開発環境、個人レベルに権限を委譲する職場を、多くのAIスペシャリストは高く評価します。
2018年版で予測したように、AIがプライバシー、サイバーセキュリティ、雇用、格差、そして環境にどのような影響を及ぼし得るかについて懸念が高まっています。顧客も、従業員も、取締役会も、規制当局も、取引先も、「AIを信頼していいのだろうか?」という、同じ質問を投げかけてきます。そのため、企業幹部が、2019年の最優先課題としてAIシステムを信頼できるものにすることを挙げるのは、当然なのです。
この課題をどう克服するかは、AIの責任ある運用を構成する全ての側面で適切な対応ができているか否かによります。
AI CoE内であろうと、CoEと緊密に協力する組織であろうと、あらゆる分野について説明責任が果たされる仕組みを組み入れるべきです。技術倫理委員会や最高技術倫理責任者にAIに関する権限も付与するかたちで、AIの責任ある運用が行われるよう管理する企業が増えています。これは心強い動きで、今後ますます加速することになるでしょう。技術的な専門知識だけでなく、法令上、倫理上、評判上の問題に関する理解を兼ね備えた職務を設ける必要もあるかもしれません。
AIのデータ、アルゴリズム、プロセス、報告の仕組みを管理する体制を確立するには、技術、ビジネス、内部監査の各分野のスペシャリストで構成されるチームが必要です。これらのチームは、管理体制の継続的なテストを実施する中、適切なトレードオフを検討する必要が出てきます。
例えば、説明可能性については、パフォーマンス、コスト、ユースケースの重要性、人間の側に求められる専門知識の適切なバランスを取らなければなりません。自動運転車、AI医療診断、AI主導のマーケティングキャンペーンは、それぞれ異なるレベルと種類の説明可能性や関連のコントロールを要することになるでしょう。
AIをより信頼できるものにするその他の方法としては、説明可能なAI(XAI)を中心とするAIそのものの進歩によるものが考えられます。例えば、米国防高等研究計画局(DARPA)のXAIプログラムでは、より説明可能なアルゴリズムの開発に取り組んでいます。このプログラムが目指しているのは、AIそのものの論理的根拠や強みと弱みを説明し、その後の動きを予測できるAIソリューションの実現です。
2018年版で予測したように、2019年は、ますます多くの企業がAIのブラックボックスを解明し、AIの意思決定をより透明性が高く、説明可能、かつ立証可能なものにしたいと考えるようになります。これらの企業は、アルゴリズムの監査がいつ義務化されるかを予測する必要もあります。将来的には、一部の政府が、一定程度の説明可能性を規制要件とすることになるでしょう。
AIは、2018年に「AI will help answer the big question about data[英語]」で提起した「いかにしてデータを価値に変えるか」というデータに関する大きな問題を解決します。今回の調査で、データからビジネスに関する洞察を得られるよう、AIシステムとアナリティクスシステムを統合することが、AI関連データをめぐる2019年の最優先課題であることが明らかになりました。
これは現実的な目標です。AIはデータやアナリティクスと組み合わせて、効果的なリスク管理、従業員による適切な意思決定、顧客関連業務の自動化など、さまざまな目的に活用できます。
しかし、大きな問題があります。今回の調査で得られた結果は、各企業においてAIで成功するために必要な基盤が提供されていないことを示しています。データのラベル付けを2019年の優先課題に挙げた企業幹部は、全体の3分の1未満にとどまりました。
機械が現在存在する重要なパターンを検出し、将来を予測するためには、まず、機械に学習させる必要があります。例えば、消費者行動に関する十分な量の時系列データを読み込ませれば、これらの消費者や類似の消費者が将来どのような消費行動をとるか予測できるようになります。
しかし、学習に必要なデータセットを作成するためには、データをラベル付けしなければなりません。簡単な例としては、ある消費者が満足したか否かの特定が挙げられます。このようにラベル付けされたデータセットを社内全体のAIで活用できるようにするためには(対象の消費者は、複数のビジネスラインとかかわりがあるかもしれません)、一貫性あるラベル付けを行うための標準が必要になります。あるいは「教師なし学習」を採用してもいいでしょう。その場合、データのラベル付けは不要ですが、一般的に「教師あり学習」に比べて役立つパターンを抽出するのに困難を要します。
AI CoEは、データ標準の作成とモニタリングを行うとともに、将来の利用に備えて、従業員が、ラベル付けされた使えるデータセットを作成しやすくなるようなシステムやプロセスを開発できます。
データガバナンスが改善したとしても、課題はまだあります。ビジネス上の問題には、企業として入手できない学習用データが必要なAIソリューションで解決しなければならないものもあります。
