
CxOプレイブック:サイバーセキュリティレジリエンスにおけるギャップの解消 「Global Digital Trust Insights 2025」調査結果より
AIやクラウド技術の進歩に伴いアタックサーフェスの拡大が続き、規制環境も常に変化しています。PwCが77カ国のCxOを対象に実施した本調査によると、サイバーセキュリティレジリエンスを構築するにあたり、企業には解消すべきギャップがあることが分かりました。
人工知能(AI)、コネクテッドデバイス、クラウド技術の進歩に伴い、アタックサーフェスの拡大が続いています。また、規制環境は常に変化しています。このような状況下、企業レベルでのサイバーセキュリティレジリエンスの構築が不可欠です。
これらの課題の存在については幅広く認識されているものの、依然として解消していない大きなギャップがあります。CxOは、自らの組織を保護するために、日常的な課題としてサイバーセキュリティに取り組むとともに、戦略的意思決定に際しては、常にこれを念頭に置いて、CxOの連携を求める必要があります。
PwCが世界77カ国のビジネスリーダーおよびセキュリティリーダー計4,042名を対象に実施した「Global Digital Trust Insights 2025」調査によると、サイバーセキュリティレジリエンスを構築するために、企業は大きなギャップを解消しなければならないことが明らかになりました。
以上からも、サイバーセキュリティレジリエンスの強化を図るために、CxOの連携強化と戦略的な投資が必要とされることは明らかです。このようなギャップを解消し、サイバーセキュリティを事業経営の根幹に据えることで、より安全な将来に向けた橋渡しができるのです。CISOは、テクノロジーに裏付けされた知見を共有するとともに、サイバーセキュリティ上の重点項目について、コスト、機会、リスクといったビジネス的観点から説明することによって、今回得られた結論の推進に向けて貢献することができます。
サイバーセキュリティを取り巻く環境が進化を続ける中、ますます不安定で予見し難くなる脅威を前に、組織が対策を講じるのは容易ではありません。クラウド、AI、コネクテッドデバイスへの依存が強まり、第三者頼みの案件が増えるにつれ、アタックサーフェスが拡大しています。こうした状況においてレジリエンスを構築するには、全社的で迅速な対応が求められます。組織の重点項目と準備態勢の構築との調整を図り、セキュリティの維持と事業の継続性を確保することが不可欠です。
組織にとっての最大の懸念事項は、準備が最も遅れている事項と言えます。サイバーセキュリティに関する最大の懸念事項として挙げられた上位4項目は、クラウド関連の脅威、ハック・アンド・リーク攻撃、第三者による漏洩、コネクテッドアイテムへの攻撃でした。これらの脅威は、セキュリティリーダーが最も対応が遅れていると認識しているものでもあります。このように、脅威の実態と組織の体制整備状況との間にギャップが見られることから、投資の強化と対応能力の充実が急務とされる実情がうかがわれます。
「サイバーセキュリティとレジリエンス強化の取り組みの手を休めてはいけません。犯罪者や国家のアクターは、IDおよびアクセス管理の弱点や、パッチを適用していないデバイス、不適切なセキュリティ設定など、保護されていない『縫い目』を見つけ出すスキルを高めています」
(上位3項目の構成比)
自社のビジネスを最も危うくする脅威について、他のCxOに明確に説明します。とりわけ、投資活動に軌道修正を要する場合に重要です。
生成AIの急速な進歩によって、幅広い産業で新しい機会が生み出されています。しかし、それと同時にサイバーセキュリティリスクも高まっています。生成AIなどの新技術の導入が進むにつれて、組織のCxOは、より複雑で予見が困難なさまざまな課題に直面しています。このような課題として、攻撃ベクトルや統合への障害に加え、生成AIがサイバーセキュリティにおいてディフェンスとオフェンスの双方の性質を有していることも挙げられます。
「サイバーセキュリティは、多分にデータサイエンスの問題と言えます。サイバーディフェンダーにとって、生成AIと機械学習によってデータに近づき、タイムリーで即座に利用でき、最も重要な知見を活用できるようにすることが喫緊の課題となりつつあります」
生成AIに起因するサイバーセキュリティリスクのアタックサーフェスの拡大は大半の組織が経験していますが、CxOは、生成AI技術をサイバーセキュリティディフェンスの目的でも利用しています。生成AIの活用事例としては、脅威の検知と対応、脅威インテリジェンス、マルウェアフィッシング検知がトップ3を占めています。
テクノロジー資産全般にわたる標準化を進め、AIの実装を推進します。各々のユーザーに個別のアクセス権を付与することにより、潜在的な攻撃ベクトルを特定します。
