2023年に入り、内外の強い力が消費者と企業に重くのしかかり、商取引の歯車を狂わせ、より満足度の高い顧客体験の妨げとなる摩擦を生み出しています。インフレやマクロ経済的状況の低迷に懸念を抱く消費者は、買物の習慣を見直し、コスト削減を行っています。消費者の半数以上は自身の経済状況に強い懸念を抱いています。また調査に回答した消費者の96%は、今後6カ月に何らかのコスト削減策を取ろうと考えています。それでも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前の生活に戻りつつあり、消費者は買物や旅行を再開しています。テクノロジーを味方にした消費者は、実店舗でもオンラインでも自分のライフスタイルや予算に合ったシームレスな体験を求めているのです。
出所:PwC「世界の消費者意識調査」(2023年2月)
消費者を相手とする産業におけるCOVID-19の影響は、いまだ大きいと言えます。COVID-19感染拡大中にeコマースが大きく成長した理由の1つは、多くの地域でそれしか買物の手段がなかったからです。ブームは徐々に落ち着いてきました。しかし、短期的な落ち込みのように見えるものも、長期的な成長という観点からは、単なる平均回帰に過ぎないかもしれません。消費者の43%は今後6カ月間にオンラインショッピングを増やすと回答しています。これらは、2022年12月に25の国と地域で9,180人の消費者を対象として実施された「世界の消費者意識調査」における結果の一部です。
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COVID-19が需要と供給に与えた衝撃は引き続き経済に波紋を広げ、消費者の意思決定、習慣、考え方に影響を与えています。消費者は、生活防衛策を取りつつも回復を期待し、新しい体験に強い意欲を持っています。消費者は摩擦を減らすことを求めていますが、必ずしもeコマースや、テクノロジーに依存した身体的体験だけを求めているのではありません。消費者は、メタバースを含め、次世代のデジタルプラットフォームを使い始めています。そして、日常の仕事やレジャーの多くがデジタル化、モバイル化、バーチャル化するとともに、データセキュリティやプライバシーに関する懸念も大きな摩擦の原因となります。
本調査は、企業は、消費者の考え方、行動、要望の変化に対応するだけでは足りないことを明示しています。企業は、企業と顧客、さらに顧客と最適な体験の間で生じる多くの摩擦を見つけ、分離し、軽減しなければなりません。また、現在、消費者のいる場所(物理的にも心理的にも)で消費者に接触するだけでなく、将来的に消費者が向かうであろう場所にも投資する必要があります。
2022年には、過去の調査ではほとんど見られなかった摩擦の要因が現れました。インフレです。多くの市場でインフレは落ち着きつつありますが、強力な要因であることには変わりありません。世界の大部分では収入よりも価格が急速に上昇しているため、消費者の意欲が減退すると予想されます。多くの消費者、特に米国と欧州の消費者にとって、価格の持続的な上昇を体験するのはこれが初めてです。
消費者の半数(50%)は個人的な経済状況を強く懸念し、5分の1(22%)はかなり強く懸念しています。将来的には、回答した消費者の96%が今後6カ月の間にコスト削減策を取ろうと考えています。最も悲観的なグループ(42%)は、全ての小売カテゴリーで支出を大幅に減らそうとしています。旅行に行かない、特定の製品を安いブランドに変える、普段使っていたものを全くやめたりする、などです。消費者が切り詰める可能性が最も低い食料品の分野では、24%が支出を減らすと回答しました(前回の調査では12%)。
とは言え例外はあります。消費者は自身にとって大切なところにお金を使う意思を見せています。70%以上は「多少」または「かなり」の程度で、地元の農家が生産した食料品や、エシカルな取り組み(人権擁護や動物実験の回避など)で知られる企業の製品にお金を使うと回答しました。
質問1:経済状況と生活コスト増に与える影響から、個人的な経済状況をどの程度懸念していますか?
質問2:今後6カ月の経済状況と生活コストに与える影響から、あなたはどのような行動を取るつもりですか?
