PwC サプライチェーンのデジタルトレンド調査 2022

2022-12-23

世界のサプライチェーンにはかつてないほど厳しい監視の目が向けられており、企業はレジリエンスと効率を高め、顧客への製品提供を継続すべく努力しています。サプライチェーンは社会における重要な役割を常に担ってきましたが、これまで多くの場合は舞台裏の出来事として認識されていました。しかしそれが今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックとその後の混乱によって注目を浴びるようになり、非常に多くの人々がサプライチェーンの重要性を認識することになりました。

同時にCOVID-19のパンデミックの結果、世界中でデジタル化が着々と進み、サプライチェーンの刷新・改善を行う必要性がますます強まりました。企業はインフレの圧力、不安定な経済、高まる地政学的リスク、長引くコロナ禍を乗り越えようとしています。こうした背景のもとで実施されたPwCの「サプライチェーンのデジタルトレンド調査 2022」は、サプライチェーンを完全に最適化するにはまだ多くの課題が残されていることを浮き彫りにしました。以下に重要な所見をいくつか挙げます。

  • 企業は効率改善やコスト管理といったサプライチェーンの基本項目に力を入れているものの、デジタル化、サステナビリティ、変革の分野で価値創出の機会を逸しています。
  • 回答者の大多数が、サプライチェーンの多数の特性を中程度のリスクまたは重大なリスクとして捉えているにもかかわらず、サプライヤー数を増やす、調達方法を変革する、あるいはレスポンシブネスとレジリエンスを強化するなどの事項を優先課題と考えている回答者はほとんどいません。そこには大きな隔たりがあります。
  • 将来の投資計画が多様であるように、サプライチェーン・オペレーションにおけるエマージングテクノロジーの活用方法もさまざまです。しかし、回答者の80%はテクノロジーへの投資が期待したほどの成果を上げていないと答えています。それにはいくつもの原因があります。
  • サプライチェーンのデジタル化において、企業に最も求められるのは予算を拡張することですが、適材適所のテクノロジーを確保することも同様に課題です。
  • 多くの企業(回答者の58%)において、サプライチェーンに関連する従業員の離職率が通常より高くなっています。また、「将来の目標を達成するために必要なデジタルテクノロジーを装備している」という項目に「完全にあてはまる」と答えた企業は23%にとどまっています。同様に、ほとんどの企業は2023年のうちにオペレーションシステム変更することを検討しています。
  • 規制変更への対応やサプライヤーリスクの特定は、環境・社会・ガバナンス(ESG)の最重要課題ですが、ESGレポーティングとESG関連指標を重視する企業は少ないのが現状です。

今回の調査対象であるオペレーションとITの責任者、経営幹部、そしてその他のサプライチェーン担当役員244人は、今起きている混乱への対処で明らかに手一杯です。しかし、本調査で明らかになった機会を生かすことは、企業にとって日々の戦いに勝つことと同じように必須です。これらの機会は、長期的な成功の可能性を高めることになるからです。


ビジネスリーダーはサプライチェーンのどこに注目しているのか

 

目先の課題が優先で、変革のためのアクションは概して後回し
今後12〜18カ月間の優先事項の中で圧倒的上位を占めたのは、サプライチェーン・オペレーションにおける効率の改善とコストの管理・削減でした。調査回答者の大半がこの2つを最優先事項として挙げました。どちらも、他のどの項目よりはるかに高い頻度で最優先事項に選ばれています。例えば、「コストを管理/削減する」は、「従業員のデジタルスキルを高める」の3.1倍、「サステナビリティと企業の社会的責任を強化する」の3.1倍、「生産のデジタル化と自動化」の3.7倍の頻度で最優先事項に挙げられています。つまり、多くの企業が短期的利益を重視し、変革をもたらす可能性のあるこれらのアクションの比重を増やすには至っていないということです。

「サプライチェーンとサプライヤーの多くの属性が、自社に中程度の、または重大なリスクをもたらす」と、調査回答者の大多数が答えていることは、現在も混乱が続いていることの証です。原材料の確保とサプライヤーのオペレーション上の問題が最大のリスクですが、それ以外の分野も懸念材料です。リスクに関する回答全般は、サプライチェーン関連の問題が優先順位に大きく影響したのとは全く対照的でした。これは、多くの企業がまだ守勢で、サプライヤーの多様性を高める、調達方法を変革するといったアクションに乗り出せていないことを示しています。

資金から人材、テクノロジーまで、サプライチェーンのデジタル化には多くの課題が存在

多くの企業がサプライチェーンのデジタル化を推進していますが、予算の制約が依然として最大のハードルであり、回答者の半数近くが課題のトップ3に挙げています。しかし、資金だけでなく、人材とテクノロジーもさまざまな形でデジタル化を妨げる要因となっています。これは、両面で改善の余地があることを意味します。

