
日本の保険事業者が知っておくべき「2025年の必須課題」トップ10
日本の保険会社は競争力を維持し、グローバルに成長するために、変革を続けなければなりません。本稿では、今日の課題を乗り越えながら自ら変革しようとする日本の保険会社の2025年における必須事項のトップ10について解説します。
2020-06-01
PwCアドバイザリー合同会社(以下、PwCアドバイザリー)では、COVID-19の拡大で、1)サプライチェーンの寸断、2)商品(原油)価格の急落、3)ヒトの移動の急減、4)株価の急落、という「4つのアウトブレイク」が発生したと考え、それらがもたらす短期的・中期的な影響についてクライアントと議論を重ねています。
中期的にはこれらによって経済・社会の構造変化が起こり、1)サプライチェーンの質的再構築(注1)、2)脱資源/脱化石燃料、3)デジタライゼーション/データエコノミー化、4)財務戦略の転換/ESG投資の普及が進むと見ています(図表1)。
(注1)サプライチェーンの質的再構築とは、高効率だが脆弱なサプライチェーンからコストは高いが頑健なサプライチェーンへの転換を意味する。
この中で、金融機関にとって重要なのは、3)ヒトの移動の急減がもたらすデジタライゼーション/データエコノミー化、4)株価の急落がもたらす財務戦略の転換/ESG投資の普及でしょう。特に、COVID-19拡大の前後で非連続的な構造変化をもたらすのは、デジタライゼーション/データエコノミー化への対応と、私たちは考えています。
COVID-19拡大の前後で起こる非連続的な構造変化とは、「COVID-19収束後も元には戻らない経済・社会の構造」と言い換えることができます。私たちはこれを前提にビジネスモデルの再検討を行う必要があると考えており、「ニュー・ニューノーマルの世界」と名付けました。
リーマンショック後に言われたニューノーマルの世界を私たちなりに解釈すれば、超低成長経済の下で勝ち組企業と負け組企業の差が鮮明になり、その中で改革の必要が高まった状態と言えます。これに対して、私たちが考えるニュー・ニューノーマルの世界とは、ニューノーマルの世界よりも一段と厳しい局面であり、「時限爆弾のスイッチが入り、負け組企業の消滅リスクが高まった状態」と言えるでしょう。
株式会社デジタルガレージの林 郁CEOは2020年5月13日の決算説明会において、「今回のパンデミックが世界規模で『生活、経済、教育、医療』などのさまざまな領域にわたり、地滑り的なDX(デジタルトランスフォーメーション)化を引き起こすと確信します」と述べました。このことは、キャッシュレス決済の一翼を担う同社のみならず、金融サービス業全般にあてはめられるでしょう。
既に、メガバンクや大手地方銀行は、1)インターネットバンキング/スマートフォンアプリの強化、2)AIやRPAによる業務効率化、3)支店事務や営業活動におけるデジタル端末の活用などで、デジタライゼーションを進めてきました。2020年度から新たな中期経営計画をスタートさせる金融機関では、デジタライゼーションの推進を最重要テーマに位置付けているところが少なくありません。
海外の事例を見ると、例えば、オランダのING Bank N.V.はモバイルバンキングを拡大させています。2019年には同行を日常的に利用する「アクティブ顧客」の37%がモバイル取引のみの顧客となりました。この比率は2014年が4%、2016年が12%1でしたので、モバイルバンキング取引のみの顧客は順調に増加していると言えます。
また、英国のMonzo Bank Limitedなど、ネオバンク(注2)の台頭も顕著です。足元の口座数は419万口座(2020年5月時点)2と若い世代の顧客から支持を獲得しています。
(注2)ミレニアム世代以下の若い世代を主な対象に、金融サービスをスマートフォンで提供する「銀行」。
国内でもシェア上位行を中心にインターネット専業銀行が、個人顧客の強い支持を集めています。住信SBIネット銀行株式会社の口座数は約400万口座、預金残高は約5.5兆円に上り(2020年4月末時点)3、欧米のネオバンクに引けを取らない顧客基盤を築いています。
私たちはこうした動きは不可逆的なものであり、コロナショックを契機に「モバイル、キャッシュレス&コンタクトレス」の動きが加速すると見ています。
その中で、既存の金融機関が留意すべき点は、第一に、顧客の金融ニーズが主役であり、金融サービスは裏方であるということです。金融機関の視点に立てば、金融サービスとマーケティングの融合と言い換えられるでしょう。その下では顧客視点に立ったUI(ユーザーインターフェース)が決定的に重要になります。
第二に、既存のサービスとの共食い(カニバライゼーション)や撤退は避けられないということです。COVID-19拡大を契機に、キャッシュレス決済の普及、金融商品販売のリモート化(オンライン化)、支店・ATMネットワークの再構築など、以前は手を付けられないと考えられていた伝統的な金融サービスの提供方法の見直しが進むことが考えられます。手近な具体例としては、感染予防の観点から、ATMの生体認証方法はコンタクトレス化されるでしょう。
私たちはクライアントとの議論の中で、「ヒトの移動は急減したが、経営陣がアタマを使う時間は急増している」「持久戦では勝てない、機動力が求められている」ことをお伝えしています。
「モバイル、キャッシュレス&コンタクトレス」は不可逆の動きであり、同時に、既存の金融機関のビジネスモデルを換骨奪胎していくと考えられます。既存の金融機関のビジネスモデルはアナログとデジタルが併存するものですが、ポストCOVID-19においては、両者の目指す方向がバラバラのままでは、企業価値の毀損は避けられないでしょう。
金融機関の経営陣におかれては、何を捨てて何を守るのかを早急に決断しなくてはならない局面を迎えていることをお伝えしたいと考えています。
1ING Investor Day 2019(https://www.ing.com/Investor-relations/Presentations/Investor-Day-presentations.htm)
2Monzo社ホームページ(https://monzo.com)
3SBIホールディングス株式会社、2020年3月期通期 決算説明会資料(http://www.sbigroup.co.jp/investors/library/presentation/pdf/presen200428.pdf[PDF 5,076KB])
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Emerging Trends in Real Estate®は、PwCとアーバンランド・インスティテュート(ULI)とが共同発表している不動産動向調査報告書です。不動産業界に携わる幅広い調査回答者の意見から不動産市場の見通しを展望しています。アジア太平洋2025年版では、日本を含むアジア主要国への投資戦略の策定や市場の動向の理解に役立つ分析を提供します。