
顧客が真に求めるパーソナライズされたロイヤルティ体験を提供するには 金銭的報酬だけではない顧客一人一人に合わせた価値ある体験を提供することの重要性
顧客とのロイヤルティを育むことは、組織に価値をもたらし、収益性を高めます。本稿では、PwCが実施した顧客ロイヤルティに関する調査からの洞察を紹介するとともに、日本企業が取るべき対応策を解説します。
PwCの「Customer Loyalty Executive Survey 2023」によれば、回答したエグゼクティブの63%が、直近の事業計画において顧客ロイヤルティ向上のための予算を増額しています。平均すると、これは総売上高の5%に相当し、企業規模によっては年間で500万米ドルから2億5,000万米ドルの規模になります。これだけ多くの予算を投じるからには、それに見合った成果を得たいと思うのではないでしょうか。
PwCが持つ消費者に関する知見に鑑みると、顧客体験における主要3分野で、企業経営者の多くが消費者行動を誤解していることが分かります。それは、顧客ロイヤルティをどう定義するか、どのタイミングで顧客ロイヤルティを獲得するか、そしていつこれを失うかということです。
エグゼクティブは、消費者よりもずっと広い概念としてロイヤルティを捉えています。例えば、エグゼクティブの半数は、顧客がある商品またはサービスを定期購入することがそのブランドへのロイヤルティを裏付けるものだと考えていますが、そのように認識する消費者は全体の2割に過ぎません。一方で、エグゼクティブの43%が、ロイヤルティを測る目安として顧客満足度のスコアを採用していると回答していますが、フィードバックすることがロイヤルティの表明になると考えている顧客は全体の4分の1にとどまります。
ただし、あるブランドを家族や友人に勧めるという行為は、両者に共通してロイヤルティの確かな兆候であるということが分かりました(エグゼクティブ・消費者ともに52%がそのように回答)。
「現代の消費者は、どのような選択肢があるかを非常によく理解しており、自分の価値観にマッチするブランドとの付き合いを選好しています」
エグゼクティブは、自社が提供する商品・サービスの品質そのものが顧客ロイヤルティを育む効果について、過小評価する傾向にあります(23%に過ぎないと評価しています)。同時に、良質な顧客サービスや、顧客との関係におけるその他の要因が顧客ロイヤルティの獲得にもたらす影響の大きさについては、過大評価をしているようです。
顧客側の回答を見ると、ロイヤルティはブランドとの関係において早い段階で形成されていることが分かります。ある商品やサービスを使った時点でその品質を気に入ってロイヤルティが形成されたとする顧客が半数近く(46%)います。オンラインショッピングや対面販売の過程で形成されたとする顧客は2割であり、さらに商品について調べ始めて早々にロイヤルティが形成されたとする回答も5%あります。つまり、顧客の4分の1は、商品を購入する前段階で既にブランドに対する評価を下していたことになります。
ブランドが顧客を失う理由についても、エグゼクティブと顧客の間に認識の齟齬が存在します(これが「価格体験のギャップ」と呼ばれる現象の顕在化です)。エグゼクティブは、顧客の喪失につながる最大の要因として「価格」が関係していると考えています。例えば、商品の値上げやディスカウントの終了(回答者の37%)、より廉価な競合ブランドの台頭(33%)などです。しかし、そのように考える消費者は各々17%と11%に過ぎません。
むしろ、消費者がブランドを離れる最大の原因は、一般に「体験」に起因しています。消費者の37%が商品やサービスそれ自体から不快な体験をしたことをブランド離反の理由として挙げており(エグゼクティブでそのように考えるのは26%)、若年層ほどこの傾向が強くなっています。
ここで、ソーシャルメディアが大きく影響していると短絡的に考えてはいけません。友人やソーシャルメディアから勧められたことが、ブランドを乗り換えるきっかけになると考えるエグゼクティブは全体の17%を占めますが、実際このことが自身のブランドへのロイヤルティに影響を与えるという消費者は2%しかいません。一方で、消費者の5分の1近く(18%)が、自らが強い関心を持つ社会問題を支持するための不買運動の一環として、あるブランドの商品やサービスの購入を辞めると回答しているのに対し、これが顧客の離反を招く要因であると考えているエグゼクティブは全体の11%に過ぎません。
ブランドへのロイヤルティを促す最大の要因については、エグゼクティブと顧客の見方が一致しているようです。つまり、価格に見合った、もしくはそれ以上の価値が得られること、良質で信頼性があり、かつ品質が均一であることが、ロイヤルティ形成において他の何よりも重要であると、エグゼクティブと顧客の双方が言及しています。
しかしながらその他のほとんどの要因については、顧客評価に対して10~18ポイントの開きを持ってエグゼクティブが過大評価しています。例えば、あるブランドの商品の継続購入の理由としてパーソナライズされた顧客体験を挙げる消費者は8%に過ぎませんが、エグゼクティブの26%は、これがロイヤルティを促進する重要な要因であると考えています。
