足踏みする日本のDXの実態

日本企業のDX推進実態調査2024(速報版)

 
  • 2024-07-29

依然として成果が出ない日本企業のDX:十分な成果の獲得に至る企業は約10%にとどまる

日本企業が取り組む全社DXに関して、「十分な成果が出ている」と答える企業は約9.2%、「何らかの成果が出ている」の回答率を合計した場合も約70%と、2023年までと比べ大きな変化は出てきていません(図表2)。今回の調査結果を踏まえると、日本企業におけるDXの成功確率が向上しているとは言い難い状況にあります。

全社One teamでの取り組みが成果獲得の鍵

足元の日本企業のDXに関する取り組み実態を理解した上で、ここからは、「十分な成果が出ている」企業の取り組みも分析し、成功に向けたキーアジェンダを提示します。

「十分な成果が出ている」と回答した企業を分析すると、他の企業と比較した際、取り組むDXのテーマにかかわらず、一部の部署だけではなく全社にまたがってDXに取り組んでいる傾向が見て取れます(図表3)。

一部の限られた部署のみでDXに取り組む場合、ビジネスモデルや業務プロセス自体を抜本的に「変革する」には至らず、既存の事業や業務の一部を「改善する」にとどまり、大きな成果を獲得することが困難になっていると考えられます。より大きな成果を獲得するための「変革」を実現する上では、全社一丸となってDXに取り組むことが鍵になると言えます。

図表3 DXへの取り組み方とDX成果の関係

全社横断DXをリードする専門組織の有無が、成果を大きく左右

また全社にまたがってDXを推進する上で、「十分な成果が出ている」企業の約65%が、DX推進を担う専門組織を立ち上げていることが分かりました(図表4)。

これらの企業における専門組織は、全社としてのDX戦略および実行計画を策定した上で、DXの活動全体を統制する役割を担います。全社横断でDXを推進するにあたり、DXの戦略策定から実行までを一貫して担う専門組織が大きな役割を果たしていると考えられます(図表5)。

図表4 DX推進組織とDX成果の関係

日本企業が直面している代表的な課題:①人材育成・カルチャー変革、②データドリブン経営、③DX原資の確保

一方で、DXに取り組む企業が実際に感じているDX推進上の課題は、どのようなところにあるのでしょうか。

今回の調査では、各社からDX推進上の課題に関する回答を得ました。ここからは上位3つの課題である「人材育成・カルチャー変革」「データドリブン経営」「DX原資の確保」について見ていきます(図表6)。

その1:人材育成と変革に前向きなカルチャーの醸成

DXを推進する上で何より欠かせないのは、DXを推進する人材です。「十分な成果が出ていない」企業では、目指すべき人材像・スキルを定義した上での人材育成に取り組めておらず、DXを推進できるだけの人材を確保できていない状況にあると考えられます。社内の人材育成に着手することに加え、外部から人材を獲得するなどの打ち手も有効になると考えられます。

また、それらの人材が活躍しやすいカルチャーづくりに取り組むことも肝要です。変革の実現においては、多くの関係者を巻き込んで進めていくことが不可欠になるため、企業全体として変革に前向きな機運を醸成することが、スムーズな変革の推進につながると考えられます(図表7)。

その2:データ利活用を促進する専門組織

DXにおいては「データ」も欠かせない要素になります。まずは「データ」そのものに加え、それらのデータを活用するための環境やツールを整備することが出発点となります。

一方で、データの基盤を整備するだけではデータの価値を発揮するには不十分だと考えられます。一部のITに成熟した企業を除いて、社員の誰しもがデータの活用の方法やノウハウを身につけているわけではないからです。事業部門やコーポレート部門におけるデータ活用をサポートするような、専門組織の立ち上げを併せて行うことが重要です(図表8)。

