Healthcare Trends 2030

2030年におけるZ世代のヘルスケア動向と4つの未来シナリオ —Future Experience Trends—

  
  • 2023-06-16

Healthcare Trends 2030
2030年におけるZ世代のヘルスケア動向と4つの未来シナリオ
Future Experience Trends

昨今、今後の消費を担う存在として「Z世代」に注目が集まっています。彼・彼女らはヘルスケアに対してどのような価値観・ニーズを持っているのか。また、さまざまな取り組みが同時並行的に進んでおり、不確定要素を含むヘルスケアの領域の中で、各業界はZ世代へ向けて、どのような商品・サービスを提供していくべきなのか。

PwCでは上記の問いを検討するために、Z世代の方々とのデプスインタビューを通して、その価値観を深く掘り下げ、Z世代を4つのアーキタイプに分類しました。また、ヘルスケア業界におけるメガトレンドを踏まえた上で、未来のヘルスケアを左右する要素を「ヘルスケアデータの利活用度合い」と「健康責任の主体」と捉え、要素の分岐に応じた4つの将来シナリオを策定しました。本稿では調査・検討から得られたZ世代アーキタイプおよび将来的に想定され得るヘルスケアシナリオを共有するとともに、各業界が各シナリオにおいてZ世代に対して何を提供すべきかについてまとめています。

PDFに含まれる内容(全72ページ)

はじめに
2030年におけるZ世代のヘルスケアを捉える重要性
ヘルスケアにおけるZ世代のアーキタイプ
未来のヘルスケアと2030年に起こり得る4つのヘルスケアシナリオ
4つのシナリオにおける7つの業界の見立て
PwCにおけるサービス領域
おわりに

1. ヘルスケアにおけるZ世代のアーキタイプ

2030年におけるZ世代のヘルスケアを考察するためには、Z世代の価値観、行動を深く理解する必要があります。そこで私たちは、2030年に30代となり消費の中心を担うZ世代を対象としたヘルスケアに関する定性調査を実施し、Z世代に共通の価値観と、4つのアーキタイプである、Chaser(探求者)、Explorer(冒険家)、Believer(自己信奉者)、Economiser(倹約家)を特定しました。

アーキタイプを定義するためには、定性調査を通じて得られたインサイトから導き出される価値観や行動の特徴の軸を特定する必要があります。

ヘルスケアにおけるZ世代の価値観や行動の特徴を探ったところ、まず、行動パターンが2類型に分けられることが分かりました。1つは、トライアンドエラーを繰り返しながらさまざまなヘルスケアに取り組むタイプ、もう1つは、自分自身にとって適切なヘルスケアを思慮分別しながら選択し行動するタイプです。

そして、対象者は価値観の違いによりさらに2分類されることが明らかになりました。ヘルスケアの取り組みが人生において無くてはならないと考えているか、課題解決やニーズ充足のための1つの手段と捉えているかという違いです。

このように、今回の調査を通じて、価値観や行動の特徴を捉えると、試行錯誤しながら消費活動を行うか、思慮分別して行うかの軸と、生活におけるヘルスケアの重要度が高いか、低いかの軸で、対象者は4つのパターンに分類されることが分かりました。

それぞれのアーキタイプは、ヘルスケアは自己実現のために必要で、人生を豊かにするための手段と捉えているChaser(探求者)、ヘルスケア関連の新しい経験を通じて、今を楽しみたいと考えているExplorer(冒険家)、将来の健康のために、既に身につけているヘルスケアの習慣を維持したいと考えているBeliever(自己信奉者)、心身にマイナスな影響を与えているヘルスケアの課題があると感じ、コストパフォーマンスの良い手段を講じることでマイナスの影響を無くしたいと考えているEconomiser(倹約家)からなります。

2. Z世代のアーキタイプの概要

図 ヘルスケアにおけるZ世代のアーキタイプ

The Chaser(探求者)

ヘルスケアは自己実現のために必要で、人生を豊かにするための手段と捉えている。

The Explorer(冒険家)

ヘルスケア関連の新しい経験を通じて、今を楽しみたいと考えている。

The Believer(自己信奉者)

将来の健康のために、既に身につけているヘルスケアの習慣を維持したいと考えている。

The Economiser(倹約家)

心身にマイナスな影響を与えているヘルスケアの課題があると感じ、コストパフォーマンスの良い手段でマイナスの影響を無くしたいと考えている。 

3. 未来のヘルスケアと2030年に起こり得る4つのヘルスケアシナリオ

2030年に起こり得るヘルスケアシナリオとして、「国民の健康寿命アップで国力の強化も目指す:インクルーシブヘルスシナリオ」、「所属組織とともに健康増進していく:コミュニティヘルスシナリオ」、「健康意識と経済力で健康“差”が広がる:ダイバーシティ&ヒエラルキーヘルスシナリオ」、「健康と家計の負担に適度に対処する:バランシングヘルスシナリオ」の4つがあります。それぞれのシナリオにおいて、先述した4つのアーキタイプがどのようにヘルスケアと向き合っているのか、またそれぞれのシナリオの社会状況(社会・技術・経済・政治・環境)はどうなっているのかを、本レポートで示しています。

