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顧客体験を重視した購買プロセス設計思想の浸透や、IaaS(Insurance as a Service)を実現する技術とシステムの導入により、組込型保険(Embedded Insurance)は保険業界内外で顧客アプローチの1つとして普及しました。しかしながら、Embedded Insuranceの導入が比較的容易な事業領域で一巡すると、新たな課題に直面し次の一手に苦慮する保険会社も少なくないと思われます。
先に寄稿した「生命保険会社におけるEmbedded Insuranceの実現に向けた取り組みの方向性」では、生命保険業界の将来を見据えた場合の戦略の1つとしてのEmbedded Insuranceの意義や現状の課題、対応方針を解説しました。本稿ではそれらをベースとして、損害保険会社まで考察を広げてEmbedded Insuranceのイネーブラー(Enabler)を整理し、日本の保険会社として取り組むべき方向性を示します。
Embedded Insuranceは「組込型保険」と呼ばれることもあり、既に浸透しているものとしてはクレジットカードの付帯保険のように、非保険商品やサービスに上乗せや付帯されるものもその1つです。
近年では、さまざまな商品・サービスの購買がオンライン化したことに伴い、デジタル上の購買体験の中で保険加入手続きを意識することなく加入してもらうワンストップかつシームレスな仕組みもEmbedded Insuranceとして認知されました。分かりやすい事例としては、デジタル上での旅行予約サービスに埋め込まれたキャンセル保険が挙げられます。
また、決済プラットフォーム上のメニュー・提供価値の1つとして、熱中症やインフルエンザなど、手軽な補償/保障に簡易に申し込みができるものもEmbedded Insuranceの一パターンとして認識されています。
いずれのパターンにおいても非保険商品・サービスの購入者から見た時に、販売件数を拡大させているEmbedded Insuranceに共通する成功要諦は以下の3つが挙げられます。
こうした成功要諦は一見当たり前に思える一方、顧客のそもそもの購入目的は保険ではないため、どれか1つが欠けても保険加入につながらなくなります。
先に挙げたEmbedded Insuranceの成功要諦を実現することは決して容易ではなく、マーケットを提供する事業者とのアライアンス、マーケットに求められる保険商品とマーケティング、そして購入者・事業者・保険会社をシームレスにつなぐオペレーションとシステム上の工夫が必要です。
上記を踏まえると、今後の保険会社が考えるべき取り組みの方向性は次のようになります。
取り組みの方向性は以下の3点です。
イネーブラーで紹介した要素を踏まえてアライアンス先の候補を選定した後に、その事業者が置かれる市場を踏まえた戦略策定が必要です。
例えば、大きな市場シェアを持つ強いプレーヤーが存在する場合、候補事業者が多くの競争相手と市場を取り合っており市場のパイが細分化されている場合、パイが細分化されていてもそれら事業者の多くが利用するプラットフォームを提供する事業者が存在する場合など、市場に応じた戦略を講じる必要があります。
アライアンス先の事業者が置かれる市場を踏まえた戦略を決定した後に、その事業者の持つ顧客接点(組込機会)とその顧客属性に係る分析と対応が必要です。分析では、アライアンス先の事業者が持つ顧客接点において、どこで・どの程度・どのような顧客接点を持てる可能性があるかを探ります。
また、アライアンス先の事業者の特性や形態に関わらず共通して重要なのが、アライアンスの目的や費用対効果の合意です。例えば、若年層へのアプローチや新規リスクの取り込みなどの保険会社の目的と、事業価値の向上や収益獲得という事業者の目的が同じ方向を向いていない場合、Embedded Insuranceからのベネフィットに認識のずれが生じ、結果としてシステム費用負担で合意に至らないリスクもあります。
イネーブラーで挙げた要素を基本とし、非保険商品・サービスの購入者にとって必要性を想起しやすい保険商品の提案が必要です。
損害保険においては、非保険商品・サービスの購入時点が保険提案タイミングとなります。シンプルな補償や廉価な保険料により加入時の障壁は低くなりました。しかしながら、シンプルな補償が故に他の販売チャネルの保険との比較が容易な側面もあります。そのため比較する動機を薄め、直感的な加入を後押しするような魅力的な保険の提供が重要となります。例えば、保険金支払い基準が分かりやすいパラメトリクス保険は有効な手段の1つです。
また、ロングテールニーズや新しいリスクを取り込もうとすると保険商品設計のためのデータが十分に揃わないといった課題に直面することもあり、自社データのみならず、アンケートなどの新規データ取得や外部機関が保有するデータの活用も視野に入れた商品設計が求められます。
生命保険においては、損害保険のように非保険商品・サービスの購入時点よりは、ライフタイムイベントに紐づいた保険提案が望ましいことは変わりありません。従来よりライフタイムイベント発生時での提案機会の創出は検討されつくされているため、ライフタイムイベントを見越した(ライフタイムイベント発生時点ではなく発生前での)保険提案の機会を模索するとともに、ライフタイムイベント自体を細分化することで提案機会を多く持つことを意識していくべきです。
前回レポートで解説した通り、パーソナライズ化とコンテクスト化は新たな顧客接点を持つにあたって考慮すべきキーワードです。その上で、保険ニーズが顕在化する前のライフタイムイベントを見越したターゲット顧客への提案のために、自社やアライアンス先の事業者そして必要に応じて外部機関が持つターゲット顧客データの利活用や商品組成に必要なデータの獲得が必須となります。