世代を選ぶと経済に対する懸念のレベルが表示されます。
回答 | 全世代 | Z世代 | ミレニアル世代 | X世代 | ベビーブーム世代 | 第2次世界大戦世代 |
懸念していない。また生活必需品以外の支出に関する行動を変えていない | 10% | 8% | 10% | 8% | 14% | 25% |
懸念しているが、生活必需品以外の支出に関する行動を変えていない | 20% | 22% | 21% | 17% | 16% | 17% |
やや懸念している。また生活必需品以外の支出に関する対策を取っている | 28% | 31% | 26% | 28% | 33% | 34% |
かなり懸念している。また生活必需品以外の支出に関する対策を取っている | 42% | 40% | 43% | 47% | 37% | 25% |
消費者の買物や行動のトレンドを掘り下げてみると、2022年前半の前回の調査と比べていくつか変化が見られます。さまざまなチャネルを通じた過去1年間の買物の頻度(毎日、毎週など)に関して、今回の調査でも実店舗での買物を選ぶ回答者が最も多い(43%)ことが分かりました。次が携帯電話やスマートフォン(34%)、続いてPC(23%)でした。
ひと言で言うと、COVID-19による危機(世界の多くの地域でまだ続いているが)で加速した変化の多くは緩まりつつあります。実店舗での買物は元に戻りつつあります。しかしデータによれば、長期的な成長傾向に影響はありません。将来について、支出や買物の行動が今後6カ月でどう変わるかという質問に対し、43%がオンラインショッピングを増やすと回答しました。これは前回の調査の50%から減少しています。同時に、実店舗での買物を増やすという回答者も33%から23%へと大幅に減少しました。
おそらく最も重要なのは、実店舗、オンラインを問わず、あらゆる買物の場面で消費者の期待や体験が変化していることです。そしてどちらの環境でも消費者に接触し、ニーズの変化に応えるのがこの市場に参加する企業の役割です。今回の調査では、これが二者択一の問題ではないことが明らかとなりました。多くの消費者が、実際の買物における体験の強化、促進、媒介に、デジタル技術の活用を求めています。これが「フィジタル」です。
どのような要素が実店舗での買物を最も快適にするかという質問に対し、27%が「知識豊富で親切な販売員」と回答しました。ベビーブーム世代の半数がこれをトップに挙げています。同時に16%はセルフサービスレジが最も便利だと回答し、僅差で、店内で小売店のウェブサイトやモバイルアプリを使用して特定の商品の情報を得ることが続きます(15%)。通常のレジやセルフサービスレジに並ばずに済むような デバイスやアプリを挙げた回答者も12%いました。
もっと強力なのは、今後6カ月で実店舗での支出を増やすと回答した消費者が、店舗の技術的なグレードアップを期待していることです。回答者は、店内のエンタテイメント(34%)、仮想現実(VR)ヘッドセットで新商品を試着または試用するなど没入型のデジタル体験(30%)、販売アドバイザーやパーソナルショッパーの予約機能(28%)に魅力を感じています。
サプライチェーンの混乱が、消費者がどのチャネルで買物をするかなど、日々の買物行動に影響を及ぼす兆候は続いています。回答者の39%は、実店舗、オンラインを問わず、複数の小売で買物をしています。この割合は前回より2ポイント上昇しました。そして3分の1以上(38%)が、買いたい商品の在庫を複数のウェブサイトで調べると回答しています。
10人のうちほぼ7人(68%)は、価格の上昇が実店舗の体験に最も大きな影響を与えると回答しました。続いて、商品の在庫がないこと(42%)、レジの列が長いこと(39%)と回答しています。過去3カ月間にオンラインショッピングで「ほとんど常に」または「頻繁に」直面した問題として、48%は日用品の価格の上昇を挙げています。4分の1近くは在庫切れで商品が買えないこと、納期が遅れることを挙げています(いずれも24%)。
実店舗での買物で最も多く直面する問題は、価格の上昇、次に店の混雑、商品の在庫不足です。
今回の調査でも前回と同様、働き方について消費者に尋ねました。3分の1以上(36%)は、自宅、オフィス、その他の場所のいずれかで働くハイブリッド勤務です。これは前回の41%から低下しています。回答者の63%はハイブリッドでない、つまり常に自宅、オフィス、その他の場所のいずれかでの勤務が求められています。これは前回の調査の57%から増加しました。細かく言えば、56%は物理的に職場に常にいなければならないと回答しました。前回の47%から大幅な増加です。自宅だけで働いていると回答したのはわずか7%で、前回の10%から減少しました。当然ながらこのような働き方は地域によって異なりますが、ハイブリッド勤務が最も普及しているのは東南アジアです。
質問:現時点での雇用主の要求に従い、あなたの標準的な勤務形態に最も近い記述は以下のどれですか?