4. 4つのヘルスケアシナリオの概要

図 未来のヘルスケアと2030年に起こり得る4つのヘルスケアシナリオ

インクルーシブヘルスシナリオ

国民の健康寿命アップで国力の強化も目指す

最も望ましいシナリオとしての"インクルーシブヘルス"。個人と社会の双方で一人一人が健康であることが意識され、意識されるだけでなくエコシステムとして健康が増進されているのが、このシナリオです。これからの少子高齢化時代をポジティブに捉えていくためにも、データの利活用が進み、国が施策として、これを後押しする本シナリオが最も望ましい未来なのではないか、と私たちは考えています。

コミュニティヘルスシナリオ

所属組織とともに健康増進していく

産官のコラボレーティブな取り組みが、国民のマインドセットを変えるカギになるか、自治体による住民向けの予防や早期発見、国の施策により職場の健康経営に対する意識が高まるだけでなく、市民や従業員が健康だと税制が優遇されるなど、コミュニティによる働きかけによって実質的に“一人一人が健康になる”仕組みがつくられ、実行されます。

ダイバーシティ&ヒエラルキーヘルスシナリオ

健康意識と経済力で健康“差”が広がる

個人や企業のエゴイズムがヘルスケアのあり方に多様性をもたらします。このシナリオでは、全ての国民が等しく今より質の高いヘルスケアを享受できるとは限りません。健康に投資する層、健康リテラシーが高い層にその恩恵が集中します。例えば、「健康寿命を伸ばしたい」「結婚相手の将来の疾患リスクを確認したい」「自分の健康データを売買しそれで利益を得たい」等、さまざまな欲望が現れやすいシナリオとも言えます。

バランシングヘルスシナリオ

健康と家計の負担に適度に対処する

このまま進めば、未来はこのシナリオに辿り着きます。人生100年時代と言われる中、制度・財政に対する懸念から100歳まで生きることに不安を感じる、現在の延長戦上に近いシナリオです。医療データの連携やヘルスケアデータの活用が進まず、国民一人一人が健康増進に取り組めるエコシステムは未整備で、健康寿命の延伸は個人の自己責任に委ねられます。

5. 4つのシナリオにおける7つの業界の見立て

今後起こり得るシナリオおよびZ世代のタイプが、業界に対してどのような影響を及ぼすかは業界によって異なることが想定されます。消費者に対してシナリオごとに求められる商品やサービスを開発・提供する業界が存在する一方で、それらの商品・サービスを支えるためのビジネスインフラを提供すべき業界も想定されます。ビジネスの現場において、シナリオごとに何が起きるのか、そして各業界は特にZ世代に対する競争優位の獲得に向けてどのような視点が求められるのか、についてまとめています。ここでは、レポートにまとめた以下7つの業界ごとの見立ての概要を紹介します。

1. 消費財業界におけるシナリオの影響

かつては医療に重きが置かれていたヘルスケアという概念は、既に医療にとどまらず、健康も含んだ概念として受け止められることが多く、その文脈の中でヘルスケア領域に関する消費財の役割・市場は、拡大していくことが見込まれます。消費財業界においては、シナリオごとに注力すべきサービスや組むべき相手が大きく変わっていくことが想定されます。例えばデータ利活用が国レベルで推し進められるインクルーシブヘルスシナリオにおいては、データを活用したレコメンドに向けたAI等の開発に注力すべきと考えられますし、職場等での健康管理が推進されるコミュニティヘルスシナリオにおいては、トータルサポートを提供するために企業間の連携が重要になります。シナリオを理解し、見極めた上で、足りない部分を早期に埋めていくことが重要な業界だと言えます。

2. 小売・卸業界におけるシナリオの影響

今後のシナリオにおいて小売・卸業界は、新たなサービス等を展開していくことが発展のカギとなると想定されます。例えば、企業等による健康管理の側面が強くなるコミュニティヘルスシナリオでは、特定の個人が自身に適したヘルスケア商品等を継続的に購入しているかどうかを測定するニーズが高まり、小売店から企業へ情報をフィードバックする取り組み等が求められる可能性が考えられます。また、同シナリオにおいては「トータルサポート」が1つのキーワードになります。さまざまな商品やサービスを理解し、特定の個人に対して最適な組み合わせを提示するなどの新たなサービスが業界内の競争優位性を高める打ち手となることが想定されます。各シナリオにおいて求められる取り組みは異なりますが、体制を構築するには時間を要するため、各シナリオを理解し、早期に備えることが重要です。

