
SDV革命 次世代自動車のロードマップ2040
本書では、SDV(ソフトウェア定義車両、Software Defined Vehicle)とは何か、今後何をすべきかを検討いただく一助として「SDVレベル」を定義し、SDVに関するトピックや課題を10大アジェンダとして構造分解して、レベルごとに解説しています。(日経BP社/2025年4月)
世界的なエネルギー危機が始まって3年。エネルギーの経済的な安定供給を産業界が期待できる状況には依然として至っておらず、ましてクリーンエネルギーなど望むべくもありません。
ただし、まったくお手上げかと言えば、そうとも限りません。エネルギー需給の入り口に当たる需要であれば、私たちの手で変えることができるからです。実際、エネルギー需要の管理に体系的に取り組んでいる企業は、利益率向上、事業の安定化、温室効果ガス排出量の削減、さらには新たな収益源の創出が可能です。
ネットゼロ化への道のりは決して平坦ではないため、長期的な需要管理が不可欠です。理想と現実の大きな隔たりがあまりに多く、対応しきれない状況にあります。短期的に見ると、エネルギー需要の最適化は、企業のコスト削減や効率化につながります。今日の技術を活用すれば、世界的なエネルギー強度(一定のアウトプットの製造または維持に必要なエネルギー量)を低減し、10年後までに年2兆米ドルを節減できます。また、G20や国連などの機関が策定した省エネの合意目標を前倒しで実現することにもなります。実際、COP28では、気候変動の減速に欠かせない手段の1つとして、2030年までに省エネ改善率を2倍に引き上げることが明記されました。
需要管理の可能性に積極的に取り組む企業が、これまでの勢力図を塗り替える真の変革者である「パワーチェンジャー」として台頭しても不思議ではありません。こうしたパワーチェンジャーは、エネルギーを単に消費して市場価格の変動に振り回されるのではなく、経営者の視点で考え、需給の入り口側となる需要をコントロールする力があります。具体的には、世界経済フォーラムがPwCと共同で新たに実施した調査で解説されているように、主に3つの手法があります。
輸送業か小売業か、あるいは、スマートフォン製造会社かモバイルネットワーク事業者かを問わず、どのような企業であっても効率性や柔軟性を追求する施策により、エネルギー強度低減の機会を捉えることができます。それだけではありません。オンサイト(企業の敷地内)発電・蓄電設備で自前の電力を生み出し、電力市場での取引や自社事業の電化に役立てることも可能です。これこそが究極のゴールにたどり着く道のりなのです。つまりは大規模で、しかも成長を続けるエネルギー需要のエコシステムに豊富に存在する新たな価値です。パワーチェンジャーたる企業が結集すべきときが来たのです。この新たな勢力に加わる準備はできていますか?
企業がエネルギー転換による価値を追求する場合、多くの選択肢があります。そこで、ハードウェア小売チェーンを例にした導入イメージを基に、どのような利益が期待できるのか調査しました。
各取り組み区分をクリックすると詳細が表示されます。
施策例
期待できる利益(イメージ)
エネルギー需要管理アプローチの1つ目は、非常にシンプルです。リソース投入を抑えて、多くの成果を上げることです。PwCの第27回世界CEO意識調査によると、CEOのおよそ3分の2がエネルギー利用の効率化に取り組んでおり、それが当然と回答しています。企業がエネルギーの節約に努めることで、コストと排出量が削減される一方、価格急騰に対するレジリエンス強化にもつながります。既存の冷暖房空調(HVAC)システムの制御にソフトウェアを利用するなど、社内の日常の業務活動に変更を加えると、エネルギー強度を約10%低減できます。こうした取り組みから投資効果が見られるまでの期間は短く、上記のHVACシステムの場合、1年未満で投資効果が表れます。また、多くの場合、このコストは運営管理費として処理できます。
産業用機械メーカーやショッピングセンターなど、特にエネルギー集約型の建物・設備を持つ企業、エネルギー使用に柔軟に対応できる企業にとって、次のステップに設定しやすいのが、エネルギー利用効率化への設備投資です。ある企業の事例では、建物にスマート製品やLED照明を導入し、HVACシステムの改良によるレトロフィット工事を行った結果、エネルギー強度を約30%低減させ、15年未満で採算が取れています。
これまで以上に大きな利益を得る手段としては、再生可能エネルギーのオンサイト発電・蓄電設備の設置が挙げられます。具体的には、太陽電池アレイや風力タービン、蓄電池などが該当します。系統電源への依存を軽減することにより、託送料金(ネットワーク料金)を節減できます(多くの企業で、電気料金の最大40%を節減)。また、料金高騰や停電の回避にもつながります。さらに、国の法制度によっては、自家発電を行う企業を対象に、環境税を最小限に抑える優遇策があります。
