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近年のハイテクノロジーの中でもAIは特に社会をつくり変えるインパクトを持っており、AIによる社会変革の波を多くの方が感じているでしょう。これまでに見られたソリューションとしてのAIは序章に過ぎず、今後は生活・経済・ビジネス・規制・価値観を揺るがすほどの構造改革が起こり、あらゆるもの、ひいては社会そのものに人工知能が備わる未来が、着実に迫っていると私たちは考えています。このような未来に取り残されないためには、迫り来るAI社会を見据えて、未来における自らの存在価値を再定義し、変貌し、適応していく必要があります。本レポートではAIの進化が産業や社会に与える影響を踏まえ、主要な業界のトレンドにも触れながらそれぞれの業界にどのような変化が訪れるかについて考察します。
2010年代後半以降1、社会・国・企業における最重要アジェンダに、環境、貧困、人権、技術イノベーション、地方創生、多様性などの観点が一層盛り込まれるようになっています。地球環境の悪化による持続可能性の追求や人口動態の変化による価値観の変容、対立を生む地政学的分断などを通じて、求められる社会の在り方は目まぐるしく変わり、数年後には、今の社会構造では対応できない未来が訪れると考えられます。
人口減少を一例に見ても、国内人口が約7,000万人まで減少するという推計の中で、国内市場の消滅、深刻な労働力不足、インフラ/国土の空白化、行政崩壊などが進み、現行の社会システムでは機能不全に陥り、国家衰退の危機が訪れる未来も、あり得ないシナリオとは言い切れません。
構造から変わりゆく社会に適応するには、人間の能力を増強し、拡張し、代替することが期待されるAIの潜在力を存分に引き出していくことも、重要な切り口となるでしょう。
本レポートでは、10年後、20年後に起きる社会構造の変革を見据えて、AIが社会に与える影響や産業の未来像を掘り下げます。
昨今のAIトレンドに目を向けると、大規模言語モデルを土台として、汎用型AIや業界特化型AIが生み出され、ロボットや各種デバイスへの搭載を見据えながら、AIサービスの基盤を担う半導体、データセンター、電力供給などを中心に歴史的な巨大投資合戦が繰り広げられています。
今後、AIの実装が急激に進んでいくと、既存のバリューチェーンが破壊され、再設計が進んでいくと考えられます。具体的には、AIによる自動化などにより、定型的な中間工程の簡素化または消滅が進んでいくことで、従来の多重構造型産業や人海戦術で賄われていた仕組みは徐々に淘汰され、AI実装を前提とした新たな業務プロセスへのシフトが求められるでしょう。また後述するように、バリューチェーン上における競争の主戦場も大きく変わっていく可能性があり、業界の重要アジェンダも様変わりしようとしています。
図表1:AIが与えるインパクト
AIは社会・産業の根幹に実装され、人や企業の考え方・関わり方を変える
今後、AIの浸透が進み、あらゆるモノにAIが搭載された社会では、人間の価値観や社会の在り方そのものの捉え方も変わっていくかもしれません。
AI代替が進むほど、人は「人間であること」の意味を具体的に再定義せざるを得なくなっていきます。なぜなら、AIが出す合理的な解が、人間にとっての最適解であるとは限らず、その判断においては今まで以上に、人間独自の価値観や共感、感情、倫理観を尊重した非合理的な決断などの重要性が増していくと考えられているからです。だからこそ、「人が人らしく生きられるか」「人としての尊厳を損なっていないか」という人間主義の観点が、AI技術の選択や運用・制度設計の前提条件になっていくと考えられます。
このように、AIは産業そして社会に浸透していくほどに、それらの既存の在り方を一変させていくでしょう。
AIの社会浸透が進み、産業における既存バリューチェーンの再構築とともに起こり得る変化の中でも、AI産業のプロフィットプールの重心(利益の源泉)がどのようにシフトしていくかについて注視が必要です。
図表2:バリューエコシステムにおける主戦場のシフト
