変革に向けて社員の意識・モチベーションを高める時

グローバル従業員意識/職場環境調査「希望と不安」2023 日本・グローバル全体調査結果比較

グローバル従業員意識/職場環境調査「希望と不安」2023年版
  • 2023-07-27

どの国のビジネスリーダーも、変革を重要視しています。皆さんの会社の従業員は、変革を進める準備が整っているでしょうか、そしてチームを率いるマネージャーや企業文化、職場の雰囲気がそれを阻害するものとはなっていないでしょうか。

労働者には「変わらなければ」との思いはあるようです。PwCが実施した最新の「グローバル従業員意識/職場環境調査」によれば、グローバル全体の3分の1の労働者は、「今のままでは10年後に会社が成り立たなくなっている」と認識しており、「仕事に求められるスキルが変わる」と思っている比率も同様です。

今、話題のAIに関してもポジティブな認識が多く、仕事に取り入れることにも前向きです。しかし生活に苦労する労働者は増え、「今後1年以内に仕事を辞める予定がある」と答えた人も26%に上り、昨年の19%から増加しています。一方で多くの職場では議論や反対意見を受け入れず、小さな失敗さえも許容しないことも分かりました。

日本に関しても大きなトレンドは同じですが、仕事やスキルに対する意識、企業文化・職場風土についての認識には大きな違いがあります。仕事に満足している労働者の比率は全体56%に対し日本29%で、調査対象国に含まれるOECD24カ国中23位。「自分の仕事に専門的トレーニングが必要」と思っている比率は53%に対し31%、グローバル全体で増加しているにもかかわらず、日本では36%から5ポイントも減少しています。その他、「問題が発生した場合は積極的に解決する」などの職場における行動、「仕事上での私の行動は会社の価値観、方向性と一致している」「上司は私や同僚を公平・公正に扱う」などの会社や職場に対する認識の領域で2倍、もしくは3倍近い差がついている項目が多くあります。多くの日本企業幹部にとっては理解しづらく、受け入れ難い現実かもしれませんが、この種の調査で言われる、国民性による回答の偏りで片づけられるものではありません。

本調査は2019年から続くシリーズの第4弾で、46の国と地域の約54,000人の労働者から回答を得たもので、日本においても2,500人から回答を得ています。CEOをはじめとする経営幹部が直面する中心的な課題を浮き彫りにしています。

グローバル全体の課題は日本にもあてはまるものでした。そして上記のとおり、その一部は日本にとって特に深刻なものとなっています。本レポートはグローバルの調査レポートをベースに日本に焦点をあてた調査結果と、それに対する考察を追加したものとなっています。

組織を改革しなくてはいけません。しかし、全ての従業員のサポートとエネルギーがなければ、その取り組みは失敗に終わります。スキルギャップが拡大し、これまで以上に多くの従業員が日々の生活に苦しんでいる現在の状況では、従業員や企業文化についてこれまでと同じことを続けていてはいけないのです。浮き彫りになった課題を念頭に私たちは、今年の調査結果を4つのアクションに整理しました。CEOをはじめとする経営幹部が、従業員が何を望んでいるかをより良く理解し、何が従業員を妨げているかを学び、組織をより改革に適したものにするために、優先的に取り組むべきアクションです。

