新たな価値を目指して

サステナビリティに関する消費者調査2022

サステナビリティの「トレードオン」を阻む壁を乗り越えるには

近年、多くの企業がサステナビリティ経営へ大きく舵を切ろうとしています。それは、企業の経済活動は環境と社会という土台の上に成り立っており、環境価値・社会価値を毀損すれば、めぐりめぐって企業自らの経済価値を毀損することが広く認知されてきているからです。サステナビリティは、「環境・社会のために経済を犠牲にする」という「トレードオフ」ではなく、むしろ「環境・社会を守り、強めることで、経済を守り、強める」という「トレードオン」の思想です。

サステナビリティは今や経営・事業の中核に据えられつつありますが、問題は「いかにトレードオンを実現するか」であり、トレードオンを阻む壁の一つが、「消費者の意識がまだ低く市場がない」という企業の意識です。本調査では、消費者の現状を示しながら、未来のトレードオン実現に向けて、「消費者をいかに巻き込んでいくか」について考察します。

世界のサステナブル市場動向

欧米・中国では、小売とメーカーの協働により、快適にサステナブルな消費ができる環境づくりが進んでいます。

「購入したことがない」人のうち、「身近に売っていない」ことをその理由に挙げた割合は、日本では19%であるのに対し、米国は13%、英国は5%にすぎません。

過去1年間で、サステナブルな商品を 「購入したことがない」人

新興国の都市部は、購買力だけでなく、サステナブルな意識・行動も旺盛で、市場拡大の潜在性を秘めています。

PwCの他の調査※1でも、中国のみならず、新興国の消費者はサステナビリティに高い関心を示しており、「以前より環境への配慮を意識するようになった」と回答した消費者の割合は、インドネシア86%、ベトナム74%、エジプト68%、アラブ首長国連邦67%と、グローバル全体の50%を上回っています。

※1 PwC「世界の消費者意識調査2021年3月」

環境・社会課題に取り組む 「必要性を理解・共感し、行動を実践」している人

若年世代は、環境問題だけではなく、人権問題に関心が高くなっています。

若年世代は、自身の国内の問題として、人権問題やダイバーシティへの関心が高い傾向にあります。日本も例外ではなく、ダイバーシティを最大の関心事に選んだ割合は、ベビーブーム世代の2%に対して、ミレニアル世代は5%、Z世代は10%となっています。さらに、サステナブルな商品の購入経験者が実際に購入した商品として、人権に配慮した原料・製造方法の商品を購入した割合は、ベビーブーム世代の20%、X世代の17%に対して、Z世代は24%と上回っています。一部の消費者において、社会課題への関心はすでに購買行動にも影響を及ぼしつつあると言えます。

環境・社会課題に取り組む「必要性を理解・共感し、行動を実践」している人 (4カ国合計)

企業・商品がサステナブルであることは、企業の財務にプラスのリターンをもたらします。

「他商品と比べても、選びたい(選好プレミアム)」「少し高くても、購入したい(価格プレミアム)」「他者にもお勧めしたい(拡散プレミアム)」という3つのプレミアムがあるブランド形成につながり、購買決定要因となる傾向が見られます。

商品購入の際に、環境・社会への 配慮を意識している人
サステナブルな商品であれば 高くても買う人 生活用品
サステナブルな商品であれば 高くても買う人 家具・家電・自動車など
「環境・社会課題」に対する取り組みの必要性についてSNSへ投稿したり、 家族・友人に 推奨したりした人

日本における3つの壁

1. 価格とアクセシビリティがサステナブルな商品の購入を阻んでいる

日本では、31%の人が「価格が高すぎる」、19%の人が「身近に売ってない」ことを買わない理由として挙げています。「消費者は買ってくれるのか?」だけでなく、「いかに消費者に買ってもらえる市場をつくるか?」を考えることが重要です。サステナブル・イノベーションを起こし、サステナブルでありながらも、価格、品質、機能といった既存の商品価値を犠牲にしないことが求められています。

2. サステナビリティに関する情報を得る媒体が偏っている

中・米・英では、さまざまな媒体から万遍なくサステナブルな商品や企業に関する情報を得ている人が多いのに対して、日本ではテレビ番組(63%)とテレビCM(34%)に偏っています。一般的な世の中のできごとや動きに関する情報を収集する際に、日本では全世代でおよそ半数の人がインターネットを活用する※1という調査報告もあり、特に若年層ではSNSを中心に情報収集する動きが加速※2する中、サステナビリティに関する情報はテレビを中心とした認知に偏っています。

※1 令和2年総務省情報通信白書の「いち早く世の中のできごとや動きを知る」目的で利用するメディア調査のうち、46.2%がテレビと回答し、49.9%がインターネットと回答
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd252550.html

※2 2021年に読売新聞社と電通総研が共同で行った調査によれば、中学3年生の75%が「SNSでニュースを知る」と回答
https://kyoiku.yomiuri.co.jp/newsliteracy/articles/contents/nle.php

3. 商品購入を通じてサステナビリティに貢献するという行動が広がっていない

日本では、「買物にエコバッグを持参する」「日常生活の中で節電や省エネを心掛ける」「マイボトルを持ち歩く」「リユース・リサイクルできるものを確認し分別する」といった身の周りでできることの実践率は高くなっています。一方、社会や環境に配慮してつくられた商品(フェアトレードを実施している・再生可能エネルギーを使っている・環境に優しい原材料でできているなど)を買う割合は7%と、非常に低くなっています。

日本における兆し

日本では、3年前の調査と比較して、サステナビリティへの認知・理解は、高まっています。また、次世代市場の主役となる若年層は、より能動的に情報収集し、判断している傾向が見られます。その弾みを、機会に転換すること、つまり、既存の価値をフックとして商品を手に取ってもらい、背景にあるサステナビリティに関する認知と理解を変えていくような取り組みが企業には求められています。

パイオニア層が購買行動をリードするが、層の 厚いライトグリーン層の意識も高まりつつある

新しい「顧客市場主義」

消費者の今のニーズに応えながらも、未来の暮らしを先回りで良くする

グローバルでは、すでに消費者がサステナビリティを意識し、購買行動にも反映され始めています。一方、日本ではまだ黎明期にあるものの、光明の兆しは確かに見えてきました。

しかし、サステナビリティの果実を得るには、消費者の目覚めを待つのではなく、消費者を変える必要があります。消費者を変えることで土壌を整え、その上に自社のサステナブル・ブランドとしての地位を育むことが求められています

そのためには、消費者を変える前に、企業の価値観のアップデートも必要です。すなわち、消費者の今のニーズに応えるだけの「顧客至上主義」をアップデートすることです。気候変動をはじめとする中長期の環境・社会課題は、消費者の未来の暮らしを脅かすリスクですが、消費者はこのリスクを必ずしもまだ感知できていません。企業は、この環境・社会課題に先回りして対応することで、今のニーズに応えながらも、未来の消費者が暮らす世界を守る新しい「顧客至上主義」を実現することができます。