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米国に追いつく日本、AI活用の新たなフェーズへ
2022年1月にPwC Japanグループは企業のAIの取り組み内容や活用状況に関して、日本では第3回目となるAI予測調査を行いました。調査結果から見えてくるトレンドと、今後AI推進のために企業が取り組むべき課題とアクションについて考察を行っています。
今回の調査はWebアンケートを通じて、売上高500億円以上でAIを導入済み、または導入検討中の企業の部長職以上300名を対象に実施しました。比較対象となる米国の調査1は、2022年1月にWebアンケートを通じて、1,000名の企業幹部に対して調査を実施しています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が長引き、苦しい経営状況に直面している企業もある中、今回の調査を通じて、日本のAI活用が非常に明るい方向に進んでいることが2つのトレンドで見えてきました。1つは、米国ではAI活用に進捗が見られない中、日本では確実に活用企業が増え、活用状況で米国に並ぶレベルまで進展してきていることです。2つ目は過去の調査では見ることのできなかった新たなAI活用のトレンドが見られたことです。例えば、AIと他のテクノロジーとが融合した新たなユースケースへの取り組み、他社と連携した新たなユースケースの探索・新たな収益源の獲得・社会レベルでの課題解決などへの取り組み、AIが生み出す新たなリスクへの対応であるAIガバナンスの取り組みが急激に加速しています。
これらのトレンドを踏まえて、AIの効果を最大化していくために、日本の企業が取り組むべき課題やアクションについて、提言していきます。
2021年までの調査2では、米国と日本のAIの活用度合には乖離が見られていましたが、今回の調査ではその差がほとんどなくなっています。図表1に米国の2021年と2022年の比較、図表2に日本の2021年と2022年の比較のグラフを示しています。「全社的にAIを導入している」および「一部導入済み」をAI導入企業、「PoC(Proof of Concept:概念検証)実施済み、AI導入準備中」をAI導入準備中企業、「PoCを実施したが本番導入に至っていない」「AI導入検討中(現在未導入)」をAI未導入企業と定義します。
米国では2021年からあまり進展が見られないのに対し、日本ではAI導入企業が43%から53%と10ポイント増加しました。「AI未導入企業」が41%から36%に、「AI準備中企業」が16%から11%にそれぞれ5ポイント減少し、AI導入企業に移行しているのが見て取れます。
また、図表3のように2022年の日米で比較すると、グラフの形にほとんど違いがないことが分かります。「AI未導入企業」が、米国が27%に対し日本が36%と、未着手の企業比率に若干の差はあるものの、「AI導入企業」で見ると2ポイントしか差がなく、「AI活用において日本が米国に追いついた」と言えるでしょう。
それでは、日本企業においてどういった面でAI活用の進展が見られたのか、深掘りして見ていきたいと思います。
過去1年で、どれだけの日本企業がAIの投資に対してメリットを感じたのかを、2021年の調査と2022年の調査で分野ごとに比較したグラフが図表4になります。
メリットを感じている企業の割合が、全分野において増加しているのが見て取れます。
また、AIを活用する際に必要なデータマネジメントを推進する企業も確実に増えています。日本企業におけるデータマネジメント組織の状況や、データ民主化環境の整備状況について確認したところ(図表5)、67%がデータに関する専門の部門を設置しており、80%がデータ利活用におけるルールを導入するなど、組織や施策の面でも進展が見られます。多くの企業が、データ・AI活用の専門組織を設置し、データ基盤・ルールなどの環境を整備し、社員自身によるデータ・AI活用を推進する「データ・AI民主化」の取り組みとして、データカタログ整備・分析用クラウド提供、AutoML提供を進めていることが見て取れます。
2022年のAI活用による自社のとってのメリット(恩恵)となる項目上位3つを質問したところ(図表6)、日米ともに「AIによる大幅な作業の自動化でのコスト削減の実現」と「AIによる戦略的な経営判断の支援」がともに上位となりました。