例えば海外市場では、結婚や住宅購入などのライフタイムイベントで医務査定なしに保険金増額可能な保険や、銀行アプリでのアフリカへの送金に自動付帯される死亡保障や入院保障といった事例があります。これらの事例は購入者の経済事情を踏まえたペインポイントを解消し、非保険商品・サービスの購入を後押ししていると解釈できます。これも顧客属性とライフタイムイベントを考慮した保険提案と言えます。
商品設計と整合性をとって検討するオペレーションとシステムですが、Fintechベンチャーの提供するパッケージにより、購入者から事業者そして保険会社間でシームレスなUI/UXを兼ね備えたプロセス統合も可能となりました。
導入事例が増えるにつれ、オペレーションとシステムにおける要素も変化してきました。それはアライアンス先の世界観(UI/UX)に徹底的に準拠することと、柔軟で拡張性があるシステムと機動的な開発体制、そしてシームレスなデータ連携がポイントになります。いずれもEmbedded Insuranceの成功要諦で挙げた保険加入を意識させない、心理的ハードルを下げることを目的としています。
アライアンス先の世界観(UI/UX)への徹底的な準拠
柔軟で拡張性があるシステムと機動的な開発体制
シームレスなデータ連携
前章で述べた保険会社が目指すべき取り組みの方向性に鑑みると、以下のようなケイパビリティが求められます。
まずアライアンスに取り組む場合、アライアンス先候補の市場と事業者の分析と打ち手の検討が必要であり、市場調査や競合分析などの情報収集結果からのビジネスモデルの検討は経営企画部や事業開発部門が備えておくべきケイパビリティです。
また、アライアンスの目的や費用負担の認識合わせはアライアンス決定前の協議段階から実施したい事項であり、アライアンス候補先との交渉に臨む前に、予め譲れないポイント(どの程度アライアンス先の世界観に準拠させるかというエンベデッド度合やそれに係るコスト分担など)を明確にしておくことも重要です。
以前よりEmbedded Insuranceへの取り組みによって一定の成果が出ており、スケールアップが次の取り組み課題の場合があります。例えば、Embedded Insurance取り組みの当初の目的がグループ会社へのトスアップを企図している場合、トスアップ先で「最終的に売りたい保険(獲得したいLife Time Value (LTV))」につながっているかを検証し、その検証結果をEmbedded Insuranceの取り組みに関与するグループ会社の部門と協議することも必要となります。
次に、商品・マーケティングに取り組む場合、パラメトリクス保険のような購入者にとっての体験や利便性訴求する保険の開発や、限られたデータでの商品設計が商品部門やマーケティング部門には求められます。これは今後のEmbedded Insuranceでは、従来の大きな市場に置ける顕在化した保険ニーズに加えて、ロングテールニーズや新しいリスクへの潜在的なニーズに対する商品設計を行うことがあるため、自社やアライアンス先の事業者内にはデータが不足もしくは存在しないことがあります。したがって、データは限られているという前提で保険料設定や査定等の商品設計と認可取得を進めていく必要があります。
また、保険ニーズが顕在化する前のライフタイムイベントを見越したターゲット顧客への提案やUI/UXや顧客接点頻度の向上のため、顧客属性や購買行動などのデータ利活用もアライアンス先の事業者に任せるのではなく、保険会社が持つべきケイパビリティであると言えます。
最後に、オペレーション・システムに取り組む場合、Embedded Insuranceは発展途上であるためビジネスモデル・技術・規制も流動的であり、またアライアンス先にはスタートアップのようなスピードが重要な事業者も含まれるので、機動的にビジネスと組織を再構築する能力や文化が重要です。
また、Embedded Insuranceの成功要諦を支えるイネーブラーの1つはITシステムです。アライアンス先の市場や事業者の規模や要求に合わせて仕様変更ができるように、自社で高い技術力を備えておくこととシステムの拡張性や、アライアンス先事業者や外部機関とのデータ連携の基盤と技術は重要です。自社でプラットフォームを開発し提供している事例もありますが、大きな投資となるため自社におけるEmbedded Insuranceの目的とITシステム構成を踏まえた費用対効果の判断が必要です。
これらを実現するには、限りあるリソースの全社的な活用が想定されるため、これまでコアプロセスとしてきた保険金支払いなどの業務の見直しも合わせて実施する業務変革力も重要ではないでしょうか。
以上に述べたことは、IT部門だけで成し得ることではありません。契約管理部門や保険金部門はもちろんのこと、アライアンス先の変化に対応するための社員の技術習得や「やりながら学ぶ」という文化醸成のために人事部門の関与も求められます。
本稿で示した取り組みの方向性は保険会社が直面する課題によって、全てのイネーブラーを検討する必要があるかもしれませんし、1つのイネーブラーに取り組むことで解決するかもしれません。近い将来、保険業界を取り巻く環境においては、デジタル化とデータ連携の進展により、どの購買チャネルでもEmbedded Insuranceは顧客にとって当たり前の購買体験となることでしょう。この機会を捉えるため、戦略やビジネスモデルを見直して計画を策定する良いタイミングではないでしょうか。
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