カスタマーエクスペリエンスと従業員エクスペリエンスの出会い

一貫した顧客中心主義の秘訣:カルチャー、ケイパビリティ、経営モデルを統合する新たなアプローチ

競争の激化に直面するマーケットでは、誰もがより多くの顧客を維持し、成功を収めようとします。では、カスタマーエクスペリエンス(CX)への投資のリターンを最大化し、貴社における多数の取り組みが、全て適切な営業成果を挙げていることを確認するにはどうすればよいのでしょうか。成功しているビジネスリーダーは、価値の創出には体験から得られるリターン(ROX, Return on Experience)が不可欠であると認識しています。PwCはさまざまなセクターや地域のB2B、B2Cのリーディングカンパニーを調査し、顧客ロイヤルティ、従業員エクスペリエンス(EX)、経営モデルとカルチャーに関する重要なインサイトを発見しました。これらのインサイトは、顧客中心主義の取り組みから価値を創出するPwCの明確なアプローチの原動力となっています。


顧客中心主義への効果的な投資方法

顧客中心主義の意味するものは人によって異なります。「お客様ファースト」という曖昧な言葉や、イノベーションで顧客の一歩先を行くこと、低価格で信頼できる製品を提供すること、リアルタイムの需要に応じることなどをしばしば耳にします。顧客はそれら全てを歓迎するかもしれませんが、一つ一つの要素は顧客中心主義に不可欠ではありません。顧客中心主義とは、戦略的に目標を調整し、ケイパビリティ体系、経営モデル、カルチャーについて具体的な選択を行うことを意味します。慎重に行わないと、顧客中心主義は「八方美人」の試みで終わる可能性もあります。非常に高い費用がかかった上にほとんど効果がなく、顧客が価値を感じるものや、それをどのように提供すべきかについて従業員を困惑させる可能性もあります。

むしろ、従業員エクスペリエンス(EX)が顧客に与える影響について検討するほうが有益です。EXを戦略、投資、テクノロジー、データ、評価指標、経営モデル、組織の効率性に関する意思決定に組み込みます。そして、有意義で相互に関連した方法によって最も重要な顧客の期待を上回るために、組織全体の従業員を動員します。従業員の困惑を避けるため、メッセージングの一貫性を保ち、前もって決定を下し、顧客中心主義に向けて選択したアプローチを強化するために意識的に組織運営を行います。

PwCの最近のパルスサーベイでは、エグゼクティブの48%がCXに対する支出を増やす意向があると回答しており、CXのリーダー企業は後れを取っている企業の5倍の売り上げ成長を達成しています。貴社の投資を最大限に活用するために、適切なふるまいを推奨し、報酬を与えることにより、従業員に権限を持たせるようにしましょう。そのためには、まず、貴社においてどのような顧客中心モデルが最も効果的なのかを理解する必要があります。

How to effectively invest in your customer centricity

「顧客の幸せを望むのであれば、従業員も幸せでなければなりません。スタッフのクリエイティブな潜在能力を解き放つ必要があります」

あるヘルスケア組織のエグゼクティブ

顧客中心モデルをブランド戦略に統合する

顧客中心主義に向けたアプローチは、貴社のブランド戦略と組織目標を明確に構築し、従業員にとっても有意義なものである必要があります。貴社の組織の「Why(目的やゴール)」はどのようなものでしょうか。貴社のブランドと関わった時やその後に、顧客にどのような感情を抱いてほしいと考えていますか。どのような感情が顧客を再訪に導くでしょうか。

顧客中心モデルには、そのモデル特有の指標が含まれていることが重要です。PwCの最近の調査は、ネット・プロモーター・スコア(NPS)のような一般的な指標は、差別化を強く求める企業にとってもはや十分ではないということを示しています。一般的にデータの追跡と評価には、メッセージングやテキスト変換された音声、ソーシャルメディアのような非構造化データを分析したAIと、調査を組み合わせることが必要です。これにより、顧客の特定の感情を刺激できているかどうかが明らかになり、CXが貴社の戦略に合致しているか確認できます。これらの評価により、ケイパビリティ投資を調整し、焦点を合わせるとともに、従業員がこれらの体験を実現させ、貴社の顧客中心モデルを継続的に改善することができます。

Customer centricity model

「以前は、現実の顧客ではなく、理想的な顧客の観点から顧客中心主義に取り組んでいました。現在は、顧客に話してほしいことではなく、実際に顧客が話していることに焦点を合わせようとしています」

あるソフトウェア会社のエグゼクティブ

5つの顧客中心モデル

カラーパレットの検討

5つの顧客中心モデルをそれぞれクリックしてみてください。

モデルについて探るために、カラーパレットから貴社のビジョンに最も合う色を2つか3つ選択してみてください。焦点を合わせる対象が変化したり、一定期間ある色の重要性が増したりするかもしれません。その際、貴社を複数のモデルのブレンドと捉えていたとしても、たくさんの色を使って濁った色にしてしまうことは避けましょう。