また、2022年のAIに関する自社にとっての脅威となる項目、上位3つを質問したところ(図表7)、「AIに関する新たなサイバー攻撃」が日本では44%、米国でも44%と日米ともに共通で脅威となり得る上位項目となりました。「既存の人材におけるAIスキル不足」が日本では1位、米国では3位となっており、日本では「AIの法的責任とレピュテーションリスク」が、米国では「プライバシーの脅威」が、加えて上位に選ばれています。
一方で、日米で差がある領域も見えてきました。ROI測定に対する意識と、次章で述べるAIガバナンスに関するアクションについては、米国に学ぶべきところがあるようです。
現在のAI活用におけるROIをどれくらい正確に測定できているか、今後12カ月のROIをどれくらい正確に予測できているかを調査しました。(図表8)
「現在のAI活用」のROI測定能力で見ると、「正確に測定できている」が日本で21%に対し、米国では64%と圧倒的な差が生じています。「測定できていない」または「わからない」の回答率の合計も日本の37%に対し、米国ではわずか3%です。
「今後12カ月のAI活用」のROI予測能力で見ると、「正確に予測できている」が日本で14%に対し、米国では52%とこちらも差があります。また、「予測できていない」または「わからない」の回答率も日本が44%に対し、米国が4%と大きな差があります。
ROI測定・予測能力では日本は米国の後塵を拝している状況が見て取れます。AIの特性上、今後12カ月のROI予測を正確にする必要はないと考えますが、少なくとも導入済みの現在のAIのROI測定は正確にすべきと考えます。AIはPoCで小さな領域から適用し、全社展開することで効果を最大化します。PoCから全社展開する際に、ROI測定による客観的な判断基準は必要不可欠です。AIの効果最大化の第一歩がROI測定であるという認識を持って、正確なROI測定に取り組んでいく必要があります。
後段にて詳述しますが、AIへのリスク対応(「AIガバナンス」とここでは呼びます)について、日本企業における注目度が増しています。しかし、米国と比較するとアクションまで踏み切れない日本の現状が、調査にて分かりました。
AIガバナンスのために2022年に取る手段を聞いた結果(図表9)、全ての手段で米国より日本の方が回答比率が低い結果となりました。検討はしているが、アクションにまでは踏み出せていない企業が多いことがうかがえます。AI活用状況としては米国に追いついたように見えるが、AIガバナンスの取組状況においては、日本はまだ米国に追い付いていない状況がうかがえます。米国が先行していることで、いずれ課題になることが分かっているのであれば、米国に学びリスクが顕在化する前に手を打つことが可能です。日本企業が迷わずにAIガバナンスのアクションに出ることを期待します。
本章では、日本がAI活用において米国に追いついたこと、AI活用の全方面で昨年よりもメリットを感じ、組織・環境・民主化の面で多くの企業が施策を打っていることが分かりました。一方で、ROI測定やAIガバナンスへのアクションについては米国の後塵を拝していることをご紹介しました。
これら日本企業のAI活用の進展は、誰が推進しているのでしょうか。このセクションでは、多くの企業が課題視しているであろう人材の観点から、現状と今後の課題を深掘りします。
AI導入推進は、社員によるものか、外部委託先によるものかで大別されます。社員自身で推進することを「内製化」と呼びますが、内製化度合いに関して、「米国に追いつく日本のAI活用」のセクションでも触れた「AI導入企業」と「AI準備中企業」の間で顕著な差がありました。内製化についての質問は、各フェーズごとに①「完全内製化(外注率0%)」②「半分以下外注(1-50%)」③「半分以上外注(51-99%)」④「完全外注(100%)」⑤「わからない」で回答してもらい、①の完全内製化の回答企業の比率をグラフ化しています。(図表10)
全てのフェーズで、「AI導入企業」の方が内製化率が高い結果になっています。AI活用が進んでいる企業ほど、自社の社員で推進しているということが見て取れます。
AIは全てが期待通りの結果になるとは限らず、多くのユースケースアイデアから限られた成功事例を作り出していく作業となります。1つのユースケースにおいても、データを分析しながらトライ&エラーを繰り返していく中で、新たな洞察を得たり、別の業務活用のアイデアを得たりすることがあります。さらに、AIを構築したら終わりではなく、運用をしていく中でも改善を行います。AIはインプットするデータの性質や前提が変わると、大きく性能が落ちる可能性があります。性能をモニタリングし、劣化を検知した際に、さまざまな仮説を立ててインプットデータの傾向変化を分析し、特徴量を組み替えたり、時には大胆なモデル変更を行うことで精度改善を行います。運用フェーズこそが、AIの価値を高める最も重要なフェーズと言っても過言ではありません。以上のことから、AI活用は柔軟な軌道修正が必要であり、アジャイルな推進方法が適しています。
