持続可能な成長と企業価値の向上に向けたCFO意識調査2024

はじめに:CFO意識調査について

2023年3月31日に東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関するガイダンスが発出されました。これにより投資家からも資本効率の改善を求める声が強まり、CFOには決算数値の品質責任者として経理財務全体を俯瞰するだけでなく、企業価値を高め、投資家との対話を担う経営参謀としての役割が、かつてなく期待されるようになりました。

加えて長期的な企業価値創出の観点から非財務情報を開示する動きが広がっており、国内では、2022年には日経225構成企業のうち9割を超える204社から「自主開示」である統合報告書が発行されました。

「持続的な企業価値向上には、社会的・環境的価値を意識した経営が必要であること」や「自ら企業価値を外部に発信すること」の重要性は、既に多くの企業に浸透し普及している段階にあります。企業の「成績表」たる開示制度の変化に伴い、まさに今、経営の変化が求められています。

このような背景から、PwC Japanグループは2024年8月にプライム上場企業・大手企業のCFOを対象に「持続可能な成長と企業価値の向上に向けたCFO意識調査」を実施しました。一朝一夕には実現しない企業価値向上に向けて各社のCFOがどのような意識を持ち事業改革に取り組んでいるか、どのような課題感を持っているかを分析し、皆様の取り組みの一助となればと考え、本レポートにまとめました。

本調査では、「日本企業のCFOの競争環境に対する認識」や、「企業価値の向上に向けた取り組み」「企業価値の番人としての取り組み」「企業価値のスポークスパーソンとしての取り組み」に関する状況、および各社CFOが認識している期待役割について取り上げています。

調査結果からは、CFOには従来の枠を超えて攻めの役割が一層期待される一方で、ガバナンス強化といった守りの役割も依然として重要であることが浮き彫りになりました。多くの企業が企業価値向上のために全社資本コストの把握や目標設定を行っているものの、事業別資本コストの把握やROIC経営の実践に課題を抱えています。さらに、無形資産への投資効果測定や人材不足といった問題も指摘されています。これらの課題に対しては、業務の標準化などでの対応が考えられますが、AIの活用といった新たなアプローチはまだ緒に就いたばかりと見受けられます。

1. 現在の競争環境に対する認識

調査対象となったCFOの半数以上は、現行のビジネスモデルが11年以上持続可能であると考えています。一方、PwCが実施した世界CEO意識調査によると、日本企業のCEOのうち、11年以上のビジネスモデルの持続性を信じているのは3割に過ぎず、CEOとCFOとで認識にギャップがあります(図表1)。

CEOはより外部環境の変化への対応に危機感を抱いている一方、CFOは財務状況を中心に捉えて現行のビジネスモデルに持続性があると考えている可能性があります。

図表1:現在のビジネスのやり方を変えない場合、経済的にどの程度の期間存続できると思いますか

図表1 現在のビジネスのやり方を変えない場合、経済的にどの程度の期間存続できると思いますか

2. 企業価値向上に向けた目標設定

8割以上の企業が全体的な資本コストを把握し(図表2)、約半数程度の企業がPER、PBRといった資本市場からの評価指標に関して目標設定を行っていることから、東京証券取引所の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」のガイダンスが浸透していることが確認できました。一方、財務指標についても、「売上・営業利益」が最も多いものの、7割以上もの企業がROEをはじめとした資本効率性指標を設定しています。目標設定の期間に関しては「3年以内」と回答した企業が最も多い結果となりました(図表2、図表3)。

図表2:「資本コストを意識した経営管理」として、どのようなことを行っていますか。貴社にて行っている取り組みをお選びください(いくつでも)

図表3 「資本コストを意識した経営管理」として、どのようなことを行っていますか。貴社にて行っている取り組みをお選びください(いくつでも)

図表3:全社にて定量的な目標を定めている項目をお選びください(いくつでも)。またそれぞれ何年先の目標として定めていますか

図表2 全社にて定量的な目標を定めている項目をお選びください(いくつでも)。またそれぞれ何年先の目標として定めていますか

一方で半数の企業が「事業別資本コストの把握が困難」という回答をしており(図表4)、また、税務組織においては定量的な評価指標が設定されていないことが多く(図表5)、全社的な目標と整合するような各部門の目標設定や状況把握に課題があることが明らかになりました。

図表4:「資本コストを意識した経営管理」を実践する上で、障害になっている項目がありましたら、お選びください(いくつでも)

図表4 「資本コストを意識した経営管理」を実践する上で、障害になっている項目がありましたら、お選びください(いくつでも)

図表5:税務組織のKPIの設定状況についてご回答ください

図表5 :税務組織のKPIの設定状況についてご回答ください

3. 持続可能な成長に向けた取り組み

企業の持続的な成長のため、各社ではコア事業の強化やノンコア事業の整理・売却、外部との協業、M&Aなどを通じた事業ポートフォリオの見直しなどのほか、人的資本や知的資本をはじめとした無形資産への投資に対し特に注力して取り組んでいます(図表6、図表7)。

図表6:
[左]「事業ポートフォリオの見直し」において、特に注力して取り組んでいることをお選びください(いくつでも)
[右]事業ポートフォリオの見直しについて、今後取り組みたいことはありますか(いくつでも)

図表6:[左]「事業ポートフォリオの見直し」において、特に注力して取り組んでいることをお選びください(いくつでも) [右]事業ポートフォリオの見直しについて、今後取り組みたいことはありますか(いくつでも)

図表7:「無形資産への投資の強化」において、特に注力して取り組んでいることをお選びください(いくつでも)

図表7: 「無形資産への投資の強化」において、特に注力して取り組んでいることを お選びください(いくつでも)

