人類にとって最大の脅威といわれる地球温暖化への対抗策として、二酸化炭素など温室効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロにしようと、世界各国が規制化やさまざまな取り組みを始めています。また、通信技術の進展により、以前の第4世代と比べて最大100倍の通信速度を持つ第5世代移動通信規格(5G)の普及が2020年から本格化しました。
こういった大きな環境変化は産業界のあらゆる分野に及びますが、特にその中でも顕著な動きが出ている産業の1つが自動車です。自動車・モビリティ産業では「CASE」(Connected, Autonomous, Shared, Electric)と呼ばれる環境変化のキーワードへの対策が急務となっており、完成車メーカー各社は挑戦的な電動化戦略などを打ち出しています。
CASEの中核を担うのが自動運転や電動車ですが、その本命とされる電気自動車では内燃機関系の部品が減少し、現在約3万点ある部品のうち、1万点程度が不要になるといわれています。当面はハイブリッド車も増加し、エンジンの需要は急減しないものの、2030年あたりから漸減していくといった予測が立てられています。
この影響は当然、完成車メーカーだけでなく部品メーカーにも大きく波及するでしょう。内燃機関系の部品を事業の主軸にしているメーカーは、既存事業が先細っていく前に新規事業を立ち上げ、早急に次の事業の柱を構築しなければなりません。
そのような中、部品メーカーの将来の成功のカギを握るのは「各社のエンジニアリングチェーン(未来構想~事業・商品企画~研究・開発・設計・生産技術)」領域といえます。
部品メーカー各社には、これまで蓄積してきた強い技術があります。この技術をうまく活用しながら新たな事業を企画・開発し、他社との連合により次世代技術を開発・獲得。部品の大幅なコストダウンを実現する技術の開発、「つながるクルマ」で新たな課題となる製品セキュリティ対策の構築と実践、垂直統合から水平分業にシフトするビジネススキームに合った技術のオープン&クローズ戦略の立案・実行を行うなど、部品メーカーに訪れている大変革期を乗り切るにはエンジニアリングチェーン領域の改革が必須です。
エンジニアリングチェーンの役割は大きく2つあります。「既存事業における商品(製品・サービス)開発のQCD水準高度化」と「自社の強みとする技術を活用した新規事業の企画・開発」です。
既存事業領域においては、商品開発力を持続的に改善しながら価値の最大化を図ることが求められます。また、新規事業領域においては、新たな企業成長の柱を探し、生み出すことがエンジニアリングチェーンに求められます。新規事業開発に関する実態調査を行うと、8割近くの部品メーカーが自社の技術力をベースとして新規事業開発を行っているという結果が出ています。
このように、部品メーカーの新規事業開発にはこれまで蓄積してきた技術を司るエンジニアリングチェーンが主体的に関わり、次世代の事業の種を生み出し、育てていかなければなりません。
そこで本稿では、部品メーカーの新規事業成功に向けて取り組むべき5つの視点を示します。