システム開発の外部委託で通常用いられる請負契約においては、成果物を事前に定義しますので、アジャイル開発のような柔軟な軌道修正はできませんが、社員であれば状況に応じて柔軟に軌道修正できます。外部委託先を使ってアジャイル開発を実現することもできますが、その場合は準委任契約が必須となります。リソース不足などの問題で内製化までは難しいという企業も多いと思います。その場合は、準委任で外部委託先と契約をし、柔軟に軌道修正できるよう、社員によって外部委託先をコントロールできる体制にしておくことが肝要です。この状態を「自走化」と呼びます。
AI活用においては、内製化または自走化が重要な成功要因となるのです。
再度、図表10に注目すると、特に「運用改善(MLOps)」のフェーズにおいて、内製化率に大きな差があることが分かります。先も述べた通り、運用フェーズがAIの価値を高める最も重要なフェーズです。よって、運用フェーズを内製化できている企業ほど、AIの効果を享受できている可能性が高いと推察できます。
図表11において、「AI導入企業」と「AI準備中企業」以外も含めた全企業で見ると、内製化度合い(①「完全内製化(外注率0%)」と回答した企業の比率)は、「テーマの創出・企画」フェーズで38%なのに対し、「運用改善(MLOps)」フェーズでは15%と低い状況です。2022年に内製化していきたいフェーズ(図表12)を確認したところ、「テーマの創出・企画」フェーズは47%なのに対し、「運用改善(MLOps)」フェーズは23%と低いです。回答企業にAIの運用まで行きついていない企業が含まれる部分を加味しても、運用における内製化の意識は低いと言えます。運用フェーズにおけるアジャイルな手法などでの改善の必要性を理解し、多くの企業が内製化または自走化によりAIの価値を継続的に維持・向上していくことが望まれます。
今度は、職種別の内製化の状況について見ていきたいと思います。AI活用においては、業務課題を特定しAIで解決できる問題に再定義をする「トランスレーター人材」、定義された問題に対し高度な分析技術を用いて解決策を提示する「高度データサイエンス人材」、高度データサイエンス人材が分析できるようデータ環境を提供する「データエンジニアリング人材」、業務に導入されたAIをモニタリングし継続改善を行う「MLOps人材」の、大きく分けて4つの職種が登場します。
図表13の現状の内製化状況を見ると、高度データサイエンス人材が28%完全に内製化しているのに対し、トランスレーター人材では15%と非常に低いのが見て取れます。2022年に最も内製化したい職種を確認したところ(図表4)、高度データサイエンス人材が42%に対し、トランスレーター人材は21%と半分のポイントしかなく、注目度があまり高くないと言えます。
トランスレーター人材は業務課題をAIで解決できる問題に再定義する人材のため、自社の業務について理解している必要があり、自社社員での推進が最も適している役割と言えます。しかしながら、図表13を見て分かる通り、実状は多くの企業が外注に頼っており、今後も内製化領域としては優先度を低く考えていることが見て取れます。業務問題をAI問題に再定義する作業を外注先が行う場合、業務を理解するための業務分析からスタートする必要性があり、効率的とは言えません。
AI活用は多くのユースケースアイデアの創出が肝となります。このユースケース創出をする人材こそが、業務を知りAI問題に変換できるトランスレーター人材であるため、この領域こそ内製化すべきと考えます。日本企業がトランスレーター人材の内製化の必要性を理解し、世の中で注目されるデータサイエンス人材ではなく、トランスレーター人材の社内育成を行っていくことができれば、今以上のAI活用と効果が期待できるのではないでしょうか。
このセクションでは、AI導入企業では内製化率が高いことを紹介しました。しかし、全体で見ると運用の内製化や、トランスレーター人材の内製化に対する意識が低いことも分かりました。
このセクションでは、過去のAI予測調査では見られなかった日本企業における新たなAI活用のトレンドをご紹介します。
2022年のAIに関する優先課題で優先度1~3番目までを聞く質問(図表15)では、日本では「AI戦略の設定」に次いで「AIと他のテクノロジーの融合」を挙げた企業が合計で40%と、米国と比較しても多い結果でした。
