ポートフォリオ刷新と事業売却の重要性

より力強い未来に向けた注力を

積極的にポートフォリオレビューを行い、タイムリーに売却を決定・実行する企業は、価値創造の可能性が高くなります。

企業は進化し、リーダーは正しい道を歩む旅を続けています。企業が拡大、縮小、その他の再編を通じて、自社の事業構造を定義するポートフォリオマネジメントは非常に重要です。しかしながら、長期的な成長を促進するという観点からは、多くのポートフォリオレビューは、あまりにも頻度が低く、有効ではなく、不十分です。多くの経営者は、買収には積極的ですが、事業売却には消極的だったり躊躇したりしています。なぜでしょうか? そして、この消極的な姿勢は問題なのでしょうか?

私たちの考察は、意思決定プロセスの背後にある心理と、事業売却によって生み出される価値を分析することで、この疑問に答えています。そのために、ポートフォリオに関する意思決定や事業売却のスピードと効果に影響を与える内外の幅広い影響要因を精査しました。広範な調査と分析の結果、バリュートラップをうまく回避しながら、早期に売却を決断した企業ほど、より大きなTSRを生む傾向にあることが分かりました。

リサーチ方法ハイライト

戦略、ポートフォリオレビュー、および/または事業売却プロセスについて有意義な知識を持つ2,500人以上のシニアリーダーを対象とした調査と統計

取締役、CFO、コーポレート・ディベロップメント・エグゼクティブなど、企業の意思決定者29名へのインタビュー

売り手企業および事業部門の財務データやディールデータの傾向分析

事業売却は、価値創造のために十分に活用されていない

2018年から2022年にかけて、S&P500の企業は、事業を売却するよりも4.4倍多くの買収をしました。この結果は、過去5年間の3.7倍よりも増加しています。しかし、買収と売却の両方を行った企業は、取引後の数年間、業界指数を上回るパフォーマンスを発揮しています。事業売却により、売り手は戦略にフィットした事業に時間とリソースを集中することができます。

事業売却が価値創造の手段として十分に活用されていない多くの理由を調査しました。そして、ポートフォリオ刷新と事業売却による価値創造に必要な要素、つまり「勝利の方程式」が明らかになりました。

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積極的なポートフォリオマネジメントにより、時間とリソースを生み出し、ビジネスを活性化させることができます。

勝利の方程式

積極的なポートフォリオ指針

ポートフォリオレビューのプロセスの質および徹底度合いには大きなばらつきがあります。自社に適合しない事業の早期発見に向けた、積極的なポートフォリオ指針を有する企業は、株主にプラスリターンをもたらす可能性が2倍になり、上場企業の場合は5倍になることが示されています。

事業売却のDNA

事業売却を検討・決定する意欲がある(最終的に取引を実行したかどうかは別として)など、事業売却のDNAを持つ企業が示す特徴が明らかになりました。企業のDNAに影響を与える特徴として、徹底したポートフォリオ分析、姿勢、再投資計画の有無、取締役会の関与などの要素が挙げられます。事業売却に前向きな姿勢を持つ企業は、事業売却に消極的な企業よりも、意思決定プロセスにおいて事業売却を検討し、最終的に決定する可能性が、2.5倍近くも高くなることが分かりました。

実行速度

プロセスの各段階において、スピードは重要です。売却を決定してからディールをクロージングするまでの期間を短縮することで、TSRに良い影響を与えることが明らかになっています。例えば、発表からクロージングまでの期間が12カ月未満の場合、中央値の売り手は同業他社に比べて大きな超過収益を上げており、クロージングまでの期間が6カ月未満の場合はさらに大きな超過収益を上げています。一方、発表からクロージングまでの期間が12カ月を超える場合は、中央値の売り手は同業他社を下回る結果となりました。

勝利の方程式の獲得を妨げているものは何か?

フィット(適合)・フィックス(修復)・フリー(解放)の誤謬、意思決定への影響、個人のバイアス、ポートフォリオレビューの要素、バリュートラップ

誤謬

誤謬

事業部門が適合しなくなった場合、正しい判断は、それを解放する(売却する)ことです。現状を維持し、適合しているかのように事業を継続すること、貴重な資源を投入して修復を試みることは、価値を破壊することにつながります。

では、経営者はどのようにすれば、フィット・フィックス思考の誤謬を乗り越え、株主にとって最適な結果を得ることができるのでしょうか?