イノベーション

貴社はイントレプレナーシップ(社内起業家)の促進に焦点を当てており、従業員の貢献から事業を創出しています。差別化のために、顧客の好奇心をかき立て、刺激し、関心を高めるとよいでしょう。

実行可能なインサイトの創出に向けて、より差別化を強化するケイパビリティの例:

  • データ駆動型の意思決定
  • 人間中心のデザイン
  • 顧客の声を聴く
  • 従業員の声を聴く

蓄積されたインサイトの結果として貴社が開発すべきケイパビリティの例:

  • 実験主義
  • 従業員主導の活動

一般的な色の組み合わせ

イノベーションに焦点を合わせることから始めた企業は、後にそのモデルを以下と組み合わせる例が多く見られます。

親密さ
エンパワーメント

「顧客の声を聴くことが秘訣です。それが出発点であるべきですが、ソリューションの創出には従業員が参加する必要があります。従業員の意見に耳を傾けるべきです」

あるトップヘルスケア会社のエグゼクティブ

CXとEXを結びつける

顧客中心モデルとより良いCXを提供するために必要なケイパビリティを特定するだけでなく、従業員を巻き込むことも重要です。彼らの関与が成功の鍵となります。

まず、顧客にポジティブで差別化された体験を提供する際の従業員の役割の重要性について理解し、顧客に対する場合と同じレベルで、従業員を理解することに焦点を合わせます。これは、明確な評価システムを確立するとともに、貴社のカルチャーを評価し、発展させる際に公式・非公式な手段を用いることを意味しています。CXの継続的な改善を推進し、投資による価値を測定するために、顧客中心モデルを検討し続け、顧客に抱いてほしい感情を追跡し、ブランド戦略と合致していることを確認しましょう。

Connect your customer experience and employee experience

CXジャーニーとEXジャーニーのマップを作成し、ヒューマンインタラクションのキーポイントを特定します。

  • インフォーマルな従業員コミュニティーを作ります。
  • CXに関するふるまいと当事者意識について、従業員コミュニティーを教育します。
  • 従業員リスニングプログラムを強化するために、1年に1回以上サーベイを実施し、AIとテキスト分析を用いて継続的にディスカッションフォーラムを活用します。
  • 顧客とのやりとりに従業員を関与させます。
  • 従業員のインサイトに基づいて行動を起こし、実施された変更に対する成果を評価します。
  • 従業員のフィードバックに基づいて従業員に変更を示すことで、従業員は当事者意識を強め、より良い顧客体験を提供できるようになります。

ふるまいに報酬を与えることにより、貴社のカルチャーを活性化させます。

  • 貴社のカルチャーを診断し、既存のカルチャーの特性がCX-EXのゴールをどのように支援し、また、妨害しているのか特定します。
  • 貴社におけるカルチャーの特性と、既存のカルチャーに内在する強みや機会を理解します。言い換えると、貴社のカルチャーに逆らうのではなく、そのカルチャーの中で活動することが重要です。
  • 貴社のカルチャーを発展させ、顧客中心モデルと将来のビジョンの支援を強化するために、いくつかの重要なふるまいを特定します。
  • これらのふるまいを広めるために、信頼できる非公式のリーダーを参加させます。従業員に権限と報酬を与え、「カルチャーについて有言実行」を促すようにします。

公式なイネーブラーと非公式なイネーブラーを混同してはいけません。

  • オペレーティングモデルに「フリーサイズ」は存在しません。
  • オペレーティングモデル(組織設計、権限設計、インセンティブなど)に関する決定は、顧客中心モデルと価値の推進方法に基づいて下しましょう。
  • 顧客中心モデルを用いてオペレーションモデルの公式・非公式の手段を強化し、組織を簡略化することにより、顧客中心モデルを強化・増強します。
  • カルチャーに関するふるまいを活性化させるために、人間関係のネットワーク、コミットメント、規範、マインドセットといった貴社の組織的なDNAにかかわる非公式のイネーブラーに十分に焦点を合わせましょう。これにより、組織構造、権限設計、インセンティブ、情報といったより公式なイネーブラーを用いて、取り組みを適切なバランスで支援できます。

結論

より良い顧客体験の提供を通じた差別化を目指す場合、数値的な結果の追求から脱却する必要があります。顧客中心主義に王道はありません。貴社の顧客を理解することに加えて、現場の従業員からマネージメントチームまで、権限を与えることに重点を置きましょう:

