
中国自動車産業におけるM&A動向:2022年上半期と見通し(英文)
中国における自動車産業は、第14次5か年計画において、電動化、知能化、コネクテッドに注力した取り組みが進む中、M&Aの取り組みは旺盛に推移しています。本レポートでは、2022年上半期のM&A動向をこれまでの推移との対比から概観します。
2020-05-27
2019年9月に国連の気候行動サミットにおいて、先進国・新興国の大半は国連が提示する「世界の二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までに現状の45%削減、2050年には排出量ゼロとする」にコミットしました。2016年に発効されたパリ協定では、産業革命以降の世界の平均気温上昇を「2℃未満に抑えることを目指し、努力目標を1.5℃」としていました。しかし、気温上昇が1.5℃を超えると人間の手ではどうにもならない気候危機の連鎖に陥るという科学者の解析結果をもとに、国連は「気温上昇を2℃未満ではなく1.5℃未満に抑えることを必達目標にすべき」とし、気候行動サミットで上記を提示するに至ったということです。これまでもCO2削減は待ったなしと説明してきましたが、自動車セクター、エネルギー資本、電力セクターはそれぞれの行動をさらに加速する必要性が出てきたということです。ここ10年間で実効のあがる対策を実施しなければ、もはや人類が従来の延長線上で生活をすることは困難となり、その状況はさらに悪化の方向に突き進んでいくことになります。
本レポートでは、以下の3項目に関して昨年のレポート(脱石油に向けた自動車燃料・エネルギーの多様化と次世代車導入優先順位の提示)も踏まえ概要を解説します。
このページ上では1・2項目を中心に要約しておりますので、3項目を含めた詳細に関してはPDFレポートをご覧ください。
図表1は、前レポートでも示しているとおり、今後の新車販売台数、保有台数予測から見積もったCO2総排出量より、2050年に向けた四輪車の必要CO2削減量と筆者が試算した規制強化案(あるべき削減率)を示したものです。
2050年の目標17億トンは2013年比で70%減の値となり、これは産業革命以降の平均気温上昇を2℃未満とするものです。今後の販売台数増加に伴い、保有車のCO2総排出量は60億トンから95.7億トンまで増加するため、2050年時点では82%低減が必要となります。2050年時点で17億トンを達成するために必要なCO2規制を試算すると、現時点の先進国の年率5%削減程度の規制では不十分であり、2030年の目標達成も考慮すると世界平均で年率10%(※)を超えるレベルまで強化する必要があります。その際、新車の削減率は2013年比で97%となります。2021年以降、各国・地域のメーカーはそれを達成できるセールスミックスシナリオを立案し開発を進める必要があるのです。※前レポート(脱石油に向けた自動車燃料・エネルギーの多様化と次世代車導入優先順位の提示)では2015年から2021年まで含めて年率8%としましたが、現実的には2015年から2021年は年率5%とし、2021年以降必要な削減率を見直すと10%強が必要となります。
図表2は、各国・地域が提示している2030年前後までの規制値を、年率値に置き換えたものです。
EUはCO2排出量を規制値としていますが、その他の国は燃費規制であるため、CO2規制値に換算して表記しています。パリ協定の自主目標がCO2排出量基準であり、今後、自動車の規制にCO2排出量(WtW)、LCA(Life Cycle Assessment)でのCO2排出量基準が導入されることを考慮すると、各国はEUのように燃費規制ではなくCO2規制とすべきであり、それにより各セクター(自動車、電力、エネルギー)の削減努力が分かりやすくなるのです。2015年~2021年の年率の強化値と2021年~2030年の強化値を比較すると、従来の延長線上の規制強化にとどまり、パリ協定の自主目標を意識したものに全くなっていません。
このように、各国・地域の2021年以降の規制強化がこれほど低調な理由は、例えばEUの状況を見れば明らかですが、2021年の規制値達成もおぼつかない中で、2030年の規制がさらに厳しいものになると、技術開発(コスト低減など)が追い付かないという自動車メーカーの悲鳴に近いロビー活動の結果なのです。ドイツのメーカーがこれからはエンジン車からEVに転換してCO2を低減するとアナウンスしても、高価なEVは売れていません。その結果、直近の規制対応さえ危ういというのが実情です。CO2低減は待ったなしと叫ばれ、最近では気候変動から気候危機という言葉に変わってきた中で、今後、国家と自動車メーカーの取り組み姿勢が問われることとなるでしょう。
図表3に、各国・地域ごとの規制、車種構成などを考慮した、2018年時点と2030年でのセールスミックスを示します。新興国は低価格を重視しエンジン車を主体としている一方、先進国および中国では電動車の比率が高くなります。
