顧客の心理を科学する

データドリブンマーケティングの限界

データドリブンマーケティングの限界 ―顧客の心理を科学する―
  • 2024-06-06

1. はじめに

多くの企業は顧客視点や顧客中心の経営をうたっていますが、企業の経営陣は顧客を理解できているでしょうか。企業のマーケティング部や営業部と呼ばれる組織は、CRMデータや購買履歴を分析したり、Web上の行動やファネルを分析したりすることで、顧客を十分に理解できていると思っていないでしょうか。

MA、SFA、CRM、CDP等のさまざまなソリューションが登場したことで、顧客データを収集し、データドリブンマーケティングを推進する企業は増えましたが、顧客に関する全てのデータを収集することは不可能であり、企業が把握できるのは顧客のデモグラフィック情報や行動等、限定的であることに留意する必要があります。顧客は購買の意思決定において論理的な検討を行うかもしれませんが、顧客によって判断基準は異なり、その意思決定プロセスは顧客の無意識下において行われます。この無意識下まで掘り下げてインサイト・心理を理解する「顧客理解」がマーケティングにおいては極めて重要ですが、実践できている企業は多くありません。

事実、PwCが独自に行った顧客起点の経営の取り組み状況に関するアンケート調査(業種さまざまな年商50億円以上の企業の役員/CxOクラスおよび本部長/事業部長クラスを対象に実施。有効回答数は100)によると、顧客インサイトを把握するための組織・リーダーの配置や、顧客インサイト把握能力の向上を図る教育/トレーニングを行っている企業の財務的な成果(売上高総利益率およびROI)が全体と比べて高いことが分かった一方、「事業・商品・サービスごとにターゲット・インサイト・訴求便益を明確に定義した上で、各ターゲットへのアプローチや顧客育成の戦略がある」と回答した企業は全体の28%にとどまりました。このように、顧客理解は、その重要性にも関わらず十分に実践できている企業が少ないのです。

本稿では、このような課題を抱える企業が顧客理解を実践する重要性、難しさ、および手順について解説します。

2. 「顧客理解」の重要性

マーケティングとは「選ばれる必然」をつくること

「顧客理解」とはマーケティング分野の常套手段ですが、その実践のためには、そもそものマーケティングの役割を正しく理解する必要があります。マーケティングとは自社商品・サービスを売れる(愛される)ようにするための戦略・活動そのものを指し、販促・プロモーションや顧客データの集計で完結するものではありません。商品・サービスを売れる(愛される)ようにするために、企業は自社商品・サービスが顧客にとってどれだけ価値あるものかを徹底的に問い、それが顧客に選ばれる必然性を考える必要があります。

顧客理解は全社で取り組まなければならない

顧客理解はCMOを筆頭としたマーケターの役割であると認識されがちですが、市場で実際に顧客に選ばれる(売れる)状態を実現するにはマーケティング部だけでなく全社レベルで意識・実践されなければなりません。例えば、開発の工程でいつの間にか企業目線の商品になってしまっていた、商品・装丁・広告でメッセージがバラバラになっていた、などといったことのないよう、企業は顧客理解をバリューチェーン全体に波及させる必要があります。

図2 バリューチェーンにおける顧客理解の実践

特に、CMOを中心に経営層が自社商品・サービスの顧客価値を理解していることは極めて重要です。組織の共通言語としてマーケティング部以外の部署にも浸透させ、あらゆる経営資源を顧客にとって意味のある価値につながるように使わなければなりません。

「顧客理解」の難しさ

では経営層(CMO)、マーケター、全社員が顧客価値思考を実践するとして、「なぜ自社商品が選ばれるべきか、顧客目線で商品・サービスの価値を考えなさい」と言われると、実際には口にするより難しいことです。例えば、自分の想像していた顧客は実は市場に存在していなかった、企業の外から見たブランドイメージが自社の認識と異なっていた、顧客は思いもよらない判断軸で商品を選んでいた等、前提とする顧客像が実態と乖離しているケースは珍しくありません。顧客理解という活動は単にアンケート調査や競合分析等をすればよいという類のものではなく、テストのように明確な解があるものでもありません。顧客理解が簡単なようで難しいのはこういった特性が要因として考えられます。正しい顧客理解を欠いた事業運営は、短期的にビジネスKPIを達成できたとしても、長期的に愛されるブランドの形成にはつながりにくいのです。本来、企業はブランドエクイティとパフォーマンスマーケティングの両軸を重視すべきですが、多くの企業では後者を重視し施策ドリブンになってしまっているのが実情でしょう。

3. PwCの考える「顧客理解」

顧客インサイトを理解すること ―顧客の声は答えではない―

顧客理解を深めるためには、現時点の顧客のデモグラフィック情報や購買行動を把握することは当然ながら、観測できていない行動や思考に宿る顧客心理を理解する必要があります。そもそも、世の中に商品・サービスが溢れ、生きていく上で必要なものは満たされている状態において、顧客自身に欲しいものを聞いても答えには辿りつけません。顧客は安い・便利といった経済的合理性だけで商品・サービスを選んではおらず、なんとなく良いと思ったから購入することがほとんどです。消費活動のモチベーションは、提供されている商品・サービスが意味することへの共感やそれを通して可能となる自己実現につながる要素が重要で、これらに着目することで、顧客を動かすことができます。この隠れた心理=顧客インサイトに着目することが重要です。

インサイトを見つけるには、インタビューを重ね、顧客からの回答から言語化されていないこと、潜在意識にありそうなことを検討します。単純ですが、これは難しいことです。本稿ではPwCコンサルティングの支援実績や事例をもとに、顧客のインサイト理解において検討するべきポイントおよびその顧客戦略・戦術への落とし込みについてまとめています。ぜひ、自社の取り組みで足りていない視点がないか、チェックリストとして活用いただけると幸いです。

データドリブンマーケティングの限界 ―顧客の心理を科学する―

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主要メンバー

丸山 貴久

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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堀口 陽介

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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臼井 大樹

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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磯本 駿

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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ハウザー マヤ

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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末永 梨花

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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