断絶をロイヤルティの機会に変える

顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ2023年版

昨今の不安定な市場環境を企業が切り抜けるために、顧客関係を築き、拡大することの重要性はかつてないほど増していると言えるかもしれません。インフレやサプライチェーンの混乱といった短期的圧力により、企業上層部が反射的に顧客維持ばかりに注力してしまうケースも見受けられます。しかし、貴社のブランドとの接点を通して顧客がどのようにロイヤルティを決定するのかを理解できていなければ、ロイヤルティを真の成長につなげることはできないでしょう。

PwCは、顧客ロイヤルティまたは顧客維持について責任を負っている、もしくはそれらの判断に影響力を有している400名以上のエグゼクティブを対象に調査を行いました。本調査「顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ」は、企業が目下の課題に対処しながらどのようにして顧客ロイヤルティから利益を得られるのかを分析するためのもので、2022年5月に実施した4,000名超の米国消費者への調査に続き、2023年版として行いました。これらの2つの調査をまとめることにより、自社ブランドの顧客エンゲージメントを向上させ、顧客維持のみならず、顧客ロイヤルティの接点を強化して成長の原動力へと変えるきっかけ、機会、その他の重要な節目を解明することを目指しています。

顧客ロイヤルティの捉え方を解き明かす

多くの場合、ロイヤルティの定義は事業者と消費者では異なります。事業者は幅広い顧客行動をロイヤルティの根拠と見なしますが、顧客が考えるブランドへのロイヤルティはより狭い範囲のものです。この食い違いを理解すると、ロイヤルティへの取り組みと投資によりいっそう集中できるでしょう。

ブランドロイヤルティを獲得するタイミングについて、エグゼクティブと消費者では意見が異なります。ロイヤルティの獲得の重要な鍵は良質なカスタマーサービスにあると考えているエグゼクティブの割合(25%)は消費者(11%)の2倍を超えています。一方、高品質な製品が重要であると考えているエグゼクティブ(23%)は消費者(46%)のわずか半分です。

消費者があるブランドから離れる原因については、エグゼクティブと消費者には大きな差異が見られます。エグゼクティブは価格変更や価格競争に原因を見出しますが、多くの消費者は製品やサービスに対する不快な体験を挙げているのです。この「価格/体験のギャップ」は、ロイヤルティの推進に対する事業者と消費者の間のずれを表しています。顧客を維持するには、低価格だけでなく素晴らしい体験の提供に重点を置く必要があります。

貴社がロイヤルティへの取り組みの投資を増やす場合、顧客が去る原因に対する食い違いを克服することは非常に重要です。約3分の2(63%)のエグゼクティブが、自社の最新の事業計画においてロイヤルティプログラムの予算を増額したと回答しており、事業者は既存顧客の維持と同様にロイヤルティを成長の原動力と見なしています。

新型コロナウイルスの顧客ロイヤルティへの影響に関する対照的な見解から、既存顧客の維持と顧客基盤の拡張が極めて重要であることがわかります。エグゼクティブの61%がパンデミック前よりも顧客ロイヤルティが向上していると回答していますが、そのように考えている消費者はわずか20%です。

パーソナライズ化された体験はロイヤルティの向上に役立ちますが、企業によっては適切な体験を提供できていない可能性があります。例えば、事業者が顧客に提供するものについて、製品やサービスの容易で迅速な利用が47%で1位となっていますが、パーソナライズ化された体験におけるサービスの容易性や迅速な利用が最も重要だと回答した消費者は22%にすぎません。

何が顧客ロイヤルティを高め、何が低下させるのか

あるブランドの継続的な利用または購入の理由については、大多数のエグゼクティブと消費者が同一の意見を持っています。製品やサービスの品質、信頼性、一貫性(エグゼクティブの46%、消費者の48%)、そして価格に見合う十分な価値(エグゼクティブの42%、消費者の53%)が群を抜いています。