現在は、AIサービスを提供するために必要不可欠となるモデル開発、半導体、データセンターなどが主戦場となり、AI性能の技術競争や計算資源の獲得に向けたインフラ増強に巨額の投資が集中しています。しかし、これらの技術・供給能力が一定水準に達し、汎用化が進む段階に入ると、価格競争が一層激化するとともに寡占化リスクなども相まって、インフラ層だけで高収益を確保することは難しくなります。したがって、中長期的にAI市場で生き残っていくためには、過熱するこうした投資合戦の先にある市場の勝ち筋の変化を、いかに見極められるかという点が重要となってきます。
そこで私たちが、次なる重要領域として注目しているのが、「アプリケーション・AIエージェントのプロデュース」や、「各産業へAIを組み込み、変革をもたらすための設計から実装までを担うRTB(Run The Business)」の領域です。巨額投資が先行する中で、それによって構築されたAIインフラから生み出される価値を、投資回収に足るマネタイズモデルやユースケースにつなげることができなければ、AIバブルが崩壊するのではないか、という市場成長を危ぶむ声も聞こえています。そこで今後のAI市場を成立させていくには、社会やユーザーが求める価値を念頭に置きながら、それを実現するためのサービス、機能や仕組みまでを一貫してデザインし、実装・運営するRun The Businessを担うプレイヤーの存在が重要になってくると考えます。
現在は、その役割を担う目立ったキープレイヤーは不在ながらも、ロボットを用いたフィジカルAIの活用など、覇権争いの予兆は見え始めています。私たちはこの領域において、将来のAI市場をリードするバリュープロポジションを見出しており、クライアントとともに新たな時代の創出へ向けた迅速なアプローチを進めていく考えです。
対話型生成AIが世界中で広まってからほどなく、現在は、エージェントAIが複数のAIと自律的に連携して人間に近い対応や判断を担い、生活や産業のさまざまなシーンで人間のパートナーのような存在になり得るという期待も高まっています。
また、AIの進化はデジタル空間にとどまらず、ロボティクスやIoTと結び付いてフィジカル(物理)空間にも広がっています。フィジカルAIとは、現実世界の物理法則を認識し、物理空間で自律的に判断・行動する技術を指します。AIは仮想空間の情報処理を超え、自動運転車やロボットなど実体を伴って現実世界に作用するフェーズに入ってきているのです。
エージェントAIによるデジタル上の自律的なデータ処理と意思決定にフィジカルAIの物理環境認識が加わることで、物の位置・重さ・状態などに対して物理的影響を解析・抽出しながら、まさに「現実で行動する」ことができるようになり、製造、モビリティ、医療など多様な分野での活用が加速していくと見込まれます。
図表3:フィジカルAIがもたらす影響
こうしたAIの活用と応用の結果、「 IoT(Internet of Things)」ならぬ「AIoT(AI of Things)」が普及していき、AIは人間の代替として、現実社会の課題を直接的に解決しながら、私たちの生活に溶け込んでいくと考えられます。そして、その先の未来の一例としては、あらゆるものに点在したAI群が特定の領域ごとを管轄する統合型AI=「ソーシャルAI」の下に束ねられ、自律駆動で社会・産業を支える時代の到来も考えられます。このように、社会機能の一部領域を統合型AIが担うようになれば、社会の根幹にAIが実装される「AIoS(AI of Society)」とでも呼ぶべき概念が一般的になる日も遠くないかもしれません。
図表4:生成AIからフィジカルAIへの潮流
AIが今後の人間社会に多くの恩恵をもたらしてくれる存在であることは間違いありません。
定型・非定型を問わず、クリエイティブも含めた高付加価値化に加え、知的労働の生産性を大幅に向上させ、タスク指示から完了報告まで自律的に代行してくれることが期待されます。このことは、特に先進国において大きな課題となっている労働力不足を解決する打ち手の1つにもなり得ます。
また、AIにはスケールメリットが働くという特長があります。すなわち、使えば使うほどデータが蓄積され、性能が向上し、推論コストが逓減するメカニズムになっており、私たちがAIの恩恵を受けるほどに、その機会と範囲が加速度的に拡大していく側面を持ちます。