太陽光や風力に恵まれ、自前の設備を設置するスペースが十分にある企業ほど、こうした利益を確保しやすくなります。しかし、たとえオンサイト発電に実現性が見込めない場合でも、他に多くの機会があります。
仕入れ先企業と協力し、調達対象の物品に織り込まれるエネルギーコストを低減する方法もその1つです。例えば、イケアでは、一部の仕入れ先企業が再生可能エネルギーのオンサイト発電設備を設置する際、資金融資の形で支援しています。
企業がエネルギー消費・生成の管理権限を確立するにつれて、電力市場でさらに積極的で収益力の高い役割を担えるようになります。価格が下落したときに系統電力を購入し、価格が上昇したときに電力を販売することにより、コスト削減と収益づくりを両立できます。オンサイトのエネルギー貯蔵施設を持つ企業は、需要ピーク時に蓄電池設備から電力を小売電気事業者に融通して料金を徴収できることから、「系統安定化」の協定締結による利益が期待できます。また、カーボンクレジットなどのエネルギー関連商品を開発して販売することも可能です。
エネルギー市場で積極的な役割を担うには、価格変動に応じて、自社が保有する施設・設備全体のエネルギー消費を調整できるツールなど、追加の機能が必要です。こうした事情から、管理可能な大容量のエネルギー資産を持ち、エネルギー利用を変動させる柔軟性のある企業にとっては、現実味がある施策と言えます。具体的には、小売チェーンや商用オフィスビル、データセンターなどが挙げられます。このような条件に合わない企業の場合、条件に適合する他社と提携して需要を一括してから市場で取引するケースもあり得ます。
エネルギー需要を管理する補完的な手段としては、化石燃料を動力源とする資産を電化資産で置き換える方法があります。電化は経済的な利益につながります。電化された機器は、従来型の機器よりも効率化されていることが多いからです。例えば、電気ヒートポンプは、天然ガスボイラーの3~5倍も効率が高く、完全電気自動車はガソリン車の4.4倍も効率が高くなります。機器の電化、とりわけ再生可能エネルギーを電力とする電化は、直接的な温室効果ガス排出量を抑制する効果もあります。この取り組みは、需要面での他の3つの取り組みを促進する役割も果たします。つまり、事業の電化が進めば進むほど、自家発電を推進する価値も高まり、エネルギー市場での取引が容易になるのです。
管理するには、測定値があってこそとなります。まず、事業全体、バリューチェーン全体を対象に、全社的なエネルギー利用状況の全体像を把握することから始めます。どのようなエネルギーが、いつ、どのような目的で使われているのかが分かれば、消費量の削減策や効率化策の特定に役立ちます。そのようにして節減できた分は、そのまま業績に反映されます。単一のポートフォリオとしてエネルギー需要を捉えると、次のステップが見えてきます。それは、変化するエネルギーシステム内で、自社のポジショニングを見直すことです。
エネルギーシステムは、エネルギーの生成と利用という2つの基本的な要素で成り立っていますが、かつて企業は、そのうちの一方だけに偏っていました。今は両方の要素が一体化しようとしています。工場や店舗、データセンターなど、エネルギーを大量消費する施設であれば、オンサイト太陽光発電設備を設置し、電力を蓄電し、系統に販売することが可能です。このようなエネルギーの生産者と消費者を兼ねる「プロシューマー」(発電需要家)は、技術を駆使して需要を調整しながら、エネルギーの購入と販売のスケジュールを策定し、価格変動を上手く利用できます。こうした方法でエネルギー需要を積極的に管理すると、消費量削減によるコスト節減だけでなく、収益創出にもつながります。企業が他の企業や公共部門と手を組み、需要をプールして協調的に管理すれば、利益創出の可能性がさらに高まります。
自社のエネルギー需要を大きく変えるためには、単発の取り組みだけでなく、継続的な取り組みが必要です。そこで、ターゲットを設定し、エネルギー強度を徐々に低減させながら、新たな価値を創出する計画づくりに取り組むべきです。この計画を成し遂げるには、日常的なエネルギープログラムの推進、実績のモニタリング、さらなる改善点の見極めに当たる専任チームの設置が有効です。また、銀行だけでなく、電力会社などのパートナーも含めて資金調達先を確保し、一定のコスト削減と引き換えに先行投資に協力してもらうことも重要です。
※本コンテンツは、Corporate “power changers”を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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