3. エネルギー・インフラ業界におけるシナリオの影響

特に国を挙げてデータを利活用するシナリオにおいては、日常生活の中で活動量や健康状態のデータを取得していく必要が出てくると想定されます。ほぼ全ての家庭に計器を設置しているエネルギー・インフラ業界のプレーヤーがデータ取得・統合の担い手となる可能性が考えられます。データを自社で使うことも想定され、収集したデータをもとに健康に関するレコメンドを発信する付加的なサービスについてもニーズが出てくる可能性があります。また、健康に対する意識が二分されるダイバーシティ&ヒエラルキーヘルスシナリオにおいては、特に健康意識の高い層に対して、データ取得と引き換えに「健康連動型料金体系」など新たな消費の形を提示できる可能性が高まります。

4. エンターテイメント&メディア業界におけるシナリオの影響

既にヘルスケア×エンターテイメントという事例が多く出現していますが、いずれのシナリオについてもそのニーズは高まることが想定されます。ただし、シナリオごとに成功のカギ=キーワードは異なることが想定されます。例えば、データ利活用が国レベルで推進されるインクルーシブヘルスシナリオにおいては、潤沢なデータを活用した「パーソナライズド」や「予防措置・予兆検知」がキーワードとなる一方で、企業が個人の健康管理を推進するコミュニティヘルスシナリオについては、「習慣化」がキーワードとなります。異なるキーワードに対応するために、各シナリオを理解し、どのようなポジショニングでサービス開発・情報発信をしていくかが重要なポイントとなります。

5. 金融・保険業界におけるシナリオの影響

金融・保険業界は、シナリオの分岐によってどのような社会となるかを理解することが重要な業界であると言えます。例えば、国を挙げてデータ利活用が進むインクルーシブヘルスシナリオにおいては、国民が主体的に健康を維持・強化するのが当たり前という社会となっており、これまで以上に病気になりにくいことが想定されます。そのため、保険業界においては健康であることが直接的なインセンティブとなるような商品ニーズが高まる可能性があります。また、金融業界についても健康であることが経済的信用として評価される可能性や、終末期が短期であることから短期間で個人資産の贈与や処分などを行うワンパッケージサービスが求められる可能性があります。これまでとは異なる評価軸によってサービスを設計する必要があるため、各シナリオの概要だけでなく、それによる社会変化の認知が不可欠と言えます。

6. 通信業界におけるシナリオの影響

通信業界のプレーヤーは、スマートフォン等を起点とする汎用性の高いヘルスケアデータの仲介者であり、かつ年齢や行動、閲覧履歴などを把握することのできる貴重なプレーヤーとして位置づけられる可能性が高いと考えられます。特にデータ利活用が国単位の大きい施策ではなく、個人間での管理等に委ねられるダイバーシティ&ヒエラルキーヘルスシナリオにおいては、データを大きく独占する業界となることが想定され、これまで以上にデータ提供が重要な収入源となってくる可能性があります。その他のシナリオにおいてもデータの中核的なプレーヤーと位置づけられるため、シナリオを理解し、企業・ユーザーに対してどのようなサービスを提供すべきかを見極めることが重要となります。

7. テクノロジー業界におけるシナリオの影響

テクノロジー業界はあらゆるビジネスの基盤としての役割を期待されますが、特に焦点が当たるテクノロジーはシナリオごとに異なることが想定されます。データ利活用が国レベルで進むインクルーシブヘルスシナリオにおいては、データを統合するプラットフォーム基盤はもちろん、日常のバイタル等を集約・測定するためのセンシングデバイスのニーズが高まると想定されます。また、ヘルスケアに対する取り組みに個人間の差が生まれるダイバーシティ&ヒエラルキーヘルスシナリオにおいては、ヘルスケアに対する取り組み意識が高い人を抽出する企業向けのAIや、低所得だがヘルスケアに関心が高い層に対するバーチャル空間の活用ニーズが高まることから、VRやそれと連動した感触センサーや負荷調整システムなどの需要が高まると想定されます。的確な技術投資をしていくためにも、各シナリオへの理解が不可欠と言えそうです。

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ヘルスケア参入支援(Healthcare entrants initiative)

ヘルスケア業界をとりまく課題の解決を目指し、PwCは「ヘルスケア参入支援」として専門知識や経験を持つ人材が業界の枠組みを超えて協働し、ヘルスケア業界への新規参入や事業拡大を検討している企業を支援しています。

主要メンバー

曽根 貢

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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荒井 叙哉

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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三山 功

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

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