今年の主な調査結果

  • 変革か低迷か:労働者の3分の1が、「今のままでは10年後に会社が経済的に成り立たなくなる」と答えています。これは、PwCの第26回年次世界CEO調査で、2023年初めにこのように回答したCEOの39%に匹敵します。特に、Z世代の従業員は最も悲観的で、49%が「変化しなければ自分の会社はあと10年生き残れない」と答えています。日本だけで見ても4分の1が「生き残れないと答えており、世代が若いほうが悲観的なのは同じ傾向です。
  • 従業員は不安になっている:景気悪化の不安や一部の地域での失業率の上昇にもかかわらず、全回答者の26%が「今後1年以内に転職する可能性がある」と答えています(2022年の19%から上昇)。この数字は若い従業員ほど高く、Z世代の35%、ミレニアル世代の31%が転職を計画しています。日本だけで見ても20%が「転職する可能性あり」と回答しており(2022年の14%から上昇)、若い世代ほどこの傾向が強い点も同様です。
  • 経済的な困難が増加:世界中の従業員14%が毎月の生活費の支払いに苦労しており、42%が「ほとんど何も残らない状態で出費を賄っている」と回答しています(2022年の37%から上昇)。5人に1人が、「本業の他に仕事をしている」と回答しています。日本でも同様な傾向で、16%が「支払いに苦労」、39%が「何も残らない」と答えています(2022年は36%)、ただし本業の他に仕事をしている比率は7%で、14人に1人の割合にとどまっています。
  • スキルの不公平感が増加:53%の従業員が、「自分の仕事には専門的なトレーニングが必要だ」と回答し、昨年の49%から増加しました。これに対し、日本では昨年の36%から31%に5ポイント減少し、グローバル全体との差が広がっています。専門的なトレーニングを受けていない労働者は、専門的な労働者よりも経済的な困難に直面する可能性が高く、自分のスキルがどのように変化するかについて明確な意識を持っていない可能性があり、これらは全て所得不平等を助長する恐れがあります。この点は日本においても同じ傾向を見ることができます。
  • 労働者はAIを恐れていない:AIによって雇用が失われるという見通しにもかかわらず、回答者はAIがもたらすプラスの影響を、マイナスの影響よりも多く挙げています。「AIは仕事の生産性や効率を上げるのに役立つ」という意見が最も多く、31%の回答者が表明しています。日本も同じく生産性、効率に役立つという意見が、「AIが私の仕事に影響を与えるとは思わない」というニュートラルな意見と並び26%で最も多くなっています。
  • 失われた30年を象徴する日本の調査結果:日本において仕事への満足度が他国に比較して低いことは、かねてから課題視されていましたが、本調査ではその要因とも見て取れるような事象が明らかになっています。日本の労働者は職場環境や会社に対する信頼感や共感、満足度が低く、自己主張や積極的な行動、将来に対しての自分なりの意見、展望も不足していると言えるでしょう。
図表1 グローバル従業員意識/職場環境調査「希望と不安」2023 日本・グローバル全体調査結果比較

1. 従業員を巻き込み、奮い立たせる――特に後れをとっている従業員を

多くのビジネスリーダーは、仕事とスキルのダイナミズムと破壊を当然のこととして受け止めています。実際、世界経済フォーラムによると、雇用主は「今後5年間で労働者のスキルの44%が破壊される」と見積もっています。

しかし、私たちの調査に参加した従業員は、異なる見方をしているようです。回答者全体では、自分の仕事に必要なスキルが大きく変化することに「強く」「中程度に」同意する人はわずか36%、「自分の仕事に必要なスキルがどのように変化するかを明確に意識している」と答えた人は43%に過ぎません。日本では両者共に比率が下がり、スキルが変化するに同意する人は25%、明確に把握している人は16%にとどまっています。

図表2 多くの従業員はスキルアップに対する危機感を持っていない

懸念されることは、大多数の労働者が、自分たちの仕事の要件がどのように変化するかについて明確に理解していないということです。従業員がこれを予期または理解していない場合、自分の役割を適切に果たし、成果を出し続けるために必要な新しいスキルを習得する準備が十分に整っていない可能性があります。

しかし、このデータを詳しく見てみると、より深い懸念があることが分かります。それは、専門的なトレーニングを必要としていない仕事をしている従業員が、変化の到来に気づく可能性が最も低いということです。これに該当する回答者のうち、「自分の仕事に必要なスキルは大きく変化する」と答えた人はわずか15%であったのに対し、より専門的な仕事を持つ回答者は51%でした。このため、技術が進化し続け、企業が自動化機能やAIを用いて仕事を効率化または省人化するようになると、専門的なトレーニングを受けていない労働者は、特に職を失いやすくなる恐れがあります。

図表3 しかし、専門的なスキルを持った従業員は、変化を予期する可能性が高くなります

一方、専門的なトレーニングを受けた労働者は、昨年の調査から4ポイント増加し(全労働者の53%、昨年は49%)、より良い準備ができているように見えます。専門教育を受けた労働者の60%が、「今後5年間に自分の仕事に必要なスキルがどのように変化するかを明確に認識している」と回答しているのに対し、専門教育を必要としない労働者では20%にとどまっています。