しかし、一部の事業者はロイヤルティに対するパンデミックの影響を過信しており、顧客関係を当然のものと思い込んでいる可能性があります。エグゼクティブの61%が現在の顧客ロイヤルティは以前よりも向上していると回答しており、マスメディアとエンターテインメント(79%)、テクノロジー(75%)、消費材(69%)において特に高い割合となっています。しかし、パンデミック前に比べて購入したり使用したりしているブランドへのロイヤルティが高まったと回答している消費者は20%にすぎません。消費者の75%がロイヤルティに変化はないと回答しているのに対し、同様の回答をしているエグゼクティブはわずか26%です。

過去2年間のロイヤルティに何が影響しているかに目を向けると、ネガティブな影響を及ぼしているのはニュースでもよく取り上げられているインフレ、サプライチェーンの混乱、人材不足となっています。実際、パンデミックのロイヤルティへの影響をネガティブ(33%)に捉えているエグゼクティブよりもポジティブ(45%)に捉えているエグゼクティブの方が多いという結果が出ています。顧客ロイヤルティにポジティブな影響を与えたものとして最も多くの回答があったのは、デジタルチャネル(ソーシャルメディアからの直接購入リンクなど)、顧客行動の変化、そして自社ロイヤルティプログラムの変更です。

貴社のとるべき方策

  • 長期的な視点を持つことが重要です。インフレのような現状の課題に対処することは当然ですが、長期戦略を犠牲にすべきではありません。短期のロイヤルティへの取り組みが継続的な顧客関係の構築に寄与する可能性についても考慮する必要があります。
  • 現実的に考えてください。パンデミックが消費者の嗜好や行動に与えた根本的な影響を認めましょう。ロイヤルティに対する過去のアプローチが今後も顧客基盤の成長を促進するという想定は止めましょう。
  • 常に基礎となるものを心に留めておいてください。リワードポイントとパーソナライズ化された体験は素晴らしいものですが、顧客を引き込み、維持する最良の方法は今もなお堅実な製品やサービスを提供することです。

ロイヤルティに対する予算は増加しているものの、長期のエンゲージメント獲得は容易ではない

エグゼクティブの回答によると、ロイヤルティに対する現在の年間予算は平均で企業収益の約5%で、マスメディアとエンターテインメントでは比較的高い数値、消費材では比較的低い数値となっています。ロイヤルティへの取り組みについては、事業者の70%が自社ロイヤルティプログラムを採用しており、特に小売業82%、テクノロジー81%、消費材80%と高くなっています。さらに、エグゼクティブの63%が最新の事業計画で自社ロイヤルティプログラムの予算を増額したと回答しています。

91%の回答者が自社ロイヤルティプログラムでより多くの特典を顧客に提供する必要があると回答していることを踏まえると、これらの投資は道理にかなったものだと言えます。差別化は目的の1つでもあります。多くのエグゼクティブが競合他社と比較して自社のロイヤルティプログラムのメリットを宣伝しましたが、エグゼクティブの80%が自社のプログラムが同一産業の他社と類似していると回答しています。

顧客エンゲージメントを強化することは顧客関係をより長く、深いものにします。企業が顧客と接する頻度は、スーパーマーケットや航空会社など産業によって異なりますが、10名のエグゼクティブのうちの7名が、30日間、60日間または90日間のうちに接点があった顧客をアクティブ顧客と定義していると回答しています。12カ月間と回答したのは11%のみで、24カ月間と回答したのはわずか2%です。多くの企業にとってLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の重要性が増す中で、エンゲージメントの拡大とともに、数カ月間の行動だけでなく長期のロイヤルティの創出も重要になっています。