規制の枠組みで定められる要件は増加をたどっていますが、企業は速やかにこれに適合しなければなりません。デジタル・オペレーショナル・レジリエンス法(DORA)、サイバーレジリエンス法、欧州AI規制法(AI Act)、重要インフラに関するサイバーインシデント報告法(CIRCIA)、シンガポール・サイバーセキュリティ法をはじめ、新たな規制が次々と打ち出されています。こうした事実からも、組織における旧来の慣行を、高度化する要件に整合させることが急務とされている状況が分かります。規制に基づく監視と新たな脅威の双方に応えることができる、レジリエントで規制適合的なサイバーセキュリティ体制を整備するには、このような課題への取り組みが不可欠です。
サイバーセキュリティに関する規制は組織に有益であると確信している場合でも、自社がこのような規制をどの程度まで遵守できるかという点において、CEOとCISO/CSOとの間には、顕著な自信の相違が存在します。
このような相違は、AI、レジリエンス、重要インフラの要件の遵守に関する認識で特に目立っています。サイバーセキュリティの最前線に立つCISOは、自らの組織がこのような規制の要件を満たせるかに関して、CEOよりも悲観的な見方をしています。
遵守できると強く確信するCEOとCISO/CSOの構成比(%)
他の経営幹部に対して、各産業や担当地域のニーズに直接的な影響を及ぼす規制の動向に関する報告を頻繁に行います。また、テクノロジーの変化や規制改正の管理プロセスに係る業務を遂行します。
サイバーセキュリティの脅威は急速に範囲を拡大し、ますます巧妙になっています。こうした中で、サイバーセキュリティリスク定量化は、組織にとって看過できない必須のツールになっています。そのメリットは広く認識されていますが、データの質の問題やアウトプットの信頼性など、いくつかの課題も残されていることから、幅広く採用されるには至っていません。
サイバーセキュリティリスクに関する重点投資分野の決定に当たりリスクの計測が不可欠とする回答が全体の88%、最もリスクの高い分野にリソースを配分するとの回答が全体の87%に達するなど、CxOの見解は大筋で一致しています。しかし、かなりの程度までこれらを実行(例:自動化および広範囲にわたるレポート作成による大規模なサイバーセキュリティリスク定量化)していると回答した組織は15%に過ぎません。
具体的なアウトプットを念頭に置きながら、手の届くところからスタートするよう心がけます。あなたの組織内で入手可能な情報を有効活用します(例:コントロールの有効性、成熟度、インシデントや損害のデータ)。新しいツールがリスクの定量化に役立つことがありますが、これは必要条件ではありません。自らの計画を定義して、そのプランの実現に役立つ技術を探求します。
事業において看過し得ない重点項目として、サイバーセキュリティの位置づけは上昇し続けています。また、組織では、サイバーセキュリティは差別化の秘訣であり、企業の評判とトラストを向上させる手段としての可能性を有していると考えられ始めています。これに備えて、特にデータの保護とデータのトラストを中心に、多くの組織がサイバーセキュリティ予算を増額しています。このような分野に戦略的な投資を行うことで、企業はレジリエンスを強化するだけではなく、顧客とのポジティブな関係性も築いているのです。
各組織では、今後12カ月にわたり、他のサイバーセキュリティ投資に優先して、データの保護・トラストとクラウドセキュリティに注力するとしています。ステークホルダーの信頼とブランドインテグリティを維持するためには、センシティブ情報の保護が不可欠であると認識されています。
ビジネスリーダーやセキュリティリーダーは、その職務に応じて具体的に取り組むべき項目の優先順位を整理しています。
サイバーセキュリティは、より多くの組織で、競争上優位に立つための差別化の重要な手段であると見なされるようになっています。例えば、影響をもたらす要素として、CxOの57%が顧客の信頼を、また49%がブランドインテグリティとブランドロイヤリティを挙げています。サイバーセキュリティの脅威がエスカレートする中で、強力なサイバーセキュリティ体制を構築することは、単なる防護の強化にとどまるものではありません。それは、顧客や利害関係者から頼りにされる評判を築くことでもあるのです。
(「かなりの程度」を選択した回答者の構成比%)
「多方向から脅威が押し寄せ、物理的環境とデジタル環境の双方が脅かされるなど、組織を取り巻く脅威の状況は、ますます予見し難くなっています。物理的なセキュリティとサイバーセキュリティの強化を目指して、統合対応と復旧のためのリソースに投資しています。脅威アクターは攻撃対象を選びません。事業の継続性とレジリエンス計画のあらゆるレベルで、攻撃への備えができていなければなりません」