この点に関しては、日本でも同様の傾向が見られます。「自分の仕事に必要なスキルは大きく変化する」と答えた人は、非専門的な仕事の回答者が14%であったのに対し、より専門的な仕事を持つ回答者は43%、スキルの変化についての明確な認識については、グローバル全体と同じ回答者群で20%と60%という差がついています。日本における特異な点は、「自分の仕事について専門的トレーニングを必要とするものと回答する比率が31%と、グローバル全体と比較し22ポイント少なく、昨年比でも5ポイント減少しているという点です。

図表4 日本では自分の仕事に専門性が必要と思っている人がとても少ない

また、この調査では、スキルやキャリアの向上に関する労働者の行動や意識に関して「専門性のギャップ」があることが明らかになりました。行動に関しては、専門的なトレーニングを受けた回答者は、そうでない回答者に比べて、「今後1年以内に昇給または昇進を求める予定がある」との回答が約1.5倍高くなります。日本はこの傾向がさらに強く2倍弱高くなっています。

図表5 仕事の専門性が昇給・昇格等、会社に対する要求行動にも影響している

意識については、専門的トレーニングを必要としない仕事に従事している人は、適応性/柔軟性、クリティカルシンキング、協働/協調性などの重要なソフトスキル(またはヒューマンスキル)が、今後5年間のキャリアにとって重要であると答える割合が非常に低いことが分かりました。日本についても、各スキルを重要と答える比率が低いものの、傾向としては同じことが見て取れます。こうした見解は、世界経済フォーラムの調査における雇用主の見解とは大きく異なります、同報告書では、職場における複雑な問題解決スキルの重要性が高まっていること、また回復力、柔軟性、機敏性の重要性が高まっていることを指摘しています。

図表6  専門性のギャップがスキルに対する見方に影響を与える

専門的なスキルを持つ人と持たない人の間の格差は、経済的不平等のリスクを増大させる問題です。優先順位をつけて新しいスキルを習得するのが遅い従業員は、適応するのに苦労します。また、スキル格差の拡大は、企業の生産性やイノベーションを阻害し、すでに世界の大半を悩ませている深刻な経済格差を悪化させることはほぼ間違いありません(私たちの調査で判明したより広範な経済的課題については、下記の「生活費危機がいかに人材を疲弊させているかを理解する」を参照)。CEOをはじめとする上級管理職にとって、前進するためには、従業員を惹きつけ、鼓舞することが必要です。

リーダーが答えるべき問い

質の高い仕事の設計ができていますか? 昨年公表された労働生産性の国際比較(公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2022」)によると、日本の時間当たりの労働生産性はOECD加盟38カ国のうち23位、一人当たり労働生産性は同28位となっています。国際比較については購買力平価を用いている、失業率との関連が考慮されていない等の問題点も指摘されているものの、労働力減少が見込まれる日本でその向上は重要な課題となっています。

そこでポイントの1つとなるのが、「仕事の質の向上」だと筆者は考えます。誰にでもできるような仕事ではなく、それを行うために専門的なトレーニングや熟練を要する仕事に、より多くの労働者が携わるようにすることが必要です。それにより従業員の仕事に向き合う姿勢、スキルを高めよう、学ぼうという意識が高まります。テクノロジーを活用した徹底した無駄の排除・効率化を行い、いかに付加価値を高めるかという視点で業務の起点から終点までを見直すことで仕事を再設計していきます。

変革に必要なスキルを提示できていますか? 従業員は、将来必要なスキルについて明確な考えを持っていないことは許されるでしょう。しかし、雇用主はそうはいきません。将来に向け仕事(ジョブ)と、そこで求められるスキルを定義し、計画することが必要となります。全てのリーダーシップ・チームは、成長と革新に必要なスキルと、トランスフォーメーションを含む達成したい特定のビジネス成果とを明確に関連付けることができるはずです。ポートフォリオを作成できるはずですし、しなければなりません。そして、これは固定的に行われるものではありません。リーダーは、環境の変化に応じて、何度も計画を調整する覚悟が必要です。また、従業員のエネルギーを引き出し、サプライズを回避するために、この計画が従業員にとって何を意味するのかを一貫して伝えなければなりません。