このような要因を顧客が軽視していないことは確かですが、年代別に見るとその程度には濃淡があります。ベビーブーマー世代は、親しみやすい顧客サービスや、支払った金額から最大限の価値を引き出すことをより高く評価する傾向があります。一方、Z世代とミレニアル世代は、迅速なサービスを選好する傾向が強く、また他ブランドへの乗り換えはあまりに煩雑だと考えます。
エグゼクティブからの提案で上位を占めたのは、ディスカウントや返礼の拡大、ユーザー体験や柔軟性の向上などでした。多くのエグゼクティブが現行のロイヤルティプログラムに自信を持つ一方、改善したい点がない、または思いつかないと回答したエグゼクティブはわずか8%程度でした。
漸進的な成長の機会を逃してはいけません。業界をリードする他社のロイヤルティプログラムも独自の戦略を強化している可能性が高い中、今投資をしなければ、後れを取ってしまうでしょう。
上記はPwC米国発行のレポートを翻訳した内容ですが、PwC Japanグループでは「なぜ顧客とエグゼクティブの間に認識のギャップが生まれるのか」「なぜ企業が打ち出す施策はピントがずれてしまうのか」という問題に着目します。
はじめに、このような問題が発生する背景として、マーケティング施策の実施サイクルがテクノロジーの進化とともに速くなっていることが挙げられます。ある企業で成果を上げた施策が瞬く間に他の企業に追随されるため、顧客が受けた良質な体験は、以前より速いペースで一般的な期待値となり、企業が提供できる体験価値と顧客が求める事前期待のギャップが一向に埋まらないというケースが多く見受けられます。したがって、いかにして顧客の事前期待を超える施策の実施サイクルをいち早く回すことができるかが重要となります。そのためには、国内事例にとどまらず海外の施策事例もベンチマークに加えるなど、常に最先端の情報をインプットすること、そして考案した施策を迅速に現場に落とし込むことのできるスピード感を持った組織体制づくりを行うこと、が足掛かりとなります。
次に、企業側の施策設計が真に顧客目線になっているか、これまでの概念に囚われずに見直してみることも重要です。テクノロジーの進化とともに顧客接点が増え、自社データのみならず外部データと統合した顧客分析が可能となりました。取得データの増大・多様化に合わせ、企業はこれまでと違う視点で顧客理解を深めることができているでしょうか。カスタマージャーニーを描き、ペインポイントを想定して施策設計に取り組む企業は増えていますが、それは一方的な企業目線ではなく、本当に顧客にとって価値のある設計になっているでしょうか。顧客の属性や嗜好性といった従来のセグメントではなく、ブランドが選ばれるモーメント(個別具体的な文脈)を発掘し、そこから発想した顧客のクラスタリングとその検証というアプローチが求められます。
最後に、顧客戦略において自社の独自性を意識することも重要です。考案した施策を通じて、自社だからこそ提供できる価値が顧客にもたらされているでしょうか。自社のブランディング戦略と融合して、顧客の感情的反応を引き出すような施策を打つことができれば、激しい競争環境においても、新鮮な顧客体験を提供できると考えます。
私たちは、真に顧客目線に立った施策設計からご支援を数多く行ってまいりました。
ここで、PwCコンサルティング合同会社がアパレル企業に対して行った、探索型CX戦略の事例をご紹介します。
上記事例のように、これまでとは異なる観点で顧客像を掘り下げれば、施策のあり方も自ずと変化していきます。
真に顧客目線に立った施策設計と、それをスピーディに現場へ落とし込み、高速で施策サイクルを回していく組織体制の両輪こそが、企業と顧客の間にある認識・期待値のギャップ解消に必要なのではないでしょうか。それらが揃うことで顧客の変化により敏感に気づくことができ、その変化を捉えた自社ならではの価値を提供し続けることで、顧客との信頼関係が育っていくと私たちは考えます。
「PwC Customer Loyalty Executive Survey 2023」
2022年10月15日から11月22日にかけて、広範なBtoC企業のエグゼクティブ410名を対象としてPwCが実施した調査です。オンラインで実施した本調査への回答者には、米国企業のCxO、事業オーナー、上級管理職、役員、企業取締役が含まれます。回答者のおよそ3分の2(64%)は顧客ロイヤルティや顧客維持に関する事業上の意思決定に単独で責任を負い、3分の1(36%)は、他者と共同で意思決定に影響を与える立場にあります。
「PwC Customer Loyalty Executive Survey 2023」は、2022年5月5日から5月19日にかけて、米国の消費者4,036名を対象に実施した「PwC Customer Loyalty Survey 2022」に続くものです。このオンライン調査の回答者は18歳以上の成人で、年齢、性別、人種、米国内の地域、所得、雇用状況、配偶関係に関して国勢調査における分布が反映されるように重み付けを行っています。
※本コンテンツは、Customer experience is critical to loyalty, and many executives miss the markを翻訳したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。
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