しかし、AIの進化によってもたらされるのは、ポジティブな面だけではありません。例えば、インプットデータに偏りがあった場合、ハルシネーション(正しいようで誤った回答)、非倫理的な回答、判断プロセスのブラックボックス化などが多発し、人間の介在しないアウトプットは大きなリスクとなり得ます。既に、企業レベルでも、ハルシネーションに気付かずにアウトプットを公表してしまった事例が出始めており、今後、AIが産業・社会に浸透していく過程では、その影響はより深刻なものになると考えられます。
また、インフラ制約の変化と寡占市場リスクにも目を向ける必要があります。GPU/NPU、データセンターや通信、電力などは、AIのキーインフラシステムの重要な構成要素となっており、獲得競争が激化しています。そのため、これらの戦略物資の調達力および資本力をいかに充足できるかが勝敗を左右する市場になりつつあります。現時点では、これらのケイパビリティを持つプレイヤーは限られ、既にビッグテック企業を中心に寡占市場化の傾向が表れ始めています。このような動向は、下流プレイヤーのコスト増、地政学リスクなどの問題につながりかねません。
図表5:AIの恩恵と脅威
AIという起爆剤により社会・産業を取り巻く環境が大きく変わる中、新たな価値を見出していくには、産業構造の全容を読み解き、ユーザー価値から逆算する「アーキテクチャ思考」が一層求められるようになると考えます。
社会の大いなる変革期となるAI時代においては、AIの産業構造の中で自社が創出すべき価値を特定した上で、どの領域を注力領域として競争優位性を生み出していけばよいか、その見極めが非常に重要になっていくでしょう。
図表6:機能軸で見るAI産業アーキテクチャ
また、価値そのものの捉え方も重要になってくるものと考えられます。PwC Japanグループでは、AI産業構造を、社会的価値、産業的価値、機能的価値という3層で整理しています。
図表7:価値起点で形成されるAI産業アーキテクチャ
*AI技術革新によって社会や産業がどのように変化していくか、その中で企業がどのような価値を創造するかについて調査・分析した調査レポート「Value in motion」で提唱された、新しい価値領域
アーキテクチャ思考でデザインされる価値は、業界間の垣根を超えていきます。したがって、従来型の特定テーマの実現に向けた企業間連携という「業界横断」の考え方ではなく、どの層の価値を実装するかを定め、そのために必要なキープレイヤーやアセットを集結させていく「価値連帯」の拡大というアプローチが、これからのAI産業を成長させていくための主流となっていくのではないでしょうか。
AIによる従来のバリューチェーン転換に伴い、経営トップが取り組むべき経営アジェンダも様変わりします。特に以下の点への対応が重要です。
図表8:AI時代の経営アジェンダ再定義
AIバリューチェーンの中で、追求すべき価値創造領域を見極め、自社のコアコンピタンスを踏まえた競争優位性を再定義することが重要となります。加えて、日々変化する競争環境に適応した、自社のプライシングや収益体系のアップデートも求められます。
激化する競争環境を戦い抜くためには、データセンターやGPU、電力供給などの自社に関わるインフラストラクチャ上の制約を見極めた上で、中長期的な勝ち筋を押さえた戦術が不可欠となります。こうした制約を前提とし、巨大なAI市場で競争優位性を確保していくにはパートナリング(M&A、アライアンスなど)が欠かせないアプローチとなります。
AI時代にグローバルで通用する実装を果たし、初期投資が巨額になりやすいAIソリューションの損益分岐点を確実に超えるためには、複数リージョンにシステムを分散配置するマルチリージョナルRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)のような仕組みを標準的に備え、低レイテンシ・高可用性・耐障害性などを担保する必要があります。また、AIアプリやAIエージェントに対して評価・チェックするAIエージェントという考え方の「Agent of Agent」の整備も求められます。