国や地域を選ぶと自宅勤務の選択に関するデータが表示されます。
ハイブリッド36%
ハイブリッド
でない63%
働き方と場所を選択できる
ハイブリッド勤務を求められている
Working status | 世界全体 | Australia | Brazil | Canada | China | Egypt | France | Germany | Hong Kong | Indonesia | Japan | South Korea | Malaysia | Mexico | Philippines | Saudi Arabia | Singapore | South Africa | Spain | Thailand | UAE | USA | Vietnam | Ireland | India | Qatar | Western Europe | Asia Pacific | Africa and Middle East | Americas | SEAC |
ハイブリッドでない | 63% | 63% | 61% | 64% | 56% | 54% | 68% | 64% | 68% | 62% | 67% | 78% | 67% | 59% | 61% | 61% | 59% | 60% | 66% | 46% | 66% | 73% | 52% | 67% | 60% | 62% | 66% | 62% | 61% | 65% | 57% |
ハイブリッド勤務を求められている | 26% | 25% | 28% | 21% | 34% | 32% | 23% | 24% | 26% | 30% | 16% | 15% | 20% | 31% | 27% | 32% | 35% | 25% | 27% | 32% | 29% | 16% | 40% | 22% | 29% | 32% | 24% | 27% | 29% | 24% | 31% |
働き方と場所を選択できる | 10% | 11% | 10% | 12% | 9% | 13% | 7% | 10% | 5% | 8% | 14% | 6% | 11% | 10% | 11% | 7% | 6% | 15% | 7% | 21% | 5% | 10% | 8% | 11% | 10% | 6% | 9% | 10% | 10% | 11% | 11% |
フリクションレスな小売の目標は、レジの列に並ぶことや決済用のカードをスワイプすることなど、顧客が店内で直面する障壁を取り除くことです。PwCが最近行った米国でのCustomer Loyalty Survey(米国顧客ロイヤリティ調査)では、回答者のうち82%が、顧客体験を改善するためなら一部の個人データを共有しても良いと答えました。小売業者に都合の良いことに、摩擦をなくす技術は人件費を削減する方法と考えられています。しかし消費者は、摩擦を増やすように見えるサポートや利便性に対しても高い期待を寄せる傾向にあります。この不和 は小売業者にとって可能性と課題の両方を意味しています。PwC英国の最新のレポートでは、このフリクションレスな 小売の将来について考察しました。コンピュータービジョンAIとは、消費者が店に入り、商品を選び、レジに並んだりスキャンしたりすることなく買物ができる技術です。これが小売市場へ徐々に浸透しています。PwCの調査で、このようなデジタル技術の進歩は消費者と小売業者の両方にメリットがあることが分かっています。
しかしこれですぐに小売業者が従業員を削減できるわけではありません。従業員の数を維持しつつ、新人を訓練したり、既存の従業員のリスキルやアップスキルに力を入れたりする必要があるでしょう。また、このようなシステムに伴ってデータの収集や分析が増えるため、技術開発者や小売業者は、消費者(と規制当局)のプライバシー、セキュリティ、個人情報の拡散に関する懸念を和らげることができなければなりません。
消費者は、買うものに関係なく、店に対して二者択一ではなく、両方を求めている。
eコマースやそれを実現するデジタル技術は、摩擦の軽減を目的としています。しかしeコマース自体が引き起こす摩擦もあります。それらの多くはこの2年間で悪化あるいは深刻化しました。パンデミックの発生以来、eコマースの利用者は送料の値上げ、納期の延長、配送上のトラブル、在庫不足を経験してきました。今回の調査では、実店舗での買物を好み、オンラインで注文した商品を実店舗で受け取っている半数以上の消費者(54%)が、その理由として、商品に破損や不良がないか、注文した商品に間違いないかを確認できることを挙げています。また実店舗での買物を予定している消費者の41%は、単にパンデミックで実店舗に行けないことが寂しかったからと回答しています。値上げや不況に対する懸念の影響もあります。実店舗の利用を増やし、オンラインショッピングを減らそうと考えている消費者の40%は、その理由を送料が高すぎるためと回答しました。
今後6カ月でオンラインショッピングや実店舗での買物を増やすと回答した消費者は減少しました。