人材への投資、機会の提供は十分にできていますか? 今後5年間で雇用主が「スキルを身につけるために必要なツール、リソース、機会を提供してくれるとどの程度確信しているか」「キャリアにとって最も重要なスキルを活用する機会をどの程度提供してくれるか」という質問に対して、日本の回答者はグローバル全体と比較しいずれも肯定的な回答が少ない結果となっています。必要となるスキルを提示するだけでなく、それを身につける手段、活用してみる場を提供することが求められます。経営幹部には、組織内の全ての人にスキルアップとリスキリングの機会を平等に与え、そこに至る明確な道筋を示すことで、より公平な未来の創造を支援する責任があります。

図表7 日本ではスキルを身につける機会があまり提供されていないと思われている
図表8 重要と思うスキルを活用する機会もあまりない

包括的で刺激的なビジョンを作成できていますか? 成功するリーダーは、変革計画はビジョンを行動に移すことができる従業員に依存していることを認識しています。ただし、それは従業員が会社はどのように変化しているのか、そしてそれが自分たちにとって何を意味するのかを理解している場合にのみ実現可能です。上級管理職は、明確さと透明性を高め、スキルアップに対する緊迫感を醸成することができます。しかし、感性に訴えることも忘れてはいけません。この先の展開にワクワクし、やる気を感じることができれば、変化を受け入れる可能性ははるかに高くなります。組織の将来像についての物語を作り、会社の目的や使命と一致させましょう。従業員に質問したり、自分の考えを話したり、意見を提供したりすることを奨励することで、オーナーシップと一体感を生み出すことができます。

Chapter 2 - People discussing

2. 企業文化を変革の触媒にする

多くのリーダーは、従業員が会社にとって最高のエネルギー、アイデア、イノベーションの源であることを認識しています。しかし私たちの調査結果によると、多くの企業では、イノベーションはもちろんのこと、企業の改革にとっても重要な要素である実験やアイデアに関する議論、現状に対する異論を社員が持つことを妨げていることが分かりました。そしてこの問題は、CEOが考えているよりもはるかに深刻です。

例えば、私たちの調査では、「上司が反対意見や議論を奨励する」と答えた人はわずか33%、「上司が小さな失敗を大目に見てくれる」と答えた人はわずか35%で、PwCの第26回年次グローバルCEO調査におけるCEO自身の報告よりもはるかに少ない割合となっています。1

1. これらの直接比較を行うため、政府および公共部門で働く回答者は、PwCの第26回世界CEO意識調査との全ての比較から除外されました。

図表9 企業文化がイノベーションを抑制する可能性があり、状況はCEOが考えているよりも悪い場合が多い

障害はこれだけではありません。「新しく革新的なアイデアをチームにもたらす(52%)」、「積極的にフィードバックを求めそれをパフォーマンス向上に活用する(50%)」、もしくは「建設的なフィードバックを同僚に提供する(49%)」、「自分の職務内容を超えたさらなる責任を引き受けるためにステップアップする(50%)」ということに「強く」または「中程度」に同意する回答者は約半数しかいません。さらに、「仕事にやりがいを感じている」「仕事中は本当に自分らしくいられる」と回答した従業員は全体の約半数にとどまり、昨年の調査とほぼ同じ結果となっています。興味深いことに、今後1年以内に転職する可能性があると答えた人は、「仕事にやりがいを感じている」「仕事中は本当に自分らしくいられる」と答えた割合も低く、これらの要素が転職を促す重要な要素となっているようです。

図表10 仕事において積極的な行動を取ることは少なく、やりがいを感じる人も少ない

このような状況は、日本を見るとさらに深刻です。職場の風土について、上司が小規模な失敗は大目に見てくれると答えた人、反対意見や議論を奨励すると答えた人はグローバル全体よりもさらに10ポイントほど低い、26%、23%となっています。また、「自分に合った仕事のやり方を選べる」「私のマネージャーは意思決定を行う際に私の視点を考慮する」「自分の仕事に対して金銭的に適正な報酬を得ている」という意見に対して同意する比率は。グローバル全体の2分の1程度にとどまっており、自分が働く場において尊重されているという感覚が持ちにくいようです。

