再生可能エネルギーの拡大展開と水素化社会の実現

2019-09-10

気候変動により年々自然災害が拡大する中、CO2排出量の増加が大きな要因であることを疑う余地はありません。いまだに懐疑的な研究者もいますが、2015年開催の第21回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP21)にてパリ協定が採択、その翌年には異例ともいうべきスピードでパリ協定が発効されました。2018年末には第24回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)にてパリ協定運用に向けた各種ルールが採択され、CO2低減に向けた世界レベルでの活動が2020年より本格的に始まることになりました。まさにCO2低減は待ったなしの状況にあります。各国、各地域、各セクターはこれまでの化石エネルギー依存から早急に脱却し、再生可能エネルギーへの転換を進める必要があります。本稿では各国がパリ協定で掲げたCO2削減目標達成に向けた動向、各セクターの今後の脱化石化のロードマップおよび水素化社会実現に向けての動きについて解説します。

各国がパリ協定で掲げたCO2低減自主目標

図表1に各国の2018年までのCO2排出動向を示します。CO2排出量のワースト5として中国を筆頭に、米国、インド、ロシア、日本と続く中、中国は2013年以降飽和状態、米国は2005年以降減少傾向、インドは飽和どころか増加を続けています。図表2はCO2排出量が多い主要国の、COP21(パリ協定)での自主目標とそれへの対応状況です。パリ協定では国ごとに基準年が異なるため、目標を2013年比に換算してあります。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次レポートで報告されたCO2排出量は、2013年比で2050年に70%削減とあるため、それを達成するには少なくとも2030年では26%~28%低減が必須となります。各国の2030年の目標設定としては妥当に思えますが、2018年時点での低減効果と総量への寄与度という観点では、インド、中国、カナダの順で早急に対策を打っていく必要があります。(米国は2030年で見ると2013年比25%程度の削減目標。ロシアは2000年時点で目標達成したことになっています)

エネルギーの多様化

図表3は電力セクターおよび運輸セクターにおけるエネルギー多様化の状況と今後の道筋を示したものです。電力セクターは従来から化石燃料、原子力、再生可能エネルギーとエネルギーの多様化を図ってきましたが、世界全体で見ると、2017年時点で化石燃料比率65%、原子力比率10%、再生可能エネルギー比率25%と化石燃料依存が依然高いです。運輸セクター(自動車)に目を向けると、現時点では大半が石油を原料とするガソリン、軽油となります。今後、CO2低減に向け電力セクターは再生可能エネルギーの比率アップ、自動車は石油系燃料から脱却し天然ガス、カーボンニュートラル燃料(エタノール、バイオディーゼル)、カーボンフリー燃料(水素)、電気エネルギーと多様化を図っていく必要があります。

電力・エネルギーセクターの今後

再生可能エネルギーによる電力利用を社会全体で推進することが最重点課題の一つであることは間違いありません。ですが、電力セクターはEVのために再生可能エネルギーに転換するのではなく、パリ協定の目標を達成するために脱化石燃料への転換を図らなければならないことを認識しておく必要があります。図表4は世界の発電量の推移と再生可能エネルギー比率を整理したものです。化石燃料による発電は2020年以降ピークアウトし、2050年にはなんと全体の85%の電力を再生可能エネルギーなどのCO2フリーエネルギーでまかなう必要があります。石炭火力発電の抑制と再生可能エネルギーの拡大において、日本は先進国の中で最も遅れており電力行政は新興国並みといっても過言ではありません。電力構成を見ると、現時点で欧米主要国では再生可能エネルギー比率が30%を上回っています。対する日本の再生可能エネルギー比率の目標値は2030年で22%~24%に過ぎません(2018年策定の日本政府の「エネルギー基本計画」)。日本政府の同計画では、いまだに原子力の電力構成比率を2030年で20%~23%としています。また国際石油資本(オイルメジャー)などのエネルギーセクターでは、自動車メーカーがパリ協定の目標達成に向けて電動車の導入、燃費改善や脱石油化を図るため石油系燃料の需要は確実に減っていきます。図表5に示すとおり、今後、石油消費量は2015年の20.3億トンから2020年にはピークアウトし2050年時点で10.9億トンまで減少します。その内さらに6億トン程度がバイオに置き換わることで、消費量は2025年の1/4程度なるのであります。国際石油資本は早急に石油から、バイオ/水素といった新エネルギーへの転換を図らなければ存続が危うくなるでしょう。

水素化社会実現に向けて

再生可能エネルギーの効率的活用として、再生可能エネルギーで発電された電気と水からの水素製造が注目されています。

図表6はエネルギーの貯蔵期間と貯蔵量を整理したものです。再生可能エネルギー発電は電源の供給が不安定なため貯蔵が必要となりますが、電池の場合は貯蔵量がMWレベルで自然放電も伴います。一方、水素に変換しておけば、季節を超えたギガワットレベルの電気エネルギー貯蔵法として、再生可能エネルギーの効率的活用が可能となります。またバッテリーに比べ軽く輸送も容易です。またこの水素と大気中のCO2を反応器内で合成ガスに変換し、最終的にCO2から合成燃料を生成する技術も独自動車メーカーが2019年中に実用化すると報じられています。日本政府が水素化社会の実現を唱える中、日系自動車メーカーをはじめとする、世界の13社(自動車メーカー、重工業会社、エネルギー資本など)は2017年1月に水素協議会を設立しました。水素エネルギーを活用する新たな社会システムに向け、ビジョンと長期目標を提唱し、2017年11月には第23回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP23)で以下の2点をアナウンスしました。

  • 2次エネルギーとしての「水素」需要は、2050年までにあらゆる動力の20%を見込む。
  • 産業セクターでも、原材料、熱源、動力源、発電用、貯蔵などさまざまな分野で利用されると想定。

2019年6月時点で参加企業は60社まで大幅に拡大し、水素化社会実現に向けた世界的な活動が始まっているのです。

特に出典表示のない図表については、著者が公表情報をもとに独自に試算・作成したものです。

執筆者

藤村 俊夫

顧問, PwC Japan合同会社

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