東証PBR1倍割れ改善要請への考察

資本コストや株価を意識した経営(2023年度)

  • 2023-06-28

東京証券取引所より、2023年3月31日付で「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」と題し、以下の3点について具体的な内容を取りまとめた資料が公表されました。

  • 資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応
  • 株主との対話の推進と開示について
  • 建設的な対話に資する「エクスプレイン」のポイント・事例について

本資料の背景は、東京証券取引所より2015年6月1日付で公表され、2021年6月11日付で改訂された「コーポレートガバナンス・コード」まで遡ることができます。当コードは日本の成長戦略の一環として策定されており、実効的なコーポレートガバナンスの実現に資する主要な原則を取りまとめたものとされています。そして、それぞれの会社において持続的な成長と中長期的な企業価値向上のための自律的な対応が図られることを通じて、会社、投資家、ひいては経済全体の発展にも寄与するものと考えられています。

しかし、同資料の公表より約8年が経過した現在においても「プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場会社がROE8%未満、PBR1倍割れと、資本収益性や成長性といった観点で課題がある状況」であり、「今後の各社の企業価値向上の実現に向けて、経営者の資本コストや株価に対する意識改革が必要」との指摘がなされています。

このような情勢を踏まえて、東京証券取引所はプライム市場・スタンダード市場の全上場会社を対象として、以下の一連の対応についての継続的な実施を要請しました。開示について具体的な開始時期の定めはないものの、できる限り速やかな対応が必要とされています。

  1. 自社の資本コストや資本収益性を的確に把握し、その内容や市場評価に関して、取締役会で現状を分析・評価すること(現状分析)
  2. 改善に向けた方針や目標・計画期間、具体的な取り組みを取締役会で検討・策定するとともに、その内容について、現状評価とあわせて、投資家に分かりやすく開示すること(計画策定・開示)
  3. 計画に基づき、資本コストや株価を意識した経営を推進するとともに、開示をベースとして、投資者との積極的な対話を実施すること(取り組みの実行)

東京証券取引所は、2023年4月1日付で「有価証券上場規程等」の一部改正を行い、2025年3月1日以後に到来する上場維持基準の判定に関する基準日から、本来の上場維持基準を適用することとしています。このような流れを踏まえると、東京証券取引所は、各上場企業に対して、市場区分に応じて適切な「資本コストや株価を意識した経営の実現」に向けた施策を打つことを期待しており、成果が出ない場合には、上場廃止を含めた対応を取るものと考えられるでしょう。

本稿においては、この一連の経緯を踏まえた上で、各社が「資本コストや株価を意識した経営」ひいては企業価値の向上を実現するにあたって何をすべきかについて議論します。

注:
※「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(株式会社東京証券取引所、2023年3月31日)

資本コストや株価を意識した経営(2023年度)―東証PBR1倍割れ改善要請への考察―

執筆者

東 輝彦

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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吉田 英史

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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森 隼人

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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中尾 宏規

ディレクター, PwCアドバイザリー合同会社

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牧 洋子

シニアマネージャー, PwCアドバイザリー合同会社

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