図表11 日本の職場では失敗の許容や反対意見・議論の奨励されにくい傾向があり、職場で尊重されている感覚を持ちづらい

職場での行動特性に関しての質問、新しく革新的なアイデアをチームにもたらす、積極的にフィードバックを求めるもしくは同僚に建設的なフィードバックを提供する、さらなる責任を負うためにステップアップするなどについて、「強く」または「中程度」に同意する回答者は半数どころか2割弱しかいません。仕事に対する思いに関しての質問、やりがいを感じている、仕事中は本当に自分らしくいられるについて「強く」または「中程度」に同意する回答者も、グローバル全体比較で20ポイント以上低い、29%、31%という結果になっています。

さらに上司や会社に対しての見方も辛らつです。上司に対して、「仕事を効果的に行うために必要な知識、スキル、能力を持っている」「正直かつ誠実に行動する」「自分と自分私の同僚を公正かつ公平に扱う」などの質問に対し「強く」または「中程度」に同意する回答者は、グローバル全体では半数近くに達していますが、日本では3割ほどにとどまっています。

図表12 上司のスキル・能力や行動の誠実さ・公平さを評価する人は少ない

会社に対して、「仕事上での自分の行動/ふるまいは会社の価値観・方向性と一致している」「会社を働きやすい場所として推薦する」「自分の会社を公に支持する」などの質問について「強く」または「中程度」に同意する回答者も、グローバル全体と比較し、2分の1から3分の1程度の低い比率にとどまっています。

図表13 会社を積極的に他者に推奨したり支持をSNSなどで公言する人は少ない

一方で昇給や昇格を求めたり、新たな職を求めたりというような具体的な行動に移るかというと、この点に関してもグローバル全体と比較すると低い比率となっています。

図表14 全体として具体的なアクションを取る比率は、グローバル比較では低い

仕事や職場、会社について満足していないながらも、それを変えるための主体的な行動を取ることもないという閉塞感が見て取れます。このような状況が重なることで、海外に比較して非常に低い仕事への満足度という結果につながっているのではないでしょうか。

図表15 日本は今の仕事に満足している従業員が非常に少なく調査対象のOECD加盟国 24カ国中23位(前年度は25カ国中24位)

リーダーが答えるべき問い

従業員は仕事に、キャリアに向き合っているだろうか? 「就職ではなく就社である」とこれまでの日本ではよく言われてきました。会社に入った後はどんな仕事をするかは分からず、辞令ひとつで職務内容だけでなく、勤務地≒住む場所まで決められてしまう。特に総合職等の名称で呼ばれる基幹人材にこの傾向が強く、長期雇用の保証と引き換えにキャリアを会社に委ねてきていました。

このような環境に長く置かれている労働者は、仕事やキャリアを自分ごととしてとらえる自律的姿勢が薄れ、受け身的な意識や行動になっていくのではないでしょうか。今回の調査においても「革新的なアイデアをチームにもたらす」「新しいスキルを学ぶ機会を積極的に探す」などの質問に対して社会人歴の短い若年層ほど肯定的という傾向が出ています。このような会社主導の人材マネジメント、キャリア形成の弊害が言われて10年以上になり、近年はジョブ型人事を採用する企業が増えてきているものの、未だ少数派にとどまっているのが現状のようです。

キャリアを従業員主導のものとすることが求められます。従業員を信じて仕事を選ぶ権利、そのために必要なスキルを身につける義務を委ねます。手始めに異動や昇格を自ら手を挙げた人を対象とするというジョブ・ポスティングの導入・拡大が想定されます。長年行ってきたスタイルの変更には抵抗も予想されますが、この状況を打破するには思い切った変革でないと効果は期待できません。

図表16 社会人経験を経ていくにつれ、消極的・受身的な行動特性が色濃く表れる

マネージャーが問題の一端なのだろうか? 創造性と革新性を求めるなら、従業員は報復を恐れることなく、試してみて、学び、さらには失敗しても大丈夫であると感じなければなりません。もしあなたが、明確な役割期待や指揮命令系統の時代に育ったのであれば、従業員がリスクを冒し、型破りな方法で問題に取り組むことを奨励することは自然なものではないかもしれません。プロジェクトにつきものの小さな失敗と、リーダーが適切なガードレールを設置しなければ回避できない大きな失敗の境界線を明確にすることで、このような風土を醸成することから始めましょう。そして自身が望む行動を必ず模範にすることです。あなたは、チームのために外部からの横やりを防ぐ風除けを用意していますか?自分の仕事で新しいことに挑戦し(リスクを取り)、失敗したときにはチームと率直に話し合っていますか?もしそうでなければ、そろそろ始めるべきでしょう。