  • CXを実現する従業員の体験に応えるオペレーティングモデルを構築します。貴社のオペレーティングモデルと主要な価値プロセスは、顧客中心主義のメッセージを反映し、増強するものでなければなりません。そのために、エンドツーエンドで検討を行い、主要な価値プロセスと組織インフラを簡略化する必要があります。
  • 従業員が組織内の活動を有意義に感じているかを確認することは、チームが顧客に対応する方法を強化します。モデルの定義が不十分であったり、選択が曖昧であったりすると、明確性の欠如をもたらします。その結果、人々は自分の偏見や優先順位を投影するのみとなり、貴社の戦略の実施において最適とはいえない断片的で分断した構造になってしまいます。
  • 重要なメッセージが現場の従業員と顧客にまで届いているかどうか確認します。これは継続的なプロセスである必要があり、CXを重視するために不可欠です。評価システムに属性スコアを追加し、感情と結びついた、より有意義で実行可能なインサイトを定期的に収集できるようにします。
The bottom line

「CXが従業員から始まるのであれば、ブランドに対する従業員の愛情を醸成する方法について検討してから、それをCXに変換する必要があります」

ある小売企業のエグゼクティブ

体験の改善と真の顧客中心主義の実現については、それぞれの取り組みと投資が互いに影響を与えています。最終的に、このアプローチは新規の純支出である必要はなく、リサーチとテストにおける潜在的な削減、品質と運用の改善、供給業者の合理化による削減を前提としています。これはまた、自社のケイパビリティを形成するための自己資金となり、最終的な収益につながる可能性があるため、その後、成長フライホイールを促進するために再投資できます。最後に、顧客の誘致、維持、体験全体で大きな成功を収める方法は、EXにますます大きく依存するようになっていることを理解する必要があります。

日本への示唆

上記はPwC米国が発行したレポートを翻訳したものです。PwC Japanグループでは本レポートにおいて主張されている「CXを向上させるために、顧客接点をもつ従業員にフォーカスし、EXを高めること」の重要性に改めて着目しました。「EXを高めること」の重要性は認識されてから久しく、既に多くの企業が取り組みを開始しています。一方、その取り組みが顕著な成果につながった企業は多くありません。私たちはその原因として、「多くの企業の取り組みが、表面的なものにとどまり、従業員満足度の向上をどのように成果へつなげるか意識せず、やみくもに取り組みを続けている企業が多いためではないか」という仮説を持っています。

例えば、CXを強化するためにEXを意識したとき、多くの企業が従業員の働くことへの満足度を高めるべく、報酬制度や評価制度などの働く環境の整備に取り組もうとします(衛生要因中心となることが多いです)。それらも重要ですが、CX強化を目的としたとき、まず「優れたCXがどのようなものかを従業員(E)が体験する(X)」取り組みが重要だと考えます。

ファンイベントもその1つのアイディアとなります。多くのケースが「SNSによる認知効果や参加したファンの満足度の形で成果を評価する」にとどまっていますが、EXに焦点をあてた観点からは「自社のサービス・製品によりどのような体験を得ているのか」を顧客から従業員が直接聞く機会をもてることにより大きな意義があると考えられます。

多くのケースでは、ファンサービスや顧客からのエンゲージメントの強化にフォーカスし(それらも十分に意味はありますが)、EXの向上へつなげることまで考慮しているケースはほとんどありません。とはいえ、先進的な取り組みは存在し、着実にEXの強化に貢献しています。あるアウトドアブランドの事例では、ファンイベントを通年で実施し、自社製品を顧客と一緒に使う機会を従業員へ提供しています。また、ただ一緒に使うだけでなく、そのイベントにおいて顧客から得たフィードバックが製品へ反映される可能性があることを参加者が認識しており、その場には経営に影響を与える人材も同席しています。そのため、実際に顧客からのフィードバックが、製品の改善・開発につながっています。このイベントは、従業員が優れたCXを与える製品がどのようなものであるかを直接顧客と一緒に体験し、自社製品の活用の現場に立ち会う達成感と改善のヒントを同時に得ることができるように設計されています。

上記の事例のように、よりダイレクトにCX強化につながる「優れたCXがどのようなものかを従業員(E)が体験する(X)」EX企画の実行を検討する必要があると考えます。

※本コンテンツは、PwC米国『Customer experience meets employee experience』を翻訳したものにPwC日本独自の内容を追加したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

丸山 貴久

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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伊藤 賢

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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清水 遼一

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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大秦 一希

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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顧客が真に求めるパーソナライズされたロイヤルティ体験を提供するには 金銭的報酬だけではない顧客一人一人に合わせた価値ある体験を提供することの重要性

顧客とのロイヤルティを育むことは、組織に価値をもたらし、収益性を高めます。本稿では、PwCが実施した顧客ロイヤルティに関する調査からの洞察を紹介するとともに、日本企業が取るべき対応策を解説します。

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