予想される消費者の行動の変化
このような消費者の傾向は、生産者と小売業者がハイブリッド型のショッピング戦略に取り組まねばならないことを示しています。消費者は、店に対して二者択一ではなく、両方を求めます。この傾向はパンデミックの前から明らかでした。長期にわたる経済的、社会的な逆風にもかかわらず、消費者は簡単にオンラインから実店舗に切り替えていません。むしろ、実店舗のテクノロジー導入やオンラインショップの納期短縮、送料削減など、優先したい要素を考えながら、いずれか、または両方を選んでいます。このような傾向は2023年も続くと思われます。
出所:PwC「世界の消費者意識調査」(2023年2月)
5Gの展開やSNSアプリのショッピング機能など、デジタル環境は進化しています。特に注目を集めているのが、次の大規模なデジタルプラットフォームと期待されるメタバースです。このプラットフォームは、デジタル環境とリアル環境の間にある摩擦の多くを解消すると期待されますが、現時点ではまだ開発早期にあり、それ自体が摩擦を生み出しています。消費者は、メタバースの可能性が実現するまで、何年かは分かりませんが、必要なテクノロジーの成熟を待つ必要があるでしょう。PwCのレポート「メタバースの実像に迫る」は、次のように結論づけています。「メタバースは『革命』ではなく『進化』と言える。ビジネスリーダーは、この進化を無視すべきではない」
メタバース利用者が最も多い国には若い世代と中流階級が多い。
PwCの調査では、メタバースのさまざまな要素がすでに消費者に提供され、利用されています。4分の1強(26%)は、過去6カ月間に、エンタテイメント、仮想体験、商品購入の目的でメタバースに参加しました。例えば回答者の10%は、仮想現実(VR)ヘッドセットを使用して、ゲーム、映画鑑賞、ビジネスなどの活動を行いました。また同程度の消費者が、仮想の小売環境やコンサート、NFT(非代替性トークン)での買物を体験しています(いずれも9%)。
メタバースの利用状況は年齢や国によって異なります。年代が若いほどメタバースを利用する率が高いのは言うまでもありません。人口統計的に、若いミレニアル世代(36%)とZ世代(31%)がメタバースユーザーのトップであるのに対し、ベビーブーム世代は8%、第2次世界大戦世代は6%にとどまります。過去6カ月間にメタバースを利用したという回答者の割合が最も高いのは、若者と中流階級の多いインド(48%)とベトナム(43%)です。
メタバースを利用しているかどうかにかかわらず、消費者はすでに完全にデジタル化された世界で暮らしています。日々、何十億件ものデジタルトランザクション、インタラクション、ダウンロードが、世界中の企業、組織、政府による消費者データの幅広い共有、収集、分析、拡散を可能に、そして不可避にしています。全てのデータを管理するのは消費者にとって摩擦です。さまざまな事業体と日常的な取引を行う際の個人データのプライバシーに関して懸念のレベルを聞いたところ、半数近く(47%)がSNSを使用する際に極めて、または強く懸念していると回答しました。メディア全般(41%)、第三者の旅行サイト(36%)、医療企業(34%)に関しても懸念が強いことが分かりました。
消費財メーカー(32%)や小売業者(30%)についても、それより低いもののかなりの懸念があります。小売業者はこの点で比較的有利です。消費者がデータを提供することへの見返りは、クーポン、割引、限定セールなど、明確で分かりやすいからです。
消費者は懸念に対処しています。半数(49%)は必要以上の個人データを共有しないと回答し、32%はメール、メッセージ、その他のコミュニケーションの受信を拒否しています。これも摩擦の1つです。企業は、顧客のデータを多く持っているほど、顧客に対してより効果的かつ効率的に高い価値を提供できます。しかし規制と行動の両面で、データの流れや利用を抑える動きがあります。信頼を取り戻すには、革新的なデータ保護システムや業務運営の確立に経営者が力を注ぐ必要があります。立法および規制当局が法的な賠償を検討している現在は、特にその必要性が高いと言えます。
質問: 以下のタイプの企業とやり取りをする際、自分の個人データの保護について、どれだけ懸念していますか?(「極めて強く」または「強く」懸念している回答者の割合)
チャネルを選択すると、各世代と地域におけるプライバシーに対する懸念レベルが表示されます。
カテゴリー | ソーシャルメディア(SNS) | メディア | 第三者/ポータルサイトの旅行サイト | 医療企業 | 旅行会社のサイト | 消費財メーカー | 小売業者 |
全世代 | 47% | 41% | 36% | 34% | 32% | 32% | 30% |
Z世代 | 45% | 42% | 34% | 32% | 32% | 31% | 28% |
ミレニアル世代 | 48% | 43% | 37% | 36% | 34% | 33% | 32% |
X世代 | 46% | 39% | 34% | 33% | 31% | 30% | 31% |