貴社のとるべき方策

  • 競合他社に遅れをとらず、貴社のロイヤルティプログラムの差別化ポイントを掘り下げましょう。素晴らしい特典は現在でも強力な手段ですが、同一産業の他社と差別化ができない場合は別です。
  • 自社ロイヤルティプログラムという枠を超え、貴社のブランドにおける顧客のエンドツーエンドの体験について検討しましょう。顧客エンゲージメントを念頭に置き、顧客体験とともに従業員体験にも重点的に取り組み、自社の事業にとってどのような顧客中心のモデルが最も効果的なのかを決定しましょう。

カスタマーサービスのみでは顧客ロイヤルティは向上しない

企業はロイヤルティの向上にどのようにアプローチしているのでしょうか?カスタマーサービスは顧客ロイヤルティの向上を担う最も一般的な部門(39%)であり、マーケティング部門(17%)の2倍以上の割合となっています。その他の部門は10%を超えていません。ロイヤルティの活性化における経営トップの優先事項は、カスタマーサービスの向上(61%が優先度が高いと回答)と顧客体験のパーソナライズ化(61%)です。

特に、顧客との相互関係が顧客維持を超えてより多くの収益の獲得につながる可能性のあるセクターにおいて、カスタマーサービスが重要であることに疑問の余地はありません。2022年5月時点で、消費者の32%が、カスタマーサービスで不快な体験をした後にその事業者における利用や購入をやめたと回答しています。しかし、これは最も多い回答ではなく、製品またはサービスで不快な体験をした後にその事業者から離れたと回答している消費者は37%に上っています。多くの場合、カスタマーサービスは目先の課題解消に役立ちますが、ロイヤルティを高めることに注力する場合、顧客関係のかなり下流に位置するものです。

ロイヤルティへの取り組みにおいては、ロイヤルティを獲得するタイミングを含め、カスタマージャーニーにおけるいくつかのポイントに焦点を合わせる必要があります。しかし、顧客ロイヤルティを獲得するタイミングに関するエグゼクティブの回答が良質なカスタマーサービスに関するものに集中しているのに対し、消費者の回答では、顧客ロイヤルティを感じるタイミングは製品やサービスを利用した時点であり、あるブランドを気に入るか否かの決定には品質に満足することが重要という回答が大差をつけて多くなっています。

貴社のとるべき方策

  • カスタマーサービスを顧客とのやりとりが最も頻度が高いタッチポイントにすることを望みますか?ロイヤルティを成長の原動力にするには、貴社の顧客関係とそれが重要になるタイミングを定義する必要があります。ロイヤルティの機会として顧客とのさまざまなタッチポイントを検討し、単なる顧客維持ではなく集客の強化に役立つものを理解しましょう。
  • 注力すべきポイントを考え直しましょう。顧客は自分にとって何が最も重要なのかを教えてくれます。顧客が望み、必要とし、好んでいるものを優先するために、ユーザーヒアリングを検討し、戦術的アプローチの評価を行いましょう。
  • 顧客体験は従業員と顧客とのやりとり以上のものになる可能性があります。貴社の中心的な顧客へのオファーを再評価し、顧客関係を深め、ロイヤルティを強化するにはどこから手をつけたらよいのかを理解しましょう。

パーソナライズとの両立

パーソナライズは顧客ロイヤルティを維持し、強化する助けとなります。多くの事業者は最も効果的に両方を獲得できるバランスを追い求めています。個人データに関する各グループの回答について検討してみましょう。まず、調査対象企業は、パーソナライズされた体験を創出するために消費者が共有しても構わないと回答している以上の種類のデータを収集していると回答しています。次に、基本的な連絡先情報と個人を特定できる情報(電子メールアドレス、誕生日、性別)については、いくらかの差異はありますが、消費者は連絡先、利用データ、位置データを共有することには消極的です。