私たちの企業文化が、一部の従業員に断絶を引き起こしているのでしょうか? 会社の文化は、経営幹部から見た場合と第一線の従業員から見た場合とでは全く異なるかもしれません。企業文化の棚卸しを行うことは、その文化を説明するために人々が使用する特徴や、人々が習慣的に従う行動が明らかになり、その文化がどのように独特であるかを理解するのに役立ちます。ただし、必ず多面的なアプローチをとるようにしましょう。パルスサーベイは、あらゆるレベルの従業員からなるフォーカス・グループと同様に、問題を警告することができます。また、組織の内部だけに耳を傾けるのではありません。ソーシャルリスニングや、従業員レビューサイト、ソーシャルメディアプラットフォームのオンラインモニタリングによって、従業員が直接あなたに伝えていない企業文化の問題を浮き彫りにすることができます。

Chapter 3 - People waiting on train

3. 生計費の苦境が従業員にどのような影響を与えているかを理解する

経済の先行き不安と高インフレを背景に、世界中の従業員が窮状を感じています。「私の世帯は毎月全ての請求書を支払うことができ、貯蓄、休暇、その他の費用に十分な余裕があります」と答えた労働者の割合は、2022年の47%から今年は38%に減少しました。また、「私の世帯は毎月全てまたは一部の請求書を支払うのに苦労しています」あるいは「ほとんどの場合、請求書を支払うことができません」という回答者の割合は、昨年の12%から18%に増加しました。日本についても同様で、「毎月全ての請求書を支払うことができ、貯蓄、休暇、その他の費用に十分な余裕がある」割合は、34%から30%への減少、「全てまたは一部の請求書を支払うのに苦労しています」あるいは「ほとんどの場合請求書を支払うことができません」という割合は、14%から20%への増加となっています。

図表17 日本でも、グローバルで見ても経済的苦境が広がっており、昨年度よりも悪化しています

私たちの調査で、苦境にある労働者はほとんどの人口統計学的カテゴリーに均等に広がっていることが分かりましたが、経済的負担は少数民族にやや重くのしかかっています。同様に、専門的なトレーニングを受けていない従業員は、専門的なスキルを持つ回答者の11%に比較して、支払いに苦しんでいる割合が高く(17%)なっています。日本はこの点も同様で、専門的なスキルを持つ回答者の14%に対し、専門的なトレーニングを受けていない従業員は17%となっています。

図表18 仕事への専門的トレーニングの要否が経済状況に影響を与えている

経済的ストレスは労働者を衰弱させ、最終的には企業も衰弱させます。従業員のフィナンシャル・ウェルネス(経済的健全性)に関するPwCの最近の調査(PwC's 2023 Employee Financial Wellness Survey)では、経済的ストレスが人々の感情的・身体的健康を損なうだけでなく、生産性やエンゲージメントにも悪影響を与えることが示されました。この調査では、経済的にストレスを感じている従業員は、個人のお金の問題が仕事の妨げになっていると回答する傾向がほぼ5倍であることも判明しました。
こうした悪影響は、従業員が兼業するにつれて悪化する可能性があります。私たちの調査では、労働者の21%が複数の仕事をしていると報告しています。毎月の請求の支払いに苦労している人(24%)や、ほとんどの場合支払いができない人(27%)では、この割合はさらに高くなります。日本では複数の仕事を持つ労働者はそこまで多くなく、7%にとどまっています。

図表19 日本では1割に届いていないものの、グローバル全体では5人に1人が本業以外で働いています

経済的プレッシャーとより高い賃金を求める必要性が、回答者の新しい仕事を探す意欲を高める要因となっているのは確かです。今日の経済的不確実性にもかかわらず、今後1年以内に転職する予定があると回答した従業員の割合は、昨年よりも高くなっています(26%対19%)。日本でもこの傾向は同じです(20%対14%)。また、兼業している人の多くは、新しいスキルを学ぶ機会を理由の1つとして挙げていますが(36%)、より多くのお金を稼ぐ必要性を挙げている割合は2倍近く(69%)です。日本ではこの2つは22%対73%で3倍以上の差となっています。