しかし、無駄なく拡張された新たな機械学習技術によって、AIはわずかなサンプルに基づいて自らデータを生成できるようになりました。また、大量のデータが存在するある作業から、データが足りていない別の作業へモデルを転移させることもできます。「強化学習」「能動学習」「敵対的生成ネットワーク(GAN:Generative Adversarial Networks)」「デジタルツイン」といった技術を使って、AIが自ら学習用データを合成できる場合もあります。確率に基づくシミュレーションからも、AIの学習に使う「合成」データを生成できます。
AIポリシーはまだ始まったばかりです。多くの政策立案者は、公的資金の投入と規制緩和を必要とするAI拡張競争が、今始まったばかりであると考えています。倫理的に正しいアルゴリズム、従業員の再訓練、公共の安全、独占の禁止、透明性といった諸課題に対処する包括的なガイドラインを求める声もあります。2018年版で予測したように、AI国家戦略を通じた各国間の競争が始まりました。2018年12月現在、AI国家戦略を公表済みもしくは策定中だった国は25カ国以上に上りました。
同時に、データプライバシーをめぐる新たな規制もAIに影響を与え、場合によっては、AI拡大が制限されることになるかもしれません。グローバル企業が複数の国・地域をまたいで収集したデータをどのように使えるかは、こうした規制の影響を受けるからです。欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)が2018年5月に発効し、2020年には米国でカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)が施行されます。GDPRとCCPAにはさまざまな相違点がありますが、いずれも、組織による個人データの収集・使用について、その方法を確かめてコントロールする権利を個人に与えるとともに、データの偏りもしくはサイバーセキュリティ違反により損害をかぶった場合の救済手段を提供しています。
各企業は、さまざまな国や地域で政策立案支援に携わっているチームの足並みをそろえることによって、グローバルなアプローチで規制関連の課題に取り組み、ベストプラクティスを全世界で適用することでコンプライアンスを確保すべきです。例えば、欧州で事業活動を行っていない場合でも、GDPRに準拠することがCCPAや今後導入されるその他の規制への備えとなります。
AIによる増収増益は遠い夢ではありません。すでに多くの企業が、業務改善と顧客体験の向上を図るためにAIを活用しています。しかし、2019年には、そのうち相当数の企業が新たなAIビジネスモデルの計画や開発を予定し、新たな収益機会を探ろうとしています。多くは、内向きになりがちなCoEとは別の、社内のさまざまな部署で新たなビジネスを開拓しようとしています。
現時点で、AIのもたらす最も大きい利益は、生産性の向上によるものです。各企業がさまざまな業務プロセスの自動化を図り、従業員がより適切な意思決定を行えるようにするためにAIを活用しているからです。しかし、「日本企業におけるAI活用の可能性」で示されたように、AIが経済に与える影響の大半は、より高品質でパーソナル化されたデータ駆動型の製品やサービスを通じて、消費サイドでもたらされます。300件を超えるユースケースを分析したところ、AIによる消費増大効果が最も早く実現しそうなのは、ヘルスケア、小売、自動車業界であることが分かりました。
例えば、ヘルスケア業界の場合、AIを活用することで、患者のライフスタイルデータのモニタリングをもとにした新たなビジネスモデル、がんやその他の病気のより迅速かつ正確な診断、そしてパーソナル化した適応性に優れた医療保険が可能になるかもしれません。小売業界ではすでにAIを使って将来の動向を予測し、その動向に応じた事業展開を行っています。次なるステップは超パーソナル化です。AIとオートメーションは、小売業者が一人の消費者のためにつくられた製品やサービスをより多く提供することを実現可能なものにします。
AIはこうした意思決定のいくつかをゲーム化戦略で導き出すためにも使われています。例えば、ある主要自動車メーカーは、AIを使って、これまでに20万とおりを超える自動運転相乗り車両の市場開拓シナリオを検証してきました。このモデルは、インフラと車両の普及を促す主要な経済的要因と最適水準を特定するのに役立ちました。
AIを収益に結び付けようとしているのは大企業だけではありません。新興のAI企業が次々と生まれています。2018年第3四半期現在、940社のAI企業が存在することがPwC/CB Insights MoneyTree™[英語]で確認されています。そのうち約740社は未上場ですが、これらの企業に対する米国のベンチャーキャピタル投資が急増しています。本レポートによると、2018年第1~3四半期の投資額は66億ドルで、前年同期の39億ドルを大きく上回っています。