その3:予算・人材両面でのリソースの確保

「変革」を起こすには予算・人材の両面で十分なリソースを一時的に確保するだけでなく、維持し続ける必要があります。DXの取り組みの本格化に伴う各プロジェクトの工数の増加や、取り組むテーマ自体の拡大にリソース追加が間に合わない場合、DXの停滞を引き起こします。

リソースを追加で投入し続けることが最もシンプルな対策ではありますが、定期的に取り組みテーマの見直しを図り、重要なDXテーマにリソースを集中することも打ち手の1つになると考えられます(図表9)。

DXをRebootし続けよ:長期的に取り組むだけでは成果は獲得できない

日本企業のDXへの取り組み期間とDXの成果との関係について触れます。

DXへの取り組み期間が長くなるにつれ、成果を上げている企業の割合が増加することが見て取れます。一方で、10年以上取り組んでいるにもかかわらず、十分な成果を上げることができていない企業が約65%を占めています(図表10)。

DXの成果を獲得するためには継続的な取り組みが前提ではありますが、必ずしも十分な成果の獲得を保証するものではないということが分かります。

中長期にわたりDXに取り組みつつも、十分な成果が出ていない企業については、本レポートで取り上げた日本企業における代表的な課題や自社の課題を改めて捉え直し、「取り組み方を継続的に見直す」つまり「DXをRebootする」ことが重要です。

おわりに:足踏みする日本のDX

今回のサーベイでは主に、DXに関する日本企業の取り組みの実態と日本企業が直面する課題について取り上げました。

最後に、1点気になる調査結果をご紹介します。
前述した、3つの代表的な課題に関連する、企業の取り組み状況の変遷を分析しました。すると、2023年から2024年にかけて、「人材育成」については改善傾向を継続しているものの、その他の項目については横ばい、もしくは低下傾向を示しました(図表1再掲)。

解釈の余地は残るものの、最近のコンサルティング現場における各社経営層やDX推進組織の皆様との会話とも合わせると、かつての品質管理・改善活動の帰結のように、「現場任せの、いわば改善のための改善」に陥っていってしまう予兆なのではないか、という懸念を覚えます。

そこで、貴社のDXの取り組みを検証するための視点として、3つの投げかけを行いたいと思います。

1つ目:自社のDXは、経営トップがリードすべき重要課題として位置づけられた取り組みになっているだろうか?
現場にデジタルスキルを教えて、あとはお任せ、といった、「現場丸投げDX」になってしまってはいないだろうか?

2つ目:ビジネスインパクトや変革につながるトップダウンでの課題設定など、「やるべきこと」に向き合っているだろうか?
アジャイルや民主化、現場力といった名の下、DXバッジの導入など、外形的に分かりやすく誰も反対しない「できること」ばかりをボトムアップで取り組んではいないだろうか?

3つ目:デジタル時代における自社のあり方を描いた上で、本質的な変革をデザインしているだろうか?
外部ベンダーに提案されたデジタルソリューションを導入することがDXだと思ってしまってはいないだろうか?

DXの取り組みを成功に導くためには「デジタル」の持つ力を最大限に発揮することが必要であり、企業の変革を実現するためには、既存の組織や仕組みの制約を取り払い、デジタル活用を前提にゼロからビジネスモデルやオペレーションを検討するような、よりデジタルネイティブなアプローチが求められています。

本レポートが、DXによりさらなる飛躍を遂げようとしている企業の方々の参考になれば幸甚です。

【調査概要】2024年5月、売上高10億円以上の企業に属する回答者(管理職以上)に対し、スクリーニング調査を行い、そのうち「DXの取り組みを進めている」と回答した1,034名に対して本調査を実施(売上別回答者比率 5,000億円以上:23.3%、1,000億円以上5,000億円未満:21.8%、100億円以上1,000億円未満:36.5%、100億円未満:18.4%)。

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執筆者

玉川 大輔

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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鈴木 一真

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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石浦 大毅

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

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川上 晶子

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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高野 泰

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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