AIとどのテクノロジーの融合を導入・検討しているか聞いた質問(図表16)では、「実施している」「計画・導入予定」「検討中」を合わせた数値が81%と、「IoT」が最も多く、次に「ロボティクス(RPAは除く)」で80%、「AR」で67%、「VR/メタバース」で65%と続く。それ以外の技術でも全て検討中以上企業が半分以上であり、さまざまなテクノロジーとAIを融合したユースケースを日本企業が検討していることが見て取れます。
2021年AI予測の調査までは、AI単独だけでも活用に苦しんでいる状況が見られましたが、今回の調査では、AI活用に目途がつき、AIと他のテクノロジーを融合したユースケースの探索に舵を切っている傾向が見て取れます。IoTは、AI活用企業の多くが直面する「データが無い」という課題を解決できるテクノロジーのため、AIとの融合活用が最も多いと推察できます。ロボティクスは、用途の多様化により汎用化が進展している中、個別用途への最適化にはAIの一種である強化学習が不可欠です。ドローンは、撮影した画像をAIで瞬時に画像解析する点でAIとの親和性が非常に高いです。
このような、すでに多方面で実用化されているユースケース以外にも、テクノロジーの組み合わせは新たなユースケースを創出する可能性を秘めています。VR/メタバース上では、昨今注目される空間IDのデータを組み合わせることで、実世界では取得困難な空間と人間(アバター)を関連付けたデータを取得し、AIにより新たな顧客体験を創出することが期待されます。量子コンピューターは、大量の計算リソースを必要とする組み合わせ最適化を瞬時で解くことができ、経路最適化などをリアルタイムで実現する可能性があります。ブロックチェーンは、データの改ざんが困難なため、AIの学習データの信頼性を担保する可能性が注目されています。
AIと他のテクノロジーの融合によって、今まで困難とされていた問題を解決できる可能性が大いにあり、すでに日本企業はその可能性に気づき、融合活用を始めているのです。
2019年にダボス会議で当時の安倍晋三首相が提唱したDFFT(Data Free Flow with Trust)3に端を発し、2021年には政府が「包括的データ戦略」4を策定し、Society 5.0(サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会)を目指す日本では、企業や業界を超えた社会レベルでの安全なデータ流通に注目が集まっています。企業においても、今回の調査でデータ流通への取り組みの増加が顕著に現れました。
他社とのデータ連携の取り組み状況について質問したところ(図表17)、21%が「実施している」、49%が「検討中」と回答し、合わせて70%が何かしらのデータ流通の取り組みをしていることが分かりました。
こちらも同じように、日本企業全体でのAI活用の成熟度が上がり、自社内でのデータ活用に目途がついたところで、自社データを基に新たな収益化(データマネタイゼーション)に取り組む企業や、他社のデータを購入しての自社での新たなユースケースの探索に取り組んでいる企業が増えていると推察します。データが拡充されれば、新たなAIのユースケースも生まれ、当然AIの活用も進みます。
自社にとってはそれほどの価値のないデータでも、他の業界では非常に有益なデータで対価を払ってでも入手したいという企業がいるケースもあります。データ流通に未着手の企業は、視線を上げ、他社との連携により社会レベルの課題解決に取り組んでみてはどうでしょう。日本社会の底上げに貢献できるだけでなく、自社にとっても新たなビジネスチャンスを発見できるかもしれません。
どんなテクノロジーでも、活用メリットの裏にはリスクが伴います。AIも例外でなく、AI特有のリスクが存在します。AIの活用が社会的に進み、さまざまなリスク顕在事例が出てきています。ましてや前セクションで言及したような社会レベルでの活用が進めば、AIが社会基盤になり、より慎重にリスクに対処していかなければなりません。このセクションでは、昨今急激に機運が高まっているAIのリスク対応の取り組みであるAIガバナンスについて見ていきます。
図表18はAIガバナンスの取り組み状況について質問した回答です。「すでに取り組んでいる」が23%、「取り組みを一部進めている」24%で、合わせて47%の回答がありました。「準備・検討している」との回答が31%で、合わせてAIガバナンス検討済の比率は78%にものぼりました。AIガバナンスは日本企業で急に注目されるようになった印象ですが、その理由は社内外の2つの側面での機運の高まりがあったからだと推察しています。社内面での要因は、自社内でのAI活用が進みコアビジネスにAIが組み込まれていく中で、自ずとAIのリスクへの注目が高まったことです。社外面での要因は、Black Lives Matter5に端を発したAIによる黒人差別問題で世界的にAIリスクへの機運が高まり、日本においても2019年に「人間中心のAI社会原則」6、2021年に「AIガバナンス・ガイドライン」7が策定されたことです。