半導体をはじめとした巨額投資の下に成立するAI市場では、投資回収に足る収益性の高いマネタイズモデルを生み出すことが最優先事項となります。既に、国内企業でもロボティクス企業の買収が取り沙汰されているように、AIプレイヤー自らが、価値創造につながるユーザーインタフェースをどこまで設計していけるかが、市場の成否を左右する重要な要素となり得るでしょう。
AI時代においては、他社も使える汎用データやオープンデータだけでは、持続的な優位性を確保できません。自社だけが持つデータ資産をいかに蓄積・活用できるかが非常に重要になります。特定の産業や業務などにおける高い付加価値創出につながる大量のユニークデータの確保、信頼性の担保、自社サービス内AIへの取り込み、価値創出までを含めた独自データサイクルをいかに練り上げていけるかが鍵となるでしょう。
ここまでは、AIの進化や恩恵と脅威、社会に与える影響について論じてきました。ここからは、AIの拡大が世の中の産業に対して具体的にどのような影響を与え得るかについて掘り下げます。
最初に、AI普及が通信インフラに与える影響について考えます。
AI普及によって飛躍的に増大していくトラフィックデータを、高速大容量・超低遅延・低消費電力で処理できる通信インフラの構築が求められると予想されます。実際、生成AIを介して動画コンテンツを容易に量産できるようになったことや、リアルタイムデータの送受信が容易になったことなどにより、2025年から2031年でネットワークのトラフィックは約2倍になる2と推計されています。
これらの需要に応えるためには、超低遅延で多数のデバイスを同時接続可能で、広帯域にわたって自律的にネットワークを切り替え、高速通信を可能とする仕組みが必要です。しかし近年、課題視されている通信品質の改善に通信各社が相応の期間を要している状況に鑑みても、これは一朝一夕に実現できるものではなく、各社にとって大きな重荷となりかねません。
また、世界的に計算処理需要の急速な拡大が見込まれる(2018年から2030年にかけて約70倍に増大するとの推計3もある)中、計算処理の分散を実現する「エッジAI」が注目されています。エッジAIとは、AI処理をクラウドではなく、ユーザーの近くにある機器において行う技術を指します。エッジAIの例として、ユーザーが使用するパソコンやスマートフォンへのAI搭載などが挙げられますが、通信業界においては、計算処理機能を通信基地局に持たせる取り組みが出てきています。この場合、計算は通信基地局で処理されるため、データセンターを介した計算処理は分散、軽減されます。計算には大量の電力消費が必要となるため、結果として電力消費も分散されることとなり、災害リスクや送配電設備負荷の分散というメリットにもつながります。また、利用者目線でも、データが遠方の大規模DCまで往復する必要がなくなるため、低遅延な処理を行えるという利点があります。エッジAIはその「低遅延」という特徴から、リアルタイム性が求められる自動運転やフィジカルAIといったユースケースにおいて真価を発揮しますが、通信事業者はそれを支える「通信設備」×「エッジAI」の構築の担い手としての重要性が高まるでしょう。
このように、通信業界は、AI実装社会を見据えたインフラ構築という重大な役目を担っています。このインフラ構築に後れを取れば、通信業界において極めて重要な業務を支えるAI普及のボトルネックとなり、最終的には企業競争力や市場成長をも阻害するようなリスクにさえなり得るでしょう。
続いて、製造業界の未来においてAIが及ぼす影響を考察します。
製造工場におけるAIの恩恵は、例えば、自律的生産と需給予測の劇的向上に表れると考えられます。人の機械操作や判断を必要とせず、不良品率を抑えた生産ラインを維持し、製品の売れ筋や滞留を見極めた無駄のない計画を作成・実行するなど、AIやロボット自体が自律的に工場を運営するようになれば、在庫を極端に減少させたオペレーションの実現が期待できます。
そのような製造工程へのAI実装に伴い、製造業者に蓄積されるデータやノウハウは、磨き上げられた熟練技術や一部の職人に継承された匠の技も含めてデジタルツインでシミュレーションされ、型として整備されることで、製造工場自体がソフトウェア化(製造OS化)していく可能性があります。ここで言う製造OSとは、企業の暗黙知となりがちな製造技術やプロセス、不良品を抑える条件、需給変動に応じた生産計画の切り替え方などをソフトウェア上に定義し、どの工場でも同じような品質で再現できるAIデジタル基盤を指します。