企業と顧客との間のギャップはパーソナライズされた体験自体にあります。すなわち、数値と関連性です。本調査において、各企業は平均して4つのタイプのパーソナライズ体験を提供しており、上から順に製品またはサービスへの容易または迅速なアクセス(47%)、柔軟な特典のあるロイヤルティプログラム(43%)、そして、顧客が定期的に利用している製品の値引きやキャッシュバック(40%)となっています。消費者の回答でも、パーソナライズズされた体験において、値引きやキャッシュバック(48%)、柔軟なロイヤルティプログラム(43%)は最も重要なものとされていますが、この割合に近いその他の選択肢はありません。

貴社のとるべき方策

  • ロイヤルティの創出のためのより優れたインサイトを作り出すにあたり、貴社の保有するデータをさらに深く掘り下げましょう。続いて、有用性の低い収集データは削減します。
  • 貴社のブランドと顧客のやりとりについて検討し、アプローチするタイミングを正確に見極めましょう。顧客にアプローチする際にどのようなパーソナライズされた体験を提供すると最も共感を呼び、長期のロイヤルティにつながるのかという点に注力する必要があります。

本調査について

PwCは、2022年10月15日から11月22日に、消費者に関わる分野の企業の410名のエグゼクティブを対象にした調査を行いました。このオンラインサーベイの回答者には、米国のCxO、事業主、経営幹部、取締役、取締役会のメンバーが含まれています。回答者のおおよそ3分の2(64%)が、顧客ロイヤルティまたは顧客維持に関する事業判断において単独で責任を負っており、回答者の3分の1(36%)が顧客ロイヤルティまたは顧客維持に関する事業判断に対する影響力を他者と共有しています。

PwCの「顧客ロイヤルティ・エグゼクティブ・サーベイ2023年版」は、2022年5月に実施した米国の消費者4,036人を対象とする「顧客ロイヤルティサーベイ」に続くものです。このオンラインサーベイの回答者は18歳以上の成人で、年齢、性別、人種、米国の地域、収入、就労状況および婚姻の有無に関して、偏りのない調査とするために人口統計上の重み付けを行いました。

日本への示唆―継続的取り組みとしての位置付け、自走力の獲得―

顧客ロイヤリティの獲得は継続的な取り組みからのみ実現されます。本調査のデータから認識ギャップの存在する点が多い、ケアしていくべき点が多いという印象を持たれたのではないでしょうか。これらにはどれひとつ無視してよいものはありませんが、同時に、即座に全てへの対応を完了する必要があることを意味するものでもありません。つまり、継続的な取り組みをどう設計・実行していけるかが顧客からの評価向上、競争優位性の強化、さらには業績の持続的向上をもたらす顧客基盤の獲得(とその価値向上)の成功の鍵を握ると考えられます。

当社では「Strategy through Execution(戦略策定から実行まで)」をキーワードに、顧客ロイヤリティの獲得に関しても、その取り組みの設計(インパクトパスの設計、定量的PDCAの設計)および実行支援(ハンズオン支援、アジャイルコーチング)を行っており、これらを通して人材・組織力強化を支援させていただくことも多くあります(そして、その支援が複数年にわたることもあります)。それらの経験から感じているのは以下の事項です。

  • しつこくPDCAを実践する
  • 定量・定性分析から仮説を構築し、それに沿い施策を実行し、その効果を分析し、うまくいったこと、うまくいかなかったことを可視化する
  • その要因分析から「学び」を得る
  • 学びを生かし仮説を構築し、次の策を打つ

これらの取り組みを継続することこそが重要であり、短期の取り組み・プロジェクトで目標を達成できることは多くありません。そう考えると「自走力」(自組織において継続的にこれらの取り組みを実行できる力)を獲得する必要があります。

簡単なことではありませんが、それゆえにコアコンピタンスとなり得るものでもあります。経営者の方々には是非、「腹を括って」本テーマに取り組んでいただきたいと考えています。

※本コンテンツは、PwC米国『Converting disconnects into loyalty opportunities』を翻訳したものにPwC日本独自の内容を追加したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

丸山 貴久

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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伊藤 賢

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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小笠原 光優

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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清水 遼一

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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