旅路

企業は進化し、リーダーは正しい道を歩む旅を続けています。この継続的な旅路では、周囲のビジネス環境に注意を払い、現状に挑戦する勇気が必要です。

レビュー

経営者が過去の決断を見直し、未来を創る決断に立ち向かうとき、資本配分とポートフォリオの最適化が最も重要です。企業が拡大、縮小、その他の再編を通じて、自社の事業構造を定義するポートフォリオマネジメントは非常に重要です。

決断

成功のカギは、「フィットシグナル」をいかに認識し、行動するかにかかっています。多くの場合、適合しない事業を継続することや、潜在能力を発揮できていない事業を修復するために投資することは、最適な決断ではありません。

回り道

多くの経営者には、事業売却は失敗を認める、不名誉なものだという固定観念があります。そのため事業売却を行わず、その事業部門にさらに投資し、建て直しを図ることを選択します。しかし、最適な決断は、新しい道を切り開くために素早く行動し、事業を解放(売却)することです。適合性に問題があることを認識し、早期に売却を選択することは、株主価値を最大化する上で極めて重要です。

明らかになった事実

経営者はこの先、最適な選択(解放)に気づくかもしれませんが、さらなる時間と投資が必要となり、ビジネスの価値は低下していきます。

価値

それに比べ、フィットしていないことを認識し、素早く新しい道を切り拓くリーダーは、株主により多くの価値を提供することができます。リーダーがバリュートラップに対処しない場合、高い確率で株主価値を毀損します。バリュートラップを回避することで、スピードと実行力を高め、より大きなTSRを達成することができます。

意思決定への影響

いくつかの要因は他の要因よりも大きな影響力を持ちますが、慣性の力は、組織がタイムリーに最適な意思決定を行い、ポートフォリオの刷新を通じて価値を高める能力に直接影響することを証明しています。

慣性の力を全て排除することはできませんが、その影響力を理解し、克服するための戦略を採用することで、これらの力を克服することができます。

個人のバイアス

経営者は合理的な意思決定者でありたいと願い、データやプロセスを活用して、構造的に評価し、意思決定を行います。しかし、直感やバイアスが意思決定に影響し、合理的で最適な株主価値の決定とはしばしば相反してしまいます。

私たちの調査では、企業の成果に直接影響を与える非常に明確な事例を特定しました。自分のバイアスを意識することで、より意図的に意思決定を行うことができるようになります。

以下は、取締役、CFO、コーポレート・ディベロップメント・エグゼクティブなど、企業の意思決定者29名へのインタビューから抜粋したものです。

過信

過信があると、経営陣は非中核事業の業績を改善できると信じてしまうことがあります。これは企業を修復の誤謬に陥らせ、時間と資源を浪費し、ひいては価値を毀損することにつながります。

現状維持バイアス

人間は最善の利益であったとしても、変化に抵抗することがよくあります。現状維持バイアス(現状を維持することを好む)は、経営者が、フィットシグナルを無視するなどして、戦略的変化を起こすことに消極的であることを示しています。現状維持は、価値の向上や資本の再配分よりも損失回避が優先されます。そのため、より安全に思えるかもしれません。

確証バイアス

特に経営者が正式なポートフォリオレビューのプロセスを設けている場合、新しい情報は不都合をもたらすことがあります。確証バイアスは、経営の思考プロセスに影響を及ぼし、意思決定を加速化する新しい情報を見つけ出すことを制限します。その事業部門が非常に会社に適合していると考える経営幹部は、売上の拡大に集中し、マージンの継続的な減少を無視するかもしれません。

予期される後悔

経営陣が特定の事業部門やチームメンバーに感情的な愛着を持つと、事業分離の決断には後悔を伴うことが予期されます。私たちが行ったインタビューでは、マネージャーがチームと築く関係や愛着が重要だということが分かりました。事業売却を検討する場合、従業員にとってマイナスになる可能性があるのではないかという感情が、経営者の意思決定において重要な役割を果たすことは明らかです。

名声の喪失

名声の喪失は、売却の結果、経営者が個人的に受ける直接的な影響に対する感情的な反応と関連しています。売却は非常に目立つ戦略的行動であり、資産に関する経営陣のこれまでの戦略が失敗したことを示唆する可能性があります。

ポートフォリオレビューの要素

経営者は、意思決定に影響を与える慣性の側面と個人の感情的な要素の両方をコントロールする必要があります。調査では、意思決定に最も大きな影響を与えるプロセスの要素がいくつか特定されました。

形式

企業は、ポートフォリオレビューや年次の経営計画サイクルの一環として、フィットシグナルを認識することが多くあります。レビュープロセスは、まれに行われるアドホック分析のような非公式なプロセスから、四半期またはそれ以上の頻度で更新される、年次計画に基づく徹底的で標準化された公式のプロセスまで、さまざまです。

包括性

調査回答者は、ポートフォリオレビューにおいてさまざまなデータソースを分析しています。しかし、過去の財務データだけに頼っていることが多すぎます。確固たるポートフォリオレビューには、過去の財務情報と非財務情報の両方を組み合わせた分析データ、および潜在的な近接市場を含む現在と将来の競争環境の分析が含まれます。分析の包括性が高いほど、企業が売却を検討し決定する可能性が高くなるという傾向が見られます。