図表20 経済的苦境にもかかわらず、転職志向は高まっている

私たちの調査では、経済的ストレスと従業員のスキルアップへの関心との間に興味深い関係があることも判明しました。無理なく請求を支払うことができる人の62%は、新しいスキルを学ぶ新たな機会を積極的に探していると回答していますが、請求を支払うのが難しい人、またはほとんどの場合家計をやりくりできない人では、その割合は50%に下がります。もちろん、因果関係がどちらにあるのかを知ることは不可能ですが、それは問題ではありません。リーダーは、従業員が経済的ストレスを含むストレスにさらされていることを認識し、生きていくのに苦労している人もいるかもしれないことを認識する必要があります。従業員が経済的ストレスに対処できるように支援することは、従業員に利益をもたらすと同時に、組織に繁栄するために必要な人的エネルギーと思いやりをもたらすことになります。

図表12 経済的ストレスが高いとスキルアップへの関心が低くなる

リーダーが答えるべき問い

報酬戦略と人材戦略は互いに支え合っているか? 従業員が直面している経済的負担は、企業に基本給や生活コストに応じた給与の引き上げを検討するよう圧力をかけています。さらに、新しい候補者を惹きつけるために競争力のある報酬パッケージを提供しているか、また、優秀な人材を高給の競合他社に奪われていないかを確認するには、今は良いタイミングです。最後に、従業員が各自のニーズに合わせて福利厚生をカスタマイズできるような福利厚生パッケージを検討することで、従業員にはより高い価値と安心感を、雇用主にはコスト削減の可能性を提供することができます。

職場でのフィナンシャル・ウェルネス(経済的健全性)に取り組んでいますか? 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、多くの企業がメンタルヘルスについてオープンに語るようになったのと同じように、今日の経済的課題は、フィナンシャル・ウェルネス(経済的健全性)に焦点を当てる時期が来たことを示しています。債務や財務のコーチングを含む、秘密厳守のカウンセリングを提供する従業員支援プログラムを設けることを検討し、従業員に職場での財務上の課題について話すこと、助けを求めても大丈夫であることを理解してもらいます。確かに、インフレやその他の経済的要因は単一の企業では制御できませんが、リーダーは従業員のフィナンシャル・リテラシーを向上させ、財務上のストレスに対処できるように支援することでその役割を果たすことができます。

Chapter 4 - People laughing

4. 従業員のAIへの関心を高める。

生成型AIが職場に入り込み、興味を掻き立て、世界中で何億人ものユーザーを獲得するにつれて、AIの周りでは不安とともに興奮が渦巻いています。私たちの調査の回答者はおおむねAIに対して強気であるようで、マイナスの影響よりもプラスの影響を高い頻度で挙げています。労働者の半数以上が、AIが自分のキャリアに及ぼす影響について、「仕事の生産性の向上に役立つ」「新しいスキルを学ぶ機会を生み出す」「新しい雇用の機会を生み出す」など、肯定的な記述を少なくとも1つ選択しました。3分の1をわずかに超える人が否定的な記述を少なくとも1つ選択しました。

日本においても大きな傾向は同じですが、ややネガティブな回答が多く、また「AIの影響について分からない」との回答がグローバルに比較し、2倍強となっている点が特徴です。

図表22 従業員はAIがもたらす影響の大半を ポジティブに捉えています

この分野でも、従業員のスキルが彼らの見解に影響を与えているようです。専門的なトレーニングを受けた人は、AIが自分のキャリアに良い意味でも悪い意味でも影響を与えると考える可能性が高くなります。しかし、専門的なトレーニングを受けていない人は、テクノロジーによる影響を予期する可能性が低く、「AIが自分の仕事に影響を与えるとは思わない」と答えた世界の回答者の22%に含まれる可能性が高くなります。

この調査結果は、従業員全体、特に専門的なスキルを必要としない職種の従業員に対して、ヒューマン・スキルの開発を優先する必要性を示す新たな証拠です。ヒューマン・スキルはアルゴリズムに取って代わられることはなく、新しいテクノロジーが登場したときに、それに適応できる能力を人々に与えます。