ベビーブーム世代 | 50% | 40% | 33% | 29% | 29% | 28% | 28% |
第2次世界大戦世代 | 50% | 46% | 39% | 31% | 36% | 27% | 33% |
西欧 | 47% | 38% | 33% | 34% | 31% | 30% | 29% |
アジア太平洋 | 44% | 40% | 34% | 32% | 30% | 31% | 29% |
アフリカ・中東 | 51% | 47% | 39% | 36% | 34% | 35% | 34% |
米州 | 50% | 44% | 39% | 36% | 38% | 32% | 33% |
東南アジア | 46% | 43% | 36% | 33% | 31% | 32% | 32% |
将来的に、摩擦には主に3つの種類があります。
1つは企業にとってどうにもならない摩擦、例えばマクロレベルのインフレ、世界的な不況やマイナス成長、戦争、パンデミックによる商取引の乱れです。これに対し、消費者を相手とする企業は、何かが発生したときの回復方法やシナリオに応じた計画の作成に重点を置き、サプライチェーン、経営モデル、従業員数が短期的な目標に合っていることを確認する必要があります。
2つ目は、店内に十分な従業員がいなかったり、顧客の期待に応えるか対処したりすることができないなど、企業自体が引き起こす摩擦です。企業がこれを防ぐには、良好な経営に力を注ぐとともに、試行錯誤を重ね、店内でのテクノロジーの使い方を工夫して満足度の高いフィジタル体験を生み出す必要があります。
最後に3つ目は、経済的、個人的状況による行動の変化など、消費者自身がシステムに持ち込む摩擦があります。これに対して企業は、最新の消費者トレンドを把握し、あらゆる場所で顧客と交流してロイヤリティを構築するような投資やプロジェクトを計画する必要があります。
「フリクションレスな(摩擦のない)小売」という用語は重要な流行語であり、価値のある目標かもしれません。しかし消費者の考えや懸念、需要や期待を深く理解すれば、今生じている摩擦、あるいはその緩和や排除に必要な手順をさらに細かく理解して対処することができるはずです。
「世界の消費者意識調査」は、消費者の変化を詳しく観察することを目的とした年に2回の調査です。2023年2月の意識調査では、25の国と地域(オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、エジプト、フランス、ドイツ、香港、インド、インドネシア、アイルランド、日本、マレーシア、メキシコ、フィリピン、カタール、サウジアラビア、シンガポール、南アフリカ、韓国、スペイン、タイ、アラブ首長国連邦、米国、ベトナム)の消費者9,180人から回答を得ました。回答者の条件は、18歳以上かつ前年に1回以上オンラインで買物をした人、としています。
COVID-19の感染拡大が始まって約3年が経過し、この数年で生じた混乱や変化は落ち着きを見せています。パンデミックからの回復、デジタルテクノロジーへの期待に関しても、グローバルと日本で傾向としては大きく変わりません。今回の調査結果において日本の消費者の注目すべき動向・特徴を4つ紹介します。
日本においてもグローバル同様、「急加速」したオンラインシフトの勢いは収まり、2022年以降顕著に実店舗の利用頻度が回復しています。ただ注意すべきは「オンラインシフトが止まったわけではない」ということです。企業は手を緩めることなく、より便利な買物体験を提供する努力をしなければなりません。
実店舗において「セルフレジ」やスマートフォンでの決済システムなどのデジタルテクノロジーを使ったサービスに魅力を感じると回答した割合は、日本はグローバルより低いものでした。では日本の消費者が「デジタルな体験を求めていないのか」というと決してそういうわけではありません。別の設問で提示した多くのテクノロジーに対し約半数が「知らない、親しみがない」と回答しました。つまり企業が魅力的なサービスとして商用化し消費者に提供できていないのです。
日本の「メタバースを利用した経験がない」という回答者割合は90%で、調査対象国の中で最も低いものでした。要因として「最新テクノロジーは海外発祥が多く、利用には英語力が必要」「そもそも慎重な性格」という点も影響が大きいと思われます。メタバースなどのテクノロジーが日本の消費者に普及し受け入れられるにはまだ時間がかかるかもしれません。
「企業とのやり取りにおける個人情報の取り扱いへの懸念」に対する設問において、日本の「極めて強く懸念する」または「強く懸念する」と回答した人は、どの領域においてもグローバルより低い割合でした。しかし、懸念が低いのは、大企業が漏洩するはずがないという企業への信頼の裏返しであり、字句通りに受け取ってはいけないと考えられます。消費者にとってデータを提供することは企業への信頼の表れでもあります。企業はこれを損なわないよう、セキュリティ対策や利用方法には細心の注意を払わなければなりません。