米国、欧州、日本などの先進国は新車販売台数がほぼ飽和しており、2030年時点では50%前後が電動車で、そのうち40%前後がHVとPHVとなります。EV、FCVは10%弱でEVの大半は従来車の延長線上のEVではなく、新しいカテゴリーのLSEV(低速電気自動車:2人乗り、航続距離100km以下、速度60km/h以下と定義する)が現実解となります。中国については、政府が2030年に向けて2016年に公表しているロードマップをベースに技術的根拠を考慮した上で修正しています。インドをはじめとする新興国はエンジン車が主体となります。
中国の新車販売は2018年に28年ぶりに前年比2.8%減となりました。そのうち、EV・PHVは前年比80%増の伸びを示すも、2019年6月に地方政府の補助金が廃止となり、中央政府も半額となった(2020年末補助金廃止)影響で、2019年は前年比4%減と急減速しています。ここで2018年に販売登録されたEV80万台のうち約半数はLSEVであり、国内メーカーのみならず外資系も中国国営メーカーとの合弁で開発を進めています。EVを従来車の延長ではなく、短距離の輸送手段と考えるのが現実的であり、バッテリー交換式とすれば補助金に頼らずとも低価格化も可能となります。シェアリングにもジャストフィットするモビリティであり、LSEVは今後増加が予測されます。
各国・地域におけるエンジン車に関しては、効率改善、マイルドハイブリッドシステムの採用、燃料に関しては石油系燃料から、天然ガス、バイオ燃料への転換を行うことでCO2の大幅削減を狙います。インドを含む新興国においては、2030年まではエンジン車が主流ですが、CO2削減対策は先進国と同様の対応をすることになります。2030年以降はHVの低価格化により比率が10%程度まで拡大し、LSEVが数%を占めます。FCVについては国地域で比率が異なりますが、水素インフラの整う日米欧で大型SUV/ショーファーカーでの規制対応、長距離トラック/バスなどの商用車で導入が進むと予想します。
世界平均で2021年以降10%を超えるCO2削減率が必要と述べましたが、図表3に記載しているように、米国、欧州、日本などの先進国と新エネルギー車(NEV:HVを除く電動車)の導入を推進する中国では年率12~13%のCO2削減が必要となります。購入できる価格を重視したインドなどの新興国では、内燃機関の効率化と48Vマイルドハイブリッドシステム導入、軽量化、バイオ燃料などへの転換で、年率9%のCO2削減が必要となるでしょう。これらは今後、新車販売台数、保有台数が増加する中で、パリ協定の自主目標を達成するために新車が達成すべき年率のCO2削減率となりますが、図表2で紹介した先進国・中国が現在提示している規制値との乖離はさらに広がるということを示しています。
世界の主要メーカーの2018年時点におけるエンジン車と電動車の構成比率を図表4に示します。
2018年のEV、PHV販売台数は世界で202万台、これは全体の2.2%です。その半数の1%強が中国販売、1%弱がEUと米国での販売となります。米国と中国のEV専用メーカーを除くと、主要自動車メーカーの電動車比率は独メーカー、米メーカーでは全販売車の0.5%にも満たない状況です。一方、日本メーカー3社はHVを軸に既に全販売車の3.2%~15.4%を電動車が占めています。電動車の中でも、2018年の世界のHV販売233万台の大半は日系自動車メーカーが占めます。
欧州でディーゼルエンジン排ガス不正問題が発覚した2015年以降、「CO2を低減するにはEVしかない」と一部意見や報道がありますが、現実的には販売価格、航続距離の問題などにより、補助金に支えられてもなかなか販売が伸びていないというのが実情です。一方で、最近の自動車関係の国際学会などではエンジンの効率向上に関わるテーマの人気が高くなっています。少し前までエンジン車は環境によくない、これからはEVだと言っていた自動車メーカーも、エンジンの開発にも真剣に取り組む必要があると気付き始めたということではないでしょうか。エンジンの効率改善は、HV、PHVのシステム効率改善にもつながるのです。
まとめると、各国政府は燃費規制からCO2規制に切り替え、年率10%を超えるCO2削減に向けて規制強化と重量車の基準を厳しくした企業平均規制の導入を進める必要があります。並行して、CO2排出量(WtW)の少ない車両への減税する反面、多い車には課税するなどの誘導策も考えなければなりません。一方、自動車メーカーは独自に実効のあるシナリオを策定し、パリ協定の自主目標を達成するよう努めることが必要と考えます。産業革命以降の温度上昇を2℃未満から1.5℃未満に見直しが必要という国連の気候行動サミットの提言に沿って考えると、本レポートで解説したとおり世界平均で年率11%のCO2削減率ではまだ足りないのです。車、エネルギー、交通環境(渋滞緩和など)に関して全方位で、技術開発スピードをこれまで以上に加速させる必要があるでしょう。
中国における自動車産業は、第14次5か年計画において、電動化、知能化、コネクテッドに注力した取り組みが進む中、M&Aの取り組みは旺盛に推移しています。本レポートでは、2022年上半期のM&A動向をこれまでの推移との対比から概観します。
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