
日本の強みを生かした新産業創造の必要性(前編) 採るべき戦略はマルチパスウェイ。多様化するエネルギー利用のなかで、水素エンジンが持つ役割とは
京都大学の塩路昌宏名誉教授と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE)の担当者をお招きし、水素社会実現に向けた内燃機関やマルチパスウェイの重要性について議論しました。
多くの国でワクチン接種率が上昇し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連の規制が緩和傾向にあることから、経済予測は上方修正され、産業機械・自動車(IM&A)分野のCEOの将来見通しも改善傾向にあります1。企業や投資家にとって、2020年の大半を覆っていた不確実性は、将来の需要を見据えた明確なビジョンにより払拭されたように思われます。
そのため、多くの企業がすでに戦略を見直すとともに、これに合わせてポートフォリオの再編を行い、価値を創出すべく、M&Aを検討しています。こうした中で最も成功を収めるのは、強力な財務基盤と戦略的先見性を武器にディール組成の機会を活用し、体系的な価値創造のプランを実行していく企業でしょう。
1 産業機械・自動車分野は、航空宇宙・防衛、自動車、ビジネスサービス、エンジニアリング・建設、産業機械を含みます。
「IM&A分野の回復は、ディール組成を中心に展開されるでしょう。パンデミックの先に成長を目指す企業は、明確な価値創出プランを実行していく必要があります」
2021年上半期のIM&A分野ディール件数は地域によって異なります。EMEAではパンデミック以前の水準まで回復し、最もディールが活発な地域となっています。これにアジア太平洋と米州が続いています。
ディール金額の合計では、複数のメガディール(ディール公表額が50億米ドル以上)が成立した米州がトップとなりました。例えば、米国の高級電気自動車(EV)メーカーLucid Motors社とChurchill Capital Corp IV社との合併(118億米ドル)、センサーテクノロジーメーカーFLIR Systems社とTeledyne Technologies社の合併(75億米ドル)、投資家グループによる害虫駆除会社Anticimex社の買収(73億米ドル)、英国のオンライン中古車ディーラーCazoo社とAJAX I社の合併(64億米ドル)、電動航空機メーカーJoby Aviation社とReinvent Technology Partners社の合併(50億米ドル)が発表されました。これらの買い手のうち、3社は特別買収目的会社(SPAC)であり、2021年上半期のIM&A分野において、これらの買収ストラクチャーがいかに大規模であったかを示しています。
PwCは、2021年下半期にM&Aのホットスポットとなるのは以下のようなものと予想しています。
「SPACは自動車、航空宇宙、製造分野に大きな関心を示しています。とりわけ、まだ市場には出ていないものの、莫大な可能性を秘めた多くの革新的テクノロジーに注目しています」
資金調達力の向上がM&A活動の活発化を支えています。プライベート・エクイティ(PE)は引き続き投資機会を模索し、ファミリーオフィスからの資金投入も増加しています。また、SPACは2021年上半期に業界最大級の案件に携わっています。一般的に、SPACは注目の高いテクノロジーを駆使した分野の資産をターゲットとしており、赤字企業や収益を生み出す前の段階にある新興企業などに対するリスクの高い投資についても、PEより積極的に行うと考えられています。現在約400社のSPACがM&Aによる買収ターゲットを能動的に探しており、PwCは2021年下半期から2022年にかけてSPACのディール活動は拡大を続けていくと考えています。
PwCはまた、EUの長期予算に計上された2兆ユーロ(2.4兆米ドル)の景気刺激策と、ポストコロナ復興を目的としたNextGenerationEU戦略に基づく「復興・回復ファシリティ(Recovery and Resilience Facility:RRF)」により、欧州における投資資金が増加すると予想しています。このパッケージは、IM&A分野が注力するイノベーションやデジタル化の促進、ESG問題への積極的な取り組みなど、戦略的M&A活動によって成長を後押しする分野に合致するものです。
テクノロジーの採用は、製造業や自動車関連企業にとって決して目新しいトレンドではありませんが、COVID-19がもたらした課題により、こうした変革の緊急性は加速しました。企業は、デジタル化によって業務効率の向上、そして新たな収益源へのアクセスという両方の機会を手にすることが可能になります。さまざまな分野の企業が、継続的なメンテナンスサービスやデータ・アナリティクス・サブスクリプションを容易にするソフトウェアやセンサーを製品や部品に組み込むようになっています。これにより、業界間の垣根がなくなりつつあります。
ESGはビジネスに影響を与えるとみられ、結果として企業の戦略や評価に反映されていることから、ESGに関する懸念事項はディールにおける議論の対象となっています。IM&Aが特に注目しているのはエネルギー使用、生産プロセスの革新性、EVのバッテリーと燃料電池の採用、サプライチェーンのレジリエンス、健康と安全、文化的問題、ダイバーシティとインクルージョンなどです。例えば、エンジニアリング・建設業界はエネルギー効率に関する規制強化に直面しており、また、顧客が企業のネットゼロ移行状況に注目する中、顧客から特定の ESG 基準を満たすよう求められるケースも増えています。
データについて
M&A動向に関する当社の見解は、業界が認める情報源から得られたデータに基づいています。特に本稿で取り上げたディール金額とディール件数は、Refinitivが2021年6月30日時点で提供し、2021年7月5日時点でアクセスした公式発表に基づいており、うさわと取り下げられたディールを除外しています。さらに補足情報として、Dealogicと当社の独自調査からの情報も加えています。本稿は、Dealogicによる使用許諾に基づいて提供されたデータから導出したデータを含んでいます。かかる被使用許諾データのすべての権利はDealogicが留保しています。PwCの産業マッピングと一致させるため、原情報に特定の調整を加えています。当社ではメガディールの定義を、ディール金額が50億米ドルを超えるディールとしています。
※本コンテンツは、PwCグローバルが2021年7月に公開した「Global M&A Trends in Industrial Manufacturing & Automotive: 2021 Mid-year Update」を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
京都大学の塩路昌宏名誉教授と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE)の担当者をお招きし、水素社会実現に向けた内燃機関やマルチパスウェイの重要性について議論しました。
京都大学の塩路昌宏名誉教授と、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、水素小型モビリティ・エンジン研究組合(HySE)の担当者をお招きし、産官学連携での水素エンジンの研究開発の重要性と、具体的な課題について議論しました。
本書では、SDV(ソフトウェア定義車両、Software Defined Vehicle)とは何か、今後何をすべきかを検討いただく一助として「SDVレベル」を定義し、SDVに関するトピックや課題を10大アジェンダとして構造分解して、レベルごとに解説しています。(日経BP社/2025年4月)
2025年の産業・サービス分野におけるM&A活動は、企業がポートフォリオの拡大、再編、洗練に向けた取り組みを強化していることから、成長へ向かうことが見込まれます。