Society 5.0の推進に必要なキャリア展望と実現する「場」の提供の必要性

―「1対N時代の到来に向けたわが国の人材育成の在り方」調査から新たに見えたこと

調査概要

グローバル競争の激化やデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展など、社会経済の不確実性が高まるなかで、企業は従来の長期雇用の維持や企業主導による従業員への能力開発機会の提供が難しくなると言われています。同時にテクノロジーの進化は個人が自己の意思に基づいて不特定多数とつながる(1対N)ことを可能とし、幅広く成長する機会をもたらしています。PwC Japanグループは、社会経済の変化スピードが高まり、不確実性が高まる時代において、企業が人材の育成をどのように図っていくべきか(支援すべきか)という問題意識を持ち、その方策を模索するための調査「1対N時代の到来に向けたわが国の人材育成の在り方」を実施しました。

本調査では企業が従業員の成長を目的として具体的支援策を検討するにあたって、キャリア展望が明確な従業員が、その実現に向けてどのように能力を開発しているか、その実態を明らかにすることが有効であると考え、アンケート調査を実施しました。調査期間は2020年3月26日~29日、全国、全産業の20~55歳の正規雇用者を対象とし、インターネットモニターを活用しました。調査と分析方法の詳細はこちらをご覧ください。

 

本調査に取り組んだ背景と新たな考察

2018年11月に日本経済団体連合会が公表した提言「Society 5.0 ―ともに創造する未来―」[1]を実現するには、多様な人材の想像力/創造力が不可欠である、とされています。また、多様性に富んだ考え方の創出と受容には、それらを醸成する「場」が必要となります。しかし、その「場」は不確実性が高まる時代になるほど、ひとつの組織の中や画一的なキャリア形成の過程でつくることが困難になると考えられます。

PwC Japanグループでは、不確実性が高まる時代でも自らのエンプロイヤビリティ(雇用される能力)を高められる人材を「キャリア展望を明確に持ち、かつ創造性を有する人材」と定義し、この要件を満たした人材がどのように能力を開発しているかを焦点に考察しました。

本調査結果の詳細については、報告書をご覧いただくこととし、本稿では「キャリア展望を明確に持ち、かつ創造性を有する人材」は「社外活動」をとおして能力開発をする傾向があるという調査結果を踏まえ、「社外活動」の状況を企業規模別に考察した結果を紹介します。

 

調査結果の一部紹介と追加的分析から見えてきたこと:企業規模に関係なく自身の能力開発の場を求めて社外活動に参加する労働者は一定数いる

「社外活動」に参加している人材は、具体的にどのような活動に参加しているのでしょうか。また、それには企業規模で差異はあるのでしょうか。

社外活動への参加実態を企業規模別で再集計すると(図表1)、何らかの社外活動に参加している人は全体で半数程度見られ、「兼業・副業(自営業、農業を除く)」や「ボランティア・プロボノ」「趣味を通じたサークル」「地域コミュニティ」に参加している人はそれぞれ12~15%程度いることが分かりました。この設問は、複数回答可で調査しており、前述の各活動の割合がほぼ同程度になっている点から、回答者は複数の活動に参加していることが推察できます。

また、企業規模別に見ると、規模により多少のばらつきはありますが、30人未満の企業以外は、「ボランティア・プロボノ」や「地域コミュニティ」については企業規模による大きな差異は見られませんでした。さらに興味深いのは、「社会人向けの専門学校、大学・大学院の講義の受講」や「自社の業務外活動への参加」「異業種交流会への参加」は、その割合は低いものの、企業規模による違いがほとんど見られない点です。企業規模に関わらず、一定の割合で、自分の能力開発に対する「学びの場」を求めている人がいる、と言えます。

図表1 従業員規模別 参加したことある社外活動(n2,993)(MA)

※ハッカソン:ソフトウエア開発者が、一定期間集中的にプログラムの開発やサービスの考案などの共同作業を行い、その技能やアイデアを競う催し

社外活動への参加理由を見ると(図表2)、「活動自体を楽しむため」が35%以上あるものの、「自分の成長のため」が21.8%、「本業で得ることができない、新しい知見やスキル、経験を得るため」が18.2%、「本業では自分の思うように仕事を進められないため」が17.0%と、自身のスキルアップや能力の可能性を広げる経験を求めている内容が多く挙がっています。

企業規模別で見ると(図表3)、規模が小さい企業ほど「副収入によって生活費を得るため」が多く見られます。しかし、「本業では自分の思うように仕事を進められないため」「将来の転機に備えて実績を積むため」ということを理由に社外活動に参加する従業員は300人以下の企業でも15~20%程度存在します。その割合は企業規模の大小に比例しないため、統計的有意性はないと推察でき、中堅・中小企業でも積極的に能力開発に臨んでいる人が一定数いると言えます。特に「本業で得ることができない、新しい知見やスキル、経験を得るため」は、1,001人以上の企業規模では20%を超えますが、300人以下の企業規模でも14~19%程度いて、企業規模が必ずしも影響するものではないことが分かります。加えて「自分の成長のため」や「新しいネットワークを広げるため」においても、1,001人以上の規模と値が近似する中小規模層も存在しています。

調査結果から、キャリア展望とその実現に向けた能力開発の「場」を企業が提供することはその規模に関わらず必要であることは明確です。その能力開発の「場」を提供することは、DXの進展などによって社会経済の不確実性が高まり、不特定多数との関係構築が求められる「1対Nの時代」の到来に際しても自らのエンプロイヤビリティを高められる有能な人材を増やすことにつながるのではないかと考えます。

図表2 従業員規模別 活動に参加している理由(n1,332)(MA)
図表3 従業員規模別 活動に参加している理由②(n1,332)(MA)

1 日本経済団体連合会,2018.「Society 5.0」https://www.keidanren.or.jp/policy/society5.0.html

 

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