一方で、それぞれの取り組みに対する適切な評価に課題認識を抱えている場合が多いことが分かりました(図表8、図表9)。
M&Aに関しては、事業ポートフォリオを見直している企業の53%が既に取り組んでおり、72%の企業が今後取り組みたいと考えています(図表6)。しかし、過去のM&Aでは期待した成果が得られず、のれんを減損するケースも一定数見られます。またその主な原因として、デューデリジェンスが不十分であったことやPMIに課題があったことが挙げられています(図表10、図表11)。

図表8:無形資産への投資の強化を推進するにあたり、どのような課題がありますか(いくつでも)

図表8:無形資産への投資の強化を推進するにあたり、どのような課題がありますか (いくつでも)

図表9:事業ポートフォリオの見直しを推進するにあたり、どのような課題がありますか(いくつでも)

図表9 :事業ポートフォリオの見直しを推進するにあたり、どのような課題がありますか(いくつでも)

図表10:過去10年以内のM&A案件について、どのように評価していますか。当てはまるものをお選びください(いくつでも)

図表10: 過去10年以内のM&A案件について、どのように 評価していますか。当てはまるものをお選びくだ さい(いくつでも)

図表11:期待した成果が実現できなかったのはどのような理由でしょうか。当てはまるものをお選びください(いくつでも)

図表11: 期待した成果が実現できなかったのはどのような理由でしょうか。当てはまるものをお選びください(いくつでも)

4. 「企業価値の番人」としての取り組み

グループ会社のガバナンス強化に向けては、対話のための定期的な会議が最も有効と評価されており、実際に取り組んでいる企業が多い一方で、こと税務ガバナンスについては多くの企業が強化の必要性を認識しつつもまだ検討段階にあります(図表12、図表13)。

CFO組織の最適化に向けた最も一般的な取り組みは、業務の標準化と属人化の排除という結果でした(図表14)。主要な課題は人材の確保であり、約8割の企業が労働力不足により大きな問題に直面しています(図表15)。税務分野においても人材不足が課題であり、特に国際税務において約7割の企業が影響を受けています(図表16)。

人材不足の課題を抱え、業務の標準化に取り組む企業が多い一方で、「AIの活用」について取り組んでいる企業は2割弱と少なく、いまだユースケースの模索が続いていると推察されます。

図表12:グループ会社ガバナンスについて、具体的に取り組んでいることはありますか(いくつでも)

図表12:グループ会社ガバナンスについて、具体的に取り組んでいることはありますか (いくつでも)

図表13:税務に関するガバナンスについての取り組み状況をご回答ください

図表13 :税務に関するガバナンスについての取り組み状況をご回答ください

図表14:CFO組織の業務最適化について、具体的に取り組んでいることはありますか(いくつでも)

図表14 :CFO組織の業務最適化について、具体的に取り組んでいることはありますか(いくつでも)

図表15:CFO組織の業務最適化について、どのような課題がありますか(いくつでも)

図表15 :CFO組織の業務最適化について、どのような課題がありますか(いくつでも)

図表16:貴社における税務組織の課題をお選びください(いくつでも)

図表16 :貴社における税務組織の課題をお選びください(いくつでも)

5. 企業価値の「スポークスパーソン」としての取り組み

回答企業の半数以上が「サステナビリティ経営全般の管掌部署」を主管部署とする非財務資本指標の管理体制を採用しており、非財務資本指標を経営戦略に組み込んだ経営の実践を志向していることが分かります(図表17)。

一方で、非財務情報の開示においては、半数以上の企業が専門家とリソースの不足を課題として挙げており、多くの企業が進化するサステナビリティ基準とフレームワークに苦慮しています(図表18)。

図表17:環境・社会関連の非財務資本指標の経営への影響を分析・評価し、改善活動を統括する活動の主管部署はどこですか

図表17:環境・社会関連の非財務資本指標の経営への影響を分析・評価し、 改善活動を統括する活動の主管部署はどこですか

図表18:非財務情報の開示についてどのような課題がありますか(いくつでも)

図表18 :非財務情報の開示についてどのような課題がありますか(いくつでも)

6. CFOの役割の変化

CFOの多くが、マネジメントの意思決定をサポートする、いわば攻めの役割である、「企業価値向上を支える財務戦略の策定」や「業績予測/管理の精度・スピードの向上」、「事業ポートフォリオマネジメントや事業部門へのインサイトの提供」に関して、CFOの役割が増大したと感じています。一方で、半数のCFOが、いわゆる守りの役割である「ガバナンス強化/不正防止」に関しても役割が増大したと感じています(図表19)。

時代の流れとともに、守りの番人という役割だけでなく、攻めと守りの役割の双方をバランスよく果たすことが求められていると考えられます。CFO/CFO組織は、この攻めと守りの双方の役割をバランスよく保ち、CEO/事業部門をサポートし、継続的な企業価値の向上を実現することが求められています。

図表19:2020年以降、CFO/CFO組織に期待される役割が増大したと感じるテーマはどれですか(いくつでも)

図表19:2020年以降、CFO/CFO組織に期待される役割が増大したと感じる テーマはどれですか(いくつでも)

おわりに

PwC Japanグループは、2023年より価値創造経営の支援を重点サービスとして位置づけ、企業価値インパクト分析や価値構造分析、AIを活用した経理財務・企画業務改革などのソリューションを提供しています。今後は本調査の結果も最大限に活用し、価値創造や企業価値向上を求める、CFOをはじめとしたCxOやサポート部門の皆様の課題解決を支援することで、日本企業の国際的な競争力強化に貢献してまいります。

執筆者

森本 朋敦

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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服部 雄介

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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今井 政行

パートナー, PwC Japan有限責任監査法人

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山口 雄司

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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塩田 英樹

パートナー, PwC税理士法人

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小林 たくみ

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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