10人中3人の回答者は、「従業員やチームの働き方を変えることが難しい」ことを課題のトップ3に挙げています。また、4分の1近くの回答者が、サプライチェーンの変革に必要な「デジタルネイティブな人材の確保が難しい」と訴えています。技術面では、「ビジネスの理解と技術的能力が欠けている」「ソフトウェア/ハードウェア・システムが分析機能とプロセス機能を欠いている」といった点が上位の課題として挙がりました。

サプライチェーン・オペレーションにおいてデータが果たす役割はますます重くなってきましたが、企業は総じてシステムの重大な課題を指摘していません。ただし、データ関連問題は特定の分野だけに限られるわけではありません。データ管理、データ品質、データ取得、手作業によるデータ操作など多岐にわたる回答がありました。この他にもさまざまな分野が挙げられています。

貴社のサプライチェーン機能は現時点でどの程度統合されているか? また、2年後にどの程度統合される見込みか?

テクノロジーへの投資は行われているものの、十分な成果が上がっていない 

サプライチェーン・オペレーションにおけるエマージングテクノロジーの導入状況は企業によって異なりますが、全体としてクラウドが他のテクノロジーに比べてハイペースで導入されています。また、投資計画もクラウドに関するものが最多で、回答者の3分の1以上が「自社で100万米ドル以上の投資を計画している」と答えています。しかし、サードパーティー分析、スキャン、インテリジェントデータキャプチャ、RFID、IoTといったテクノロジーは投資水準が低くても競争優位性を発揮します。

サプライチェーン・テクノロジーへの投資が効果を上げる一方で、5人中4人の回答者は「期待したほどの成果がなかった」としています。これは(効率性、生産性、顧客体験のいずれにおいても)さらなる前進が可能であることを示す明確なサインです。回答者は、十分な成果が得られない最大の原因として、「導入したテクノロジーが期待したような機能をもたらさない」と「実装に時間がかかる」を挙げましたが、別の理由も指摘されています。

従業員の定着とデジタルノウハウがサプライチェーンの課題

大半の企業が、サプライチェーン・オペレーションの人材とデジタルスキルへの投資に満足していると回答していますが、他部署の人員と同じく、サプライチェーン・オペレーションでも従業員の離職率が以前より高くなっています。これは、PwCが最近実施した「パルスーサベイ」の結果も同様でした。最高執行責任者をはじめとするオペレーション責任者の44%が、人手不足と従業員の離職が2022年のオペレーション上の最大の課題の1つになるだろうと回答しています。

さらに、将来の目標を達成するために必要なデジタルテクノロジーがサプライチェーンチーム内に装備されているとした回答者は3分の2に達しませんでした。そして、半数が「デジタル分野の大規模なトレーニングとスキルアップの必要性が生じる」と予想しています。また、5人中2人は、「全体として現在より従業員を増やす必要があるだろう」と答えました。オペレーションシステムの変更に関しては、65~70%前後とかなり多くの企業が、サプライチェーンのさまざまな分野で現行のシステムに固執しておらず、変更する場合には、完全な入れ替えではなくアップグレードするケースがはるかに多いようです。

ESGは注目されているが、サプライチェーンに完全に統合されてはいない

ビジネス戦略においてESGの重要性がますます高まる中、サプライチェーンチームは、いくつかの側面は他の側面より難易度が高いと認識するようになりました。「関係する地域の急速に変化する法令・規制枠組みを常に認識する」と「ESGサプライヤーリスク(例:環境汚染、不正行為、原材料・天然資源の不足、安全基準および労働者の水準の低さなど)を明らかにする」が最大の課題として挙がっていることから、ESGに関しては多くの企業がまだ守勢に回っているようです。回答者の大多数がESG問題を「軽微な課題」あるいは「現在は全く課題ではない」と考えていることにもそれは表れています。

現時点で課題として認識されていないESG問題が、今後数年以内に課題になるだろうと答えた回答者も一部にはいました。しかし、「ESGレポーティングにおいてステークホルダーグループに適切に対応する」「人種に偏りがない/倫理的に経営されている、多様性をもったサプライヤーを優先する」「幅広いESGフレームワークと使用する主要指標について決定を下す」といった分野の優先順位が低いままでは、パーパスとサステナビリティに積極的に取り組んでいる競合他社に後れを取ることになりかねません。

メソドロジー

2021年11月から2022年1月にかけて実施されたPwCの「サプライチェーンのデジタルトレンド調査」では、エンタープライズテクノロジーとエマージングテクノロジーの活用を含めたサプライチェーン管理のオペレーティングモデルにどのように取り組んでいるかを分析するため、サプライチェーン業務との関わりが深い業種の企業を選び、オペレーションおよびITの責任者、経営幹部、その他のサプライチェーン担当役員244名を対象に調査を行いました。調査対象の業種は、航空宇宙、自動車、化学その他の製造業・工業製品、消費者市場・小売業、エネルギー、公益事業、鉱業、医薬品・生命科学、テクノロジー、メディア、通信などです。

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主要メンバー

日向 昭人

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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寺澤 雄輝

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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