そして、その資金の全てをサンドヒルロードのベンチャーキャピタルや未公開株式投資会社が出しているわけではありません。記録的な額の資金が、ベンチャーキャピタル経由もしくは直接、一般企業によって投じられているのです。2018年はこれまでのところ、約9億8,300万ドルもの資金が外部のAI開発への出資を目指す企業によって投じられました。一般企業によるAI企業の買収も行われており、これまでに35社が総額38億ドルで買収されました。AIを自社開発する代わりに投資する動きは今後加速すると思われます。例えば、当社が実施した「PwC DIGITAL IQ 2018[英語]」では、AIへの大規模な直接投資を行っている企業はわずか8%だったのに対し、買収もしくは提携を模索している企業は52%に上りました。
AIは、アナリティクス、統合基幹業務システム(ERP)、モノのインターネット(IoT)、ブロックチェーン、そして、いずれは量子コンピューティングのような他のテクノロジーと統合されることで、さらに大きな威力を発揮します。こうした融合が進むことが効果の増大につながるのはAIに限ったことではありません。先端テクノロジー(フォーカス8ソリューション)はいずれも、融合することで最も大きな力を発揮します。(参考:PwC Japanグループ「エマージングテクノロジー」)
今回の調査にご協力いただいた企業幹部の36%は、AIと他のテクノロジーの融合を管理することが、2019年に取り組むべきAIに関する最重要課題であると考えています。AIの信頼性確保を少し下回りましたが、従業員のつなぎ止めと同じくらい重要視されていることが分かりました。AIを活用し、高度なアナリティクス、予測的アナリティクス、リアルタイムデータアナリティクスのさらなる進化を図ることは共通の優先課題です。こうした融合によって、データ駆動型の新たなビジネスモデルをよりパワフルなものにすることができます。
IoTも、AIと組み合わせられることによって大きな利益をもたらします。遠くない将来、何百万ものIoTセンサーを使い、事務用機器や消費者端末から情報を収集する大企業が現れるかもしれません。AIとアナリティクスは、こうして押し寄せる大きなデータの波の中に何らかのパターンを見いだし、システム保守からマーケティングに関する洞察まで、ありとあらゆることをサポートする上で、極めて重要な役割を果たすことになります。AIチップをIoT機器に直接埋め込み、ローカルインテリジェンスを構築する組み込み型AIは、この役割を果たす上で役立つでしょう。
AIとその他のテクノロジーの統合を成功させるためには、まずデータの統合から始める必要があります。データの洗い出し、集計、標準化、ラベル付けに投資してきた企業は、データインフラとデータストレージによるバックアップ体制も整い、AIをアナリティクス、IoT、その他のテクノロジーと組み合わせる上で、有利な立場に立てるでしょう。
しかし、AIをその他の企業情報システムに統合するためには、それぞれの専門家たちも融合しなければなりません。データサイエンティストがアルゴリズムを完成させITスペシャリストに渡し、ITスペシャリストがアプリケーション・プログラミング・インターフェース(API)のコーディングを行う、あるいは、完成したアルゴリズムをビジネスサイドの担当者に送り、その担当者が適用するのではなく、最初からチームを組み協力して取り組むべきです。
解決策の一端として、DevOps(デブオプス)と呼ばれる手法があります。これは、開発チームと運用チームの間のフィードバックループをつくり、絶えず協働し、互いに変更を加えながら新たな製品を開発するものです。また、従業員の新たな役割を設け、さまざまなチームの通訳係や連携係を務める担当者を決めるというやり方もあります。
もう1つ留意すべきことがあります。24時間休みなく稼働するテクノロジーや高度なシステムとの統合が進むと、AIのアルゴリズムに絶えず学習用データを読み込ませ続ける必要が出てきます。さもなければ、AIモデルは古いデータのまま運用されることになり、パフォーマンスが低下します。また、AIモデルは定期的にテスト、更新、交換する必要があります。
参考:The Good, Thed Bad – And the Unknown
(Harvard Business Review AI in 2019)[英語]
2019年は、本格的に準備に取り掛かりAI戦略を策定すべきです。AIを活用するためには、AIのための組織体制と従業員計画、信頼できるアルゴリズムとアルゴリズムに学習させるための正しいデータ、AIを使って増収増益を実現するためのビジネスの見直し計画、そしてAIとその他の既存・新規のテクノロジーの融合が必要です。
これはかなり意欲的な課題リストです。しかし、何を優先すべきかを明確に決めることによって、他社と明確に差をつけることができます。