次に、日本企業がどのようなリスクに注目しているのか見てみましょう。
個々の企業のAI活用のビジネス特性を踏まえ、自社で発生しうるAIリスクについて聞いたところ(図表19)、サイバーセキュリティに関するリスクに注目する企業が最も多く、54%となっています。AI特有のサイバー攻撃には、データポイズニングと言われるAIの学習用データに不正データを混入し、AIのアウトプットを意図表的に操作する攻撃などが存在します。しかし、実際に攻撃された事例はほとんどないのが現状です。サイバー攻撃で過去に痛い目を見た企業が多く存在するため、新たな攻撃手法にも慎重に対応しようとする日本企業の姿勢がうかがえます。
次に多いのがプライバシーに関するリスクで、44%です。ユーザーの同意なく個人情報をAIを使ってビジネス活用してしまうようなケースが、このリスクに該当します。もちろんAI活用時においても注意すべき観点ではありますが、AI独自で生まれる問題ではないため、個人情報保護法改正の対応に準じて検討企業が一時的に増えているものと考えられます。
AIだからこそ生まれる新たなリスクには、自動運転にて人を物体と誤認識してしまうような「安全性・信頼性」に関するリスクや、男女差別などの社会的なバイアスを含んだデータを学習してしまう「公平性」に関するリスク、AIの判断がブラックボックスであり理解できない「説明可能性」に関するリスクなどがありますが、それぞれ37%、26%、22%と、「サイバーセキュリティ」や「プライバシー」に比較すると課題視されていません。
AIガバナンスの取り組みの加速はすばらしい一方、その中身への理解は途上であり、以前から企業内で取り組まれているリスクに意識が偏っている状況があります。AIが生み出すリスクについて理解を深め、自社のビジネス、自社のAI活用状況と照らし合わせて、包括的にリスクを優先順位付けして取り組みを進めていくことが期待されます。
このセクションでは、AI活用の新たなトレンドとして、AIと他のテクノロジーとの融合活用や、社会レベルでのデータ流通、AIリスクへの対応などを日本企業が行っていることを紹介しました。
With COVID-19が長引き、米国においてはAI活用に進捗が見られない中、日本では確実に活用企業が増え、活用状況で米国に並ぶレベルまで進展し、AI活用の新たなフェーズが垣間見えた調査結果でした。
今回の調査で分かった新たなトレンドと提言をまとめます。
第2フェーズの動きとしては、他テクノロジーとの融合活用、他社とのデータ流通、AIガバナンスなどの新たな取り組みが見えました。一方で、ROI測定能力の低さ、AIガバナンスへの及び腰、運用の外部依存、トランスレーター人材の外部依存など、まだまだ日本企業の改善余地も見えました。
最後に、もう1つ調査結果を紹介します。今後12カ月(1年)の売上高予測をAI導入状況別にクロス集計をしたものです。
AI導入をしている企業ほど、今後1年間の業績向上を見込んでいることを指します。(図表20)因果関係については議論の余地がありますが、AI活用が企業の競争力の源泉になっていると捉えることもできます。企業は、今後もAIに積極的に投資を行い、ウィズコロナの困難を乗り越えていっていただきたいです。
また、AIは社会基盤になり得る技術です。今回の調査で、日本企業がデータ流通で企業の枠を超えて課題解決を行いはじめている現状が見えましたが、すばらしい動きだと考えています。日本企業が、さまざまな困難を乗り越え、一丸となって社会問題を解決していくことで、AIにより人間の生活が豊かになり、日本がAI先進国になる日を信じています。われわれも、豊かな未来を目指す企業の皆さまの一助になれれば幸甚です。
1 PwC, 2022.“PWC 2022 AI Business Survey.”
2 PwC,「2021年AI予測(日本)」(2021年)
5 Black lives Matter 2012年に起きたアフリカ系アメリカ人に対する事件をきっかけにアメリカで始まった人種差別抗議運動
6 内閣府「人間中心の AI 社会原則」2019年
7 経済産業省「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン Ver. 1.0」2021年