主な成果のビジネス価値(例:ミッションクリティカルなデータの復旧に要する時間の短縮、システムのパッチング)に基づいて、データ保護とクラウドセキュリティにおける重点投資項目に係るビジネスケースを、分かりやすくCFOに説明します。
レジリエンスへの取り組みが停滞していることから、戦略的意思決定へのCISOの参画が進捗しないことに至るまで、戦略的な調整を要する分野が残されていることは明らかです。レベルアップを図るには、サイバーセキュリティの最先端を走る組織において実行されている手法を取り入れるべきです。さらに、既知の脅威に対処するにとどまらず、アジャイルでセキュア・バイ・デザインの手法をビジネスに取り入れることにより、トラストを構築し、永続的なレジリエンスを目指すことが重要です。
「組織に内在する脅威について説明し、このような脅威を組織の脆弱性と結びつけることは、CISOの責務です。これは、既に企業として対処する備えができている脅威とそれ以外のものについて、関係者を啓発することを意味します。教育推進型のアプローチをとることにより、組織全体にわたって連携が強まる傾向があります」
サイバーセキュリティリスクに対する懸念は高っているものの、自社の主要な活動全体をカバーするサイバーセキュリティレジリエンスを完全に実行することは、多くの企業にとって依然として容易ではありません。関係者、プロセス、テクノロジーの全般をカバーする12項目のレジリエンス活動について実施した調査において、自らの組織ではこのような活動のいずれか1つを完全に実行していると回答したCxOは全体の42%(またはそれ以下)にとどまりました。さらに懸念されることは、この12項目のレジリエンス活動が組織全体にわたって完全に実行されているという回答がわずか2%しかないことです。このような状況から、顕著な脆弱性が手つかずのまま残されていることがうかがえます。すなわち、企業全体をカバーするレジリエンスがなければ、活動の全てを危険に陥れかねない脅威の増大という、憂慮すべき事態に晒され続けるということです。
以下に例示するのは、組織横断的に検討すれば効果が高いと期待される主な分野です。
組織の重要な取り組みにCISOを十分に参画させていないことにより、多くの組織が、またとない機会を逃しています。サイバーセキュリティ投資に関する戦略的な計画の策定、取締役会への報告、テクノロジーの導入管理にCISOが概ね参画していると回答したCxOは、全体の半数を下回ります。このような齟齬が存在すると、組織における戦略の整合性が損なわれ、セキュリティ体制の弱体化につながります。
他のCxO向けのビジネスケースを作成し、サイバーセキュリティリスクの緩和を目的とする戦略、計画および監督、ならびにレジリエンス戦略にCISOが参画することが不可欠である理由を説明します。
「Global Digital Trust Insights 2025」は、2024年5月から7月にかけて、ビジネスリーダーおよびセキュリティリーダー4,042名を対象に実施した調査です。
回答者の4分の1は売上高50億米ドル以上の大企業のCxOです。回答企業の業種は、製造・サービス業(21%)、テクノロジー・メディア・通信(20%)、金融サービス(19%)、小売・消費財(17%)、エネルギー・ユーティリティ・資源(11%)、ヘルスケア(7%)、政府・公共サービス(4%)と多岐にわたっています。
回答者は77カ国に拠点を置いており、その地域別分布は、西欧(30%)、北米(25%)、アジア太平洋(18%)、中南米(12%)、中・東欧(6%)、アフリカ(5%)、中東(3%)となっています。
「Global Digital Trust Insights」調査は、以前は「グローバル情報セキュリティ調査(GSISS)」として知られていたものです。今年で27年目を迎える本調査は、サイバーセキュリティの動向に関する年次調査として最も長い歴史を有しています。また、サイバーセキュリティ業界で最大規模の調査でもあり、セキュリティリーダーだけでなく、シニアビジネスリーダーの参画を得ている調査としても他に類を見ないものです。
本調査は、PwCで世界の市場調査とインサイト提供を担当するCentre of ExcellenceであるPwCリサーチが実施しました。
本コンテンツは、Bridging the gaps to cyber resilience: The C-suite playbookを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
Global Digital Trust Insightsの調査結果から、セキュリティ強化を進める上で日本企業が抱える課題と課題解決のためのアプローチ、その有効性について解説したレポートは、3月下旬に公開予定です。
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