リーダーが答えるべき問い

私たちには「仕事の未来」のストーリーがあるでしょうか? 経営幹部は、AIやその他の破壊的テクノロジーに関して組織の方針を決める必要があります。会社と従業員にとって仕事の未来が何を意味するかを含む強力なストーリーを作成して伝えます。計画や決定に関して透明性と目的志向性を保つことは、AIとそれが自分の仕事に与える影響について警戒している従業員が、より安心してAIを試したり、必要に応じて仕事に導入したりするのに役立ちます。同時に、適応性や柔軟性、コラボレーション、リーダーシップなど、AIには真似できないヒューマン・スキルを従業員が強化できるよう支援することにも力を入れてください。

私たちは従業員にAIに関する将来計画に影響を与える権限を与えていますか? 従業員はすでに業務外でAIを試している可能性があります。そのため、従業員をブレーンストーミング・セッションに参加させて、そのエネルギーを活用し、AIが彼らの役割や部門の状況をどのように改善できるかを確認してください。日常業務に最も近い立場にある彼らは、AIが最も効果的である可能性の場所について貴重な洞察を得ることができます。そして、彼らの意見を求め、可能な限り意思決定プロセスに参加させることで、彼らと一緒に変化を起こすことになり、彼らがその変化に賛同し、同僚の間で支持者になる可能性が高くなります。同時に、データアクセスとプライバシー、著作権保護、その他の機密領域について適切なガイドラインを設け、従業員が責任を持って業務でAIを試し、研究する機会を作ります。

イノベーションと挑戦を許容する企業文化の構築、キャリア自律への促進とスキルアップの機会提供などは近年言われ続けていることであり、新鮮味はないのかもしれません。しかし、今回の結果や類似の調査結果を見る限り、取り組みが必ずしもうまく機能してはいないようです。忘れていけないことは、組織全体としての変化には時間がかかるということです。長年にわたって確立された組織の慣習や価値観が、新しいアプローチや制度導入に対する障害となることがあります。特に大規模な組織では、新しい制度の導入や文化改革によるリスクを避ける傾向や、古くからの体制の中で育まれたリーダー層が変革に対して無関心な傾向が起こりがちです。初期の情熱を切らさぬよう継続して取り組んでいくことが肝要です。優れたリーダーは複数のタイムラインに基づいて行動し、将来を見据えながら短期的な混乱に対処します。従業員が自社の改革プランにどのように適合しているかを理解することほど、重要で難しい課題はありません。従業員が現在どこにいるのか、そして明日はどこにいるのかを明確に把握していなければ、将来に向けて変革することはできません。彼らがそこに到達できるよう支援することに尽力することが、改革に対応できる人材を育成する第一歩なのです。最後にポイントを4点にまとめ、本レポートの終わりとします。

  1. フィードバックと改善のサイクルの確立:企業は従業員からのフィードバックを積極的に収集し、改善のサイクルを確立する必要があります。改革の進捗や効果を定期的に評価し、フィードバックに基づいて戦略を修正することで、より効果的な改革が進められるでしょう。
  2. リーダーシップの重要性:リーダーシップの質が従業員のエンゲージメントに大きな影響を与えます。従業員の意識改革や企業文化の変革を進めるためには、リーダー層の理解と支援が欠かせません。リーダー自身が変革の推進者となり、積極的に改革をサポートする姿勢が重要です。
  3. トレーニングとスキルアップの継続的な提供:改革を進める際には、従業員のスキルアップと意識改革をサポートする継続的なトレーニングを提供することが必要です。一時的なトレーニングだけではなく、従業員が持続的に成長できる機会を提供することで、改革の効果が高まるでしょう。
  4. 社内コミュニケーションの強化:改革の効果をあげている組織は、社内コミュニケーションを強化し、繰り返して改革の目的や意義を従業員に明確に伝えています。従業員が改革の目標を理解し、共感しやすい環境を整えることが重要です。

各地域のインサイトを確認する

※本コンテンツは、PwC's Global Workforce Hopes and Fears Survey 2023を翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

主要メンバー

北崎 茂

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Email

森井 茂夫

シニアアドバイザー, PwCコンサルティング合同会社

Email

三城 雄児

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

Email

竹之内 亮

マネージャー, PwCコンサルティング合同会社

Email

久家 範之

シニアアソシエイト, PwCコンサルティング合同会社

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