取締役会によるガバナンス

本調査では、取締役会がポートフォリオ戦略のレビューに関与することが、企業の事業売却の検討にとても良い影響を与えることが明らかになっています。また、取締役会の関与は、実行プロセスを加速させます。さらに、取締役会が意思決定プロセスに関与している場合、再投資計画が初期的な売却戦略と密接に関連しています。

再投資計画

私たちの経験によれば、再投資計画の欠如により、企業が売却の決定を躊躇することがあります。合理的な代替案がない場合、経営者は現状維持バイアスに陥りやすく、事業を売却するのではなく、適合させたり、修復したりしたいという衝動に駆られます。事業売却は、より戦略的で資本収益率の高いイニシアティブに再投資できる資本を捻出します。ポートフォリオレビューの一環として、再投資の計画をしっかり立てている企業は、より高い確率で、少なくとも年1回、売却を決定します。

バリュートラップ

何が契約の締結と実行を遅らせているのか?

事業売却の決定がなされると、いよいよ実行に移されます。企業はスケジュールを立て、組織に広範な影響を与える一連の分離活動を始めるでしょう。実行が遅れるとTSRが低下し、ディールバリューの低下にもつながるため、私たちの経験からは、この時期は事業売却のプロセスにおいて、最も重要な時期の1つとみなしています。

クロージングの遅延はよくあることです。右記は、取引実行プロセスにおける大きな遅延要因です。経営者は、これらのバリュートラップを常に意識する必要があります。

適切な外部アドバイザーを採用することは、経営陣やステークホルダーにとって、実行リスクを軽減し、市場へのアプローチを加速化するための貴重な選択肢となります。

何ができるか?

売却のための適切なプロセス、マインドセット、インフラを構築するには時間がかかります。インオーガニックの成長と同じように、戦略計画の一部に組み込むべきです。以下は、企業が事業売却をDNAの一部として根付かせるための提言です:

定期的に、客観的かつ入念なポートフォリオレビューを実施

これは継続的なプロセスであり、年次の戦略計画活動の重要な要素であるべきです。バイアス(偏見)を特定し、事業の適合性を評価し、そのレビュー結果を取締役会と共有し、資本や資源配分の議論を行います。

共通の価値基準を確立

従来のポートフォリオレビューの多くは、組織全体に対する事業の売上と収益の貢献度を評価します。売却を検討する場合は、売上の伸び、収益性、必要資本を考慮した将来のキャッシュフローを評価することが重要です。

売却のレッテルを克服

売却は、トップの姿勢から始まります。短期的な規模の問題や、割り当てられた予算は、長期的な価値創造の妨げになりません。経営幹部は、特定の事業やセグメントの業績のみに基づいてインセンティブを受け取るのではなく、全体の株主価値を創造することで報酬を得るべきです。

フィットシグナルを特定するのに役立つ、強固な分析手法を確立

企業はしばしば、経営情報システムやデータが不足しており、事業で何が起こっているかをよく理解していません。詳細なレベルで何が起きているのか理解できないまま、事業部門の業績を評価することは困難です。

各事業に適した指標の見極め

全ての事業が同じ物差しで評価されるべきではありません。例えば、EBITDAマージンは、安定した収益源を持つビジネスには適切かもしれませんが、コモディティエクスポージャーによって大きな変動があるビジネスには適用すべきではありません。成功する企業は、タイムリーに業績を測定するためのシステムやデータだけでなく、適切な測定基準も持っています。

フィットシグナルが特定されたら迅速に行動する

決断力のある企業は、遅い企業よりも多くの価値を得る傾向があります。売却プロセスには多くのバリュートラップがあり、企業の取り組みが速いほど、より良いものとなります。

PwCのリサーチ方法

調査は、多くの場合、過去のデータかサーベイのデータに依拠します。本考察は、仮説を検証し、統計的な結論を導くために、定量的・定性的調査と独自の分析・モデリングを組み合わせて、さらに踏み込んでいます。

  • 戦略、ポートフォリオレビュー、事業売却のプロセスについて有意義な知識を持つシニアリーダー2,566人を対象とした調査
  • 経営幹部および取締役会メンバーとして意思決定に責任を持つ29名に対する詳細なインタビュー
  • 新たな調査質問項目へのアドバイス、インタビュー、統計的モデリングの支援など、経営者の行動を研究してきた大学教授とのコラボレーション
  • 会社や事業部門レベルの過去の財務データやディールデータの幅広い分析

※本コンテンツは、The power of portfolio renewal and the value in divestituresを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

鈴木 慎介

代表執行役社長, PwCアドバイザリー合同会社

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鈴木 崇寛

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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香川 彰

パートナー, PwCアドバイザリー合同会社

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