製造OSを介して、各工場に点在する熟練工の匠の技のような暗黙知すらも、自社の複数工場間で再現可能な知(資産)に変換されていくかもしれません。それにより、これまで小規模事業者など生産体制を整えることに苦労していた企業も、製造OSを用いることで優れた製造機能・技術・ネットワークを持てるようになるかもしれません。
また、主要な製造拠点で大量生産して在庫を抱えながら各地域へ配送する従来のビジネスモデルは、AIによる需給予測の向上と相まって、在庫を抱えない受注生産に特化したビジネスモデルへのシフトも可能となります。さらに、受注のあった地域ごとの小規模製造拠点が生まれ、サテライト型製造ネットワークが形成される未来もあり得るでしょう。
これらの動きの影響が物流業界へ波及することも予想されます。この新しい製造ネットワークが形成されれば、各地に点在するサテライト型工場で受注生産した製品のラストワンマイル配送のニーズが急増し、地域ごとの物流網を再構築するきっかけになる可能性もあります。従来の物流企業の競争力は、人員数やトラック台数などに依存していましたが、今後は無駄を極限まで排した物流システムを構築するAI性能が物流の競争力を決める時代になっていくでしょう。
このように、製造業界におけるAI普及は、その供給網の刷新に合わせて物流のバリューチェーンにまでインパクトを与え得るのです。
最後に、一般の消費者やユーザーの生活と関わりの深いエンタテイメント(エンタメ)の世界において、どのような影響があるかを見てみましょう。私たちの生活とエンタメの関係を振り返ってみると、テレビや映画を視聴していた時間の多くをスマートフォンでの視聴に振り分ける形になり、SNSをはじめとするスマートフォンでの動画視聴も既に一般化しています。このような流れの裏にある制作や流通の現場では、AIが入り込むことによってどのような変化が起こっているのでしょうか。
エンタメ制作の現場では、静かな地殻変動が既に起き始めています。AIの進化により、脚本・映像・音楽の生成を半自動化したり、現地で実際に撮影しなくても既存のデータの中から動画を作ったりする動きが模索されています。これまで数億円単位の予算と長い工程が必要だった脚本・映像・音楽の制作が、生成と編集の半自動化によって短期間・低コストで仕上がるようになっています。
この動きは着実に進み、数年で明らかなトレンドとなることが想定されます。制作のハードルが下がることで、エンタメ業界への参入者は爆発的に増え、コンテンツは「過剰供給」の時代に突入すると考えられます。また現場の優劣は、AIの使いこなしの優劣で決まるようになるでしょう。どのAIスタックを持ち、どう訓練し、どう運用するか、これが適切にできるプレイヤーが高い付加価値を生み出すことが想定されます。
制作コストの低減というプラスの影響の半面、実は、この変化は、既存の制作会社にとっては望ましくない未来の始まりになる可能性があります。従来、制作現場はテレビ局や配信プラットフォームから仕事を請け負い、制作費を原資として利益を積み上げる構造でした。しかし、AIによる効率化で制作費が縮小すれば、請負の単価は下がり、利益は圧縮されるでしょう。さらに、プラットフォームは自らAIを使って制作を内製化する可能性があり、制作会社は「仕事がない」未来に直面する可能性もあります。
生き残りのヒントは「IP(知的財産)」の活用とAIの操縦力だと考えられます。具体的には、以下の4点が分水嶺となるでしょう。
単なる下請けから脱却して作品の権利を自ら握り、二次利用(グッズ、イベント、ゲーム化、海外展開など)で収益を積み上げられるかどうか。これには資金調達、権利処理、販売戦略といった、従来はその一部をテレビ局に頼ってきた機能を、制作会社自身が担うことが求められるでしょう。AIの進化により、エンタメ業界の制作の場では、「AIを効率化に使いながら」「IPを握り、ファンとつながる」「企画・権利・金融を内包するクリエイティブ企業」へ進化できるかどうかが問われています。
続けて、映像の流通においてはどのような変化があるかを見ていきましょう。
消費者の視聴スタイルは大きく変わっています。かつては固定された場所でテレビを視聴することが当たり前でしたが、現在は「好きな時に好きな番組を楽しむ」オンデマンド型が主流です。この変化は映像作品の流通構造にも影響を与え、従来のマスメディア中心のモデルは相対的に存在感を失いつつあります。
直近ではSNSや動画配信サービスが視聴の中心となり、検索は不要になりつつあります。コンテンツは「見えないアルゴリズム」によってAIが嗜好や感情を解析し、自動で届ける仕組みへと進化しました。視聴と購買が一体化する動きも加速しており、広告の在り方は根本から変わろうとしています。
広告枠そのものの価値は残ります。むしろSNSや動画配信サービスでは、プラットフォームが高度なターゲティングを行うことで、広告主は自社商品を理解してくれる層に直接リーチできるようになり、広告枠は「意味ある広告」を打つための重要な資源であり続けます。
しかし、懸念されるのは既存のマスメディアや広告代理店のモデルです。従来の「大衆向けに同一広告を番組の間に挿入する」仕組みとビジネスが持つ、「マス層での認知向上、ブランドイメージ向上」という大きな役割は引き続き残ります。一方で、個人の嗜好や行動データに基づいてAIが推奨してくるハイパーパーソナライズされた広告に比べると、商品の購買行動等につなげるコンバージョンや販売促進という機能面では競争優位性がありません。この構造変化に対応できなければ、既存プレイヤーのマス広告を前提とした収益モデルは急速に存在感を失うでしょう。
広告業界やメディアが生き残るためには、次の2つのアプローチが求められます。
つまり、広告業界は従来の「広告業」から「体験設計業」へ、そして「IP育成業」へジャンプする必要があると言えるでしょう。AIを駆使して体験を設計し、IPを育成できるかどうかが生き残りの鍵になります。
推薦ロジック、購買予測、ブランドの盛り上がり状況の把握、価格最適化、プロモーション最適化など、リアルタイムに状況を把握し打ち手を繰り出すには何が必要か。それらを手作業で実施するのか、それともAIを駆使して効率的に顧客企業を支えるのか。アルゴリズムが支配する未来では、流通をサポートする側もまた、AIを利用して対応していくことが必然に思われます。生き残るのは、データとIPを握り、AIを使いこなし、ユーザーとの関係を再設計できるプレイヤーではないでしょうか。
本レポートでは、AIの進化や、AIがもたらす恩恵と脅威に触れながら、AIが産業や社会に対してどのような変革をもたらし得るかについて見てきました。また、テクノロジー・メディア・情報通信業界については、直近の具体的なトレンドも取り上げながら、AIによって各業界にもたらされる未来について考察しました。
第2章で触れたように、AI時代には、求められる経営アジェンダが様変わりします。特に社会構造の変化が激しい現代において、その変化スピードはますます加速していきます。この変化に取り残されないために、自らの存在価値を再定義することは企業にとって必要不可欠なプロセスと言えるでしょう。すなわち、AIの産業構造の中で自社が創出すべき価値を特定した上で、どの領域を注力領域として競争優位性を生み出していけばよいかを見極めることが重要となります。その見極めにおいては、本レポートで取り上げた、AI産業構造を社会的価値、産業的価値、機能的価値という3層で整理する「産業アーキテクチャ」のフレームワークが一助となるものと考えます。
1 例としてSDGs、パリ協定が、いずれも2015年に採択され、2016年に発効している(SDGs:国際連合広報センター、パリ協定:外務省)。
2 エリクソン「Ericsson Mobility Report November 2025」より。モバイルネットワークトラフィックの合計は197EB/月(2025年)から482EB/月(2031年)と2.4倍に増加予測。固定データトラフィックは380EB/月(2025年)から710EB/月(2031年)と1.9倍に増加予測。
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